第1399回「都市型の洪水~『内水氾濫』のリスクと対策」
オンライン:秋田大学 准教授 渡邉一也さん

西村)先月中旬に秋田県を襲った豪雨では、秋田市内の住宅の4分の1にあたる約3万2000世帯が浸水被害を受けたとみられます。なぜここまで被害が広がったのでしょうか。
きょうは、被災地を調査した河川工学が専門の秋田大学准教授 渡邉一也さんにお話を伺います。
 
渡邉)よろしくお願いいたします。
 
西村)なぜ被害が大きくなってしまったのでしょうか。
 
渡邉)3つの理由が考えられます。内水氾濫、外水氾濫、さらに内水氾濫と外水氾濫が合わさったもの。この3つが主な要因になっています。
 
西村)内水氾濫とはどういう状況ですか。
 
渡邉)外水氾濫は一般的な洪水。それに対して内水氾濫は、アスファルトで地面が固められている都市部などで、地下に水が浸透していかずにどんどんたまってしまう現象です。例えるならバスタブに長時間水が供給され続けて排水が追い付かないような状態です。そのような内水氾濫により被害が拡大しました。
 
西村)マンホールの蓋が押し上げられて、噴水のようになることがありますが、あれも内水氾濫ですか。
 
渡邉)はい。通常、雨水は河川や処理場に流れて行きますが、河川も増水しているので、水の逆流が起きて、マンホールから溢れることがあります。
 
西村)今回の秋田市ではどのような内水氾濫が起こったのでしょうか。
 
渡邉)70年ぐらい住んでいる人も「ここまでの被害にあったことはない」と言っていました。昔に比べて土地の使用状況も変わってきています。昔は田んぼや畑で地下に水が浸透していたところも、今はアスファルトで覆われています。そのようなところは、なかなか水がはけていかないので、水がたまりやすくなり、水位が上がってしまったと考えられます。
 
西村)この70年の間に都市化が進んでビルが建ち、街の様子が変わったことにより、内水氾濫が起きやすくなったのですね。
 
渡邉)昔は、限界はありますが地下にある程度、水が染み込んでいました。今は地下に浸透していくことがほとんどないので、上に行くしかなく、水がたまったのだと思います。
 
西村)内水氾濫が起こりやすい地形はありますか。
 
渡邉)秋田市は沿岸部に近く、比較的勾配が少ない土地。元々水が流れにくい場所です。秋田市だけではなく、大阪・東京・神戸の都市も沿岸部にあるので、同じく水がたまりやすいです。
 
西村)内水氾濫はどこでも起こり得るのですね。
 
渡邉)大平という山の方の地域では、2日で400mmという非常に激しい雨が降ったのですが、市内は15~20mmの雨量でした。経験したことのないような雨ではなかったのですが、すごく長い時間降り続けたのです。20mmでも12時間降り続けると雨量は240mmになります。少し離れた五城目町など県全域が被害を受けています。広範囲で長い雨が降ったことが今回の被害が大きくなった要因だと思います。
 
西村)弱い雨でも長い時間続くと、これだけ多くの被害を生み出してしまうのですね。渡辺さんが現地を取材したときはどのような様子でしたか。
 
渡邉)わたしが訪れたときは、車が動けないところもあり、低いところは水没している状況でした。
 
西村)それは、雨が降り始めてどれぐらいの時間が経ってからですか。
 
渡邉)昼過ぎだったので12時間は経っていたと思います。
 
西村)ニュース映像では車が浸水している様子も見ました。住民の中には車で避難した人も多かったのでしょうか。
 
渡邉)はい。3連休の初日ということもあり、行楽で出てかけていた人や観光客も多かったと思います。
 
西村)被災した住民は、他にどのようなことを話していましたか。
 
渡邉)階段が1段高いだけでも被害の差があったので、備えが必要と言っていました。ハザードマップである程度浸水すると予想されていたエリアは当たっていたと思います。
 
西村)やはりハザードマップはチェックしておかないといけませんね、
  
渡邉)6月30日から秋田市がハザードマップを公開していました。周知期間は短かったですが、今回の浸水エリアに近い予測となっていました。
 
西村)被災した住民は、家の片付けで困っていることはありましたか。
 
渡邉)水害は綺麗な水ではなく、細菌やカビなどを含む水で汚れてしまうので消毒も必要です。手間と時間もかかるし、水を吸っているので物が重くなっています。「ボランティアの手助けがありがたかった」と言っていました。
 
西村)水が引いた後の片付けで注意することはありますか。
 
渡邉)雑菌は見えないので、暑いですがマスクをして吸い込まないようにしましょう。
 
西村)手袋もしておいた方がいいですね。
 
渡邉)感染症などの危険性を排除していくことも必要です。
 
西村)マンホールと同じようにトイレの逆流もあったのですか。
 
渡邉)逆流した下水が流れ込んできたところもあったと思います。
 
西村)内水氾濫はどこの地域でも起こり得るとのこと。わたしたちがいる大阪でも起こるのかと心配です。
 
渡邉)同じように雨が降れば起こります。大阪は土地が低く都市化しています。今回は都市型の災害。田んぼなどがあれば、水が浸透していきますが都市部は水が浸透していきづらい。大阪や神戸は地下鉄や地下街が発達しているので、そのようなところに水が入っていく恐れがあります。
 
西村)地下街が浸水してしまうこともあるのですね。
 
渡邉)地下の方が危ないです。上から水が入ってきて出られなくなります。
 
西村)止水板で対策をしているところもありますが、それを越えるような量の水が入ってくるかもしれないのですね。
 
渡邉)止水板や土嚢で対策をするのが一般的ですが、越えてくることもあります。秋田でも土嚢を積んでいたところありましたが、場所によっては、1~2.5m浸水したところもありました。
 
西村)そうなると、少しでも高いところに避難した方が良いですね。自治体ができる対策はありますか。
 
渡邉)排水設備を整えたり、水がきちんと流れるように河川を整備したりというような対策はとられていますが、どうしてもハード面は費用がかかるので、追いついていないところもあります。ほかの地域では地面に浸水性の高い舗装を使っているところも。大型のショッピング施設建設時に地下に水を浸透させるような工夫をしているところもあります。
 
西村)大阪でも地下に貯蔵施設を作っているそうですね。
 
渡邉)東京にも外郭放水路があります。地下に水を溜めて、地表の水を減らす対策がとられています。
 
西村)わたしたちが備えておくべきことはありますか。
 
渡邉)個人でできる対策は限られていますが、水を出さないということが重要。貯水桝を設置して雨を蓄えるのも有効です。家は被害を受けるかもしれませんが、まずは命を守ることが重要なのでどのように避難をするかを把握しておきましょう。
 
西村)どのタイミングで避難するかを決めておくことも大事ですね。
 
渡邉)「ここまで水が来たら避難しよう」など自分なりの目安を決めておくと良いと思います。
 
西村)自治体からの避難指示・避難の警戒レベル等の情報も収集しながら家族で決めておくことも大切ですね。
 
渡邉)自治体から出る情報が必ずしも体感と合わない場合もあります。今回は「急に水位が上がった」と。内水氾濫と外水氾濫の影響を両方受けた今回のような地域は、想定より2倍以上の速さで水位が上がる可能性があります。自分の体感で避難のタイミングを決めておくと判断の基準にしやすいと思います。
 
西村)大阪市でも内水氾濫のハザードマップが出ていましたね。
 
渡邉)そのような良い情報があるのに、見ていない人が多いです。ハザードマップを知らない人もいるので、もっと活用してもらえたらと思います。
 
西村)個人の対策で、貯水桝を作っておくというのはどういうことでしょう。
 
渡邉)雨が雨樋を伝って、外に出てしまうと水がそのまま地面に流れてしまうので、貯水タンクを用意して一時的にためます。たまった水は平常時に水やりなどに使って、すぐに外に出さないようにする。1人でやってもあまり効果はないのですが、たくさんの家で対策して水の流出を遅らせて、排水施設の能力を超えないようにすることが必要です。
 
西村)自治会や地域ぐるみで話し合うことも必要ですね。
 
渡邉)それだけで対策ができるかはわかりませんが、意識を高めることは必要だと思います。
 
西村)今回の豪雨の影響で秋田市の下水道の流れが悪くなり、洗濯や風呂の水の排出を控えるよう呼びかけていましたが、これは効果的なのでしょうか。
 
渡邉)下水道には勾配があり、高い方から低い方に水が流れます。それが逆流するとあふれます。洪水が起きている間は水が流れにくい状況なので、できるだけ水は流さないようするということです。
 
西村)ひとりひとりにもできることはあるのですね。しっかりと覚えておいて、備えを進めていきたいと思います。
きょうは、秋田大学准教授 渡邉一也さんにお話を伺いました。