第1410回「災害時の口腔ケア」
オンライン:日本災害時公衆衛生歯科研究会 中久木康一さん

西村)口の中の健康は全身の健康にもつながると言われています。災害時も口の中をキレイに保つ"口腔ケア"が重要視されています。
阪神・淡路大震災の震災関連死のうち4分の1が肺炎によるもので、その多くが誤嚥性肺炎とみられています。誤嚥性肺炎の大きな要因のひとつが口の中の細菌です。
きょうは、歯科医師で、災害時の口腔衛生対策に詳しい中久木康一さんに災害時の口腔ケアについてお話を伺っていきます。
 
中久木)よろしくお願いいたします。
 
西村)過去の災害では誤嚥性肺炎で亡くなる人が多かったそうですね。
 
中久木)阪神・淡路大震災では、災害関連死の約4分の1が肺炎によるものと言われています。
 
西村)その中の多くが誤嚥性肺炎ということですが、誤嚥性肺炎について改めて教えてください。
 
中久木)誤嚥性肺炎は、口の中の細菌が肺に移動して炎症が起きる病気。口から飲み込んだものは通常なら食道を通って胃に入るのですが、肺に入ると炎症を起こします。口の中にばい菌がたくさんある人は肺炎になりやすい、口の中を清潔にしている人は肺炎になりにくい、ということが2000年頃からわかってきて、口腔ケアが注目されるようになりました。
 
西村)誤嚥性肺炎になりやすい人はいるのでしょうか。
 
中久木)高齢者、障がいのある人、喉の筋肉や反射が落ちてきた人、体力が落ちてきた人がなりやすいと言われています。高齢者の10人に1人は肺炎で亡くなることが多いです。普段から病気がちの人は特に口腔ケアに気をつけましょう。
 
西村)誤嚥性肺炎は、災害時になると増えるのでしょうか。
 
中久木)東日本大震災、熊本地震では、災害関連死の約3分の1が呼吸器の疾患によるものでした。その中の多くが肺炎と考えられています。
 
西村)なぜ災害時には、多くの人が肺炎になってしまうのでしょうか。
 
中久木)災害時は、口の中が汚れやすく、普段と同じ環境で寝られない、食事・水分を十分に取ることができない、ストレス...などさまざまなことが絡み合って免疫力が落ちます。口腔ケアが十分にできなくなるとばい菌が入り、肺炎になりやすくなります。災害時はなかなか病院に行くこともできません。
 
西村)災害時は水も十分にないし、洗面所もないかもしれない。歯磨きをする環境が整えられていないこともありますね。たくさん人がいる避難所ではストレスもたまるだろうし、人と話すことも少なくなるかもしれない...。メンタルの不調が影響して免疫力も下がってしまうのでしょうか。
 
中久木)東日本大震災のときは、たくさんの人が2~3日は歯を磨くことを考えもしなかった、というストレス状態にありました。
 
西村)災害時に誤嚥性肺炎にならないようにする予防法はありますか。
 
中久木)災害時も普段通りのケアが続けられる工夫が必要です。歯ブラシや水がなくても使える口腔ケアグッズを備えておきましょう。水を使わなくても歯のケアができる歯専用のウェットティッシュやそのまま飲み込むことができる天然成分由来の歯磨き粉などもあります。水がなくても使えるグッズを活用したいですね。
 
西村)子どもたちが赤ちゃんのとき、口の中専用のウェットティッシュを使っていました。
 
中久木)子ども用でも構いません。普通のウェットティッシュはガサガサしていて、口の中を傷つけることも。アルコールが入っている場合は、口の中が乾いてしまいます。できれば口の中専用のウェットティッシュやガーゼやハンカチ、柔らかめのキッチンペーパーなどで、口の中をキレイにすることを心がけてください。自分が使いやすい歯ブラシを非常用持ち出し袋にいれておきましょう。柔らかめの歯ブラシがオススメです。水がない状態で歯磨きする場合もあるので、普段通りの歯ブラシだと歯茎が腫れやすくなり、血が出てしまうこともあります。
 
西村)それは知らなかったです。わたしは、マウスウォッシュも備蓄しているのですがそれも役立ちますか。
 
中久木)水で薄めるタイプは水が必要になるので、そのまま口に含んで使えるタイプを備えておくと役に立つと思います。
 
西村)入れ歯を使っている高齢者に向けてアドバイスはありますか。
 
中久木)災害時は、入れ歯を外して洗うことが難しくなります。できれば密封できる容器を用意しておきましょう。「入れ歯を外してティッシュにくるんでおいたら捨てられてしまった」という話をよく聞きます。入れ歯はつけっぱなしにしておくと口の中がばい菌の温床になってしまいます。肺炎や口内炎の原因にもなります。
 
西村)周りの人からも入れ歯がはいっていることがわかりすい容器に入れておく方がよさそうですね。
 
中久木)入れ歯を使用している人は家族にも言いたくない人もいます。歯がない姿を人に見られたくない場合は、マスクをして、乾燥を防ぎながら、自分の体を守ってください。
 
西村)入れ歯をつけていない人もマスクをして寝た方が良いですか。
 
中久木)はい。特に冬場は乾燥します。避難所は、多くの人が一緒にいるのでほこりが飛びます。肺炎以外にもさまざまな呼吸器疾患、インフルエンザの予防のためにもなるべくマスクをしましょう。
 
西村)マスクも非常用持ち出し袋に入れておいた方が良いですね。日頃から菌が肺に入るのを防ぐためにやっておくと良いことはありますか。
 
中久木)年齢を重ねると足腰が弱ってくるのと同じように、喉の筋肉も弱っていきます。高齢者はゴクっと飲み込む力が弱ってきます。口やのどを鍛えるための体操をするのも良いですよ。
 
西村)今できそうなことがあれば、実践してみたいです。
 
中久木)「パタカラ体操」という体操があります。パやタなど舌や唇を使う音を出す体操です。ほかに「あっかんべー」の動きも口の体操に良いと言われています。「あいうべ体操」は、「べ」で舌を前に出します。
 
西村)リスナーの皆さんも一緒にやってみましょう。
 
西村・中久木)「あ」「い」「う」「べ」
 
中久木)「べ」で思いっきり「あっかんべー」をしてみてください。
 
西村)結構口の筋肉を使いますね!
 
中久木)これを1回5セット、1日3回繰り返すと良いですが、そこまでしなくても、テレビを見ているとき、お風呂に入っているときなど少し時間があるときにやってみてください。大きく口を開けてやると、筋肉が伸びていることを実感すると思います。舌を動かすことで飲みこむ力をつけることもできます。
 
西村)リスナーのみなさん、実際にやってみていかがでしたか。わたしはまだ40代ですが、今からしっかりやっていこうと思いました。
 
中久木)この運動をすると、顔周りの筋肉が引き締まってくるので、輪郭がキレイになって小顔になるという効果もありますよ。口の中は、普段意識しないところですが、過去の災害時に口の中のばい菌が原因で亡くなった人もいます。災害時は口腔ケアについても忘れずに意識して備えてください。
 
西村)口の中の健康は全身の健康にもつながります。災害時だけではなく、日頃からケアをしていきましょう。
きょうは、歯科医師で、災害時の口腔衛生対策に詳しい中久木康一さんに、災害時の口腔ケアについてお話を伺いました。

第1409回「リビア洪水1か月~世界的な異常気象を解説」
オンライン:ワールド気象アンカー 気象予報士 森さやかさん

西村)9月10日に発生し、2万人以上が犠牲になったとされるリビアの洪水から約1ヶ月が経過しました。国土の大半が乾燥地帯や砂漠でありながら、なぜ大規模な洪水が起きたのでしょうか。洪水だけでなく、熱波やハリケーンなど世界の気象事象はどうなっているのでしょうか。
きょうは、NHKワールドで、世界の天気や災害について解説をしてきたワールド気象アンカー 森さやかさんに話を聞きます。
 
森)よろしくお願いいたします。
 
西村)リビアは国土のほとんどが乾燥地帯や砂漠でありながら、なぜこんなに大きな洪水が起きてしまったしょうか。
 
森)リビアはアフリカの北に位置していて、地中海に面しています。紀元前約1万2000年前にも人が住んでいたと言われる歴史ある国。港町のデルナというところで災害がおきました。リビアは、国土の90%が砂漠ですがデルナは海に面していてやや雨が多い場所です。ただ9月は約4mmしか雨が降りませんでした。そこに24時間で400mmを超える雨が一気に降ったのです。被害が大きくなってしまった理由は、上流のダムが壊れてしまったから。メンテナンスがほとんど行われていなかったようで、以前から安全性が指摘されていました。
 
西村)なぜメンテナンスが行われていなかったのですか。
 
森)一時期、過激派の支配下になっていて町は衰退していたそうです。デルナの住民に避難指示はなく、むしろ家に留まるように言われていたと聞いています。避難する場所があまり多くないので、多くの人が一気に避難して混乱すことを防ぐためです。多くの人が避難できなかったことは問題です。
 
西村)日頃からあまり洪水が起こる場所ではなかったから、避難場所も十分に用意されていなかったのでしょうか。
 
森)国土の9割が砂漠ということもあります。今回は、メディケーンという嵐が雨をもたらしました。メディケーンは、メディテレーニアン(地中海)とハリケーンを合わせた造語です。ハリケーンは、暖かい空気だけでできていますが、メディケーンは、地中海の冷たい空気も混じったハイブリッドな嵐。1年に1~2回発生しますが、大きなものはあまりありません。しかし3年前に大きなメディケーンが発生し、船が座礁してしまったこともありました。今回のメディケーンには、ダニエルという名前がついています。
 
西村)爽やかな男の子をイメージしました。
 
森)ダニエルは、狂暴な男の子だったようです。本来メディケーンは、リビアや地中海の東側には現れません。でも今回はかなり東に現れ、南にも移動して、リビアに上陸しました。普段降らないところに急に大雨が降って、ダムが壊れてしまいました。メディケーンは、地球温暖化の影響で50倍発生しやすくなっているそうです。
 
西村)温暖化で海水の温度が上がっていたからいつも来ない場所にメディケーンが来たのですか。
 
森)地中海はこの夏、観測史上最も高い水温を記録しました。その影響で嵐も発達しやすくなっていたのだと思います。
 
西村)地球温暖化は日本だけではなく、世界にも大きな影響を及ぼしているのですね。今年、日本の夏はとても暑かったですが、世界はどうだったのでしょうか。
 
森)日本は観測が始まった1898年以降で最も暑い夏でした。誰も味わったことのない暑さでしたが、世界はもっとすごいです。例えば中東のイランでは、体感温度が81度まで上がりました。
 
西村)体感温度81度とは、日本だとどれぐらいの気温になるのですか。
 
森)日本の夏は35度として、湿度が50~60度。そのときの体感温度は約40度ぐらいです。
 
西村)その倍ということですね...。
 
森)イランは37.8度でそこまで高くはなかった。何がこれだけ体感温度を上げたのかいうと湿度です。湿度が91%で、ミストサウナレベルでした。イランが面しているペルシャ湾は、世界一温かい海と言われています。この温かい海の影響で発生した空気中のたくさんの水蒸気によって湿度が高くなり、気温が上昇し、これほど蒸し暑い天候になりました。
 
西村)イランの体感温度81度というのは、ここ数年にもあったのでしょうか。
 
森)70度台はありましたが81度は初めてです。世界1位の記録に並ぶと思います。
 
西村)他の国もこれくらい暑いのでしょうか。
 
森)ヨーロッパも連日平均気温を約20度上回るような日が続き、観測史上最も暑い夏となりました。専門家も驚く異常な暑さです。エルニーニョ現象の影響だけでは説明しきれません。太陽の活動が活発化していること、船の燃料を規制することで雲が減って、熱が地球にこもっていることも原因のひとつ。去年のトンガの火山によって、海底から大量の水蒸気が空気中に放出されたことも暑さに影響しています。水蒸気は二酸化炭素と同じ温室効果ガス。水蒸気は空気を温める効果があるので、空気中に放出された大量の水蒸気が熱を吸収し、気温を上げているのです。
 
西村)世界規模で気象を見ていかないといけませんね。熱波以外で、暑さで困っている地域はありますか。
 
森)山火事が世界で多発しています。ハワイでも山火事がありましたね。ハワイは山を隔てると気候が全く異なります。ハワイは世界で最も雨が降る地域もありつつ、ほとんど降らない地域もあります。ハワイで夏に山火事が発生することはよくありますが、今回はハワイの北に高気圧があり、南に発達したハリケーンが通ったことにより、気圧に差ができて、強風が吹き、一気に火災が広がってしまいました。
 
西村)ハワイの火災は、ハリケーンの仕業だったのですね...。
 
森)アルゼンチンでも火災の被害が深刻となっています。南半球にあるアルゼンチンは、今春になったばかりですが、今年、南米の熱波がすごくて、既に40度超えのところが続出しています。それによって山火事が起きていて、アルゼンチンの中部にある都市に炎が迫ってきています。夏になり、これからどれだけ山火事が増えていくのかとても心配です。
 
西村)気温が高いだけでも心配なのに山火事まで...。
 
森)数年前のオーストラリアの山火事では、コアラが大量に死にました。カリフォルニアの山火事では、ワインで有名なナパ・ヴァレーに山火事が迫り、山火事の焦げた臭いがブドウの実についたことで、ワインの出来に影響が出てしまったそう。最近は世界中で、干ばつも起きています。世界で最も美しい港町と言われている、南アフリカ最南端のケープタウンで断水の危機がありました。400年来の干ばつが起きたのです。
 
西村)町はどんな様子だったのでしょうか。
 
森)政府は市民に節水を呼びかけましたが、ほとんどの人が協力しませんでした。頭を抱えた政府は、各家庭の節水状況が一目でわかる地図を作って、インターネット上に公開したのです。
 
西村)節水をしていなければ、世界中の人にバレてしまうのですね。
 
森)それが効を奏して、みんなが節水して、断水の危機を逃れたということがありました。
 
西村)桁が違う話ばかりですね...。世界の天気についてもっと知りたくなりました。これから注目していきたいと思います。
 
森)世界の気象を見ると、日本の気候の良さを実感します。そして、そこに生きている日本人のたくましさを感じます。日本の夏は、熱帯以上に蒸し暑いのにサラリーマンは、みんな背広を着ていますよね。
 
西村)汗だくになりながら、長袖のジャケットを着ていますね。
 
森)日本は、世界中で最も雪が深い場所なのにたくさん人が住んでいます。それにもかかわらず、何メートルも雪が積もる場所にも郵便物がきちんと届く。日本人のたくましさを知ることも世界の気象を知る醍醐味だと思います。
 
西村)世界の天気を見続けている森さんだからこその視点ですね。わたしも世界の天気に注目して防災にも役立てていきたいと思います。
きょうは、ワールド気象アンカーの森さやかさんにお話を聞きました。