第1392回「『ダンゴムシポーズ』は安全か?」
オンライン:NPO法人 減災教育普及協会 代表 江夏猛史さん

西村)地震の揺れを感じたとき、みなさんはどのような体勢になって身を守りますか。「頭を抱えて、姿勢を低くして、ダンゴムシになりましょう」と教えられた人も多いのではないでしょうか。しかし、このダンゴムシポーズは、本当に安全な体勢なのでしょうか。
きょうは、ダンゴムシポーズの有効性に疑問を投げかけているNPO法人 減災教育普及協会 代表 江夏猛史さんにお話を伺います。
 
江夏)よろしくお願いいたします。
 
西村)減災教育普及協会ではどのような活動をしているのですか。
 
江夏)日本で防災教育をしているのは、防災の専門家よりも学校の先生が多いです。わたしたちは、全国の約2万人の先生と会いましたが、学校の先生には均一に足りていない知識があります。そのような学校の防災教育を変えるために、わたしたちは、子どもたちに防災を教えるのではなく、子どもたちに教えている先生に防災を教えています。
 
西村)その中で、ダンゴムシポーズは本当に安全なのかという疑問を投げかけているのですよね。ダンゴムシポーズはわたしも幼稚園の頃から避難訓練で教わってきました。「頭を守るためにダンゴムシのように丸くなりましょう」と。江夏さんは、なぜダンゴムシポーズの有効性に疑問を持ったのですか。
 
江夏)ダンゴムシポーズだけではなく、手やバックを頭に乗せるポーズをよく見かけますよね。スーパーマーケットではカゴをかぶる。そのように頭を守るポーズに目が行きがちですが、一体何から頭を守るのか考えてみてください。今、西村さんがいるスタジオには、地震が起きたら危ないものはありますか。
 
西村)テレビの大きなモニターが真横にあります。飛んでくるかもしれません。ほかにも大きなカフボックスや時計、マイクスタンド、パソコンなど飛んできたり倒れてきたりしそうなものがいくつかあります。机があるので、地震がきたら机の下に入ろうかな...。
 
江夏)もし、机がなかったら、ダンゴムシポーズをとりますか。
 
西村)机がなかったら真っ先に逃げるかもしれないです。ダンゴムシになっている間にいろんなものが倒れてきそう。ブースの窓も割れるかもしれないし...。
 
江夏)毎日放送の建物は耐震化されていますか。
 
西村)耐震化されています。
 
江夏)そのように「何をするか」ではなく、「何が危ないか」を考えると、ダンゴムシポーズはしないと思うんです。今、西村さんがいる耐震化されている毎日放送のビルが建っている場所は、震度6強という地震想定がされています。
 
西村)かなり大きな揺れですね。
 
江夏)震度6強の場合、耐震化された建物でも崩れます。スタジオの中のものも危険ですが、建物自体が崩れることも想定しておかなければなりません。うずくまっていることが良いわけはありません。耐震化は、崩れない、壊れないことを保証するものではなく、崩れたり、壊れたりするのに時間がかかるように対策されていると考えましょう。
 
西村)耐震が施されていると、崩れるまでに時間がかかる。つまり、逃げる余裕があるということですね。
 
江夏)そうです。そのことが阪神・淡路大震災、熊本地震でもわかりました。
 
西村)屋外に逃げる時間があるのに、ダンゴムシポーズでその場で固まっていると命を守ることができないのということですか。
 
江夏)屋外の方が危ないという場所もあります。その場所の危険度を割り出して、どこに逃げるのが安全なのかを考えて避難訓練をしておくことが大事。全国のさまざまな学校、幼稚園、保育園、会社で指導していく中で、その場所の被害を想定するとダンゴムシポーズになるタイミングは1度もありません。小さな子どもたちでも地震が起きたときに何が起こるかを想像できたら、命を守るための行動について一生懸命考えるようになるんです。教えられたことを懸命に守ろうとする子は、危険を無視してダンゴムシになってしまう。わたしたちは生き延びる可能性を上げることが大事だと思っています。過去の災害と照らし合わせても、ダンゴムシポーズをとることは正しくないということを体感してきました。
 
西村)ダンゴムシポーズを教えてきた先生たちは、子どもたちが自ら「ダンゴムシではなくて、こういうふうに動いた方が命を守ることができる」と考えて行動する姿を見て、驚いたのではないですか。
 
江夏)研修に参加した先生たちはみなさん「目から鱗」と言っていました。
 
西村)現場の先生は、今までどのような思いでダンゴムシポーズを教えていたのでしょうか。
 
江夏)先生たちには「教えやすいから」「みんなができるから」という考えがありました。教育者や保育に携わる人たちには、自分たちは防災プロではないのに、自分たちの発想で意見することに恐怖心がある場合が多いです。昔からやっていることを変えると責任が生じるので変えません。悪しき習慣も良き習慣も自分たちではなかなか変えられないのです。
 
西村)このダンゴムシポーズは、たくさんの自治体が推奨していますよね。
 
江夏)それが大きな問題。神奈川県・川崎市や東京都教育委員会の発行物の中にも「ダンゴムシポーズで命を守ろう」と書かれていて、具体的にダンゴムシポーズをしている子どもの写真が使われています。「教えやすいから」「覚えやすいから」「すでに先生たちが教えているから正しいことだ」という理由でダンゴムシポーズが推奨されています。本当は「危険から身を守ることができるか」が大事なはずです。
 
西村)では、地震の揺れを感じたとき、わたしたちはどうしたら良いのでしょうか。
 
江夏)阪神・淡路大震災の被災者からは「あのときは何もできなかった」という声が多くありました。地震が起きたらどうするかを考える前に何が起こるのかを先に想定しましょう。自宅やビル、地下鉄、体育館、学校...だったらなにが起こるかをよく調べてください。国や県や市が出している被害想定をインターネットで検索することができます。一番わかりやすいものはハザードマップです。ゲーム感覚で、攻撃力6強の揺れに対して、ビルや家、部屋がどれぐらい耐えられるのかを考える。6強の地震が起こったときに、「右か左なら右の方が安全」「前か後ろなら後ろの方が安全」というふうに事前に動きを想定しておく。想定というと国や自治体がやることのように思いますが「マイ被害想定」をつくりましょう。自分に起こる被害について理解していないと逃げ方が決まりません。想定もされていないことに備えるのではなく、危険から最短で身を守るにはどうすれば良いのかを考えて準備していく。それにも限界があると思うので、事前対策として、「寝床には高い家具を置かない」「整理整頓をする」など危険を減らしていく作業も必要。「地震が来たらどうする」と考える前にやることがたくさんあります。みなさんが真剣に取り組むことが命を守ることにつながります。
 
西村)自宅の部屋、勤務先、子どもが通う幼稚園や保育園、学校などにどんなリスクがあるのか、具体的に想像しましょう。住んでいる場所によっても防災対策は変わってくると思います。マイ被害想定を作って、自分の行動について、日頃から考えることが大事だと思いました。
きょうは、NPO法人 減災教育普及協会 代表 江夏猛史さんにお話をお伺いしました。