第1414回「歌手・伍代夏子さんが訴えるペットの同室避難」
オンライン:歌手/りく・なつ同室避難推進プロジェクト アンバサダー 伍代夏子さん

西村)飼い主にとっては大切な家族であるペット。環境省は、災害時に原則としてペットも一緒に避難するようにガイドラインで示していますが、ペットの鳴き声やアレルギーなどを気にして避難所に行かない人が多いというのが現実。また一緒に避難しても、ぺットは飼い主と離れた別の場所に集められる場合がほとんどです。
飼い主とペットが同じ場所で過ごす「同室避難」を広める活動を始めた歌手の伍代夏子さんにその想いを聞きます。
 
伍代)よろしくお願いいたします。
 
西村)伍代さんは、ペットの避難について、どのようなプロジェクトを立ち上げたのですか。
 
伍代)「りく・なつ同室避難推進プロジェクト」というプロジェクトです。今の日本ではペットと一緒に避難することが難しいです。飼い主にとって、我が子同然に一緒に暮らしている家族を残して避難することは考えられないことなのですが、なかなか受け入れられません。いざというときのためにみんなが理解し合える環境を作とうとプロジェクトを立ち上げました。
 
西村)ペットの避難といえば、「同行避難」という言葉はよく聞きます。「同行避難」と「同室避難」は違うのですか。
 
伍代)「同室避難」は飼い主とペットが同じ場所で避難生活をすることです。「同行避難」は、飼い主は室内、ペットは屋外というふうに生活場所が別になります。それでもありがたいのですが、飼い主と離れてしまうと騒ぐ犬もいます。犬同士で喧嘩になることもあります。犬は飼い主と一緒にいると安心するので、おとなしくしていることが多いです。大事なのはペットと同じ部屋で避難生活ができるということです。
 
西村)「同行避難」は一緒に避難所に行くことで、「同室避難」は同じ部屋で一緒に避難生活を送ることなのですね。わたしは金魚ぐらいしか一緒に暮らしたことがないので、ペットと同室でどのように避難生活を送るのか想像がつかないです。
 
伍代)避難所は、ペットがいない人が生活する建物とペットを連れている人たちが生活する建物で区切ることが必要だと思っています。さらにテントや個室で仕切ることが大事。飼い主と一緒にいることで犬は安心しますが、隣近所のようすが見えると犬同士が喧嘩したり、吠えたりすることがあります。西村さんは、飼っていた金魚に名前を付けていましたか?呼んだら来てくれましたか?
 
西村)「きんちゃん」という名前をつけていました。小学校ぐらいのときに飼っていました。
 
伍代)わたしもお祭りの金魚すくいですくった金魚を家で育てて、名前付けた経験があります。本当にかわいくて。死にそうになったら隔離して薬浴させ、生きていて欲しいと願っていました。もしわたしがまだ金魚を飼っていて、避難することになったら、連れて行きたいと思うと思います。避難用持ち出し袋に金魚の餌まで用意しないと思いますが、それぐらいしても連れて行きたいと思うのが飼い主の気持ち。犬や猫に限らず、金魚でもワニでも同じ。ペットをおいていくというのは、命を捨てていくということに思えるんです。ペットを連れて行きたいという人の気持ちを尊重したいのですが、それを嫌がる人がいるというのも現実。その人たちの気持ちもわかってあげたい。そういう優しい世の中であってほしいという想いでプロジェクトを進めています。
 
西村)さまざまな考えを持った人、動物アレルギーの人もいるかもしれませんよね。みんなが優しい気持ちで避難生活を送ることが大切ですね。
 
伍代)他人のことをもう少し考えていきたいですね。そのためには環境を作ることが大事。ペットがいる人同士、アレルギーで動物が苦手な人同士...の避難所生活が送れるような環境作りを続けていきたいと思います。
 
西村)飼い主さんにとっても被災して心が暗い中で、犬好きの人たちと同じ部屋になったら会話も弾んで癒しにもつながりそうです。伍代さんは歌手活動もある中、なぜ「同室避難」を広めようと思ったのですか。
 
伍代)わたしは、りくという犬を飼っていて、息子のようにかわいがっています。わたしは子どもの頃から犬と一緒に暮らしてきました。結婚生活で犬を飼う生活からが遠ざかっていたのですが、23年ぶりにペットを迎え、りくと暮らし始めました。そんなとき昨年、歌手生活40周年を迎えたのですが、声が出なくなる病気になったんです。原因がわからなくて。痙攣性発声障害、過緊張性発声障害、局所性ジストニアの3つが混ざった症状で、ストレスからうまく声が出せなくなってしまいました。40年も歌ってきたので、「もうそろそろやめて、社会に還元しなさい」と神さま言っているのかな...といろんなことを考えたときにりくを迎えたんです。でもりくと笑って遊んで、楽しく過ごしてるうちに少しずつ喋れるようになってきたんです。りくがわたしを癒してくれました。そして昨年の夏、台風や線状降水帯による水害のニュースを見て、東日本大震災害のことを思い出したんです。わたしは、東日本大震災のとき炊き出しに行ったのですが、そのとき大きなワンちゃんとゴム草履・短パン姿の女の子がいたんです。ドラム缶の焚き火で暖をとっているその子に「寒くないの?」と聞きました。話しを聞くと、地震が来る前にワンちゃんを洗っていたからその姿なのだと。ワンちゃんと一緒に命からがら津波から逃げて、ずぶ濡れのまま山の上で何日か過ごして、今もそこにいるというんです。「避難所に行ったら?」と言うと「ワンちゃんと避難所に入れなかった」と言っていたことを思い出して。わたしはリくを飼っているので、犬だけおいていけない気持ちがすごくわかります。その出来事を思い出したときに、いつ災害くるかわからないのだから、今からペットと避難できる体制を整えていかなければと思ったんです。
 
西村)「りく・なつ同室避難推進プロジェクト」は具体的にどのような活動をしていくのでしょうか。
 
伍代)さまざまな自治体を訪問しています。先日、山梨県の大月市役所を訪問し、ペットと避難できる避難所をつくることについて、良いお返事をいただきました。鹿児島県・奄美大島にも行きました。市長さんがワンちゃんを飼っていて、同室避難について理解してくれました。具体的に進めてくれるとのこと。そして、わたしたち飼い主の問題もあります。ただかわいいからと人に迷惑をかける犬まで避難所に連れて行くのではなく、日頃から人に迷惑をかけないようなしつけをすることが大事。それをペットを飼う人たちにどのように伝えていくかは課題の一つですが、伝えていかなければならないことだと思っています。
 
西村)ペットと一緒に暮らしている人たちはどんなことをしたら良いのでしょうか。
 
伍代)クレートトレーニングとって、小型犬に限りますが、ある一定の時間、小さなキャリーバッグなどにいれて2~3時間お留守番をするトレーニングをしてほしいです。箱の中が安全で、自分の身を守ることができると理解させる。犬は元々狭いところが大好きな動物なので、その場所が安全だとわかるとそこでおとなしくできる動物なんです。トレーニングをせずにいると部屋の中で粗相してしまうことも。狂犬病やワクチンの接種をしていない場合は、ほかの犬たちが集まる場所には連れて行けません。被災して、一緒に避難するときのために準備をしてほしいです。
 
西村)しつけ、ペット用品の準備、ワクチン接種など飼い主側の意識も上げることも大切なのですね。
 
伍代)動物嫌いの人もたくさんいるので、すべての人に理解を求めるのは大変なことだと思います。まずは自治体に協力してもらって体制を整えていこうと思っています。
 
西村)大きな災害が起きる前に体制を整えておくことが大切なのだと改めて思いました。
きょうは、歌手で、「りく・なつ同室避難推進プロジェクト」アンバサダーの伍代夏子さんにお話を伺いました。