第1285回「石巻の1・17リポーターが登場~ふたつの津波伝承施設がオープン」
電話:宮城県石巻市に住む1・17リポーター 武山友幸さん

西村)この番組には、日頃の防災活動や災害が起きたときに、現地から状況を伝える「1. 17リポーター」が全国各地にいます。東日本大震災のときも、気仙沼と石巻の「1. 17リポーター」が緊迫した街の様子を電話で伝えてくれました。きょうは、宮城県石巻市在住の「1. 17リポーター」武山友幸さんにお話を聞きます。

武山)よろしくお願いいたします。

西村)武山さんには、今年2月に福島と宮城で震度6強の地震が起きた後にもご出演いただきました。
東日本大震災から10年目の今年、石巻にふたつの津波を伝える施設がオープンしたんですよね。

武山)最も被害が大きかった門脇・南浜地区に、宮城県が運営する「みやぎ東日本大震災津波伝承館」と、民間の公益社団法人が運営する「MEET門脇」ができました。

西村)きょうは、武山さんにふたつの施設をリポートしていただきます。

武山)「MEET門脇」は、東日本大震災10年を前に、今年3月8日にオープンしました。宮城県が運営する「みやぎ東日本大震災津波伝承館」は、今年3月下旬に石巻南浜津波復興記念公園の一角にオープンしたのですが、新型コロナウイルスの影響で休館が続いていて。先週の6月6日に再オープンしました。

西村)石巻南浜津波復興記念公園とはどのような場所ですか。
 
武山)北上川という大きな川の河口部分一帯です。日和山公園という小高い丘からのテレビカメラの映像でよく目にする場所です。
 
西村)このふたつの施設の距離は近いですか。
 
武山)目と鼻の先で、100 m も離れてない場所にあります。
 
西村)この場所は津波の被害はありましたか。
 
武山)津波で壊滅的な被害があった場所です。現在は家を建てることができない危険区域に指定されています。瓦礫も多く、10年間更地になっていた場所に大きな公園が整備されました。
 
西村)震災前は家がたくさんあったのですね。
 
武山)震災前は、住宅や中小の工場がたくさんあったのですが10年間更地になっていて。その公園の中に、防潮堤より少し高い丘ができたんです。そこから10年ぶりに海が見えたんですよ。
 
西村)どんな気持ちなりましたか。
 
武山)涙が出てきました。海岸部分は防潮堤の嵩上げによって全く見えない状態になっていたのですが、小高い丘ができて見えるようになったんです。海が見えて本当に感動しました。石巻は海や川と共にあるところ。やはり海が見えると安心します。なんとも言えない感情になりますね。
 
西村)今回、武山さんが訪れた、津波を伝える施設のそれぞれの展示内容を詳しく教えていただけますか。
 
武山)「みやぎ東日本大震災津波伝承館」は、広い公園にある円形状の大きな建物の中にあります。中に入るとまず宮城県を中心とした東日本大震災の時系列の展示が続きます。
パネルを使って、街の様子を震災の前と後で比べてみたり、過去の津波の歴史、被害、メカニズム、もし津波が起きたらどうすればよいかを伝えたり。実際に津波にあった人の体験談を上映するシアターもあります。自衛官や行政の人々の体験談です。

 
西村)助けた人たちの話を聞くことができるのですね。
 
武山)タッチパネルを使って、被災者の肉声や手紙を見ることができるコーナーもあります。心に訴えてくるものがありました。
 
西村)その中では、どんなことが語られていましたか。
 
武山)震災がなかったらどんな人生だったのかという内容のものや、亡くなった人への思い出の手紙、震災後の自分についてなどがありました。
 
西村)武山さんと同じように石巻で被災した人の話を聞いて、どんな気持ちになりましたか。
 
武山)私は、3.11の時は、仙台の病院で働いていたので石巻にはいなかったんです。10日たって、ようやく石巻に戻ることができた。そのときはただ涙があふれてくるだけで、感情がなくなってしまいました。10年たっても立ち止まっている部分もあるし、前に進んでいる部分もある。いろいろな感動が渦巻いています。
 
西村)みなさんそれぞれの10年がありますね。もう一つの民間が運営する「MEET門脇」についても教えてください。
 
武山)「MEET門脇」は公益社団法人が運営しています。まず入るとシアターがあります。このシアターでは、東日本大震災で本震が起きて、津波警報と大津波警報が発令され、人々が日和山という小高い丘へ避難するまでをCGで再現しています。門脇や南浜にいた人たちと津波が辿った経路を同じ地図上に表現しています。実際の地図上の道路を津波から逃げて、小高い丘の方に走っていく姿を図形化しています。これは携帯やスマートフォンの位置情報で再現しているんです。
 
西村)現代ならではの技術ですね。東日本大震災を経験してない人がその映像を見て、実際に経験している気持ちになれるという。
 
武山)実際に避難した人がいた場所で体験できるのでリアリティがあります。その中で、門脇小学校の子どもたちが山に避難しているのを見て、地元の住民も避難したということを表していた場面も。
 
西村)門脇小学校は、震災遺構になっている場所ですよね。
 
武山)14時46分は子どもたちが学校に残っていた時間帯でした。先生たちが小学校の西側から小高い丘まで逃げる様子を地元の住民が見て、逃げる方向がわかったということです。
 
西村)「MEET門脇」がある場所は門脇小学校に近いのですか。
 
武山)「MEET門脇」は小学校のすぐ隣にあります。この場所で起こったことなのだと実感し、自分ごとのように体験できるのです。
展示コーナーには、幼児園のバスが津波にのまれて、その後の火災で亡くなった園児の遺品が展示されています。熱かっただろう、辛かっただろう...と思います。提供してくれたお母さんの気持ちを思うとなにも言えなくなってしまいました。

 
西村)このふたつの施設を見てどのように思われましたか。
 
武山)「みやぎ東日本大震災津波伝承館」は、明瞭簡潔に震災の概要を伝えていると思いました。無料で入館しやすいメリットもあります。感想としては、もう少し目で見てわかるものがあれば。石巻の語り部ガイドツアーのように、語り部のお話が聞けたら良いと思いました。「MEET門脇」の入場料は300円です。焼失してしまった門脇小学校がすぐ隣にあり、身近な人たちが語りかけてくれることで人ごとではなく、自分ごとでとらえることができる施設だと思いました。特徴的なのは、防災教育。震災を知らない子どもたちにどう伝えていくかということに特化しています。体験談を4コマ漫画風にして映像化したものをビデオで流していたり、タブレットを使って防災クイズをやったり。2階には、語り部が話をできるスペースもあります。実際に地域の人と触れ合ったり、防災講義を受けたりできる場所があります。
 
西村)両方ともそれぞれの良さがありますね。
 
武山)100m離れていないので、是非両方見てもらいたいですね。「MEET門脇」は、毎週水曜日が定休日です。「みやぎ東日本大震災津波伝承館」は、月曜日が定休日ですが、毎月11日は開館するとのことです。
 
西村)みなさん、お休みの日をホームページなどでチェックして是非行ってみてください。
武山さん、東北では今年に入ってから大きな地震が続いていますね。
 
武山)毎月のように起こっていますね。
 
西村)振り返ると、2月13日に福島県と宮城県で最大震度6強、3月20日は宮城県で震度5強、津波注意報も出されました。さらに先月5月1日、宮城県で震度5強の地震がありました。被害の影響が残っているところはありますか。
 
武山)日和山に神社があるのですが、そこの大鳥居がたびたび起きる地震の影響で解体されてしまったんです。石巻の象徴とも言える場所なのですが。今、クラウドファンディングで資金を集めようかと議論をしているところです。
 
西村)地震が続いて、みなさんに精神的な影響は出ていないですか。
 
武山)子どもとお年寄りがとても怖がっていると思います。10年前の「3. 11」を体験してない世代も出てきています。地面が揺れるということの恐ろしさを子どもたちなりの感性で感じていると思います。夜泣きや子どもがえりが多いという話も。
6月は大きな地震が多い月。まず昨日6月12日は、今から43年前に宮城県沖地震が起きた日。43年前、私は小学校2年生だったのですが、母親が不在で家に1人で居たんです。いきなり揺れて、怖くて泣きわめきながら隣の家のおばさんの家に駆け込んで「助けて!」と泣いた覚えがあります。明日6月14日は2008年に起きた岩手宮城内陸地震から13年目となります。

 
西村)地震について改めて知って、そして備えをしていくことが大切ですね。
 
武山)津波は海や川だけではなく、山津波という山崩れの大規模なものが起きることもあります。近年は、ゲリラ豪雨や台風も増えているので、日頃の備えが大切です。
 
西村)いつでも逃げられるように、心も物も備えが大切ですね。武山さんきょうはありがとうございました。