第1402回「関東大震災100年 "火災旋風"の脅威」
オンライン:東京理科大学 教授 桑名一徳さん

西村)大正12年9月1日正午前にマグニチュード7.9、最大震度7クラスの大きな揺れが首都圏を襲いました。
関東大震災の死者・行方不明者は約10万5000人。その9割が火災による犠牲者で、被害を拡大させたのが、火災旋風だと言われています。
きょうは、火災旋風のメカニズムとその対策について、火災旋風に詳しい東京理科大学 教授 桑名一徳さんにお話をお聞きします。
 
桑名)よろしくお願いいたします。
 
西村)火災旋風とはどのような現象ですか。
 
桑名)炎は熱いので、上昇気流が起きます。上昇気流は周囲から空気を取り込みます。そのときに風や地形などの影響で、空気に渦ができることがあり、炎が竜巻のように回転しながら燃えて火災旋風が発生します。
 
西村)竜巻ということは、火災旋風は移動していくということですか。
 
桑名)動き回ることがあります。動き方は複雑で予測が難しいです。
 
西村)備えたくてもいつどこで発生するかわからないということですか。
 
桑名)はい。でも火災旋風は大規模な火災がなければ発生しません。大規模な火災に囲まれると火災旋風が発生する危険があります。
 
西村)火災旋風の炎はどのくらいの高さまで上がるのでしょうか。
 
桑名)50~100mぐらい上がることもあります。風の具合で竜巻のようなものが起きるのですが、竜巻と火災が起きる場所がうまく合うと炎が高く舞い上がります。
 
西村)火災旋風が起きやすい場所はありますか。
 
桑名)火災がある場所、風が渦を巻きやすい場所は火災旋風が起きやすいです。
 
西村)風が渦を巻きやすい場所とは、どのような場所なのでしょうか。
 
桑名)風が早いところと遅いところがあると渦を巻きやすくなります。例えば川の上は風が通りやすいですが、建物があると風が通りにくくなる。川と建物が隣り合ったところで火災が起きると渦が起こりやすいです。
 
西村)関東大震災では火災旋風が発生し、地震で倒壊した家屋を燃やしていったそうですね。
 
桑名)火災旋風が発生すると炎も大きくなり、燃える速さも早くなります。火災旋風が発生すると火災の被害が大きくなります。
 
西村)なぜ被害が大きくなるのですか
 
桑名)炎がすごく大きくなると、炎から出る熱量が増えて、熱が伝わる速さが速くなります。そうすると延焼の速度が速くなり、火の粉が遠くまで飛んで燃え広がってしまうのです。
 
西村)飛び火になって、どんどん燃え広がってしまうのですね。今から100年前の9月1日に発生した関東大震災では、空き地に避難した約4万人が火災旋風に巻き込まれるなどして亡くなりました。竈でお昼ご飯を作っている時間帯に大きな揺れに襲われて、家が倒壊。迫りくる火災から逃れようと、大八車に家財道具を乗せて命からがら、軍服工場の跡地に逃げてきた人たちが炎の竜巻にのまれて帰らぬ人となりました。これは、大切な家財道具に火がついて燃え広がってしまったのでしょうか。
 
桑名)そのように考えられます。
 
西村)当時描かれた大きな火災旋風の絵を見ました。家屋の一部や自転車まで炎の渦に巻き上げられていて。ものすごい威力なのですね。
 
桑名)竜巻のように強い風が吹いたと言われています。自転車などいろいろなものが巻き上げられ、木がねじ切られたそうです。
 
西村)火災旋風は、逃げられないほど早く襲ってくるのですか。
  
桑名)火災旋風は風に乗って動くので、速度は風の速さとあまり変わりません。関東大震災のとき軍服工場の跡地には、たくさんの人が避難していて、周りが火災に囲まれて、逃げる場所がなかったということが問題でした。
 
西村)そこに留まるしかなかったのですね...。火災旋風による被害が拡大していく要因はほかにもありますか。
 
桑名)火災旋風が起きるメカニズムまでは詳しくわかっていません。風が吹くと起きやすいと言われていますが、予測はかなり難しいです。関東大震災のときは、軍服工場の跡地に隅田川があり、風が通り抜けやすく、火災旋風が起きる原因になったと言われています。当時の住宅や家屋は木造で燃えやすく、大規模な火災が起きていたことも火災旋風発生の原因のひとつです。
 
西村)関東大震災の震源地は東京ではなく神奈川でした。東京で大きな火事がなければ、4万人近くの命は助かっていた。火事は本当に怖いですね。火災旋風は、100年前の地震だからこそ起こったことなのでしょうか。
 
桑名)100年前の関東大震災のときは、昼時だったということもあり、同時多発的に火災が発生しました。さらに火災旋風が起こりやすい風が吹いていたことも火災旋風が起きた原因です。今も同時多発的に大規模な火災が起きると火災旋風が起きる可能性はあると思います。
  
西村)阪神・淡路大震災のときは長田で広い範囲が火事になり、多くの人が亡くなりました。あのときは、火災旋風は起きていたのですか。
 
桑名)被害が大きくなる火災旋風は、ほとんど起きませんでした。火災旋風は、風が吹いてないときはあまり発生しないですし、風が強いときも発生しにくいです。阪神・淡路大震災のときは風があまり吹いていなかったとので、火災旋風は発生しなかったと考えられます。
 
西村)東日本大震災のときはどうでしたか。
 
桑名)火災旋風のような竜巻状の火柱が目撃されたそうですが、大きな被害はありませんでした。でも条件さえ揃えば、火災旋風は今後も発生する可能性があります。
 
西村)首都直下地震や南海トラフ巨大地震でも被害が起きる可能性はあるのですね。
 
桑名)はい。大規模な火災が起きて、風の吹き方など火災旋風が発生しやすい条件が揃うと火災旋風が発生するということは考えられます。
 
西村)大阪のような都市部でも起こり得るのでしょうか。
 
桑名)木造住宅の密集地域があると大規模な火災が起こる可能性があり、火災旋風が発生することが考えられます。
 
西村)大阪にも木造家屋の密集地区がありますね。ビルが建ち並んでいる場所はどうですか。
 
桑名)ビルは木造住宅と比べると、耐火性が高く燃えにくいです。大規模な火災が起きないと火災旋風は発生しません。ビルがあるとビル風が吹くので、例えばビルの近くに木造住宅がたくさん建っている場所があると、ビル風によって火災旋風が起きる可能性があるかもしれません。
 
西村)火災旋風はどのように消えていくのですか。
 
桑名)火災旋風は一度発生すると何度も発生します。
  
西村)大きな炎の竜巻がひとつ発生して、いろいろなところに移動するイメージだったのですが。親の火災旋風が発生して、子どもの火災旋風がどんどん生まれていくようなイメージでしょうか。
 
桑名)大きな火災から火災旋風が生まれて、そこから動き回って消えていくということを繰り返します。
 
西村)どんどん生まれていくというのは、本当に恐ろしい状況ですね。何かわたしたちにもできる対策はないのでしょうか。
 
桑名)火災旋風は、大規模な火災が起こらなければ起こりにくいもの。地震が起きたとき、初期消火できる準備をしておくことが大事です。
 
西村)どんな準備をすれば良いでしょうか。
 
桑名)電気ストーブをつけているときに可燃物が引っかかると発火してしまいます。地震が起きたらストーブが消える、感震ブレーカーを購入するのも良いですね。小さな火なら自分で消すことができるように消化スプレーを準備をしておきましょう。
 
西村)阪神・淡路大震災のときは、ブレーカーを落とさずに避難して、通電火災が起きたことも。備えのひとつとして、「ブレーカーを落としてから避難する」ということも頭の中に入れておきましょう。何か地域ぐるみでできる対策はありますか。
 
桑名)火災旋風や大規模な火災が起きてもうまく避難できれば、大きな問題にはならないと思います。場合によっては避難場所が火災に囲まれてしまうことも。そのようなときのために、地域で複数の避難場所を考えておくと良いと思います。
 
西村)家族とも優先順位をつけて、複数の避難場所を決めておいた方が良いですね。わたしが暮らしている地域では、毎年、お正月に出ぞめ式があって、みんなでホースを持って消火活動の訓練をしています。
 
桑名)ホースを使った消火活動は、やったことがないと絶対にできないので、地域で練習をしておくことはすごく良いことだと思います。
 
西村)消防車がすぐに到着しないかもしれません。地域ぐるみで備えておくことは大切ですね。
 
桑名)自分たちで消せる火であるかという判断がまず大事ですが、消せそうだったら消化を試みる。無理であれば、安全なところに避難する、という風に行動パターンを考えておくことが大切です。
 
西村)木造家屋が密集している地域では、どのように対応したら良いでしょうか。
 
桑名)耐火性の高い建物へ建て替えが進むと良いのですが、簡単ではないとは思います。なるべく耐火性の高い建物を増やしていくこと、公園など建物のない空間を整備して、延焼しにくい町にすると良いと思います。
 
西村)広い公園が少ないと避難できる場所にも困ります。広域避難所を作ることもポイントになりそうです。
関東大震災で発生した火災旋風について、東京理科大学 教授 桑名一徳さんにお話を伺いました。