ゲスト:救急救命士 窪田陽平さん
西村)気象庁の3ヶ月予報によると、5月から7月の気温は全国的に平年より高くなる見通しです。体が暑さに慣れていないと、熱中症の危険はより高くなります。もしも自分自身や身近にいる人が熱中症になってしまったら、どのように対処すれば良いのでしょうか。
きょうは、元消防士で救急救命士として多くの熱中症患者を搬送してきた窪田陽平さんに熱中症の正しい対処法をお聞きします。
窪田)よろしくお願いいたします。
西村)窪田さんは熱中症対策アドバイザーとして、熱中症の啓発活動もしているのですね。
窪田)熱中症対策アドバイザーという資格は、環境省が後援している民間資格です。その資格をいかして、学校や企業で熱中症対策講座などを行っています。
西村)熱中症患者が一番多いのは何月ですか。
窪田)7月後半~8月がピークですが、夏の暑さに慣れていない今の時期から熱中症が発生する可能性があります。5月は熱中症に注意が必要です。
西村)熱中症の初期症状はどんな症状ですか。
窪田)高温多湿な環境下で、体温調整がうまくできない場合に熱が体内にこもって発症します。初期症状は、めまいや筋肉のこむら返り、手足のしびれ、大量の発汗など多岐にわたります。
西村)吐き気や頭痛も熱中症の症状ですか。
窪田)はい。いろいろあるのですが、初期症状は、大量の発汗やめまい、フラつきが多いと思います。
西村)子どもは暑いとき、よくしんどいと言いますが、熱中症か風邪かの見極めが難しいと感じます。
窪田)高温多湿な環境下に長時間いたかどうかが判断基準になります。家に帰ってから熱中症になることも多いです。
西村)これから夏祭りや万博、野外ライブなどに行く人も多いと思います。身近にいる人に熱中症の症状が出たら、どのように対処したら良いですか。
窪田)一番の判断基準は会話ができるか。対処法は4つあります。まず1つ目は、声をかける。会話ができて、呼びかけに応えることができたら、2つ目は、涼しい場所に移動させる。3つ目は、体を冷やす。4つ目は、水分・塩分の補給をする。この4点に注意してください。
西村)声をかけるときは、どんな言葉をかけたら良いですか。
窪田)名前がわかっていれば、名前を呼んで「〇〇さん、大丈夫?」と声をかけてください。一番反応しやすいのは、名前を呼ばれたときだからです。倒れている人を見つけて、名前がわからない場合は、肩をたたきながら「わかりますか?」と声かけをしてください。
西村)涼しい場所に避難させるとき、歩けない場合は、運び方など注意するポイントはありますか。
窪田)歩けない場合は、何人かで涼しい場所に移動させる。1人で歩けない状態、歩こうとしてもフラフラする状態であれば、迷わず119番してください。
西村)体を冷やすポイントも教えてください。
窪田)体には三大局所冷却部位があります。首元・脇の下・足の付け根です。この3点には太い血管が通っているので冷却に効率的です。手のひらや足の裏も冷やすと効果的。手のひらには動脈と静脈を繋ぐ血管があります。手のひらの血管を冷やすと全身を効率よく冷やせるので、ペットボトルを握らせてあげるだけでも冷却効果があります。
西村)冷たいものを何も持っていないときは、どうしたら良いですか。
窪田)涼しい場所に避難させて、近くにお店があれば「氷をください」と頼むと良いと思います。
西村)近くにコンビニがあったら良いですね。
窪田)コンビニで凍ったペットボトルを買って対処すると良いですね。
西村)首や脇の下、足の付け根に冷たいものを当てるだけで良いのですか。
窪田)凍ったペットボトルや氷嚢をタオルなどで包んで当ててあげると良いと思います。
西村)お年寄りや子どもなど、年齢によって注意するポイントはありますか。
窪田)高齢者や未就学児は自己判断が難しいので、家族や周りの人が日頃から熱中症対策をしましょう。水分補給に気をつけて、涼しい環境を整えてあげることが大事ですね。
西村)先ほどの4つの対処ポイントに戻ります。4つ目の水分・塩分の補給について教えてください。
窪田)無理やり飲ませるのではなく、ペットボトルを渡して、自分で飲めるのか判断してください。自分で飲めるなら、冷たい水・スポーツドリンク・経口補水液を飲ませてあげてください。自分で飲めないのに無理やり飲ませてしまうと、誤嚥や窒息の危険があります。
西村)子どもには、普段から飲ませてあげているので、いつもと同じように飲ませてしまいそう。自分で飲めない場合は、病院に連れて行くか救急車を呼ぶべきですね。ペットボトルにストローをさして渡してあげるのは大丈夫ですか。
窪田)ストローを使って自分で飲めるのなら可能です。
西村)この4点に注意して、どれぐらいの時間、安静にしていたら良いのでしょうか。
窪田)最低でも20分。20~30分様子を見て症状が改善しなければ病院へ。改善すれば自宅に戻って、安静にしましょう。めまいがあれば、めまいがおさまって、汗がひいて、しっかり歩ける状態になれば大丈夫です。
西村)歩けるようになって、吐き気も治まって頭痛がある場合は、病院に行った方が良いですか。
窪田)ちょっとでも不安に感じることがあれば病院へ行った方が良いです。
西村)最初に声をかけたときに、会話ができなかった場合は、救急車を呼んだ方が良いですか。
窪田)一番重要なのは会話ができるかということ。声をかけても「意識がはっきりしない」「ぼーっとしている」「自分の名前が言えない」「今日の日付が言えない」という場合は明らかに意識状態が悪いので、迷わず119番してください。声をかけたときに痙攣や歩けない状態にある場合は運動障害があるので、119番をしてください。熱中症は、重症化すると脳がダメージを受け、後遺症が残る場合も。最悪の場合は死に至るケースもありますので、非常に怖いです。
西村)特に熱中症に注意が必要な人は。
窪田)自己判断ができない高齢者や子どもです。高齢者は暑さを感じにくい、汗をかきにくいことも。周りの人が声をかけて、水分補給や暑さ対策を行ってください。過去に救急車で搬送した患者は屋内にいることが多かったです。クーラーあるのに節約を優先して、扇風機で過ごしてしまう人をたくさん見てきました。命を守ることを一番に考えてほしいです。小さい子どもは、大人よりも身長が低く、地面からの距離が近いです。太陽の照り返しの熱を受けやすいので、夏は常に熱中症対策が必要です。
西村)ベビーカーで散歩するときも気をつけた方が良いですか。
窪田)ベビーカーにつける扇風機や冷やす氷も活用しましょう。
西村)ペットも気をつけた方が良いですか。
窪田)ペットも暑さを感じやすいです。
西村)散歩しているワンちゃんを見ていたら、足が熱いコンクリートに当たっていて...。散歩の時間帯も気をつけた方が良いですよね。
窪田)夏は、いつもより散歩の距離を減らすなどの対処をしてください。
西村)高齢者に「クーラーつけて」と言っても、「節約するから」と言ってなかなかクーラーをつけてくれないことがあります。そんな人は多いですか。
窪田)多いと感じます。統計を見ても、高齢者が屋内で熱中症になるケースが多いです。家族に注意を呼びかけられたのに家族が仕事から帰ってくるとクーラーをつけてなかったという例も。一人暮らしの高齢者は、久々に訪れた家族やヘルパーが救急車を要請することが多いです。
西村)地域の見守りは大切ですね。
窪田)自助共助が大切です。熱中症も災害と捉えて、地域で命を守ることは重要だと思います。
西村)自分自身に熱中症の症状が出たらどうしたら良いですか。
窪田)涼しい環境と自分の体温を下げること。第1は無理をせず、こまめに水分補給をしましょう。少しでもしんどいと感じたら、一旦涼しいところで休む。自分自身で気をつけるのはもちとん、職場でも注意を促していただければ。
西村)職場の環境も大切ですね。来月から企業で熱中症対策が義務化されます。水分はその状況に応じて水、経口補水液など飲むものを変えた方が良いのでしょうか。
窪田)水分とともに塩分も減るので、スポーツドリンクや経口補水液はおすすめです。1Lの水に対して、1~2mlぐらいの食塩を混ぜることが推奨されています。
西村)お年寄りがいる家庭は、経口補水液を買って冷蔵庫に入れておくと良いですね。
窪田)毎年のように熱中症で亡くなられる人がいますので、誰にでも起こり得ることと捉えて、油断しないこと。外出の際には帽子や日傘など熱中症対策をしましょう。水分補給など簡単にできることが自分の命を守ることにつながります。熱中症予防を心がけて、健康で充実した夏を過ごしてください。
西村)きょうは、元消防士で救急救命士として多くの熱中症患者を搬送してきた窪田陽平さんに、熱中症の正しい対処法をお聞きしました。