オンライン:防災科学技術研究所 総合防災情報センター センター長 臼田裕一郎さん
西村)来月、日本で大きな地震が起こるという"噂"がSNSなどで出回っています。この噂に科学的な根拠は全くありません。しかし、この噂を信じて日本への旅行を取りやめる外国人も多くいて、観光面への影響も出ています。
きょうは、災害時の情報について、防災科学技術研究所 総合防災情報センター センター長 臼田裕一郎さんに聞きます。
臼田)よろしくお願いいたします。
西村)今回のような地震予知に関する"偽の情報"や"噂"はなぜ出回るのでしょうか。
臼田)地震というのは非常に大きな災害です。心配からこのような情報がたくさん出てくるのだと思います。
西村)「7月に大きな地震が起こる」という説についてどう思いますか。
臼田)現在の科学では、地震予知や予言は不可能とされています。「30年間に1回地震が起きる確率」は出されていますが、それがいつ起こるかまではわかりません。今日かもしれないし、明日かもしれない。30年の間でいつ起こるかわからないとなれば、常日頃から備えることが重要です。
西村)いつどこで大きな地震が起こるかわからないから備えを進めていくことが大切ですね。特に災害時に、"偽の情報"や"噂"が増えるイメージがあります。
臼田)大きな地震が起きて社会にとってつらい状況になると、いろんな人が情報を発信したくなります。今は簡単に拡散できるので、そのような情報が出回りやすくなってしまうのかもしれません。
西村)能登半島地震のときも偽の情報が出回りましたよね。
臼田)救助要請や支援を求める投稿がSNSで相次ぎました。
西村)それはなぜだったのでしょうか。
臼田)不安からそのような情報を発信する人もいますが、当時はSNSで投稿を表示する回数が多いほど収益が得られる仕組みがありました。さまざまな手を使って表示回数を増やしたいという人もいたのです。
西村)実は、国際災害レスキューナースの辻直美さんが撮影した写真が、Xの偽投稿に使われました。投稿されたのは、キッチンの床一面に割れたお皿や調味料などが散乱している写真。これは2018年に発生した大阪北部地震の写真ですが、この写真が今年4月に発生した長野県の地震の被害写真として、別の人の投稿に使われていたんです。その件について、辻直美さんにお話を聞きました。
音声・辻さん)ある新聞社の記者さんから、「あなたの写真、勝手に使われてますよ!」と連絡があって知ったんです。
音声・ディレクター)偽投稿を見たときどう思いましたか。
音声・辻さん)「ふざけんな!」と思いました。あれを見たら「そんなにひどいことになってるの!?」と現場の人も思うし、そのエリアに住んでいる友達や家族がいたら不安になりますよね。何より、あの写真は本物なのに違う地震の写真として使われるとあの写真が嘘で、AIで作ったと思われるかもしれません。わたしはすぐに削除・謝罪依頼をリプライしたんです。何の返事もないです。怒り心頭です。めちゃめちゃ腹立ってます。
西村)今のお話を聞いていかがですか。
臼田)最近本当にこういうことが多いですよね。
西村)自分の写真がまさか偽投稿に使われるなんて。辻さんは、長野県の新聞記者から連絡を受けて、初めて偽情報の投稿に使われているということを知ったそうです。この新聞記者は、自分が取材した現場の実際の被害の状況と比べて、「この写真おかしいな」と思って調べたとのこと。類似画像を見つけるアプリで検索をしてみると、この写真は2018年の大阪北部地震のときに辻直美さんが撮影した写真ということがわかりました。そこで、新聞記者が辻さんにSNSを通じて連絡をしたということなんです。このようにインターネット上から無関係の写真をコピーして投稿する人もいるのですか。
臼田)災害時に、ほかの災害やほかの地域の写真を使って投稿されるものもよく見かけます。ここ最近そういうことが多いと感じています。
西村)最近増えてきたのはなぜだと思いますか。
臼田)それによってアクセス数を稼ぎたいのかもしれません。
西村)もう一つ、この件に関して辻直美さんが訴えたいことがあります。お聞きください。
音声・辻さん)まだ腹が立つことがあるんです。そこにいろんな人がリプで取材依頼をしてくるんです。テレビ・ラジオ・新聞から「この写真について詳しく知りたいので連絡ください」という取材依頼がDMではなく、リプライでくる。だからみんなが見られる。それは愉快でしょうね。一般の人がメディアに取材されるのはすごいこと。有名なテレビやラジオから自分が取材される立場になる。承認欲求が満たされると思うんです。こういうことがフェイクニュースを助長しているということにメディアは気がついてない。それにもまた腹が立っています。
西村)投稿写真や動画が本物かどうか見極めるのは、大手のメディアでも難しいのでしょうか。
臼田)最近は生成AIを使って画像や映像を作るので、見極めるのは難しいと思います。
西村)どうしたら良いのでしょう。
臼田)一個人が発信しているSNSの情報を全面的に信じないことが重要。メディアから「写真について詳しく知りたいので連絡ください」と話がくるとのことですが、それによって情報の拡散が助長されるので、メディアには気をつけてもらいたいですね。メディアは情報を伝える立場。現場での直接取材を活発に行ってほしいです。
西村)リプライで有名な番組が注目しているのなら、「本当かな」と思ってしまう気持ちもわかります。メディアにいるわたしとしても、現場取材を大切にしたいと思いました。生成AIはかなり進化してきています。今はどんなことができるのでしょうか。
臼田)自然な会話文や絵や動画を作ることができます。
西村)普通の写真のように偽画像を作ることができるのですね。例えばどんな写真からどんな画像を作り出すことができるのですか。
臼田)災害時には、普段の風景写真から作った洪水時の写真がよく出回ります。
西村)でもそれが本物かどうか見極めるのは難しいとのこと。どうやって見極めたら良いのでしょう。
臼田)一つの画像をすぐ信じてしまうのではなく、複数の発信源から情報が出されているかを確認すること。個人ではなく政府・自治体、公的機関の公式のアカウントが発信している情報は、信じられる情報です。そのようなところから複数発信されていることを確認してください。
西村)信頼している友達や先輩がSNSに書いている内容は疑った方がいいですか。
臼田)その人がほかの人の情報を発信している可能性もあります。気をつけた方がいいと思います。
西村)怪しい投稿に共通するポイントはありますか。
臼田)拡散されている投稿です。拡散はその人が本当に見た情報ではないことが多いので、まず1回落ち着いて、情報源を見てみましょう。
西村)リポストですね。実際に今まで見てきた投稿の中で、怪しい印象だったものはありますか。
臼田)数年前に静岡で洪水が起こっている画像を目にしたのですが、不自然に感じました。風景写真に泥水が流れているんです。深い川の写真なんですが、「流れが不自然だな」と思っていたらやはり偽画像でした。
西村)先生でもだまされるということがあるのですね。
臼田)今のAI技術があればわからないものがあっても不思議ではないと思います。
西村)技術の進化はうれしいけど、悪いことに使われるのは困りますね。「困ってる人のために、何かできることはないか」という気持ちでリポストしてしまう人もいると思いますが、きちんと情報を見極めることが必要。改めてSNSの情報を受け取る場合、発信する場合に注意した方がいいことがあれば教えてください。
臼田)「だいふくあまい」という言葉があります。SNSの情報を受け取る場合、発信する場合に気をつけてほしいことの頭文字です。
西村)最初の「だ」は何ですか。
臼田)「だ」は情報を受け取る場合に、「誰が」発信しているのかということ。「い」は「いつ」の情報か。1時間や半日前、数日前の情報も一緒に流れてくるので、「いつ」発信された情報なのかを確認してください。
西村)「ふく」は?
臼田)「ふく」は、「複数」の情報源があるのかを必ず確かめる。
西村)最後の「あまい」は?
臼田)「あまい」は自分が情報を発信するときの注意点です。「あ」は自分の安全を確保する。自分が安全でないと情報発信をしてはいけません。「ま」は、その情報が間違った情報ではないか。人が発信した情報を拡散する場合は、それが間違った情報ではないかということを気にしてください。「い」は、位置情報を上手に使う。この情報はどこで起こったことなのかをきちんと示して発信すると良いですね。
西村)大切なことを教えてくださってありがとうございます。最後に改めて伝えておきたいことはありますか。
臼田)SNSでは、リポスト(拡散)を安易にしないこと。もし偽情報だった場合、偽情報を拡散して、より社会に不安を与えてしまいます。リポストをするときは特に気をつけてください。
西村)誰かのためにと思ったリポストが、混乱を招くきっかけになってしまうかもしれません。気をつけましょう。
きょうは、災害時の偽情報について臼田さんにお話を伺いました。