第1286回「大阪北部地震3年【1】~コロナ禍で電車閉じ込めは?」
ゲスト:関西大学社会安全学部教授 安部誠治さん

西村)18日で大阪北部地震から3年が経ちました。最大震度6弱を記録した大阪北部地震は、月曜日の朝7時58分に発生。ちょうど通勤・通学ラッシュの時間でした。JR西日本と大手私鉄の電車合わせて234本が駅以外のところで緊急停車し、20万人以上が車内に閉じ込められました。満員の車内で気分が悪くなった人もいました。
いま、同じような地震が起こると、新型コロナウイルス感染の心配もあります。鉄道各社は地震にどう備えているのでしょうか。また、私たち利用者は何か備えておいた方が良いのでしょうか。鉄道安全に詳しい専門家にお話を伺います。関西大学社会安全学部教授で、交通政策論専門の安部誠治さんです。安部さんは、「ネットワーク1・17」の初代キャスターでもあります。よろしくお願いいたします。

安部)お久しぶりです。1995年の春に番組が始まって26年。頑張って続けているのですね。

西村)ありがとうございます。リスナーのみなさんのおかげです。きょうは、大先輩である安部さんと一緒にお送りしていきます。さて、地震で電車が緊急停車して閉じ込められるということは、起こり得ると思っておいた方がよいのでしょうか。
 
安部)はい。起こり得る事態です。台風や大雨の影響で電車が止まることがありますが、5年前からJR西日本は計画運休をはじめました。台風や大雨のときは予測して電車を止めることができます。昔のように大雨や台風で電車が止まることが少なくなりましたが、問題が2つあります。電車は電気で動くので、停電すると止まってしまうということ。もうひとつは、地震は予測がつかないので、備えに関する課題が多すぎるという点です。
 
西村)地震の場合、緊急停止をするときの基準はあるのでしょうか。
 
安部)新幹線の場合は、沿線一帯や紀伊半島に地震計が設置されていて、大きな揺れが来れば地震計が感知をして送電をストップさせ、自動減速させます。大きな地震の場合は、電線を支える支柱が倒れて電気が来なくなってしまいます。その場合、少しずつ減速しながら止まります。
 
西村)緊急停止した後は、線路を歩いて点検すると聞きました。
 
安部)地震の規模によります。震5弱~4なら、線路はそこまで破壊されない。ところが5強~6になると、レールが曲がったり、電線を支える電柱が倒れたりして、とても電車が走れる状況ではなくなります。安全確認をするために、基本的には歩いて線路の点検をします。線路の点検をする人が到着するまでに時間がかかることも。それも復旧が遅れる理由のひとつです。
 
西村)大阪北部地震のときの話を振り返っていきましょう。大阪北部地震で最も多く閉じ込めが発生したのはJRでした。153本が、駅と駅の間で停車して、14万人が閉じ込められました。あまりに多くの列車が止まったために、運行管理をする指令所に無線連絡が殺到し、パンク状態になりました。ほぼ全ての乗客の避難が終わったのは、地震発生から6時間後。こんなに時間がかかるものなのかと思いました。
 
安部)6月の暑い時期に大変だったと思います。その後、国土交通省の鉄道局が鉄道会社を集めて、閉じ込め対策について検討会を行いました。
  
西村)対策についてご紹介しましょう。JR西日本は、乗務員のタブレット端末に情報共有アプリを導入。列車が停車した位置や負傷者の有無などの情報を入力すれば、指令所はすぐに情報把握できます。無線連絡の必要がなくなったのです。線路の外に出られる扉の位置や、乗客を歩かせると危ない場所を記したマップを作って、駅係員や社員に配布しました。危ない場所に停車した列車の乗客を優先的に救済することができるようになりました。いちばん近い駅まで列車を動かして乗客を降ろしたり、難しければ安全を確認して誘導します。さらに京阪神を走る全ての列車に簡易トイレを配備。乗客の誘導マニュアルを作り、訓練も定期的に行っているとのことです。
 
安部)座席や扉の位置は、実際には地面から1m以上のところにあります。線路上には、バラストという手のひらぐらいの大きさの石がたくさんありますし、外に出るときには飛び降りる必要がありますよね。
 
西村)危ないですね。
 
安部)昼間だったら足元を確認できますが、夜間は暗くて確認できない。ドアを開けて外に出ると怪我をこともあります。安全に出てもらうために、車両に簡易はしごを設置するという対策もあります。降りられたとしても鉄橋の上などは危ないので、周辺の安全確認も必要です。駅で降りるのが一番安全ですが、道路と繋がっている踏切から外に出るのも良いと思います。
 
西村)私の母が大阪北部地震のときに阪急電車に乗っていて、2時間閉じ込められました。いちばん前の車両にしか、はしごがなかったので、降りるまでにかなり時間がかかったとのことです。はしごが各車両に配備されたらスピーディに降りることができますよね。
 
安部)3両に1つでもあれば良いですね。はしごは、車椅子の人や高齢者は降りにくいという問題もあります。
 
西村)母の話では、トイレを我慢していた人が必死でいちばん前まで走っていったそう。簡易トイレの配備は安心に繋がりますね。
 
安部)JRの新快速はトイレが付いている車両もありますが、ほとんどの電車にはトイレがついていません。閉じ込めが発生するとトイレの問題は深刻。簡易トイレの配備を進めていく必要がありますね。
 
西村)止まった列車のドアを開けて、勝手に避難したい気持ちになりますが、危ないので必ず乗務員の指示に従わなければいけませんね。
 
安部)時間帯によっては、出勤途中の運転手さんや車掌さんが乗っていることもあるので協力してくれると思います。電車の中が密状態になってしまうという問題も。コロナ対策として換気を良くするために、地下鉄や私鉄でも窓を少し開けて電車を走らせています。通気性が良くなるとコロナの感染リスクが下がるようです。最近のJRの新型車両は窓が開かないタイプですが、JR東日本では窓が開くように改良して走らせています。新幹線は窓が開かないので、電気で強制換気をしています。しかし、地震によって通電設備が損壊すると換気ができなくなる。大規模な地震のときは、電気が来ないので冷房装置も換気システムも動かなくなる。そうなるとドアを開けて換気をせざるを得ない。窓が開く車両は窓を開け、お客さんがたくさん乗っていなければドアを開けて風通しを良くする。その後なるべく早く電車から降りて、近くの駅や踏切から外に出るというプランを緻密に組み立てる必要がありますね。
 
西村)私鉄はどうだったのか振り返りましょう。大阪北部地震のとき、阪急電車、近鉄電車でも乗客の長時間にわたる閉じ込めが発生しました。しかし、大阪メトロや阪神電車、京阪電車などは数十分以内に最寄り駅まで徐行運転して、すべての乗客を避難させました。これは、線路の点検が終わるまで運転再開ができないのか、運転手の判断で最寄り駅まで動かしても良いのかというマニュアルの違いからでした。
その後の対策では、阪急電車も近鉄電車も震度5弱までなら、最寄り駅まで徐行運転しても良いという規則に変わりました。阪急電車はさらに沿線の地震計を3つから7つに増やして、エリアごとに振動を把握し、動かせる列車は動かすようにしたそう。
 
安部)地震の規模によって線路が受ける被害が違ってきます。駅の間の距離がどのくらいあるかということも要素になってきます。
地下鉄は全般的に設備が新しいので、5弱ぐらいならほとんど影響を受けません。徐行しながらゆっくり駅まで行くことができます。阪急も同じで、駅間が短いので、前方の安全が確認できれば、徐行して差し支えありません。阪神電車も全線高架になっていて、施設が頑強に作られています。施設の頑強さや新しさによって、次の駅まで行けるが決まると思います。JRの場合は、国鉄時代の駅間なので、次の駅まで3~4kmあるところも。私鉄は1kmない区間がたくさんあるので、次の駅まで行きやすい。鉄道会社の事情に合わせて電車の中に長時間閉じ込めしておくのはよくないので、近くの駅に行けるのなら行く方がいいと思います。

 
西村)阪神・淡路大震災のような大きな揺れが来た場合、鉄道の構造物が大きな被害を受ける可能性があります。乗客を早く下ろすのはとても危険ですよね。早く避難させるのと、安全確保との兼ね合いがすごく難しいと思います。
 
安部)震度6レベルになると鉄道が全線にわたって損壊するので、列車は1~2週間運行できません。もちろん、隣の駅にも行くこともできないので、乗客の救出を最優先しなければなりません。難しいのは震度5~5強の場合。一方で運行再開を急がなければならないし、乗客の救出もしなければならない。救出を優先して、その後運転再開というのが原則的な考え方だと思います。
 
西村)乗客の救援・救出をする場合、閉じ込めておいた方が安全なのか、早く外に出す方が安全なのか。どちらでしょうか。
 
安部)線路に救援列車を横付けするようなケースは、車両内に乗客を乗せておいた方が良いのですが、線路上の安全確認ができていない場合は、救援列車もきません。基本的には救援・救護する場合は、列車から降りて、乗務員の誘導で避難するということが正しいやり方だと思います。
 
西村)私たち乗客は電車の閉じ込めにどう備えたら良いのでしょうか。
 
安部)一人一人ができることは、電車に乗る前にトイレを済ましておくこと、急ぎの用事でなければ、電車が空いている時間に利用することなどですね。乗務員だけで救援をするのは大変なので、救援に協力するということも必要です。20~30代の若い人は、怪我をしないように線路上に降りて、高齢者の手を持ってあげるなど救援に協力しましょう。乗務員任せではなく、誰かがリーダーシップを発揮して助け合えば、被害を軽減できると思います。緊急事態のときは、乗客の我々も元気な人はぜひお手伝いをしましょう。
 
西村)一つ一つできることをみんなで協力してやっていこうということですね。きょうの話を心に留めておきたいと思います。
きょうは、関西大学社会安全学部教授で、交通政策論専門の安部誠治さんにお話を伺いました。