第1502回「ゼッタイに楽しめない茶道体験」
ゲスト:大阪市港区まちづくりセンター 防災アドバイザー 多田裕亮さん

西村)きょうのテーマは、「ゼッタイに楽しめない茶道体験」です。先月、大阪市港区で開かれたこのイベントに番組ディレクターが取材に行ってきました。
きょうは、「ゼッタイに楽しめない茶道体験」を企画したスタッフのひとりで、大阪市港区まちづくりセンターの防災アドバイザー 多田裕亮さんにスタジオにお越しいただきました。
 
多田)よろしくお願いいたします。
 
西村)「ゼッタイに楽しめない茶道体験」とはどんなイベントですか。
 
多田)地震を体験できる起震車の中で、茶道と震度7の揺れを体験できるイベントです。
 
西村)起震車の中で茶道体験をするのですか。
 
多田)今、大阪市・港区は、外国人観光客が増えています。地震のない国から観光に来ている人もたくさんいます。インバウンドには体験型の観光が流行っていて、茶道体験は興味をもたれているので、茶道をしながら、地震の揺れも体験することで、防災意識をもってもらおうとイベントを開催しました。
 
西村)震度7はかなり大きいですね。
 
多田)震度7は日本人でも体験したことがない人が多いと思います。
 
西村)わたしも起震車で震度6の揺れを体験したことがあるのですが、かなり揺れて怖い思いをしました。「ゼッタイに楽しめない茶道体験」の起震車の中は、どうなっているのですか。
 
多田)起震車の中に和室を再現しています。畳を敷いて掛け軸をかけています。
 
西村)本格的!つかまるところはあるのですか。
 
多田)つかまるところはありません。
 
西村)畳の部屋で震度7の揺れが起こるのですね。お抹茶を飲んで、お菓子を食べている最中に震度7の揺れがくるのですか。
 
多田)それができたら面白いのですが、火傷の危険もあるので、茶道体験が終わった直後に揺れるようにしています。外国人や地域の人に体験してもらったのですが、起震車に乗ったことがない人ばかりでした。
 
西村)日本人ですら、防災イベントに行かなければ、起震車を見る機会もないですよね。「ゼッタイに楽しめない茶道体験」をしたアメリカ人のローズさん(22)に感想を聞くことができました。
 
音声・ディレクター)今まで地震を経験したことがありますか。
 
音声・ローズさん)小さい地震を経験したことはあるけど、こんなに大きな地震は初めてです。
 
音声・ディレクター)震度7を体験していかがでしたか。
 
音声・ローズさん)こんな大きな地震を体験したことはありません。テーブルの上のグラスが揺れて、テーブルや椅子が動くぐらいだと思っていました。実際は物が落ちるほど揺れるということを今回知ることができて、地震のイメージが変わりました。
 
音声・ディレクター)日本は地震の多い国なのですが、何か地震に対する備えはしていますか。
 
音声・ローズさん)どのように準備すれば良いのかよくわかりません。避難経路は調べた方がいいと思います。旅行中に地震が起きることもあるので、今回のように地震を実際に体感できるのはとても良いことだと思います。
 
西村)初めて大きな揺れを体験して、イメージが変わったのですね。ほかの参加者はどんな反応でしたか。
 
多田)外国人のほかにも地元の子どもたちにも体験してもらいました。これまで大阪の最大の地震は、大阪北部地震の震度6弱。港区は震度5弱。日本人でも震度7を経験していない人が多いです。子どもたちは座布団を頭にかぶったり、畳に突っ伏したりして、体験してくれていました。このイベントをきっかけに防災意識を高めてほしいです。
 
西村)阪神・淡路大震災のときは、これぐらいの大きな揺れが起こったのだな...と感じることもできますね。外国人は帰国後に防災体験を伝えることもできそう。なぜこのような地震の体験会を開催しようと思ったのですか。
 
多田)このイベントが行われた大阪市港区では、1年前から事業所や行政、個人が連携して外国人観光客のための防災啓発活動として、「おもてなし防災」というプロジェクトを立ち上げています。港区は津波浸水の危険がある地域。南海トラフ巨大地震が発生すると、最短1時間50分で津波が港区に到達し始めると言われています。港区は防災訓練や学習会を続けていますが、外から来る人に啓発する機会がありませんでした。特にインバウンドに防災意識を持ってほしい。「ゼッタイに楽しめない茶道体験」イベントもその一環で行っています。
 
西村)「おもてなし防災」は、ほかにどのような取り組みをしているのですか。
 
多田)イベントで啓発することもありますが、主に公式ウェブサイトに情報をのせています。「おもてなし防災」と検索してみてください。
 
西村)今パソコンで検索してみます。黄緑色のおしゃれなホームページが出てきました!
 
多田)英語版の避難誘導ポスターや啓発ポスターなど、さまざまな防災啓発ポスターやチラシがあります。無料でダウンロードできます。
 
西村)大阪市港区の災害啓発ポスターには、「ここに114分以内に津波がきます。丈夫な建物の3階以上に、にげてください」と英語や日本語、ほか地域の言語でも書かれていますね。
 
多田)中国、韓国、ベトナムなどの言語にも対応しています。
 
西村)全国版のポスターは、津波の高さを書く部分が空白になっているので、自分たちの地域の情報を入れることができるんですね。
 
多田)地域によって津波の到達時間や被害も変わるので、空欄にして、自由に書き込んでもらえるようにしています。
 
西村)ほかにも飲食店向けのマニュアルやポスターを印刷して貼ることができます。
 
多田)自由にダウンロード・印刷して活用してもらえるように呼びかけています。XなどのSNSで、防災や減災、インバウンド向けの防災の情報を発信しています。
 
西村)「おもてなし防災」で検索してみてください。「ゼッタイに楽しめない茶道体験」を現場で見守っていた大阪市港区の山口照美区長にも話を聞くことができました。
 
音声・ディレクター)地震を知らない訪日外国人に防災を伝えるのは、難しいと思うのですが。
 
音声・山口区長)今回は、体験型イベントで実際に地震を体験してもらいましたが、地面が揺れる経験に対して次の行動を起こしてほしい。言語で伝える、ホテルや民泊飲食店で備えるなどあらゆる手を使おうと思っています。ただ、あまり怖がせると、旅行先に選んでもらえない。備えへの意識をうまく広げられたら。「おもてなし防災」は、外国人を守ることを前提としていますが、日本に住んでいるみなさんの命を守ることが一番大事です。自分の命、大事な人の命を守る準備をした上で、余裕があったら、周りの困っている人に協力してください。
 
西村)「おもてなし防災」は、外国人観光客だけに向けたものではないんですね。
 
多田)区長の話にもあった通り、まず日本人がほかの人に安全な場所を説明できるぐらい詳しくなってほしい。まずは被害を一番先に受ける自分たちが、正しい避難場所や防災対策をした上で、余裕があったら近くにいる人にも伝えて一緒に避難してほしい。そのような住民を増やすことが目的です。
 
西村)わたしたちが詳しくなれば、外国人観光客はもちろん、地域に住んでいる外国人、日本語が得意ではない外国人にも伝えることができます。みんなの命を救うお手伝いができるんですね。
 
多田)わたしもポスターを活用しています。隣にスリランカの人が住み始めたとき、「おもてなし防災」のチラシを持っていって「ここは津波の危険がある場所です。いざというときは、すぐそばにある学校に避難してください」と話したら、それがきっかけで仲良くなりました。おすそわけをくれたことも(笑)。多文化交流が始まっています!
 
西村)声をかけたことで、安心・信頼できる関係が生まれるのですね。
 
多田)防災は、誰しも逃れられないもの。ゴミ出しなどいろいろな地域のルールがあると思いますが、まずは防災。近所に外国人が住むのは当たり前になってきましたし。
 
西村)「おもてなし防災」の今後に向けて課題は。
 
多田)どのように継続していくかだと思います。「ゼッタイに楽しめない茶道体験」は地元のイベントの協力があってできたもの。今は万博期間中でインバウンドが増えていますが、閉幕後もインバウンドが減ることはないと思うので続けていけたら。
 
西村)どんなことをしていきたいですか。
 
多田)「ゼッタイ楽しめない茶道体験」が好評だったので、啓発を続けていくためにも、「おもてなし防災」プロジェクトパートナーを募集しています。我々だけでは、資金面も活動機会も作ることが難しいので、企業や団体、個人でもイベント企画などで協力できるパートナーを募集しています。WEBサイト見て、「おもてなし防災」PR事務局にご連絡をいただけたらと思います。
 
西村)今後も「おもてなし防災」の輪がどんどん広がっていくと良いですね。多田さんどうもありがとうございました。