第1261回「コロナの2020年をふり返る【2】~変わる避難のかたち」
オンライン:兵庫県立大学減災復興政策研究科 教授 室崎益輝さん

西村)今週は、「コロナの2020年をふり返る」というシリーズの後半です。
新型コロナウイルスという新たなリスクが私たちを襲った今年。
感染症は、災害が起きた時の避難の考え方にも大きく影響を及ぼしました。
それは、災害が起きる前、日常の備え方にも関わってくる問題です。
きょうは、リスナーのみなさんにいただいたおたよりを紹介しながら、防災の専門家の方と一緒に考えていきます。
兵庫県立大学減災復興政策研究科 教授 室崎益輝さんです。
 
室崎)よろしくお願いいたします。
 
西村)今年の新型コロナウイルスの流行を振り返って、災害の専門家としてどう感じていらっしゃいますか。
 
室崎)私は社会の防災対策を考えるチャンスだと思っています。
新型コロナウイルスをどう克服するかということが、安全で安心な社会を作ることにつながる。
新型コロナウイルスの流行は文明災害。世界が抱えている文明上のいろんな問題点が噴き出してきている。
日本の通勤ラッシュなどさまざまな問題点を、改めて考え直すべきなのかもしれません。

 
西村)私たちが当たり前に思っていたことは、当たり前ではいけなかったのですね。
 
室崎)避難や避難所のあり方も、根本から考え直そうというメッセージがあると思います。
  
西村)リスナーのみなさんに「新型コロナウイルスの感染拡大で防災対策や意識は変わりましたか?」と呼びかけて、たくさんおたよりをお寄せいただきました。
こちらを紹介しながら、室崎さんにお話を伺っていきたいと思います。
まずは「神戸市西区・ラジオネーム 頑張れ!市工健児」さんからです。
「避難所は人が密集していてコロナが怖いから、避難は自宅です」
このように考えている人は、今年は増えたのではないかと思います。
 
室崎)豪雨災害の場合、河川が氾濫してない段階で避難指示や避難勧告が出ます。その時に、自分の家は大丈夫と思って自宅に居ると命を落とすことになりかねません。
今年の熊本の豪雨災害でも、2年前の西日本豪雨災害でもたくさんの人が亡くなりました。
土砂災害や地震が起きても絶対壊れない、大雨が降って5m程の水が来ても大丈夫という家は良いですが、そうでないところはやはり危険が伴います。早めに安全な場所に避難するべき。安易に在宅避難は推奨できないです。
本来は行政が被災者を守る避難所をたくさん作らなければならないんです。
近くのお寺や神社など通常よりも多く指定避難所を作って、安心して暮らせる環境を作るべきなのですが、それができていないのが現状です。
避難する必要のない人が避難所に殺到して大混乱しないように、避難する必要のない人は自宅に居てもらった方が良いのですが、自分の家が本当に安全かを確かめた上で、在宅避難をしてください。
安全と言えない人は安全な避難所に避難するように心がけて欲しいです。

 
西村)どのように自宅が安全かをチェックしたら良いのでしょうか。
 
室崎)豪雨災害の場合は、最近は異常気象で雨量などの状況が変わってきているので、過去の経験で定められたハザードマップが正しいわけではないんです。
地震の場合は、耐震補強がされているか。最近建てた家でも手抜き工事がされていて、家が壊れてしまうこともありますよね。
大きな余震が来て壊れる事もあります。
地震に耐えられるか、裏山が崩れないかということについては、やはり専門家のアドバイスを聞かなければなりません。
分からなければ、空振りでも良いので早めに避難するということを心がけて欲しいです。

 
西村)いざという時はパニックになってしまうので、日頃から想定しておくことが大切ですね。
続いても在宅避難についてです。
「神戸市須磨区・ラジオネーム 黄昏のペンギン」さんからです。
「私は阪神淡路大震災の経験から、食品の備蓄は欠かしていません。今年は、在宅勤務時に備蓄のレトルトカレーやご飯のパックから先に食べるようにして買い足しをしました。ペットボトルの水とお湯があればすぐ食べられるフリーズドライの食品、カップ麺、スープの備蓄も量を増やしました。今年の冬は仕事や必要以外の外出はできるだけせずに過ごすつもりなので、備蓄の食品や水を上手に回転させながら過ごします」
これは、ローリングストックですね。
 
室崎)とても大切なことですね。食べ物とトイレは、人間が生きていく上で大事なことです。
災害時は、水や食料がすぐに提供されるわけではなく、巨大な災害が起きると一週間届かないことも。それを想定してしっかり備蓄しておくことが大切です。
健康のために美味しくて栄養価の高いものしっかり食べられるように準備をしておきましょう。

 
西村)続いてはこちらです。
「大和高田市・ヤノさん」さんからいただきました。主婦の方です。
「在宅避難に備えるために、カセットコンロで耐熱用の湯煎調理袋を使って、孫と蒸しパンを作りました。非常時を考えホットケーキミックスと水だけで作りました。あっさりとした味で美味しかったです」
写真も添えていただきました。ありがとうございます。
 
室崎)災害が起きると電気やガスがストップしてしまうので、温かいご飯を食べるためにさまざまな工夫をする必要があります。
ポリ袋調理法は、是非身につけておくと良いと思います。

 
西村)私もこの放送を機に、子どもたちと一緒に湯煎調理をやってみたのですが、洗い物がほとんどないのでとても楽でした。
カセットコンロは普段使わないので、探すところから始まったんですけれど。備えの大きな一歩になったと思います。
避難所だとお弁当が配られることもあると思うのですが、在宅避難だと避難しているという情報が届かずに、支援を受けられないのでは。それなら避難所行った方が良いと思いますがいかがでしょうか。
 
室崎)自宅でも避難所でも、トイレや食事、お風呂のサポートは行政が行うという災害救助法という法律があります。
自宅にいる人にも本来ならば、トイレカーやキッチンカーできちんとサポートしなければならないのですが、行政も職員の数が少ないこともあり、そこまで出来ないのが現状です。
熊本では、泥まみれの家の2階にお年寄りのご夫婦がひっそりと暮らしていても分からないということも。
そういうことが起きないように、近くのお寺や神社、公民館なども避難所にして、食事を届けるような仕組みを作らないといけないのです。
大きな災害が起きた時に、行政がなかなか役に立たないとうことは、阪神淡路大震災でも経験したこと。
となれば、コミュニティで相談をすることが大事です。
3階建ての立派な家や安全なマンションに避難する、町内会長さんの倉庫に缶詰などの食料を置いておくなど。
トイレはどうするかなどみんなで考えれば、答えが出てくると思うんですね。
これをコミュニティ避難所と呼んでいます。
コミュニティの中で、避難している人みんなで支えあうために、食事やトイレのことをみんなで考えて決めておけばいざという時困りません。行政をあてにせずに、コミュニティの中で相談して決めて欲しいと思います。

 
西村)行政に行っていただきたいところですが、やはり自分たちが動いて準備することも大切ですね。
とはいえ、家が壊れてしまった人や、自宅で安全に生活できない人は避難所を選ぶ場合もありますよね。
 
室崎)豪雨災害の場合は、被害を受けた人と受けない人に別れますが、阪神淡路大震災の長田ように、地域全体が火事で焼けてしまったり、東日本大震災のように、津波で広範囲が浸水してしまったりした場合は、避難所に行くしかないですよね。
避難所の体育館や室内がいっぱいになったら、運動場にテントを張って屋外避難を兼ねることも必要です。

  
西村)避難所に関してメッセージが届いています。
「山口市・ラジオネーム ラジオ大好き」さんからです。
「僕は地元青年団で防災ボランティアをしています。これまで台風や大雨などの際、お年寄りが避難するお手伝いや食事の炊き出しなどをしてきました。従来の2倍の間隔をとってダンボールで仕切りをする、消毒液やマスクを市役所に確保してもらうなど避難所でのコロナ対策について、青年団で話し合いをしました。いつ来るか分からない災害と合わせて、コロナにも備えていきたいです」と、いただきました。
 
室崎)元気な人たちは、在宅避難や屋外避難、車中泊をしていただいて、指定避難所は、高齢者や体の不自由な人優先の避難所にするべきだと思います。
 
西村)高齢者や体の不自由な人が安心して避難所に行くことができるように、新型コロナウイルスの感染を防ぐ避難所設営も大切になってきますね。
 
室崎)今までと考え方を少し変えなければなりません。
 
西村)どんなポイントを変えた方がいいですか。
 
室崎)感染を防ぐということで、消毒液・マスクの備蓄はもちろん、感染しないように距離を取ったレイアウトにすることが必要です。三密を防ぐために、ダンボールベッドの設置や、体育館の中にテント張ることもすすめられていますが、物理的に閉鎖的な空間を作ってしまうと避難所の雰囲気が暗くなってしまいます。
物理的な環境だけではなく、社会的な環境も考慮する必要があります。
子どもたちが勉強したり、体を動かしたりできる場所、お年寄りが看護師さんと相談できる場所など。
社会的な環境も快適にしていかないといけないですね。結論的にはすごく広さがいるということなんですけれど。

 
西村)心も健康に過ごすことができるように、ということですね。新型コロナウイルスだけではなく、過去の大きな災害でも感染症が問題になったことはあったのでしょうか。
 
室崎)阪神淡路大震災の時は、インフルエンザが流行って300人ほどの人が避難所で亡くなっています。
たくさんの人が共同生活すれば、感染症が流行るのは当然のこと。
今までも三密を防ぐ対策をしなければならなかったのに、それを怠ってきたということです。
日本の避難所の環境は国際的にも酷いと言われているので、避難所を快適にする努力も必要だと思います。

 
西村)避難所に行く時に必要な非常持ち出し袋について、こんなメッセージをいただきました。
「たつの市・ラジオネーム 昔は女子大生」さんからです。
「私が住んでいる地域では、定期的に防災集会をやっています。先日の集会では、避難する時にマスクや消毒液を用意することや手洗いを頻繁にするので、緊急時には意外とタオルが貴重品だときましたので、早速持ち出し袋にタオルを入れました」
ということです。
もう一通あります。こちらも持ち出し袋の話です。
「大阪市東淀川区・やえっこ」さんからです。
「今年は出産を機に、私自身を取り巻く環境が大きく変わりました。持ち出し袋の中に、おむつセットとゴミ袋、体を拭く時にも使えるおしり拭きを多めにいれました。コロナ対策としてマスクと消毒液も追加しました。ローリングストックの缶詰は、大人用のツナやサバ、スイーツに加えて、子どもの離乳食も買い足しました」
コロナ対策で、非常持ち出し袋の中身も変わってきたという話でした。
  
室崎)消毒液やマスクは必需品なので、しっかりと準備してください。
タオルや新聞紙、ポリエチレンの袋はいろいろなことに使えて便利です。タオルや新聞紙は暖房にも使えます。ポリエチレンの袋は食事をする時に役に立ちます。そのような汎用性のあるものを準備しておくことはとても大切です。
阪神淡路大震災の時に僕がおすすめしたのは、口紅です。紙に「ここに居ます」などと書く時にすごく役立ちます。
あとは、避難所で暗い顔をしているとますます気分が暗くなるので、ほんの少しだけお化粧をして、明るい気分にするためです。
大変な時でも、自分もうまく表現することが必要。これは一例ですが、家族で何を持っていくかを相談すると良いと思います。

  
西村)最後に、これからどんなことが必要になってくるのでしょうか。
  
室崎)やはり人と人との繋がりが最後には一番大きな力になると思います。
家族の中での話し合いや助け合いが必要。最近はコミュ二ティが形骸化してきていますが、いざという時、ご近所同士での助け合いがとても重要になってきます。
コミュニティの中でみんな相談して、いざという時は高台にある家や広めの座敷がある家に避難させてもらうなど、行政が決めた避難所とは別に「マイ避難所」を決める事もとても大切だと思います。

 
西村)こういう時こそ、人と人とのつながりが大事なんですね。
兵庫県立大学減災復興政策研究科 教授 室崎益輝さんにお話を伺いました。