第1335回「災害時の車中泊~その備えとリスク~」
取材報告:早川紗世ディレクター

西村)きょうのテーマは災害時の車中泊です。
2016年に発生した熊本地震では、多くの被災者が車の中で避難生活を送りました。コロナ禍で大きな災害が起こると、これまで以上に車中避難を余儀なくされることも考えられます。
きょうは、災害時の車中泊の備えとリスクについて、早川紗世ディレクターと一緒に考えていきます。
 
早川)よろしくお願いします。ここ数年のアウトドアブームでレジャーとして車中泊を楽しむ人も増えましたが、災害時の車中泊はそれとは全く異なるものになります。
レジャーとして行う車中泊は、準備する時間がありますよね。快適に眠れるようなアウトドアアイテムも売っていますし、何より楽しむための車中泊なので、多少の不便があってもレジャーの醍醐味と割り切ることができます。
しかし、災害時の車中泊は、事前の準備が全くできない。着の身着のまま、余震の状況次第では、車内に長時間閉じ込められることも考えられます。

 
西村)道路が陥没していることもあるかもしれません。
 
早川)緊急時に追い込まれた状況で行う車中泊は、体と心に負担がかります。
 
西村)そうですね。キャンプやレジャーは、不便を楽しむ心の余裕がありますが。
 
早川)災害時に車中泊をする場合、どんなことに気をつけたらよいのか、どんな備えがいるのか。今月、娘と初めての車中泊を体験してみました。
 
西村)娘さんとキャンプに行くことはあるのですか。
 
早川)我が家はキャンプが好きで、年に1~2回はキャンプに行っています。
 
西村)では、娘さんは、アウトドアには慣れているのですね。
 
早川)アウトドアには慣れているのですが、車の中で寝るという経験はしたことがなかったので、今回は実際に寝てみることにしました。
 
西村)どこで車中泊をしたのですか。
 
早川)家に隣接した駐車場に停めた車の中でひと晩を過ごすことにしました。災害時をイメージして、事前準備は一切せずに、家にあるものを使って車中泊を試みました。
 
西村)これも大きなポイントですね。
 
早川)まずは車中泊の準備の模様をお聞きください。
 
音声・早川)現在夕方6時です。車中泊をするための準備をしたいと思います。一緒に車中泊してくれるのは?
 
音声・娘)桃佳です。小学4年生、9歳です。
 
音声・早川)車の中で寝るのは初めてですか。
 
音声・娘)初めてなので、ちょっとワクワクします。
 
音声・早川)車の中で寝る準備をしましょう。手伝ってもらえますか。
 
音声・娘)はい!
 
音声・早川)まず(車の)うしろを開けて、席を倒して2人が寝られるようにしましょう。荷物を運び出してください。車の中には、買い物カゴ、ブースターケーブル、レインコートなどが入っているので運び出しましょう。傘も出しましょう。この車は5人乗りのSUVなので、運転席と助手席のうしろが全部フラットになります。そこをフラットにして、2人が寝られるスペースを作りましょう。
 
音声・娘)久しぶりにフラットにしたね。
 
音声・早川)長らくフラットにしてないから倒し方を忘れた...。よいしょ!これでフラットになりました。5人乗りだけど、5人は寝られないね...。
 
音声・娘)狭いと思う。
 
音声・早川)身長何cm?
 
音声・娘)146.6cmです。
 
音声・早川)一回寝てみて。
 
(試しに寝てみる)
 
音声・早川)146cmの子どもがまっすぐ寝るのが精いっぱい。お父さんは無理やね。
 
音声・娘)お父さんは100%無理や!
 
音声・早川)では、アウトドアグッズのマットを敷きましょう。これは、どうやって膨らますのかな...。アウトドアグッズってあんまり使わないからわからんね。
 
音声・娘)使ったの3年前じゃない?
 
(マットを膨らませて準備)
 
音声・早川)マットを敷いただけで、ベッドっぽくなってきたね。でもこれだけだとまだ痛いね。
 
音声・娘)マットの上に毛布を敷いたら?
 
音声・早川)そうやね。敷いてください。次は寝袋を出そう。寝袋持ってきて。
 
音声・娘)キャンプ用品、フル活用やね。
 
音声・早川)キャンプ用品は持ってると防災に役立つね。この寝袋、あんまり使ったことないね。
 
音声・娘)これは多分1回も使ったことないよ。
 
音声・早川)お母さんと2人で寝るとちょっと狭いね。
 
音声・娘)そう?まっすぐ寝たらいけそうやで。
 
音声・早川)いつもまっすぐ寝へんやん!(笑)
 
音声・娘)たしかに(笑)

 
西村)楽しそうに準備をしていましたね。
 
早川)座席をフラットにすることがあまりなかったので、準備に時間がかかりました。
 
西村)ちょっと息切れしていましたね(笑)
 
早川)結構大変でした。座席を倒すときはお父さんにやってもらうので、わたしがすることはあまりなかったんです。座席を倒す作業に時間がかかりました。
 
西村)夫がいなかったら、どこのレバーでフラットにするの?となりますね。キャンプのときも、お父さんが準備することが多いかもしれません。
 
早川)わたしもやっておかないといけないと思いました。実際にフラットにしてみると思っていたより狭い。5人乗りで普通車より少し大きいタイプですが、フラットにして寝るとなると2人が限界ですね。
 
西村)娘さんは身長146cm。早川さんは身長何cmですか。
 
早川)157cmです。
 
西村)小柄ですが寝ると狭いのですね。お父さんは一緒に寝られそうにないですか。
 
早川)お父さんは無理だと思います。
 
西村)背が高いのですか?
 
早川)180cmあるので、足を伸ばすことは難しいと思います。
 
西村)やってみたからこそわかったのですね。
 
早川)アウトドア用のマットと寝袋を敷いて娘と2人分の寝床は確保できましたが、まだ足りないものがありました。続きをお聞きください。
 
音声・早川)これで寝られるかな。
 
音声・娘)窓に何か貼らないと恥ずかしいな。遠足で使うレジャーシートがちょうどいいんじゃない?
 
音声・早川)ではレジャーシートを窓に貼っていきましょう。どの窓に貼りたい?
 
音声・娘)一番前の助手席と運転席のところ。
 
音声・早川)ではフロントガラスにレジャーシートを貼っていきましょう。
 
音声・娘)ガムテープを切ろう。はさみは?
 
音声・早川)手で切れるよ。フロントガラスに貼れました。サイドの窓にもいるよね。
 
音声・娘)カーテン買っておいたら良かったね。
 
音声・早川)毎回貼るのは大変やね。
 
音声・娘)これで完成!
 
音声・早川)寝る時にはエンジンをつけられないので、ライトがいるね。キャンプ用のランタンに電池を入れましょう。
 
音声・娘)OK!(ランタンを点けて)それっぽい!それっぽい!
 
音声・早川)夜を越せそうかな。
 
音声・娘)越せそう!

 
西村)明りがついたときの喜びが伝わってきました。プライバシーの保護は、小学生の娘さんにとっても大事なことなのですね。
 
早川)車中泊というと、寝床の準備ばかりに気を取られるのですが、プライバシー確保のための準備も必要。車にカーテンをつけていなかったので、家にあった娘の遠足用のレジャーシートを窓に張って目隠しをしました。
 
西村)たくさんの窓に貼るのは大変そう。
 
早川)子ども用なので小さなレジャーシートを5枚ほど使いました。遠足に行くたびに買っていたので、家に備蓄がありました。
 
西村)捨てなくて良かったですね。我が家にもレジャーシートあります。車に積んでおこう!
 
早川)本来なら、カーテンがあったほうがいいかも。
 
西村)そうですね。レジャーシート再活用よりもカーテンを準備したほうが良いですね。
 
早川)寝るだけでなく、着替えもすると思うので。
 
西村)カーテンがないと外の様子が見えるから、夜は怖いですよね。
 
早川)車中泊の際はエンジンを止めるので、ランタンや懐中電灯などの明かりが必要。スマホの充電用のモバイルバッテリーも必要です。
 
西村)頭につけるヘッドライトがあると便利かも。
 
早川)本を読んだりゲームをしたりするときに便利ですね。わたしたちは、家にあったものを使って車中泊の準備をしたのですが、本当にこれで良かったのか。災害時の車中泊の備えについて、車中泊の専門誌「カーネル」編集長 大橋保之さんにお話をお聞きしました。
 
音声・大橋さん)準備してほしいものが3つあります。1つが寝床を心地よくするための銀マット。できれば、厚さ5~8mmくらいのものを用意してください。ホームセンターや量販店で売られています。100円均一ショップは比較的薄いものが多いので、きちんと厚さがあるものを選んでください。もう1つがクッション。車のシートは寝るためにつくられていないので凹凸があります。タオルケットや毛布、アウトドア用のラグを圧縮袋に入れて積んでおいても良いです。圧縮袋は、掃除機を使うものではなく、手で圧縮できるものの方が使いやすいと思います。衣類を入れて積んでおいても良いですね。
 
音声・早川)キャンプ用品でも代用できますよね。
 
音声・大橋さん)もちろん。重要なのはただ寝るのではなく、できるだけ体をリラックスさせて寝るということ。レジャーも防災も心と体のリラックスが大切です。中が丸見えだと寝られなかったり、着替えのときも気になったりするので、窓を塞ぐことは重要です。
窓に貼るシェードが市販されていて、さまざまな車の形に合うものがあります。これは外断熱にもなるので便利。銀マットで代用することもできて、目隠しにもなるので銀マットは積んでおいた方がいいですね。

 
西村)レジャーも防災も車中泊は心と体のリラックスが大切という言葉が印象的でした。銀マットの万能さにもびっくり。
 
早川)銀マットは100円均一のお店でよく売られていますよね。
 
西村)わたしも買いまいしたが、結構薄いですよね。
 
早川)下に引いて寝るとなると、多少厚みのあるものの方が良いとのこと。
 
西村)5~8mmのものはホームセンターやネットでも買うことができそう。ほかにバスタオルやタオルケット、布団を圧縮袋に入れておくというのもポイントですね。
 
早川)フルフラットにできる車でも多少の凹凸があって、実際に寝てみると痛いんです。厚めの銀マットを引いて、リラックスした状態で寝ることが大切だと思いました。
では、この後、実際に私たちが車中泊をした時のようすを聞いてください。

 
音声・早川)現在夜の8時半です。車の中で寝る準備ができたので、娘と一緒に車中泊したいと思います。車の中どうですか。
 
音声・娘)ちょっと寒い。外が暗いから怖い。
 
音声・早川)何日ぐらいなら寝られそう?
  
音声・娘)1泊ならできる。家よりは落ち着かない。
 
音声・早川)ここは住宅街なので、夜9時だともう静かでしょう。周りが静かなら寝れるけどもし音がうるさかったらどう?
 
音声・娘)ちょっと寝にくいかな。トイレに行きたくなってきた。
 
音声・早川)トイレ行っといで。
 
音声・娘)面倒くさいな。そもそも外に出るのが面倒くさい。
 
音声・早川)トイレ我慢したら病気になるから、トイレ行った方がいいんじゃない?
 
音声・娘)トイレ行くか...。
 
音声・早川)確かにちょっと面倒くさいね。
 
音声・娘)ドア開けるの寒いし。トイレがいちばん不安。
 
(トイレへ)
 
音声・早川)トイレ行ったので寝ましょう。寝られそう?
 
音声・娘)もう眠い!寝られそう。
 
音声・早川)おやすみ。
 
音声・娘)おやすみ。
 
(朝のアラームが鳴る)
 
音声・早川)おはよう。
 
音声・娘)おはよう。
 
音声・早川)今、朝の7時です。寝られましたか?
 
音声・娘)寝られました。
 
音声・早川)初めての車中泊どうでしたか?
 
音声・娘)楽しかったです。
 
音声・早川)体痛くない?
 
音声・娘)痛くない。
 
音声・早川)お母さんはベッドで寝る方がいいな。体が痛かった。寝返りも打てないし。
 
音声・娘)そう?
 
音声・早川)初めての車中泊は大成功ですか?
 
音声・娘)大成功です!

 
西村)初めての車中泊、大成功で良かったです。でも夜になると寒いし怖いのですね。トイレが面倒くさかったみたいですが、お母さんが一緒に行こうと後押しするのも大事ですね。
 
早川)トイレを我慢するのは、体にも良くありません。私たちは家に隣接した場所で車中泊をしていたので、トイレはすぐそこだったですが、娘はトイレに行くのを面倒くさがっていました。これが災害時の車中泊の大きなリスクでもあります。トイレが車から遠かったり、外が寒かったりすると、トイレに行きたくなくなって、どうしても水分を控えてしまいます。その上、車内で長時間動かずに過ごしているとエコノミークラス症候群を発症する危険性が。実際、熊本地震の後にエコノミークラス症候群で入院した54人の内、43人が車中泊を経験していました。
 
西村)熊本地震では、エコノミークラス症候群で1人が亡くなって、車中泊が問題に。我慢せずにトイレに行くことによって運動にもなります。
 
早川)熊本地震の現場を取材したカーネルの大橋さんに車中泊の注意点を聞きました。
 
音声・大橋さん)車中泊でいちばん注意してほしいのがエコノミークラス症候群。足を曲げて寝るとふくらはぎに血栓ができて、最悪の場合死亡してしまうこともあります。
「膝を曲げて寝ない」「寝返りが打てないところで寝ない」「水分をきちんと取る」この3つが重要です。車に水を積んでおくのもいいと思います。マッサージや圧着ソックスを履くことも効果的。トイレが汚かったり、順番待ちがあったりすると子どもや女性はトイレを我慢してしまいます。僕は車に非常用トイレも積んであります。
注意点は「車中泊をしなければならない」と思わないこと。しなければならないと思うとさまざまな弊害が出てくるので、車中泊は、あくまで選択肢のひとつとした方が良いと思います。
寝られない車の場合は、無理して車中泊しないこと。いろいろな準備をしつつ、自分の車で寝ることができるのかをまず確認することが大事です。実際に寝てみたら、窮屈で一睡もできないことも。一度、自分の車で何人寝られるかを確認してみてください。

 
早川)車中泊をする際には、エコノミークラス症候群の予防が必要。血栓を起こしやすい循環器系の持病のある人は、車中泊を避けた方が良いかもしれません。車中泊は燃料の面やアイドリングストップの観点から、エンジンを止めることが大原則ですが、暑くなる季節はエンジンをかけずに我慢すると熱中症になってしまうので、エンジンをかけて冷房をつけてほしいと大橋さんは話していました。季節によっては、車中泊は断念することも必要です。
 
西村)我が家も車中泊体験をもしてみたいと思いました。暑くなる前に試してみるのも大切ですね。
きょうは、災害時の車中泊、その備えとリスクについてお送りしました。早川紗世ディレクターの取材報告でした。