第1350回「情報防災訓練~災害時デマに惑わされないために」
オンライン:静岡大学 准教授 塩田真吾さん

西村)大きな災害が発生したときには、固定電話や携帯電話は繋がりにくくなることが多く、LINE、Twitter、InstagramなどのSNSが安否確認や情報の入手手段として活用されるようになりました。
しかし一方で、災害時の不安や混乱に乗じて、誤った情報や不安を煽る、いわゆるデマやフェイクニュースが大きな問題になっています。熊本地震のときにSNSに出回った「動物園からライオンが逃げた」というフェイクニュースはまだ記憶に新しいのではないでしょうか。
きょうは、「情報防災訓練」を開発し、子どもたちへの啓発を行っている静岡大学 教育学部准教授 塩田真吾さんに災害時の情報との向き合い方について教えていただきます。
 
塩田)よろしくお願いいたします。
 
西村)情報防災訓練という言葉は初めて聞きました。
 
塩田)学校でやる防災訓練に加えて、情報の防災訓練も必要です。災害時にはさまざまな情報が流れてくるので、それが本当かを見極めなければなりません。情報防災訓練は、2021年からLINEみらい財団と共同で開発したものです。
 
西村)今どきですね。子どもたちの方が親よりもスマートフォンを使いこなしていますよね。どんなところで授業しているのですか。
 
塩田)教材を開発し、全国の小中学校に向けてオンラインで授業を展開しています。
 
西村)情報防災教育が必要だと思ったきっかけや理由は?
 
塩田)災害時にはデマやフェイクニュースが発生しやすくなります。悪意を持って、デマやフェイクニュースを広めようとする人もいるのですが、一方で、善意の気持ちや正義感が結果的にデマやフェイクニュースを拡散してしまうこともあるんです。そのようなことを防ぐために、情報を見極める力が必要と始めたのがきっかけです。
 
西村)困っている人たちのために情報をリツイートして届けたいという気持ち...すごくわかります。デマやフェイクニュースをもし自分が拡散してしまったら...。
 
塩田)地震だけではなく、新型コロナウイルスに関しても、初期は誤った情報がたくさん流れていましたよね。
 
西村)トイレットペーパーがお店からなくなったり、マスクも品薄になったり。それに関するSNSもたくさん見かけました。
 
塩田)わたしも家族からデマの情報が回ってきたことがあります。家族はわたしのためを思って広めようとしているんです。
 
西村)そういうとき、塩田さんはどのように家族に話したのですか。
 
塩田)情報源をきちんと確認しましょうと。それは「アメリカの大学の先生が言っていたんだけど...」という情報だったのですが、信じてしまいそうになりますよね。でもいくつか情報を見てみないとわかりません。そのような情報が災害時は出回りやすいんです。
 
西村)よかれと思ってやるから、パワーがより大きくなりそう。情報防災訓練を全国の小中学校の子どもたちに向けてオンラインで授業を展開しているということですが、なぜ子どもたちを対象にしているのですか。
 
塩田)従来の防災訓練は、子どもたちは守られる存在でした。でも、SNSに関しては、むしろ大人よりも子どもの方が詳しい可能性もあります。特にお年寄りに比べたら、子どもの方が情報を集めることができます。子どもたちが訓練しておくことで、災害時に子どもが減災や防災に貢献できる。これが大きなポイントです。
 
西村)子どもが正しい情報収集の方法を知っていたら、大人に正しい情報の伝え方、調べ方を教えて、その輪が広がっていく...という可能性もありますね。
 
塩田)有益な情報を子どもから発信できる。そんな訓練もできたら良いと思っています。
 
西村)情報防災訓練を実際にやってみたいと思った人も多いと思います。情報防災訓練は、具体的にどのような方法で子どもたちに伝えているのでしょうか。
 
塩田)情報防災訓練の「情報収集編」では、実際にTwitterやLINEなどのSNSを模したカードを用意して、それを見ながら、信頼できる情報なのか否かを見極めていく訓練をします。
 
西村)わたしの手元にカードがあります。わたしも挑戦してみたいです。
 
塩田)ではやってみましょう。まず1つ読み上げます。Twitterの書き込みと思ってください。「田山市役所」というアカウントから「田山川の水位が避難判断水位に近づいています。お年寄りなど避難に時間のかかる人は避難を開始してください」という文章が発信されたとします。これは信頼できる情報だと思いますか。
 
西村)田山市役所は自治体なので、正しい情報を流してくれていると思います。アカウントには公式マークがついています。これは、Twitterが、本物のアカウントだと認証している証拠。信頼性が高いですよね。内容も「~らしいですよ」という語尾ではないし、わかりやすく発信されているので、信頼できると思います。
 
塩田)鋭いですね。田山市役所の公式アカウントかどうかはチェックポイントですね。内容が伝聞ではなく、きちんと公表されたものなのかも大事です。これは比較的信頼できる情報だとわたしも思います。もう1つやってみましょう。田山市に台風が近づいてきているときに、「防災123」というアカウントが発信したものです。「防災大の先生から聞いた話です。前回の台風と比べるとたいしたことはないから普段の生活をしてください」と書かれています。
 
西村)既に298のシェアと183のいいねがついています。これだけみんなが信頼しているから、正しいのでは?と思いがちですが、これはきちんと見極めなければなりませんね。防災大は信頼できそうと思いますがどの先生の話なのか...。ちょっと不安ですね。
 
塩田)本当にその先生が言っているのかどうかもわかりません。ちょっと怪しいですよね...。
 
西村)信頼しそうになるトラップがもうひとつあります。一番上に友達がシェアしたと書いているんです。信頼できる友達がシェアしているのだから、本当の情報かなと思いがちですが、冷静になってこの文章を読んでみると信頼性があまり高くないのではと感じました。
 
塩田)「○○大学の先生が言っていた~」というような情報は結構あります。身近な人がリツイートしているとついつい信じでしまいそうになりますが気をつけなければなりません。
 
西村)災害時に自分が誰かのために正しい情報を発信したいと思ったとき、見極めるキーワードは何ですか。
 
塩田)災害時の情報を見極めるときのキーワードは「だ・い・ふく」です。
 
西村)なんだか美味しそうですね。
 
塩田)だ=「誰が言っているのか」です。公式マークがついた田山市役所の人が言っているのか、防災大の先生が言っているのか。それは本当に信頼できる人なのか、ということを確認しなければなりません。これがチェックポイントの1つ目。
次は、い=「いつ言ったのか」です。情報はいつまでも正しいわけではありません。例えば「木が倒れて通行止めになっています」という情報は、そのときは正しいかもしれませんが、それがリツイートされたりシェアされたりしていくうちに、木が撤去されて通行止めが解消されている可能性もあるわけです。

 
西村)Twitterは、リアルタイムで情報がアップされているわけではなくて、何日か前の情報が上がってくることもありますよね。
 
塩田)1年前の台風の情報が出てくることもあります。3つ目がふく=「複数の情報を確かめたのか」です。これが一番大切。誰が言ったのかを確認した上で、ほかの人はどんなこと言っているのか、テレビやラジオなどほかのメディアにはどのような情報が出ているのかというふうに、複数の情報源を確かめることが情報を見極めるためには必要です。
 
西村)テレビやラジオなどのメディア以外にも自治体や気象庁など、情報の出所を見極めることも大事ですね。
 
塩田)「誰が言っているのか」「いつ言ったのか」「複数の情報を確かめたのか」これらの疑問を常に持つことは、見極めのポイントになると思います。
 
西村)「だ・い・ふく」を覚えて、情報を確認して、自分自身や大切な人たちを守るために、情報を見極める訓練をしていきましょう。家庭でも情報防災教育はできるのでしょうか。
 
塩田)はい。防災の情報だけではなく、普段から情報の信頼性を確認する訓練は必要。SNSのさまざまな情報を「だ・い・ふく」の視点で見ることを日々やってほしいです。
 
西村)これからまだコロナの時代は続くと思います。みんなが不安なとき、コロナや災害にまつわる情報が欲しいとき、正しい情報を見極める力は本当に大事ですね。
 
塩田)災害時は、自分が情報を発信することも増えます。自治体では、災害が起きたときにさまざまな情報を集めて、被害状況を確認していく取り組みも行われています。情報を発信する訓練も必要です。
 
西村)子どもたちにも教えているのですか。
 
塩田)情報防災訓練の第1弾が「情報収集編」で、第2弾は「情報発信編」。この2つをセットで訓練すると良いと思います。
 
西村)わたしたちも実際に活用することができるのでしょうか。
 
塩田)開発した教材は、LINEみらい財団のインターネットサイトの情報防災教育のページから無料でダウンロードできます。ぜひ活用してください。
 
西村)未来を作るのは、子どもたちです。正しい情報を収集して発信することが当たり前になっていくと良いですね。わたしも子どもたちと一緒に勉強していきたいと思います。
きょうは、静岡大学 教育学部准教授 塩田真吾さんにお話をお聞きしました。