第1340回「落雷から身を守るために」
オンライン:株式会社フランクリン・ジャパン 気象予報士 重田絵里奈さん

西村)これから夏にかけては、雷の被害が増える時期です。海や公園、野外フェスなど夏のレジャーが楽しみな季節。急な落雷に対して、外出先でどのような対策をとればいいのでしょうか。
きょうは、全国に雷観測ネットワークを持つフランクリン・ジャパンの気象予報士、重田絵里奈さんにお話を伺います。
 
重田)よろしくお願いいたします。
 
西村)雷はどのような流れで発生するのですか。
 
重田)雷は発達した積乱雲から起こります。積乱雲とは、夏によく見られるモクモクとした入道雲のこと。これが発達すると恐ろしい雲になります。雷が発生すると雷雲と呼ばれる雲になります。
雷雲になるには次の3つの条件があります。
①地表付近に暖かく湿った空気がある
②その空気を持ち上げる何かの力がはたらく
③上空に冷たい空気がある
天気予報で「大気の状態が不安定」という言葉を聞いたことがあると思いますが、このような条件が揃ったときを「大気の状態が不安定」といいます。地上と上空の気温差が大きいほど不安定になります。この条件を達成して雷雲となった雲の中には、上昇気流と下降気流があり、その中のあられと氷の粒がぶつかり合って、それぞれがマイナスとプラスの電荷を帯びます。

 
西村)電荷とは何ですか。
 
重田)その物質が持つ電気の性質です。プラスの電荷を帯びた氷の粒は軽いので、雲の上の方にいきます。マイナスの電荷を帯びたあられは重いので下にいきます。この電荷の偏りを中和しようと発生する雲と地上との間に起きる大きな静電気現象が雷です。
 
西村)これからの季節は雷が多くなるのでしょうか。
 
重田)7~8月の夏の時期が一番多くなります。この時期は、地表付近まで蒸し暑く、強い日差しによって、地表付近の空気が暖められて、上昇気流が発生しやすくなります。そのため雷雲の発生条件が揃いやすいのです。
 
西村)雷はどこまで予測できるのですか。
 
重田)「きょうの午後、山で雷が起きやすい」など雷の発生しやすい状況は、ある程度予測できます。ただ雷は時間的にも空間的にもスケールが小さく局地的な現象なので、詳しい時間まで予測することは難しいです。
 
西村)何日先ぐらいまで雷の発生を予測することができるのですか。
 
重田)3日先まで予測しています。どこの地域でどのぐらいの可能性があるかまで予測しています。
 
西村)ほかにどのような予測情報を提供していますか。
  
重田)雷雲に発達してない雨雲の発達について、どの方向にどのぐらい移動していくかという予測情報も出しています。
 
西村)今後、夏のレジャーを楽しみにしている人も多いと思います。屋外での雷対策について「○✕クイズ」で考えていきましょう。
Q1.「雷が鳴っているときに、高い木の下に逃げても大丈夫?」
 
重田)✕です。
高い木の下は雷雲からの逃げ場としては最も適さない場所です。過去の落雷事故の統計から、高い木の下は「広く開けた場所」の次に多い、落雷事故の発生場所となっています。落雷は、地面から高く突き出たものに落ちやすいという性質を持っています。このため、高い木は落雷の標的になりやすい。木は電流を通しにくい素材なので、もし木に落雷した場合、電流は木の中を流れずに近くにある別の物体に飛び移る「側撃雷」という現象が起きやすくなります。人間が木の近くにいた場合、人間は木よりも電気を通しやすいので、木から雷の電流が飛び移ってしまうのです。このとき人間の体内には落雷の直撃を受けたときと同等の電気が流れます。木の幹や枝なども含めて、木から4m以上の距離を取ることが鉄則です。

 
西村)木の幹や枝から離れないと危険なのですね。
Q2.「雨がおさまるまで、軒先で雨宿りをしても良い?」
 
重田)✕です。
雨宿りをしている建物に落雷があった場合、建物の表面に雷からの電流が流れることがあります。家の外側にあたる軒先への避難は危険。

 
西村)お店の軒先の小さな屋根の下なども危険ですか。
 
重田)そういうところも危ないです。お店の中に入ることができるなら入った方が安全です。避雷針は、雷を避けてくれるのではなく、雷が建物に落ちないようにするために、避雷針に雷をひきつけて、落ちた雷を地面に逃がすという役割があります。
 
西村)避雷針が雷を吸収するわけではないのですね。
 
重田)避雷針は、電気の逃げ場所を作ってくれるもの。ただ避雷針も完璧なものではありません。過去に雷が避雷針に落ちずに、引き寄せた雷が建物の側面に落ちて、建物の壁が崩落する事例も確認されています。建物のそばに寄ることもなるべく避けてください。
 
西村)建物の側で雨宿りをするのではなく、建物の中に入る方が良いということですね。
Q2.「車の中に逃げても大丈夫?」
 
重田)○です。
自動車は金属に囲まれているので、雷が落ちても表面の金属を伝って地面に流れます。中にいる人に影響はありません。金属に囲まれていないオープンカーは危険です。感電の恐れがあるので、金属部分には触れずに窓を閉めて、できる限り車の中心にいることが推奨されます。

 
西村)夏のレジャーは、外で過ごすことが多いと思います。キャンプ場や海に居た場合、雷が発生したらどのような行動をとったら良いのか。例えば、海で遊んでいるときに雷が発生したらどうしたら良いですか。
 
重田)海に落ちた雷で感電するという危険があります。海は開けた場所なので、自分が落雷の標的になりやすい。まずはいち早く避難を心がけてください。
 
西村)水から上がった方が良いですか。
 
重田)水の中にいると危険なので、水から上がって、近くに建物があれば建物の中へ。車があれば車の中に避難してください。
 
西村)海の家やあずまやに避難しても良いですか。
 
重田)海の家は仮設の建物であることが多いです。できれば鉄筋コンクリートの建物に避難しましょう。
 
西村)野外フェスティバルの会場など、頑丈な建物が周りにない場合はどうしたら良いですか。
 
重田)避難する場所がないときに雷が起きた場合は、まずしゃがんください。自分が突出物になることを防ぐために、うずくまってださい。そのときに注意点が2点あります。まず両足を揃えて開かないようにしてください。足の間に距離ができると雷の電流の通り道ができてしまいます。もう1点は、耳をふさぐこと。雷が近くで落ちた場合、鼓膜が破れるほどの大きな音がします。鼓膜が破れるのを防ぐためしっかりと耳をふさいでください。
 
西村)ゴロゴロと音が聞こえてきたら、雷が近づいてきているということですか。
 
重田)ゴロゴロと聞こえてきたら、10km先の距離に雷が迫ってきています。10kmは遠いと感じますが、雷は下だけではなく、斜めに落ちることがあります。過去に自分のまわりで雨が降っていなくても雷の事故にあったという事例も。ゴロゴロという音を聞いたらできる限り早く避難行動をとってください。
 
西村)ゴロゴロと聞こえてきたら、周りの頑丈な建物に逃げる、建物がなかったら両足を揃えてしゃがんで耳をふさぎましょう。ほかに雷のサインはありますか。
 
重田)入道雲が高くなってきたら要注意。上の方が平らな積乱雲があったら、雷がいつ起きてもおかしくない状況です。同じような雲が発達する可能性があるので、避難の準備を始めてください。空が暗くなってきたり、冷たい風が吹いてきたりしたら、雷の危険が迫っています。雨もいつ降ってもおかしくない状況です。
 
西村)豪雨の前触れですか。
 
重田)入道雲が発達している段階では避難する時間が取れますが、暗くなってきたら危険が迫っている状況。いつ落雷があってもおかしくありません。
 
西村)しっかりと雲を見ておかないといけないですね。
 
重田)特に山は天気が変わりやすい場所。モクモクとした雲が見えてきたら、平地にいるときよりも早めの避難行動をとって下山する準備をしてください。
 
西村)雨が降っていて、傘をさしているときはどうしたら良いですか。
 
重田)雷は高く尖ったものに落ちやすいので、傘をめがけて雷が飛んでくる恐れがあります。土砂降りの雨が降っていても傘は閉じてください。
 
西村)傘は捨てて避難した方が良いですか。
 
重田)高く掲げなければ持っている分には問題ありません。傘を閉じて持って、急いで避難してください。
 
西村)ずぶ濡れになっても、まず命を守ることが大切ですね。重田さん、どうもありがとうございました。
きょうは、落雷から身を守る方法について、フランクリン・ジャパンの気象予報士、重田絵里奈さんにお話を伺いました。