第1407回「数多ある防災気象情報、どう伝えれば?」
ゲスト:国士舘大学 防災・救急救助総合研究所 教授 山﨑登さん

西村)台風や豪雨のたびに、注意報や警報、土砂災害警戒情報、線状降水帯情報、警戒レベルなどさまざまな防災気象情報が伝えられます。わたしたちは、たくさんある災害情報をどのように受け取り、判断すれば良いのでしょうか。
きょうは、国士舘大学 防災・救急救助総合研究所 教授 山﨑登さんにお話を伺いきます。
 
山﨑)よろしくお願いいたします。
 
西村)防災気象情報は、なぜこんなにたくさん種類があるのでしょうか。
 
山﨑)ここ15~20年、災害が起きるたびに必要な気象情報が検討されてきました。1982年に長崎県で豪雨があり、長崎県・諫早で大きな被害が出ました。このときは大雨警報よりも強い警戒を呼びかける情報が必要ということで、2年後に「記録的短時間大雨情報」ができました。これは今でも発表されています。1999年には広島市で大きな土砂災害がありました。そのときは土砂災害の警戒を呼びかける情報として、2005年に「土砂災害警戒情報」ができました。この情報が出されるときは、「いつ大きな土砂災害が起きてもおかしくない」というタイミングです。2006年には北海道・佐呂間町で大きな竜巻の被害があり、2008年に「竜巻注意情報」ができました。2011年の紀伊半島豪雨のときは、大雨の「特別警報」ができました。そして、2020年に九州で球磨川が決壊したときは、積乱雲が発達して帯状に連なって1ヶ所に数時間~半日ほど激しい雨が降る線状降水帯が発生。線状降水帯についての情報も必要ということで、2021年に「線状降水帯情報」ができました。このように一つ一つの気象現象に着目し、情報が追加され今に至っています。
 
西村)近年、災害が増えてきているから、さまざまな種類の情報が出されるようになったのですね。
 
山﨑)温暖化の影響で、かつてなかった猛烈な雨が降る頻度が増えました。雨が降るたびに"記録的"という言葉が出てきますよね。最近は河川災害、土砂災害が深刻化する傾向にあります。情報をきめ細かく発表することで、みなさんに適切な防災行動をとってもらいたいのですが、情報が増えすぎてわかりにくくなってきたので、2019年に防災気象情報をレベル化しました。
 
西村)5段階の避難の警戒レベルのことですね。
 
山﨑)「レベル4で逃げる」とだけ覚えてください。レベル4に「避難勧告」と「避難指示」という2つの情報があり、わかりにくいので、「避難勧告」を廃止して、「避難指示」に一本化しました。気象に関心がある人にとってはわかりやすくなったと思いますが、そうではない人や新しく市町村の防災担当者になった人にとっては、たくさん情報があるだけでわかりにくいですよね。
 
西村)レベル3が高齢者等避難、レベル4が避難指示。レベル5が緊急安全確保で大きな災害が既に起こっている状態。5で逃げるともう手遅れになってしまいます。
 
山﨑)レベル4までに安全を確保してください。
 
西村)スマートフォンの防災アプリ、テレビ・ラジオなどからさまざまな情報が押し寄せてきます。なぜこんなに伝わりにくいのでしょうか。
 
山﨑)情報が多くてわかりにくくなっていることがひとつ。もう一つは、専門用語と数字が多いこと。「1時間に50mmの雨が降る」というと、激しい雨が降っているということはわかりますが、それによってどんなことが起きるのかまではわからない。普段から専門用語と数字を使い慣れている人しか意味を理解できてないと思います。
 
西村)「1時間に50mmの雨が降る」というのは、50mmの深さまで雨がたまるということですよね。
 
山﨑)ほかにも意味があります。関東から西の多くの都市は、雨が降って側溝に入った水をなるべく早く川に流しています。川に入った水は、川から出さないように海に流すというのが日本の治水の基本的な思想。側溝や下水を作るときの想定雨量は、関東から西の多くの都市では1時間50mm。だから1時間に50mm以下の雨なら綺麗にはけていきます。ところが50mm以上の雨が降ると想定雨量を上回るので、側溝から水があふれて下水が逆流して、マンホールから水が噴き出します。
 
西村)いわゆる内水氾濫ですね。
 
山﨑)1時間に50mmというのは、町の排水機能を超える雨が降るということ。それを理解していないとその数字の危機感は伝わりません。
 
西村)よくニュースでマンホールから水が噴水のように噴き出している様子を見ます。あれは1時間に50mm以上の雨が降っているということですね。
 
山﨑)雨が降り続いているということです。200mmの雨でも長い時間かけて降ったのなら流れますが、一気に降ると町は水浸しになります。気象や河川の専門家は「1時間に50mmの雨が降る」と大変だとわかりますが一般の人は、「少し激しい雨が降る」としか思っていません。情報がきちんと伝わってない。それはダムの情報も同じ。上流でたくさん雨が降ったとき、川で氾濫が起きないようにダムがカットしてくれます。ところが大雨が続くとダムが満杯になります。そうすると降った雨がそのまま川に流れるので、ダムがなかったのと同じ状態になる。そういうときは、「〇時から〇tの水を放流するので気をつけてください」という情報が出ます。西日本豪雨のときにも出ました。ダムや河川を管理している人は、堤防から溢れるほどの水が来るとわかるのですが、住民は、「川の水位が少し上がる」ということしかわかりません。エンドユーザーはきちんと情報を理解できていないという状態になっています。
 
西村)わたしたちはどのように情報を受け止めていけば良いのでしょうか。
 
山﨑)情報は指示を仰ぐものではなく利用するもの。「あなたの逃げるタイミングは今ですよ」という情報は出ません。気象庁も市町村も、特定のエリアの人たちに情報を出しています。自分が逃げるタイミングを気象庁や自治体が教えてくれると思って待っていてはいけません。自分にとって必要な情報は何かをあらかじめ知っておくこと、複数の情報をうまく利用することが大事です。
 
西村)自分にとって必要な情報とは、どんな情報ですか。
 
山﨑)例えば「川が氾濫しそう」という情報は、川から離れている地域の人にとっては、優先順位は高くありません。裏山に斜面がある、昔土砂崩れが起きた場所にいる人にとっては、川の情報よりも土砂災害情報の方が大事。ハザードマップを見て、自分にとって必要な情報は何かを理解しておくこと。たくさんの情報、一つ一つに一喜一憂するのではなく、自分にとって必要な情報を判断し、複数の情報をうまく利用する。大雨警報、記録的短時間大雨情報、線状降水帯情報など複数の情報が出た場合、全体状況として危険度が上がっているということは理解できるはず。次の段階で、川の近くの人は川の情報に着目。近くに斜面がある人は土砂災害情報に着目する。外水よりも内水氾濫が気になる人は、キキクルの浸水情報に注目して自分の逃げるタイミングを考える。世帯ごとに逃げるタイミングは異なります。元気な男の子2人と若いお父さん、お母さんだったら、逃げるタイミングが少し遅れても逃げ切れるかもしれませんよね。
 
西村)その4人なら走るスピードも早そう。体力もありそうです。
 
山﨑)でも家の中に高齢者、体の不自由な人、妊婦、小さな子どもがいる場合は、危機感が高まる前に逃げなくてはなりません。市町村は、世帯ごとの状況に合わせて避難を呼びかけることはありません。全体状況と自分に必要な情報を確認して、自分の逃げるタイミングは自分で決めるしかありません。
 
西村)逃げるタイミングは、事前に決めておいた方がいいですね。
 
山﨑)「マイタイムライン」「避難スイッチ」という言葉を聞いたことがあると思います。自分が住んでいる地域について事前に調べておきましょう。どの情報が出たら逃げるのかをタイムラインとして整理しておく。みんな避難はしたくないもの。避難しなければならないときは、深夜・明け方などできるだけ家の中にいたいときが多いですが、そんなときでもきちんと逃げることができるようにしておきましょう。昔、東京消防庁のハイパーレスキュー隊の訓練を取材したことがありました。隊員は、毎日のように家の中に閉じ込められた人を救助する訓練をしていました。隊長に「毎日訓練をする必要があるのですか?」と聞くと「本番は、訓練以上のことはできない。だから訓練をしておく必要がある」と言われました。それは個人も地域も一緒。自分が逃げなくてはいけない状況になったとき、非常袋を持って、長靴を履いて、カッパを着て、傘をさして...と体が覚えておくくらい訓練しておかないとできません。「今まで逃げなくて大丈夫だった」「60年ここで生活してきたけど、今までは避難しなくても助かったから今年もきっと大丈夫」と人は逃げなくても良い理由を考えるもの。このような"正常化バイアス"をぶち破るためにも、個人の取り組みや地域の防災訓練はとても大事です。
 
西村)大雨は事前に予測して、自分たちのタイミングで早めの避難をすることができます。自分に必要な情報は何かを考えること、家族や地域で話し合って、避難スイッチ・タイミングを決めておくことが大切ですね。
きょうは、国士舘大学 防災・救急救助総合研究所 教授 山﨑登さんと一緒にお送りしました。