電話:紀州・白浜 温泉旅館「むさし」女将 沼田弘美さん
西村)7月30日午前8時25分頃、ロシア・カムチャツカ半島付近を震源とする地震がありました。地震の規模を示すマグニチュードは8.7。アメリカの地質調査所によると、8.8という非常に大きな地震でした。日本からは1000km以上離れたところで起こった地震ですが、北海道から和歌山県の太平洋沿岸部に津波警報が発表されました。岩手県の久慈港では1.3mの最大津波を観測。近畿でも和歌山県白浜町で40cmの津波が観測され、全国で200万人以上に避難指示が出されました。これはどんな地震津波だったのでしょうか。京都大学 防災研究所 教授の西村卓也さんのインタビューをお聞きください。
音声・西村教授)この地域は太平洋プレートという海のプレートが陸地の北米プレートの下に沈み込んでいる場所。マグニチュード8.8で非常に規模が大きい地震でした。東日本大震災とプレートの組み合わせやメカニズムが似た地震で、東日本大震災に近い規模の大きな揺れや津波が発生しました。
音声・記者)どうして日本に津波の影響が出たと考えられますか。
音声・西村教授)マグニチュードが非常に大きかったからです。アメリカの地質調査所の研究によると8.8という数字が出ています。マグニチュード9に近い地震は、超巨大地震と呼ばれています。地震が観測されるようになった100数十年の間で10回も起こっていない規模。その一つが東日本大震災です。このぐらいの規模になると、太平洋の周辺のどこで起こっても、太平洋全体に津波が広がります。東日本大震災のときも、日本だけではなく、対岸のアメリカにも津波が押し寄せて被害が出ました。1960年のチリ地震でも、日本に津波が来て大きな被害が出たことがあります。地震の規模がとにかく大きかったことが一番の原因です。
西村)この場所では、73年前の1952年にもマグニチュード9.0の地震が起こっていて、そのときも岩手県に最大1mの津波が来ました。今回の津波警報では、夏休みで旅行中の人、猛暑の中高台に長時間避難した人もいて大変だったと思います。この経験を近い将来起こると言われている南海トラフ地震など、未来の災害への備えにつなげていきましょう。
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西村)ここからは、津波警報が出たときの和歌山県白浜町の状況について、紀州・白浜温泉 旅館「むさし」女将の沼田弘美さんに話を聞きます。
沼田)よろしくお願いいたします。
西村)「むさし」は日本の夕陽百選の宿に選ばれるなど、美しい夕日を眺めることができる人気の温泉宿。白良浜がすぐそばにあるそうですね。
沼田)歩いて1分ほどで白良浜にお出かけできます。
西村)夏休みで、多くの人が宿泊していたのではないですか。
沼田)夏休みシーズンは、海水浴に来るお客さまが多いです。
西村)30日の朝はどんな状況でしたか。
沼田)注意報が出たときは、和歌山県で地震があったわけではなかったので、携帯のアラームが鳴ってもあわてることはありませんでした。しかし、10時前に警報に変わると、チェックアウト後、早めに帰宅準備をするお客さまが多かったです。
西村)お客さまはどの地方から来ていましたか。
沼田)白浜温泉は関西圏のお客さまが多い観光地。大阪や滋賀方面に帰るお客さまが多かったです。注意報・警報のアラームが何度か鳴り、海側を通ると危険なので、山側の高速道路を通るルートを案内しました。
西村)ルートの説明があると安心ですね。
沼田)海沿いは危険なので、できるだけ高台に逃げて帰宅することをおすすめしました。
西村)バスや電車を利用する人はどうしたのですか。
沼田)警報が出てから、チェックアウトをして、バス停で並んでいたお客さまもいました。「バス停で待っているけどバスが来ない」とカウンターに来られた人に、「警報で路線バスが止まったようです」と案内し、バス停に一緒に戻って、待っているお客さまに状況説明をしました。当館のお客さまには、一旦戻るように案内。向かい側のホテルも案内しました。
西村)ほかにはどんな対応をしましたか。
沼田)海外からのお客さまで、電車に乗って大阪や京都へ行く人もいましたが、電車も止まっていて、このままタクシーを待っていても来ない状況だったので、一旦「むさし」の大きな宴会場をおすすめしました。宿泊客以外の人にも、一旦わたしたちの建物で待機をすることをおすすめしました。
西村)「むさし」は何階建てですか。
沼田)建物が2つあって、タワーの建物は17階建て。4階から上はお客さまが利用するフロアです。1階はロビー、2階はレストラン、3階は社員が使う場所。4階の冷房完備の大きな宴会場で待機してもらいました。
西村)冷房も効いて高さもあると安心ですね。
沼田)部屋がないお客さまには、一旦荷物を持って、4階まで上がってもらいました。
西村)地震の揺れがない中で、安全な場所に避難をすすめるには、説明も必要ですよね。海外のみなさんはどんな反応でしたか。
沼田)英語が通じれば、簡単な英語とジェスチャーで伝えました。バス停で待つ人の中には、中国語やスペイン語など、英語が通じない人もいたので、携帯電話の多言語のツールで説明をしました。「津波」という言葉は知っているけど「津波がなぜここに来るの?」「揺れていないのに間違いじゃない?」という人もいました。携帯のアラームがたくさん鳴っていたので、アラームの画面や日本の地図を見せて「津波の予測があるので避難しませんか」と説明しました。
西村)今回は、地震が起こった場所がかなり遠かったにも関わらず、和歌山に津波警報が発表されました。説明も大変だったと思います。
沼田)日本の地図を見てもらって、視覚で訴えることも大事だと今回つくづく思いました。
西村)旅館として普段から災害の備えはしていますか。
沼田)当館は、部屋数が148あり、400~500人近くのお客さまの宿泊が可能です。レストランもあるので、常に3~4日分ぐらいの食材ストックがあります。お米は1週間分くらいはあるので、食料の備蓄については安心してもらえると思います。部屋に配るペットボトルの水のストックもたくさんあります。
西村)耐震工事はしていますか。
沼田)和歌山県は、2017~2019年に県や国の補助金で耐震工事を済ませています。当館も耐震工事をしているので、建物への避難を案内しました。
西村)宿泊客以外も受け入れたということですが、「むさし」は避難場所として指定されているのですか。
沼田)当館のような耐震工事をしている大型施設は、一時避難所として指定されています。津波到達予測時間が11時半ごろだったので、まずは一旦安全確保のために避難を最優先しました。
西村)去年のお盆に南海トラフ地震臨時情報「巨大地震注意」が出ました。それを受けて、何か対策したことはありますか。
沼田)去年の8~9月に避難方法について冊子を用意。夏は海水浴に出かけるお客さまが多いので、海側の出入口に、和歌山県のハザードマップ、白浜・田辺エリアのハザードマップをラミネート加工して貼って注意喚起をしました。
西村)災害が起こった場合、建物が倒壊した場合の安全な避難経路を書いた地図を貼っているのですね。
沼田)地図だけではわかりにくい場合もあるので、目印の写真も載せています。
西村)言葉が通じなくても目で見てわかると、いろんな人も安心につながりますね。普段から旅館で避難訓練はしていますか。
沼田)年に2回、法定基準の消防訓練、火災訓練をしています。和歌山県は南海トラフ地震の影響があるエリアなので、地震津波を想定した訓練をしています。お客さま役のスタッフを当館のスタッフが15分以内に高台まで案内します。
西村)日頃の訓練があるからこそ迅速な誘導につながるのですね。今回の津波警報の対応で、「もっとこうすればよかった」と感じることはありましたか。
沼田)昨年、和歌山県で「和歌山県防災ナビ」というアプリが出されていたんです。多言語対応していて、避難場所が地図上に表記されている便利なアプリ。QRコードでダウンロードすれば、どこの国の人でも言語を選んで確認することができるので、これを海外の人に見せてあげればよかったな...と後で思いました。
西村)今のうちにダウンロードしておくと、旅先で役に立つときがあるかもしれません。このような備えは大切ですね。
沼田)わたしもこのアプリをダウンロードしているのですが、ほかのエリアに行ったとときも、熱中症のアラートなども鳴るのでとても便利です。
西村)わたしも早速ダウンロードしようと思います。沼田さんどうもありがとうございました。