第1497回「大阪北部地震7年~帰宅困難者問題」
オンライン:工学院大学 教授 村上正浩さん

西村)今月18日で、大阪北部地震の発生から7年を迎えます。2018年6月18日午前7時58分頃、大阪府北部を震源とする地震が発生しました。高槻市などで最大震度6弱を記録しました。この地震は、朝の通学・通勤時間帯に発生し、自宅に帰ることができない帰宅困難者が大きな問題となりました。
今、改めて帰宅困難者問題はどうなったのか。都市防災が専門の工学院大学 教授 村上正浩さんに聞きます。
 
村上)よろしくお願いいたします。
 
西村)大阪北部地震は午前7時58分に発生しました。出勤途中や外出中に地震が起きた場合、どうしたら良いのでしょうか。
 
村上)職場以外で被災することはあまり想定していないかもしれません。職場以外で被災すると行き場がなくなってしまいますがその場にとどまることが基本。無理して帰らないというのが大事です。
 
西村)それはなぜですか。
 
村上)みなさんが一斉に災害直後に動き始めると周辺が大変混乱します。救助を求めている人がたくさんいる中で、多くの人々が動き始めると、救助活動に影響することが考えられます。まずはその場にとどまって状況を確認することが第1です。
 
西村)その場合、状況や人の気持ちによっても行動が変化すると思います。実際にわたしの家族も大阪北部地震で体験しました。義理の母が大阪から神戸の職場に向かう電車の中で被災したんです。義理の母は電車の中にとどまったのですが、「降りてください」と指示があり、そこからどこに行ったら良いかわからなくなり、パニックになって、「早く車で迎えに来て!」と夫に電話をしました。夫は義理の母を迎えに行ってしまったんです。
 
村上)そのような場合、心配で迎えに行ってしまうと思うのですが、東日本大震災のときを思い出してください。2011年3月11日に首都圏で帰宅困難者の問題がありました。都心に家族を迎えに行く車の流れが発生して、都心に向かう車が渋滞。さらに家族をピックアップして自宅に帰る車の流れも発生して、二重に交通に影響を与えたんです。そのとき119番の通報をした人のところに、救急車が到着したのが3~4時間後になったそう。車の渋滞はさまざまな活動に影響を与えます。連絡があって迎えに行きたい気持ちはわかりますが、義理のお母様は、そこにとどまっていただく方が良かったですね。電車は途中で止まると、必ず駅まで誘導されるので、そこからは、自分たちで情報を入手して、安全な場所に行きましょう。一定の期間そこにいることを覚悟して行動すべきだと思います。
 
西村)そのまま駅にいたら良いですか。
 
村上)復旧活動をしなければならないので、駅のホームからは出されると思います。その後は、駅から離れて、近くにある一時滞在施設などに移動しましょう。
 
西村)駅にいた方が、電車が動き出したときにわかって安心だと思うのですが、駅にそのままいてはいけなのでしょうか。
 
村上)駅にいると駅の復旧活動に影響します。震度4を超える大きな地震があると必ず電車は止まるので、路線の安全確認をします。規模が大きくなると、全線に渡って目視で点検をすることに。多くの人がホームに集まっていると、交通の復旧に影響を与える。だからできるだけ駅の外に出るというのが正しい対応です。
 
西村)大阪北部地震のときもJR大阪駅にたくさんの人がいました。まずは駅から離れて、別の場所に行くことが大切なのですね。
 
村上)駅で被災する人もいれば、駅の周りで被災する人もいます。そのときに駅に向かう流れを作らないこと。駅にたくさん人が集まると駅の復旧が遅れてしまうので、駅から離れることが重要です。
 
西村)大阪府では、体育館や公民館など公共の施設のほか、駅と直結したホテルなどを一時滞在施設として指定しています。そのような一時滞在施設では、帰宅困難者全員を受け入れることができるのでしょうか。
 
村上)できません。何万人、何十万人を受け入れるためのスペースの確保は難しいです。駅で被災した人も、駅周辺で被災した人もみんなが駅に向かってしまうと、行き場のない帰宅困難者になってしまいます。一時滞在施設は、基本的には行き場のない人を受け入れる場所。職場が近い人は、できるだけ職場で待機することが、行き場のない帰宅困難者を発生させないポイントです。
 
西村)一時滞在施設は、行き場のない人が行くところなのですね。
 
村上)近くに職場など行く場所があればそこに行くこと。とどまるための準備が必要です。わたしは、ラジオ、電池、ライト、ビニール袋などをカバンに入れています。あと紙タイプの歯磨きも便利です。ほかには保温シート、ティッシュ、携帯トイレも。このような備えは、個人ができることだと思うので対策をとっています。
 
西村)それらがカバンの中にあると思うだけで安心につながりますね。
 
村上)スマートフォンに安否確認のアプリもいれておきましょう。171(災害用伝言ダイヤル)では、どの電話番号で登録をするのかを事前に決めておく。災害時にお互いの安全を確認し安心できるような環境を作っておくこと。まずはあわてないことが、とどまることにもつながります。
 
西村)公衆電話から電話することに慣れていない若い世代や子どもたちもいると思います。日頃から練習しておいた方が良いですね。
 
村上)受け入れスペースが足りないのは当然のこと。雨風がしのげて安全な場所なら、あわてて動き始めなくて良いと思います。全てを賄うスペースを用意するとなると、普段から膨大なスペースを用意しておかなければなりません。それは不可能だと思います。スペースが開放されても、自分たちの災害時の対応をしながら受け入れすることになる。地域の人々や観光客も自分でできることをするためには、一定の対策をとっておくことが必要だと思います。
 
西村)わたしたちがしっかりわかっておけば、観光客や海外の旅行客にも案内ができますね。一時滞在施設はどこを見ればわかりますか。
 
村上)町によって異なりますが、大阪の場合、インターネットで確認できます。
 
西村)「大阪市 一時滞在施設」と検索すると出てきますね。
 
村上)携帯のアプリがある自治体も。東京都には専用アプリがあります。あとは各駅の周辺の事業者が情報提供をしているところも。
 
西村)大阪市の場合は一覧が出てきます。中にはホテルや梅田のグランフロント大阪などの商業施設もあります。これはどの地域でも公開されているのですか。
 
村上)場所によりますが、非公表のところもあります。
 
西村)なぜ非公表なのですか。
 
村上)各企業が社会貢献として対応をしています。情報を事前に公開すると、受け入れ時に多くの人が殺到して断れなくなり、安全面の問題も出てきます。なかなか難しい側面もあるのです。
 
西村)大阪市の場合は、事前に公開されています。大阪に住んでいる人はもちろん、旅行で大阪に来る人、わたしたちもどこかに旅行に行く際は、一時滞在施設を調べておくと備えにつながりますね。
 
村上)施設で全員を受け入れできるとは限りません。すぐに一時滞在施設が開設されるかもわかりません。大きな規模の地震なら、企業も自分たちのことをまずしなければならないのでスペースの開設に時間がかかると思います。
 
西村)そうなると、自分自身できちんと備えておくことが大切ですね。
 
村上)それが一番ですね。
 
西村)きょうは、大阪北部地震から7年、帰宅困難者の問題についてお話を伺いました。村上さんどうもありがとうございました。