第1346回「東北・北陸で記録的豪雨」
電話:新潟県関川村の防災士 佐藤隆平さん
ゲスト:MBSお天気部 気象予報士 前田智宏さん

古川)3日~4日にかけて、山形県と新潟県に大雨特別警報が発表されました。山形県では、最上川が氾濫して、道路が冠水、住宅の浸水、土砂崩れ、橋の崩落など、さまざまな被害の情報が入ってきました。新潟県では1時間に100mmを超える猛烈な雨が降り続いて、記録的短時間大雨情報が16回も発表されました。新潟県・関川村では24時間で560mmの雨が観測されました。これは平年の8月の降水量の2.7倍に当たります。1日で約3ヶ月分の雨が降ったということです。
雨はどんな降り方だったのか、どんな被害をもたらしたのか、新潟県・関川村在住の防災士 佐藤隆平さんにお話を伺います。
 
佐藤)よろしくお願いいたします。
 
古川)大変な雨だったとのこと。どんな降り方だったのですか。
 
佐藤)3日の16~17時ぐらいから雨が降り出しました。その時点で、避難所開設をしなければならないだろうという予測が立ちました。線状降水帯が発生していたので、行政も住民も気を付けていたところでした。
 
古川)みなさんのところには大雨になりそうだという情報は届いていたのですね。
 
佐藤)避難所開設をして早めの避難を受け入れていたので、ある程度住民も想定していたと思います。でも夕方の時点では、まだ避難する気持ちにならない人も多かったと思います。
 
古川)その後はどうなりましたか。
 
佐藤)17~18時ぐらいにかなり強い雨が降ってきました。集落の自主防災組織のリーダーが役員を招集すると、たくさんの人が集まってくれました。わたしも協議に立会いました。この地域は、県の土砂災害指定地域になっているので、まずは、山際の危険な場所に住んでいる住民5~6軒の家にお伺いしました。「避難をしてください」「避難するならどこにしますか」と訪ね歩いて、避難の協力依頼をして。避難所に行く人、親戚の家に行く人を把握するための確認も兼ねてまわりました。19時すぎぐらいになると、ほかの家にも同じように早めの避難をお願いするなどして、自主防災組織は行動していました。
 
古川)自主防災組織には、どれぐらいの人数が参加しているのですか。
 
佐藤)1世帯につき1人は参加しています。全部で23世帯という規模なので、話し合いもスムーズ。家にいるのは高齢者だけで、若い人は夜勤をしているという場合もあります。さまざまなケースがあり、状況次第で避難が困難な場合もあるので、1軒1軒回って、早めに各家庭の状況を把握しておくことが大事です。
 
古川)事前に全世帯の状況を把握していたのですね。大事なことですね。
 
佐藤)線状降水帯が22時ぐらいに発生しました。関川村には「女川」と「荒川」という一級河川があります。55年前の昭和22年8月に「羽越大水害」があり、関川村は壊滅状態なりました。今は立派な堤防ができているのですが、そのような経験があるので、水害に対する意識は強いです。
 
古川)55年間は大きな被害はなかったのですね。佐藤さんは今回のような大雨を体験したのは、はじめてでしたか。
 
佐藤)一時東京にいて、昭和49年に戻ってきたのでその間はわかりませんが、今回のような雨ははじめてでした。
 
古川)長く住んでいる人でも経験したことがないような雨だったのですね。
 
佐藤)23~24時半には、ものすごい雷が鳴っていました。恐怖を感じるぐらいの雷。同時に雨がザバーっと降ってきて、1時半ぐらいにレベル5の警報が出たんです。夜中の1時半だったので、避難所に行くことは困難な状況に。垂直避難で統一することになりました。
 
古川)垂直避難とは、家の中の高い場所に避難することですよね。明け方には少し収まったのですか。
 
佐藤)雨は4時過ぎぐらいにおさまりました。床下浸水が数件ありましたが、幸いなことに床上浸水の被害はありませんでした。線状降水帯は移動するものと思っていたのですが。このような大きな災害になって驚きました。
 
古川)日頃からみなさんで集まって協議してきたことが今回、生かされましたね。
 
佐藤)やはりそういうことが重要だと思います。これからも想定外の災害が起こると思います。みなさんも想像力を膨らませて、いろいろな人の意見を聞きながら、対応できる共同体を作る努力をしてほしいと思います。
 
古川)大変お忙しいところ、ありがとうございました。新潟県・関川村在住の防災士 佐藤隆平さんでした。
 
古川)ここからは、MBSお天気部の前田智宏さんにお話を聞きます。
たぬきわんわんさんからこのようなメールをいただいています。
「8月3日、山形県に大雨特別警報が出ました。2019年の台風19号では、関東や東北に10月に大雨特別警報が出ました。夏に東北に特別警報が出るのは異例。今年の夏はどうしてこんなことになっているのでしょうか」
わたしも東北・北陸に、この時期に大雨が降るイメージがなかったです。
 
前田)日本海側でこれほどの大雨が降る例はなかなかありません。新潟県・関川村では1時間の雨量が149mmでした。24時間の雨量もすごかったのですが、1時間に80mmから猛烈な雨と言われるので、恐怖を感じるような雨だったと思います。なぜこんなに雨が降ってしまったのか。まず前線が東北と北陸付近に停滞していたことが条件で、その前線に向かって、非常に暖かく湿った空気が大量に流れ込んだということが大きな原因です。非常に暖かく湿った空気の正体は台風。台風が東シナ海を北上して、熱帯低気圧に変わっていた。朝鮮半島付近で熱帯低気圧になっていたのですが、熱帯生まれということもあって、熱帯由来の暖かく湿った空気をたっぷり持っていました。日本付近は高気圧にバリアされる形になっていたので、台風はあまり近づくことができなかったのですが、その高気圧をぐるっと回るように、日本海側の方から湿った空気を列島に送り込んでしまったのです。その湿った空気が東北・北陸地方に集まってしまったことが原因です。
 
古川)これまでにこのようなことはあったのですか。
 
前田)結構珍しいパターン。前線が停滞しているところに、温かく湿った空気が流れ込んでしまうという悪条件が重なりました。ここ最近すごく暑かったですよね。猛暑が続いて、日本海の水温も上がっていました。露天風呂をイメージしてみてください。湯気が立ち上りますよね。それと同じように、海が温かいと水蒸気がどんどん蒸発して、雨雲を生み出す材料になってしまうんです。平年よりも日本海の海面水温が1~2度ほど高くなっていたことも今回の大雨につながったと考えています。
 
古川)今回、線状降水帯が発生する情報は事前に知らされていましたよね。
 
前田)山形や新潟で発生する前に、秋田や青森でも線状降水帯が発生していたので、それが南に下がってくるだろうという想定されていました。新潟や山形には県境付近に標高の高い山があって、そこに湿った空気を含んだ風がぶつかることで、上昇気流が強まってしまった。これにより、線状降水帯が強化されたことが被害が大きくなった原因と考えています。
 
古川)線状降水帯の情報が事前に出されるようになったのは今年からですよね。
 
前田)今年の梅雨時期から発表されるようになりました。今回は線状降水帯が発生する見通しについては、事前に発表することができていませんでした。東北・北陸だけではなく、滋賀県の高時川が氾濫するなど、近畿地方にも影響が出ました。日本海に近い湖北の地域は、若狭湾から距離が近いので、若狭湾からダイレクトに雨雲が流れ込みました。滋賀県では線状降水帯にはなっていませんが、局地的な激しい雨が降ってしまいました。
 
古川)今年の夏は、まだこのような豪雨の可能性があるのでしょうか。
 
前田)これからが大雨シーズン。梅雨は終わりましたが、暑くなると、午後のゲリラ豪雨や台風シーズンも本格的になります。それに伴って、線状降水帯が発生する可能性もあります。
  
古川)線状降水帯という言葉は10年ぐらい前には聞いたことがなかったですよね。もうみなさん知っている言葉なので、発表してもらえると備える気持ちになると思います。どんなことに気をつけておいたら良いですか。
 
前田)発生したら、すぐに身を守ることができるように、ハザードマップなどを確認しておく。夏は、お盆の帰省や旅行などで、普段いる場所ではないところに移動することがあると思います。自分が住みなれた町以外で、危険に遭う可能性もあるので、天気が心配なときは、滞在先のハザードマップもしっかり確認しておくことが大事です。
 
古川)先ほど佐藤さんは垂直避難したといっていました。家の中で準備しておいた方が良いことは。
 
前田)1階に水が入ってきても、命をつなぐことができる最低限のものは2階以上に置いておくことも大事。すぐ移動できるようにしておいてもいいですね。
 
古川)佐藤さんは、雨だけではなく、雷も怖かったといっていました。
 
前田)かなり発達した雷雲が新潟県にも流れ込んでいたので、恐怖を感じたと思います。8月ゲリラ豪雨は、雷を伴うパターンも多い。雷の音が聞こえた時点で、自分のところに落雷してもおかしくない状況だと考えてください。雷の音が聞こえた時点で、頑丈な建物の中に移動する、近くに建物がないときは、車の中に移動することも有効です。雷から身を守ることは、大雨から身を守ることにもつながる。雷の音を一つサインとして捉えて、身を守る行動をとってください。
 
古川)佐藤さんのお話を聞いて、感じることはありましたか。
 
前田)地域のつながりの大切さを感じました。声を掛け合って身を守ることを実践し、命を守ったことは本当に素晴らしいことだと思います。自分たちも危険が及んだときに、助け合えるような関係を地域の中で作っていかなければならないと思いました。
 
古川)佐藤さんは日頃から防災士として、地域をずっと見守っていたので、雨が強くなってからも外に出ていましたが、慣れていない人は外に出るのは危険ですよね。
 
前田)川の様子を見に行きたくなる気持ちはわかりますが、危険なときは、川の近くや土砂災害が起こりそうな崖や山の近くには、近づかないようにしてください。川の様子は河川カメラなど、インターネットでも見ることができます。そのような情報カメラの映像も判断に役立てて、自分の身を守ることにつなげてほしいと思います。
 
古川)それぞれに備えていきましょう。MBSお天気部の前田智宏さんでした。ありがとうございました。