第1238回「令和2年7月豪雨~道路寸断で支援が届かない町」
電話:熊本県・八代市在住「チームドラゴン」つる詳子さん

千葉)熊本県の南部が豪雨で大きな被害を受けてから2週間が経ちました。
特に深刻なのが、八代市坂本町です。
 
亘)坂本町は、地図で見ますと八代市の市街地よりももう少し内陸側の方、山間部にありまして、球磨川に沿って集落があるような、そういう町ですね。
今回、土砂崩れで道路が寸断されて、当初なかなか支援が入りにくかったということを聞いています。
 
千葉)きょうは、地元で支援に取り組む「チームドラゴン」のつる詳子さんに電話でお話を聞きます。
つるさん、よろしくお願いします。
 
つる)よろしくお願いします。
 
千葉)大変なところすみません。
まず、つるさんご自身は八代市にお住まいなんですね。ご自宅の豪雨での被害はどんな感じだったんでしょうか。
 
つる)私は球磨川の河口から3~4キロぐらいのところに住んでいるんですね。
坂本町は、(河口から)8キロぐらいから始まるんですね。
ひどいのは坂本町で、そこから下流の方は平野部になっていて、その平野部に私は住んでいるのですが、平野部はどうもないんです。

 
千葉)そうなんですか。
じゃあ、山間部の方に入ってくるほど被害が大きくなってくる?
 
つる)はい。山間部に坂本町はあるんですけど、ひどかったのは山崩れとかじゃなくて、球磨川の水が溢れた「水害」ですね。
 
千葉)坂本町というのは、球磨川に沿って谷みたいになっているところの両側?
 
つる)谷みたいになっていて、川沿いにずっと集落が建っているんですね。
その集落が、川が増水して流されたり壊れたりしている状況です。

 
千葉)坂本に支援に入られたのはいつで、どうして坂本に行こうということになったんですか。
 
つる)今までの活動の中で、すごく長い間、30年くらい坂本に関わってきたんですね。
ダム問題を抱えていたものですから、そういったことで坂本の人たちと関わりを持ったり、地域の再生のためにいろんな活動をしていたんです。
その中で、いろんな地域の人とのつながりが出てきたので、今回の災害で知人の方の安否がとにかく気になる。
坂本の人たちも、私が坂本に詳しいということを知っているものですから、坂本のどの集落はどうなっているか、テレビも電気もみんなストップしてしまったもんですから、電話がつながる人あるいはネットでつながる人なんかが、「どこどこの集落は大丈夫か分かりますか」とか、「どこの道路が通れますか」とか、「誰の安否を確認してください」とか、うちに問い合わせが来たんです。
それと、「支援したいけどどこに送ったらいいか」とかですね、そういうのが来るもんですから。
坂本は、どの運送会社も全然配達してくれない、入れない状況なんです。
それで、「とりあえず、じゃあうちに送ってください」っていう形で、もう即、次の日からそういう感じで動いています。

 
千葉)ということは、道路もまだ開通していないとか...
 
つる)坂本町の中に橋が5つあるんですけど、その内の3つが流されました。
 
亘)3つが流されたんですか。
 
つる)はい。本流にある結構、大きな橋なんですね。
それが3つ流されて、鉄道も鉄橋がほとんど壊れて全然通れない状況なんですね。
そして、国道219号線というのが球磨川沿いにずっと走っているんですけど、川よりの方が中央線(センターライン)から半分は無いようなところがいたるところにあるもんですから、道路が全然復旧できていないんですよ。

 
千葉)国道が中央線(センターライン)から半分、川に流されちゃった?
 
つる)はい。崩れて落ちている感じで、そういうところが何カ所もあるもんですから、歩いていても危ないみたいな状況だったんです、最初のうちは。
今また、通れたり通れなかったりとか、状況がどんどん変わっています。


千葉)山間だから、その国道がなければ回り道をしていくっていうことはむずかしいんですもんね?
 
つる)別の、鹿児島に向かう国道3号線の方から山越えをして入るっていうルートがいくつかあるんですね。
そこも、通れたり通れなかったりというのがしばらく続いて、今は1カ所だけは何とか坂本の中心部よりちょっと上流の方まではいつも通れるかなという感じで、そこを使って坂本に入ったり、あるいは高速のパーキングエリアを道路公団さんが開けてくれたので、パーキングエリアを通じて降りることができるようにはなっていますけど、それから先がまた通行止めという感じで、全然行けない集落もまだ残っています。

 
千葉)2週間経ちましたけど、まだ入れていない集落もあるんですか。
 
つる)はい、あります。
だから、そこで孤立している方とか、山の上の集落というのは今回、被害は少なかったんですけど、周りのどこにも行けないもんですから孤立してしまうんですね。
最初のうちは自給自足とか、ある食料でなんとか食べていけたんですけど、だんだんとその食料の救援もない状況なので、その人たちを避難させたりとかいうのはまだ続いています。まだ避難されてない方もいらっしゃるし、行方不明でわからない方もいらっしゃいます。

 
千葉)最初、つるさんが坂本に入られた時には、集落はどんな状況だったんですか。

つる)私は、どんどんそうやって情報が入ってくるようになったもんですから、パソコンと電話の前にいて、家から全然出られない状況にすぐなってしまったんですよ。
とにかく、私がここを離れたらみんなが連絡できないような状況になったので。
やっと先週の日曜日に(集落に)入りました。

 
亘)その時はどんな状態でしたか。
 
つる)その時はですね、また前の日に大雨が降って道路が1カ所通れなくなって、国道の方もやっと復旧したところがまた崩れて通れないので、やっぱり山道を越えて入って...。
葉木というところまでは入れるんですね。そして、そこから道の駅とかがあるところまでなんとか入れたんですけど。
だからもう、道路をとにかく通れるようにしようということで。
ヘドロが50センチとか溜まってしまっているんですよ、道路はどこも。
ヘドロというか堆積物やガレキが(道路の)両脇に山積みしてある、どこもそういう感じです。
雨が降るとまたそれが流されて道路を埋め尽くすので、雨が降るとまた通れなくなる、そういうことを繰り返しているという状況ですね。

 
千葉)両側にある家も流されていたり?
 
つる)川沿いに建っている家の1階部分は流されて無くなっているか、あるいは地震が来たみたいに崩れてガレキとなっているか、あるいは何とか柱は残っているけど中は何もない、そんなところが多いです。
 
千葉)本当に深刻な状況なんですね...。

つる)はい、かなり深刻なんですけど、同じように被害があった人吉市とか、そちらの方にみんな報道の方が行かれるものですから、坂本の状況がなかなかみんなに伝わりにくくて。
八代市ですら、なかなか全体の状況が把握できてなくて、ボランティアの派遣もすごく遅れていて、救援物資がなかなか届かないとかそういう状況なんですね。

 
千葉)そんな中で活動されている、つるさんの「チームドラゴン」は、どんなグループなんですか。
 
つる)「チームドラゴン」は2つのグループで、今回の災害のために一緒に活動しようとなって、正しくは「坂本町災害支援チームドラゴントレイル」という長い名前なんです。
「ドラゴントレイル」というのは、山岳を走る人たちのトレイルランニングなんですね。

 
千葉)舗装されていない道を走っていくあれですね、クロスカントリーのようなものですね。
 
つる)そうです。「やっちろドラゴントレイル実行委員会」というんですけど、そういうチームが1つですね。
それともう1つは、「豊かな球磨川をとりもどす会」といって、ここの流域の自然とかダム問題に関してずっと活動してきた団体です。
それで、ずっと私は事務局長をやってきたので、じゃあ今度の災害支援にあたっては、一緒にやろうよっていうことになって、この「チームドラゴン」というのを結成しました。

 
亘)被災した旅館を拠点にしようというようなことも拝見しましたが。
 
つる)はい。それが、なんとか坂本まで行ける葉木橋というところの近く、1キロぐらい先なんですけど、近くにあるもんですから。
とにかく坂本まで、今、すべての運送会社が入れませんので、物資を地元の人に届けたり後片付けしたいから、ボランティアにそこまで行ってもらうとかいう、拠点になる場所が今、ひとつもないんですよ。あと、別の団体が作ったところが1カ所できていますけど。
なので、とにかく坂本に拠点が欲しいなというところで、どこが使えるかと考えたら鶴之湯旅館さん。そこも1階が全部なくなって2階と3階が無事でしたから、そこをとにかく片付けて、そこにうちに来た支援物資を運んで、さらにそこからみなさんに運ぶなり、あるいは地元に残っている方たちに取りに来てもらう、そういう場所を作りたいなと思って、いま、鶴之湯旅館の後片付けに全力を注いでいるところです。

 
千葉)被災した旅館が拠点になっているわけですね。
 
つる)拠点にしようと思っていると状況で、まだ拠点にまではなっていないんですけど。
電気がやっとくるようになって、水がまだ来てないんですけれど、なんとか目処が立ちそうなので、片付いたらそこを拠点に、物資を運び込もうかなと思っていました。もう、かなり運んではいるんですけど。


亘)なるほど。どんな物資が届いていて、足りないものはどんなものでしょうか。
 
つる)それがですね、どんどん変わるんですよ、日によって。
「これが足りません」って言うと、バーッと集めてくださったりするので、もうそれはいっぱいになって「きょうは何が足りない」ってコロコロ変わるんですね。
例えば、坂本の人たちというのは、道が分断されたり、あるいは水害の時に高台に逃げた方とか屋根の上に逃げた方とか、八代市内の体育館とかコミュニティセンターにヘリコプターで救助された方がほとんどなんです。
なので、避難所に200数十人と、もう片方の避難所に40人ぐらいいるんですけど、そこにもうちから物資を届けたりとか、いろいろやっています。
最初の頃はとにかく着るものがないとか食べ物がないとか、そういう感じでしたので、その日を過ごすのに必要なものを送っていました。やっと八代市からもいろんな支援物資が届くようになったので、毎日生活するには困らないようにはなっているんですけど、そうするとやっぱり、新しい下着が足りないとか、外出する時や病院通いする時の洋服が欲しいとか、いろいろ変わってくるんですね。
そういう状況なので、その時その時によって、みんなにいき渡ったら、次、これが欲しいみたいな感じで、こちらに要望が来たり、こちらからも毎日見に行っていますので、これが足りないなと思ったら集めて持っていくということをくり返しています。

 
千葉)ヘリコプターで救助される状況ということは、本当に何も持ち出せていないっていうことですもんね。
 
つる)はい。本当に急激に水がきて、現金すら持ち出せていないという方が多いんですね。
位牌だけはやっと持って逃げたとか、もう着の身着のままの人がほとんどです。

 
亘)坂本地区の中の避難所も、なかなか開設できないところが多かったというふうに聞いたんですけれども。
 
つる)最初引き上げられた人は、坂本にひとつだけある小中学校に一旦、救助されてヘリコプターで降ろされたんですけど、そこに支援物資を届けるのが大変なので、そこからまた八代の避難所に、ほとんどみなさん来ていらっしゃるという状況です。
 
千葉)避難所に今、いらっしゃる方々は、家に戻って片付けをしたりとか、そういうことって出来るような状況なんですかね。
 
つる)例えば人吉市だったら、避難所に逃げて、水が引いたらそこから自分の家を片付けに行って、また夜は避難所に戻るっていうことができるんですけど、坂本の場合はそれが出来ないんですよ。
ほとんどのみなさん車も流されているし、車があったとしても入る道がないし、そういう感じなので、家が気になるけど見に行くことすらできていないっていうのが現状です。

 
亘)見に行くこともできない。
じゃあ、みなさんは避難所でじっとしていらっしゃるような状態ですか。
 
つる)そう、そんな感じです。本当に何もできないっていう感じなんですよね。
広い避難所にテレビが1台あるだけって聞いていますので、情報もなかなか入らない。
それで、市の方もあちこちでバタバタで、職員も足りなくて十分なフォローができていないんですね。
職員さんも本当、大変に動いてらっしゃるみたいなんですけど、そんな中でコロナの問題があるもんですから、県外のボランティアも頼めない、ボランティア来てくださいっていう呼びかけも県内に限ってということで、やっと数日前に始まったばかりなんですよ。

 
亘)リスナーの方からもメールをいただいています。
ラジオネーム・ひつじさんという方から、
「熊本の豪雨災害でボランティアが絶対的に不足していると聞いています。
新型コロナの感染拡大で、当面、ボランティアは熊本県在住者だけを受け入れるとのことですが、どんな状況でしょうか」というメールをいただています。

つる)ボランティアは全然足りないし、八代市がやっとボランティアを県内に募集かけたんですけど50人なんですね。50人といったら、うちでも派遣できる人数なんですよね。
同じように災害がひどかった、小さな町の芦北町ですら200人募集しているのに、「50人とは、なんだ!」みたいなメールがいっぱい来たりするんですけど。
とにかくですね、受け付けても市の職員が足りないので、それを采配するとか、物資が来ても運ぶのに市役所の方がかえって情報を持っていなかったりするもんですから、どこに運んでいいかわかんないとか、そういう状況なんですよ。
やっとここ数日、動き出したみたいな感じですけど、県外の支援物資は受け付けないとかそういう状況なんですね。
八代市役所の方が、まだまだうまく機能してないという状況です。

 
千葉)避難所は、コロナの対策とかは取られているんでしょうか。
 
つる)はい。そこが心配で見に行ってもらったんですけど、今までの災害みたいに人が密集して座っているっていうんじゃなくて、ちゃんとダンボールの壁があって2メートル以上は離れていて、ちゃんとスペースは確保してあるみたいです。
だけどみなさん、やっぱり、お互いの情報交換のために、つい集まって話をされたりとかするじゃないですか。
それと、私たちも今、コロナ対策で全然、中には運べないようになっていますので、玄関のところに職員の方に来てもらってそれを運んでもらうということになっています。

 
亘)じゃあ、ボランティアの方が被災された避難所にいる方にお話をするということはできないわけですか。
 
つる)今、できなくなりました。
コロナが2~3日前ぐらいから全国で厳しくなっていますので。
それまではひとりひとり知っている人に、「どうでしたか」とか「何が足りませんか」とか聞き取って、それで届けるということができたんですけど、それが今、できないんですね。 

 
千葉)直接ニーズを聞くことができない?
 
つる)はい、できないです。
だから、市の職員の方がそれを調べて、あちこち、足りないものは自分たちで集めたり。
こっちの助けが必要だったらこっちに振ってくださるとか、そういう段階までまだきていないんですね。
だから、不自由されているんじゃないかなと思っても、なかなか今、その状況もつかみづらいです。

 
千葉)今の状況にしても、これから片付けをしていかなきゃいけないという状況にしても、人手が必要ですよね。
 
つる)必要です。
小さな10軒ぐらいの集落からこちらの方に電話があって、避難所に車があったから集落に高齢者世帯が2軒戻られたそうなんですけど、2人じゃどうしようもないということでした。ちっちゃなスコップが1~2本あるだけなので。
泥と言っても、場所によっては50センチ以上堆積していますし、被災した家財道具なんかも外に運びたいけどとてもこれは無理ということ、SOSの電話が入ったんですね。
それで、「日曜日にうちのチームドラゴンの方でやりますからね」っていう話をしたばかりなんです。
だから、今、戻れている人、助けが欲しい人がどこにどういるのかっていうのがですね、把握がとても難しいです。
こうやって電話をくださる方はいい方で。そうすると、うちで受けきれなかったら、もう1カ所に拠点ができている他のチームがありますので、そこから行った方が早いのか、あるいはうちから出した方が早いのかっていう連携で、行ってもらうということができるんですけど。
誰が困っている、どこが困っているというのをなかなかつかめていなくて、それがいちばん問題かなと思っています。

 
亘)ニーズがなかなかわからないということですが、これから当面必要なことというのは、どんなことだと思われますか。
 
つる)やっぱり、ボランティアはまず必要です。
うちの方でも、しっかり顔が見えている範囲でも結構、集まるんですけど。
拠点ができたら、そこが坂本の集落のやや北寄りのところなんですね。
もう1軒の拠点が、わりとと八代市(中心地)に近い下流側の方にできているんですね。
そこで連携を取りながら、「どこが足りない」とか言って、こっちでできることはこちらから歩いてでも手伝いに行くということは可能かなと思っているんですね。
だけど、もしかしたら八代市役所の方がそこに入っていたりとかするじゃないですか、あるいは消防団が片付けているとか。
だからそういうネットワーク、お互い、「ここは行ってますから大丈夫ですよ」っていう、とにかくネットワークがいちばん大事だというのは実感しているところなんです。
助けようと思っているどこの誰がどう動いているか、そういう情報をきちんと把握できるというのがいちばん大事かなと思っています。


千葉)わかりました。つるさん、本当にたいへんな時にありがとうございます。

つる)いいえ。なかなか報道では伝わらないところもあるので、とてもありがたいです。