オンライン:防衛大学校 教授 小林文明さん
西村)先月、奈良市の帝塚山学園のグラウンドに雷が落ち、サッカーの練習をしていた中学生2人が一時意識不明の重体となりました。これから落雷が増えるシーズンを前に、改めてどんな点に注意すれば良いのか。雷のメカニズムに詳しい防衛大学校 教授 小林文明さんに聞きます。
小林)よろしくお願いいたします。
西村)4月10日の夕方、グラウンドでは帝塚山学園の中学校と高校のサッカー部約20人や野球部が練習していました。顧問によると、「急に雨脚が強くなって中断しようか迷っていたところに落雷があった」「判断する間もなかった」などと話しているということです。小林さんはどう感じましたか。
小林)春は落雷の事故が多い季節です。入道雲がたくさんあって雷が落ちてくる夏に比べて、春は雷が少ない印象だと思いますが、条件によっては春も雷が起きやすいです。1年前の4月に九州で、サッカーの試合準備中に落雷事故がありました。スポーツ中の落雷事故はよく起こっています。また起こってしまったのか...という印象です。
西村)帝塚山学園の顧問は当時、「雷注意報は頻繁に出ているので認知していなかった」と話しているそうです。
小林)雷には警報がなく注意報しかありません。竜巻も注意報しかありません。ピンポイントではなく、県や市町村など広い範囲に長時間出されるのが一般的。注意報が出ていたとしても自分の頭の上は晴れていることがあります。雨も降ってない、雷も起こってないことがしばしばあるので、竜巻や雷の注意報で行動を100%決めるのは難しいと思います。もちろん注意はしなければなりませんが、雷注意報が出ているからといって、練習を中止していたら練習をする日がなくなってしまいます。非常に判断が難しい状況だったと思います。
西村)夏なら積乱雲が出ていると雷が起こるとわかるのですが、春の突然の雷に予兆はあるのでしょうか。
小林)雷は発達した積乱雲が発生するというのが一つの条件。それを事前に探知・認識していれば、回避することは可能です。大阪なら六甲山地から雷雲が駆け下りてくることがあると思うのですが、春は決まった条件がありません。過去の事例でも大気が不安定になっているときに雷が起こっています。今回も強い寒気が上空に入ってきて対流活動が活発になりました。上空に寒気が入ってくると日本中に雷が鳴る状況が続きます。低気圧に伴う前線の影響もあります。寒冷前線が通過するときに、強い雨、雷が伴います。今回もそのような条件が整っていて、雷は起こるべくして起こったのだと思います。ただ、非常に局地的だったので、当該グラウンドでは、それまでに雷は起こっていなかったのに、ファーストストライクで事故が起こったのだと思います。
西村)他人事ではないと感じます。屋外で雷が発生した場合はどうしたら良いのでしょうか。
小林)雷がピカっと光って、ゴロゴロと音が聞こえるまでに時間差がありますよね。音の方が遅いので、10秒かかったら3km離れていると聞いたことがあると思います。今は状況が変わって、発達した雷雲は数10km~大きいものなら100kmを超えます。ですから、3km離れていて光ったら、次は自分の頭に落ちる。ゴロゴロ鳴ったり、光ったりしたら次は我が身ということです。そこから行動するのでは遅い。今は、スマホで落雷の情報が見ることができるので、スポーツやレジャー中、日々の生活の中で、情報に注意をして行動することが必要です。
西村)どんな情報を見れば良いのでしょうか。
小林)気象庁ホームページで「雷ナウキャスト」を公開しています。これは、明日の天気ではなく、5~10分後の天気がわかるものです。あるいは、さまざまな気象会社が出しているレーダー予報などを見ながら、自分の周りの雷雲、遠くの雷雲のようすを確認すれば、ほぼ状況を把握することができます。雨が降り始める前、雷が落ちる前に、50~100km離れている雷雲を確認しながら逃げることができます。
西村)お天気アプリの「雨雲レーダー」の雷版ですね。
小林)気象庁の「雷ナウキャスト」は雷に関して最も信頼性が高いと思います。さらに雨雲レーダーなどでリアルタイムの雨雲の位置を見てください。最後は自分の目で見上げて判断する癖をつければ、ほぼ身の安全を守ることができると思います。
西村)どんなときに雷情報をチェックしたら良いですか。
小林)登校、通勤時、買い物に行くときなど日々の生活の中で、情報をチェックする癖をつけておけば、いざというときに役に立ちます。学校の指導者は、雷注意報が出ているときは、常に情報をキャッチしながらいつ練習をやめるか、再開するかを判断する。今回の事例は突然ではありましたが、周辺で雷雲が発生して接近している状況ではあった。常に監視していれば早めの行動をとることができたと思います。
西村)やはり自分で情報を集めておかないといけないですね。
小林)1年前の4月に起きた九州の落雷事故では、曇天で雨が降る気配もなかったのに突然雷が落ちました。雷雲が遠くから近づいてはきているけど、全く予兆がなかったのです。そこが春の雷の怖いところです。夏の雷なら、発達したひとつの積乱雲から数千回という雷が起ります。春や冬の雷は1回落ちておしまいということも。あまり学校で教えてくれないと思いますが、良い機会なので、家庭や学校で話し合っておいてほしいと思います。
西村)突然雷が発生した場合、どのように避難すれば良いのですか。
小林)近くに雷が落ちたら、もう神に祈るしかないですが、昔から「雷におへそを取られないように」といいますよね。頑丈な建物や車(手を出したり何か触ったりしければ安全)の中に逃げれば安全ですが、逃げる場所がないときにする対策はふたつ。ひとつは保護域を見つけること。「高い木の近くは危険」ということはみなさん認識していると思います。木に落ちた雷の電流が人に移って人の頭から足先に出ていくからです。しかし、高い木や高い鉄塔から4m離れていれば安全です。これを保護域と呼びます。例えば30mの鉄塔があれば、半径30m以内が保護域。ポールから4m離れて領域中に入って小さくかがむ「雷しゃがみ」をすると、ほぼ雷から身を守ることができます。「雷しゃがみ」は単にしゃがむだけではなく、ポイントが3つあります。ひとつは、足を揃えること。雷は「直撃雷」「側撃雷」のほかに「地電流」もあります。地面に落ちた雷の電流が地面を流れるのです。そこに人が立っていると、両足の間に電位差ができるので、電流が流れてしまう。ですから、電流が流れないように足を揃えてください。一番いいのは1本足。でも1本足でしゃがむのは難しいと思うので、足を揃えてしゃがむ。できれば地面への接地面積を小さくしたいので、つま先立ちで足を揃えてしゃがんでください。言うのは簡単だけどやるのは難しいと思います。
西村)しゃがみながらかかとを上げなければいけないのですね...。
小林)接地面積を小さくしたいからです。さらに、近くに雷が落ちるとその衝撃波や爆音・爆風で鼓膜が破れるので、親指で両耳をふさぐこと。保護域を見つけてこの「雷しゃがみ」をしていると、雷雨なのでずぶ濡れにはなりますが、命は守ることができる。これらを学校で教えて欲しいのですが...まだまだ知られていないのが現状だと思います。
西村)雷からの避難方法をまとめると...
●木から4m離れて保護域へ
●「雷しゃがみ」をする(耳を両手でふさいで、足は揃えて、つま先立ちでしゃがむ)
小林)ぜひ一度やってみてください。多分難しいと思います。スクワットするより難しいかもしれませんが、生きるか死ぬかというときには、正しい姿勢を取ることが大事です。
西村)どれぐらいの時間、この姿勢をキープしたら良いのでしょうか。
小林)雷雲が通り過ぎるまで最低でも20~30分かかります。でも30分もこの姿勢を保つことは、なかなかできないし、周りは嵐で怖いしずぶ濡れになってしまいます。これは最終手段。「雷しゃがみ」をしなくていいように、それまでに逃げることが大事です。
西村)改めてわたしたちは、雷に対してどんなことを心がけておいたら良いのでしょうか。
小林)日本は、世界的にも一年中雷が起こる場所。夏の雷だけではなく、日本海側の雪雲からの冬季雷もあります。雷は昔から日本人にとっては身近な存在です。こうした人体に対する被害だけではなく、スマホやコンピュータなど電化製品に対する被害もあります。雷や嵐が来たら、収まるまでは家の中で何も触らずにじっとしていること。電化製品のコンセントを抜くなど対策をしましょう。自然現象に対しては、昔の人と同じように畏怖の念を持って、通り過ぎるのを待つ。普段からの備えをする気持ちは大事です。気象は目で見ることができるので、スマホなどで確認して学習しておけば、いざというときに危険な積乱雲を見分けることができると思います。
西村)きょうは、雷のメカニズムに詳しい防衛大学校教授の小林文明さんにお話を伺いました。