オンライン:名古屋大学 減災連携研究センター 特任准教授 小沢裕治さん
西村)先月、スペイン全土とポルトガルの一部で大規模な停電が発生し、交通機関の運休や通信障害など約6000万人が影響を受けました。停電は災害発生時の避難や復興に大きな影響を与えます。災害時の停電に対して、どのような備えが必要なのでしょうか。
きょうは、ライフライン防災に詳しい名古屋大学 減災連携研究センター 特任准教授 小沢裕治さんにお話を聞きます。
小沢)よろしくお願いいたします。
西村)南海トラフ地震が起こって停電すると、どんな事態が想定されますか。
小沢)今年3月に内閣府の被害想定が改定されています。40の都府県で、最大で約2950万戸停電する可能性があります。場所にもよりますが、停電の回復に1週間以上かかる可能性もあります。
西村)そんなにかかるのですね...。
小沢)能登半島地震や2019年の台風15号による千葉の停電で、電柱がたくさん倒れて電線が断線した地域では、修理までに長い時間がかかったという事例も。
西村)電源車が来て、早い段階で復旧しないのでしょうか。
小沢)電力会社や通信会社は電源車をもっていますが、災害時にどこにでも行けるほどの台数はありません。病院などが優先されると思います。
西村)南海トラフでは、今までの災害よりも広いエリアが被害を受けるので、電源車が全てをカバーするのは難しいのですね。1週間ずっと停電するのですか。
小沢)可能性はあります。電気は貯めておくことができないエネルギーです。発電所の停止、稼働の制限があるとわたしたちの家庭や会社で使える電力量が制限されます。東日本大震災の後に関東地方であったような計画停電が行われる可能性もあります。
西村)計画停電では、電力を使える地域が順番に移動していくんですよね。
小沢)例えば、「11~15時までは使用禁止」というような運用になります。
西村)想像以上に大変なことになりそう。1週間も停電が続くとなると、わたしたちの生活や避難にどんな影響が出ますか。
小沢)わたしたちの生活は、日々電気に頼っています。冷蔵庫を使っていない家庭はないですよね。エアコンも電気で動くので電気も使えません。日々の生活でスマホやパソコンに依存していますが、スマホの充電も制限を受けることになります。
西村)わたしたちの暮らしは電気がないとやっていけませんね。冷凍庫の中に買い置きしていた肉が腐ってしまったり、アイスクリームが溶けてしまったり...。
小沢)停電になると全て現実になります。
西村)我が家が台風で半日停電したとき、半日でも大変でした。食材を無駄にしないように、カセットコンロで調理して。結構パニックになりました。それが1週間も続くとなったら、本当に大変だと思います。避難所は電気を確保しているのでしょうか。
小沢)2023年の調査では、自治体が管理している指定避難所で、非常用の発電機を備えているとところは約6割でした。全ての避難所に発電機が備えられているわけではありません。南海トラフ地震の被害の範囲は広いので、避難する人が多くなると避難所がさらに開設される可能性もあります。発電機を備えていない場所を避難所として使うこともあると思います。
西村)自家発電機はきちんと動くのでしょうか。
小沢)東日本大震災では、大きな揺れや津波被害で発電機が被害を受けた事例がありました。それ以外にも、途中で発電機の燃料が切れてしまったとか日頃のメンテナンスをやっていなかったために動かなかった事例もあります。非常用発電機を持っている人は、日頃から試運転をしておいて、いざというときに使えるように備えておいてください。
西村)実際に使っておくことも大切な備えになるのですね。
小沢)避難訓練や防災訓練をきちんとしている組織、町内会もあると思いますが、発電機を実際に使ってみて、使えるかを確認することはとても大事です。
西村)いろんな困り事の中で特に心配なことは何でしょうか。
小沢)今までは冬に災害が起きることが多かったですよね。阪神・淡路大震災も東日本大震災も能登半島地震も寒い時期に起こりました。もし暑い夏に災害が起こったら...。冷やすという行動には必ずエネルギーが必要です。寒いときは、服を着込むこともできます。少し病気は気になりますが、部屋の中でまとまって過ごすと寒さがやわらぎます。しかし、冷やすには冷やすための機械が必要。エネルギーを投入しないと冷やすことができないのです。
西村)エアコンや扇風機が必要ですよね。冷やすエネルギーが確保できないときは、どうしたら良いのでしょう。
小沢)原始的ですが風通しのよい日陰で過ごす、色が濃い服より色が薄い服の方がいくらか熱を吸収しにくいので服装に気をつけるなど、わずかなことが大切になるかもしれません。
西村)熱中症も気になります。熱中症になっても助けが来るのかどうか...。
小沢)東日本大震災や能登半島地震の報道では、早い段階で救助が来ていると感じているかもしれません。しかし、南海トラフ地震は広い範囲で大きな被害になります。そうすると今までの災害で支援に来てくれた人たちも被害者になっている可能性が高い。本来、助けにきてくれる自治体や自衛隊の人たちも家族の安否がわからない、怪我をしているとういうことも。そんな人たちに「支援に来て」とはちょっと言えないですよね。
西村)しっかりと備えておかなければいけないと思います。ほかに心配なことはありますか。
小沢)国土交通省や自治体では復旧の計画を立てていますが、発災から3日間は、職員の安否確認や被害の把握、支援の計画に費やすことになる。支援に動けるのは、4日ぐらい経ってからになると思います。ぜひ3日分の備えはしておきましょう。水は1日あたり1人2~3Lは必要。3日分となるとやはり6~9L必要。大変ですが自身で備えておきましょう。
西村)水や食料をしっかり備える。さらに停電にも備えが必要だと思いますが、どんなものが有効ですか。
小沢)今はポータブル電源が普及してきています。能登半島地震では、スマホの充電のためにポータブル電源が支援物資にあったという事例も。支援に4日ほど時間がかかるので、ぜひみなさん、ポータブル電源を持っておいてください。一般の家庭で使う電力量は10kWh~25kWhと言われています。この量のポータブル電源を備えるとなると、100~200万円の投資をしなければならない。各家庭でそこまで出すのは現実的ではないですよね。家庭で災害時に必要な電気について日頃から考えおいて、その分を賄えるだけの電源は用意しておきましょう。
西村)ポータブル電源で、扇風機や携帯電話を充電することはできますね。
小沢)災害時にはスマホの充電や通信料も貴重に。情報収集は乾電池式のラジオを使って電池も備えましょう。調理にもなるべく電気は使わずに、カセットコンロを使うなど、エネルギーを電気に集中させない工夫をしてほしいと思います。
西村)小沢さん、どうもありがとうございました。