第1330回「熊本地震6年【2】~倒壊した家、しなかった家」
オンライン:工学院大学建築学部教授 久田嘉章さん

西村)熊本地震の発生から6年が経ちました。この地震では、4月14日と16日に2度の震度7を観測して、276人が亡くなりました。熊本県益城町では献花台が設けられ、住民らが花を手向けました。
被災した益城町の役場は今も仮設のプレハブ庁舎のまま。熊本県では先月末の時点で95人が仮設住宅で暮らしています。
熊本地震では、長く続いた避難生活によるストレスで亡くなる人や孤独死も相次ぎました。
亡くなった276人のうち、建物が崩れるなどして亡くなったのは50人で、残りの226人は災害関連死でした。全体の8割が災害関連死で亡くなっています。
 
今、益城町で暮らしている方はどのような状況でどんなお気持ちなのか。益城町の守り神、木山神宮の禰宜(ねぎ)矢田幸貴さん(40)に電話でお話を伺いました。
 
木山神宮は、益城町の中心部、木山地区にあります。益城町の役場や、当時避難所になっていた総合体育館もある地域です。木山神宮は、江戸時代に神殿が建立されました。長い間地域を見守り続けてきましたが、熊本地震で境内の全ての建造物が全壊しました。
私が3年前に訪れたときは、神殿の屋根だけが残っていて、賽銭箱も白いテントの下にポツンと置かれていて。これが神社だったのかな...と思うような場所になっていたんです。
 
矢田さんも自宅が全壊し、避難生活を送る中で木山神宮の再建が始まりました。益城町は9割の住民が被災。さまざまな建物が全半壊し、6年経った今もいたるとことで工事が行われています。
そんな中「変わりゆく街の中で、神社が変わらない役割を果たすべきなのでは」と考え、神殿建設時の部材を約7割、再利用して新たに耐震免震構造を加えて、先月ようやく再建。震災前の姿が取り戻されました。
 
再建まで6年かかったのは、まず地域のみなさんの自宅の再建を進めてほしいという願いから。最後に神社の工事に取りかかるように町役場にお願いをしたそうです。神殿の再建にかかった費用は約2億円。そのうち1億5000万円は公的補助でまかない、神社の負担分は5000万円。それでも大きな額ですよね。そのうち800万円以上は全国からの寄付が集まり、ようやく再建工事を行うことができました。でもこれは神様が祀られている神殿のみです。拝殿など他の施設の建設費用は、今もYahoo!の支援サイトで寄付金を受け付けています。
 
蘇った神殿の後ろには防災公園を建設中です。これは益城町の指定緊急避難場所として使われます。もともと木山神宮の竹林と住宅と空き地があった場所に作られていて、テントなどが収められている防災倉庫、水を手動でくみ上げるポンプやマンホールトイレもあります。「子どもたちが笑顔でのびのびと遊ぶ憩いの場になれば」という思いが込められていて、来年の3月に完成予定です。
 
益城町のスローガンは"ありがとう"。「恩返しができる復興をしたい」と町のみなさん。
木山神宮の禰宜・矢田さんは「地震の記憶を風化させず、災害に強いまちを作っていきたい」と力強く語ってくれました。
きょうのネットワーク1・17は、熊本地震のシリーズ2回目をお送りします。
 
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西村)発生から6年が経った熊本地震は、観測史上初めて2回の震度7を観測し、多くの住宅が倒壊しました。被害を受けた建物にはどのような特徴があったのでしょうか。当時、活断層の周辺で建物の被害について調査をした専門家にお話を伺います。工学院大学建築学部教授 久田嘉章さんです。
 
久田)よろしくお願いいたします。
 
西村)久田さんは熊本地震の後、どこでどのような調査をしたのですか。
 
久田)活断層が地表に現れた益城町、西原村、南阿蘇村などで住宅の被害を調査しました。
  
西村)田んぼに大きな亀裂が入っていましたよね。あれは活断層が動いて地表に現れたということなのでしょうか。
 
久田)規模の大きい活断層で、マグニチュード7ぐらいの地震が起きると地表に断層が現れます。被害には2種類あります。地震の揺れによる被害、断層のずれによる被害です。その調査をしました。
 
西村)まずは地震の揺れによる被害についてお聞きします。熊本地震は震度7を2度も観測しました。大きな揺れによる住宅の被害にはどのような特徴があったのでしょうか。
 
久田)木造住宅は耐震性の違いで被害が異なりました。耐震性に関わる建築基準法は、1981年に改正されました。そして、阪神・淡路大震災を受けて2000年にも改正されました。建てられた時期がその前後、中間、後かによって建物の被害の様相が大きく異なりました。
 
西村)1981年の改正は、どのように定められたのでしょうか。
 
久田)震度6強程度の揺れで、建物が倒壊して人が死なないように改正されたのが81年基準です。2000年基準も基本的に同じなのですが、81年基準(新耐震)でも阪神・淡路大震災で倒れる家があったので、2000年基準でさらに厳しくしました。明らかに被害の様子は違いました。
 
西村)熊本県の益城町で木造住宅はどれぐらい倒壊していたのですか。
 
久田)81年基準より前に立てられた建物(旧耐震)は、約3割にあたる28%の建物が倒壊していました。81年基準(新耐震)で倒壊した建物は約9%。2000年基準では2%。建物がきちんと作られていれば、ほぼ倒壊する被害はでないということがわかったんです。
 
西村)一番新しい2000年の基準で建てられた家は丈夫ということですね。2000年は、どのように改正されたのでしょうか。
 
久田)81年基準で弱いと言われていた基礎を鉄筋コンクリートにすること、耐震壁をバランスよく配置すること、建物がバラバラにならないように柱や梁の接合部分に金物を取り付けること、の3点が定められました。
 
西村)そのような基準は今まではなかったのですか。
 
久田)あったのですが強制力がなかった。工務店や大工さんバラバラだったので、必ずやってくださいというふうに変わったんです。2000年基準によって倒壊するような大被害はなくなりました。
 
西村)2000年基準が大事ということですね。
 
久田)熊本地震では、仮設住宅や避難所で亡くなる人がたくさんいました。地震の直接的な被害で亡くなった人は50人ですが、その後、約230人が災害関連死で亡くなっています。命は守ることができても、その後に住み続けられるようにする対策が大切。そういう意味でも、2000年基準はすごく重要です。
  
西村)家が倒壊して避難所生活になると体調崩す人も多いですよね。災害関連死に繋がることは防ぎたい。新しい基準で建てられた丈夫な家に住むことは大事なことなのだと感じます。
もう一つの断層による被害についてお聞きします。熊本地震では、田んぼや道路に地割れができて、目に見える形で活断層が現れていました。活断層の近くや真上に住んでいると建物の被害は大きくなるのでしょうか。
 
久田)被害が出ます。ずれの大きさにもよりますが、50cm以上ずれたところを調べると、半分近くは大きな被害を受けていました。
基礎が丈夫でなければ引きちぎられるような被害が出てしまうんです。

 
西村)引きちぎられるような被害とは、どのような状況になるのですか。
 
久田)断層をはさんで地面が右と左にずれてしまいます。建物が引きちぎられるまではいかないのですが、歪んでしまいます。あるいは、上下にずれて傾いてしまう場合も。
 
西村)恐ろしいですね。ずれた活断層の真上に立っていた住宅でも壊れなかった家はあるのですか。
 
久田)2000年基準は基礎が鉄筋コンクリートなりました。丈夫なコンクリートに鉄筋が入ることで、引きちぎられる力に耐えられる丈夫な基礎になります。特に「ベタ基礎」という底全面を鉄筋コンクリートの板状にすると、地面がずれても建物は変形しなくなります。傾く場合もありますが、建物そのものが丈夫なら元に戻すこともできます。
  
西村)「ベタ基礎」の他にも、基礎の種類はあるのですか。
 
久田)ぐるっと鉄筋コンクリートで囲む「布基礎」というものもあります。地盤が変形するような被害が出るところは、木造住宅は「ベタ基礎」がおすすめですね。断層のずれに対しては一番丈夫だと思います。
もう一つ、2000年には「品確法」(住宅の品質確保の促進等に関する法律)もできて、住宅の性能を表示する「耐震等級」もできたんです。

 
西村)「耐震等級」はよく住宅の宣伝で聞きますね。
 
久田)耐震等級1が2000年基準、耐震等級2が2000年基準の1.25倍、耐震等級3は2000年基準の1.5倍になります。
  
西村)2000年の耐震基準の1.5倍丈夫になったのが耐震等級3なんですね。
 
久田)益城町の調査では、耐震等級3の建物16棟のうち、14棟が無被害。2棟が軽い被害でした。
 
西村)すごいですね。ほぼ被害がなかったということですね。
 
久田)逃げる必要がない。住み続けられる建物になったということです。
 
西村)耐震等級3が重要ということですね。住み続けられる家に住みたいという気持ちが高まってきました。「ベタ基礎」や耐震等級3が有効だということはわかったのですが、丈夫な家を建てるとなると、お金がかかるのではと心配になります。
 
久田)デザインにもよりますが、普通の家なら、数十万プラスで耐震等級を上げたり、強い基礎にしたりすることが可能です。耐震には壁が重要なのですが、構造用鋼板という板の壁をうまく張って、バランスよく配置するとすごく丈夫な家になります。
 
西村)もっとお金がかかるのかと思っていました。数百万円増えるなら諦めるかもしれないけれど、数十万円なら、家族の命を守るためにプラスしようかなという気持ちになります。
 
久田)工務店やハウスメーカーに相談すると必ず対応してくれるので、相談してみてください。
 
西村)工事の期間は長くなるのですか。
 
久田)それはほぼないです。
 
西村)デザインによるという話がありましたが、どのようなデザインなら耐震性が弱くなってしまうのですか。
 
久田)建物の耐震性は1階が重要です。1階に広いリビング、開放的な窓、吹き抜けなどがあると壁が少なくなって、耐震度が下がってしまいます。しかし構造計算すれば、耐震度をあげることも可能。一部鉄骨を入れるなどすると、さらに数100万はかかってしまうかもしれませんが。
 
西村)そのようなことを知った上で相談することが大切なんですね。住んでいる家が古い場合、後から強くすることはできるのでしょうか。
 
久田)耐震診断、耐震工事をして、少なくとも1981年基準の倒壊しない家にしましょう。自治体によって金額は異なりますが補助金が出ます。地震の後に住めなくなっても命を守る対策はできると思います。
 
西村)まずは命を守ることができるように。自治体の窓口に相談すると良いですね。
最後に改めて、熊本地震の被害の例から、私たちの住まいの備えで必要なことを教えてください。
 
久田)活断層マップを確認して活断層の上に住むのは避けるのが望ましいですが、そうは言っても、その場所に建てなければいけないときもあるし、活断層の正確な位置もわかりません。しっかりした基礎の耐震性の高い家に住んで命を守るということが第一。コロナ禍もあるので、なるべく避難しないために家を丈夫にすることです。家具の下敷きにならないように室内の安全対策をして、備蓄をしっかりして。在宅避難が原則になりつつあることを理解いただきたいです。
 
西村)避難所に行くと感染の不安もありますし、大都市ではそもそも避難所が不足しています。
 
久田)全然足りていません。みんなが避難したらすぐにパンクしてしまうので、避難しない対策していただきたい。それにはまず丈夫な家に住むということが大事ですね。
 
西村)まずは地震の揺れから自分たちの命を守る、家具の倒壊などを防ぐためにチェックをする。被災した後の生活を守るために改めて家自体を見直す。それらが一番大切な備えなのだと感じました。
きょうは、工学院大学建築学部教授 久田嘉章さんにお話を伺いました。