第1400回「ノロノロ迷走台風への備え」
オンライン:三重大学 教授 立花義裕さん

西村)沖縄県の広い範囲に大きな被害をもたらした台風6号。大型で非常に強く、ゆっくりと進んだこの台風は、一旦沖縄本島から離れましたが、進路を東寄りに変えてUターン。再び沖縄に接近した後、鹿児島や奄美地方、九州を暴風域に巻き込みながら北上しました。なぜこのようにノロノロと迷走する台風が発生したのでしょうか。わたしたちは、このような台風がもたらす災害にどう備えたら良いのでしょうか。
きょうは、異常気象を研究している三重大学 教授 立花義裕さんにお話を伺います。
 
立花)よろしくお願いいたします。
 
西村)昔は台風一過が早かった印象があります。台風6号はノロノロとゆっくり進み迷走しました。これはなぜですか。
 
立花)2つ理由があります。ひとつは偏西風。日本付近の上空に吹いている偏西風が激しく蛇行していることが原因です。
 
西村)偏西風とは、どんな風ですか。
 
立花)偏西風とは、日本付近の約10~15kmの上空で、西から東に吹いている強い風のことです。飛行機で日本からアメリカに行くとき、行きと帰りでフライト時間が異なりますよね。行きは西から東へ吹く偏西風にのって早く着くからです。
 
西村)世界地図を思い浮かべでみましょう。偏西風は、中国大陸から太平洋に向かって吹くのですね。
 
立花)はい。中国大陸から太平洋に向かって吹いて、そのままアメリカ、ヨーロッパの方向へ吹き、また中国大陸へ戻ります。地球をぐるぐると回っています。
 
西村)その偏西風が蛇行していることが、今回の台風6号がノロノロと迷走した理由のひとつなのですね。
 
立花)偏西風が上空で強く吹いているときに台風が日本付近にやってくると、台風が偏西風に引っ張られます。飛行機が偏西風に流されるのと同じように、台風も偏西風に流されて東に流れていきます。沖縄の方から少し北に進んで、西から東に流れるのが今までの台風。しかし今年は偏西風が激しく蛇行している。日本付近では、北に向かってぐにゃっと曲がっているんです。うねりの中心が日本よりもかなり北にあります。朝鮮半島~北海道あたりまで北にうねっているので、日本付近は偏西風から外れています。通常は日本の上空に偏西風が吹いているのですが、北向きに山のようになっているので、日本の上空を避けるかたちになっています。強い風が吹いているのは北海道よりも北。そうなると日本上空は、沖縄付近も含めてほとんどが無風になる。日本付近の風が弱く、台風の動きが止まってしまったことがノロノロ台風の原因です。
 
西村)その山の部分にポコッと台風がハマったかたちですか。
 
立花)はい。台風は、熱帯から徐々に北に上がってきます。上がってくるときに運悪く、偏西風が北に出っ張った場所に来てしまった。台風を動かしてくれる偏西風が吹いていないので、止まるかスピードが遅くなってしまうのです。
 
西村)偏西風はなぜ蛇行したのでしょうか。
 
立花)偏西風は、地球温暖化によって激しく蛇行することが研究でわかっています。偏西風は、北極地方の寒気と熱帯地方の暖気の気温差が大きいときに強く吹きます。現在、地球温暖化によって、北極地方が激しく温暖化しています。北極の温度は上がっているのに赤道の温度はあまり上がっていません。温度の差が縮まっているので、偏西風は弱くなります。弱くなると行き場を失ってフラフラするんです。川の流れも急流はまっすぐ流れて、ゆるやかな川は蛇行しますよね。気流も同じです。ですから、地球温暖化によって、偏西風がフラフラと蛇行するのです。偏西風は、日本付近の地形の影響を受けて、北に迂回するように流れるので、日本付近はほぼ無風になります。風が弱くなることで台風がゆっくり動く。台風が変な動きをする理由のひとつに地球温暖化があります。
 
西村)この数十年で、地球温暖化が進んで台風もどんどん変化しているのですね。
 
立花)2つ目の理由は、海面水温が上がったこと。海面水温が高い場所と低い場所が隣接していると、気温差で風が吹きます。しかし今年は熱帯地方の海面水温がどこも高いので台風を動かす風が弱く、台風のスピードが遅くなります。日本付近の偏西風も弱いので、台風はノロノロ動きます。台風がノロノロ動くと困ったことがもうひとつあります。台風は暖かい海が大好きなんです。暖かい海は、台風のエネルギーの原点。台風は、暖かい海から水蒸気と熱をもらって発達します。通常なら台風は、早く動いて暖かい熱帯から冷たい海に早く着くので、ご飯をいっぱい食べる前に日本に来ます。ところが、ゆっくり動けば、十分時間があるので、どんどんご飯を食べて強く大きくなっていくのです。台風はゆっくり動くと強くなります。
 
西村)勢力を拡大して、日本に近づいてくるのですね。
 
立花)これも北極の温暖化の影響です。台風が強いまま日本に来る理由がもうひとつあります。それは猛暑です。
 
西村)最高気温が40度を超えている地域もあります。
 
立花)猛暑は地面の温度も上げますが、日本付近の海面水温も上げます。日本に台風がやってきたとき、通常は、日本の沿岸の海面水温は冷たいので台風は弱まります。しかし、猛暑の影響で水温が高くなると、台風が強いまま日本に近づくことになります。全ての理由が地球温暖化に関係しているのです。
 
西村)この異常台風は今回限りというわけではなさそうですね。
 
立花)すべて今年偶然起こったことではなく、地球温暖化に関係しています。このような変わった動きをする台風や非常に強い台風が接近する確率は、今後高くなっていくと思います。毎年のように異常気象が起こると異常気象が普通になります。つまり、異常気象が「ニューノーマル」になると思います。
 
西村)異常気象が起こることが当たり前になってくる。日本はこの先どうなってしまうのでしょうか。
 
立花)昔にくらべて、夏が早くおとずれると思います。
 
西村)今年も春が短く感じました。
 
立花)近年は春が短く、すぐ暑くなる傾向にあります。地球温暖化に伴って、日本の西にある中国大陸、あるいはシベリアの気温がどんどん上がっています。そうすると偏西風によって、西からどんどん熱い空気が吹いてきて、早く夏になります。逆もあって、秋も短くなります。今年のように猛暑になると、海面水温が上がります。秋めいてきても、海から吹く風が熱い。海からの風はジメジメしているので、ジメジメした残暑が尾を引いて、秋が縮まるというわけです。
 
西村)蒸し暑い残暑が長引いていると、去年も感じました。紅葉も12月に入ってから色づくことが多くなりましたね。それも地球温暖化が関係しているのですか。
 
立花)季節感が変わってきています。日本は春・夏・秋・冬の四季が当たり前ですが、このままでは将来は二季になるかもしれません。季節は、夏と冬だけになって、春と秋は短くなります。日本らしさがなくなってしまう可能性はありますね。
 
西村)悲しいですね。でもそれで終わっていてはいけません。わたしたちはどう備えていったら良いのでしょうか。
 
立花)一番大事なことは、地球温暖化にならないように行動をすること。地球温暖化を起こしているのは、我々人類です。地球温暖化に伴うさまざまな災害は人災でもあります。熱中症も地球温暖化に伴う人災だと思います。地球温暖化にならないように、小さなことでも良いので努力すること。短距離ならなるべく徒歩、自転車移動をすれば健康に良い。少しでもCO2を出さないようにしましょう。かといって、いきなり明日から地球温暖化は止まりません。これだけ温暖化してしまえば、今CO2を減らすことに成功しても、約10年はこのような状態が続くと思います。でもその間、何も対策しないわけにはいきません。熱中症に関しては、家で電気代を気にして冷房を我慢することはなるべく避けましょう。窓に遮熱カーテンをつけると冷房の効きが良くなります。また農業をしている人は、今後しばらくは激しい気温になりやすいので、長期的に暑さに強い作付けに変えていくなどの対策をした方が良いと思います。
 
西村)「暑さでピーマンが割れてしまって、出荷できない」と嘆いている農家さんのインタビューを見ました。わたしたちの暮らしも変えていった方が良いのですね。異常台風はこれからも来るかもしれないので備えが必要ですね。どんなことをしたら良いのでしょうか。
 
立花)これだけ台風がきていても、まだまだ気象現象に無関心な方が多いです。台風のスピードが遅いことにも、強まることにも理屈があります。きょうの話が気象現象に興味を持つきっかけになれば良いですね。台風が今どこにいるのか、台風の真下の海面水温は何度なのか、など台風に注目すると気象情報のホームページやスマホのサイトを見るようになります。興味を持って、常に最新の気象情報を見ていれば、早めの行動もできると思います。気象現象に興味を持つことが異常気象への備へになると思います。
 
西村)お子さんの夏休みの自由研究にもなりそうですね。
 
立花)お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃんが子どもたちと一緒に自由研究をすれば、家族揃って取り組むことができ、防災にもなるので、非常に良いと思います。
 
西村)これを機に、家族で気象現象について調べてみるのも良いですね。
きょうは、異常気象を研究している三重大学 教授 立花義裕さんに、異常台風についてお話を伺いました。