第1514回「写真洗浄ボランティア"あらいぐま大阪"」
ゲスト:あらいぐま大阪 篠原佳代子さん

西村)2011年の東日本大震災をきっかけに始まった「写真洗浄ボランティア」。津波で流され、海水や泥で汚れてしまった写真を洗浄し、持ち主に返すボランティア活動です。この活動はその後、「あらいぐま作戦」として全国各地に広まりました。
きょうは、2019年から大阪を拠点に、写真洗浄の活動を始めた「あらいぐま大阪」の代表 篠原佳代子さんにスタジオにお越しいただきました。
 
篠原)よろしくお願いいたします。
 
西村)「あらいぐま大阪」はどんな活動を行っているのですか。
 
篠原)このボランティア活動は2011年の東日本大震災をきっかけに始まりました。その後、西日本豪雨(2018年)や熊本豪雨(2020年)などもあり、全国的に広まりました。わたしは、西日本豪雨のときに倉敷市真備町で初めて写真洗浄ボランティアに参加しました。写真洗浄という活動があるのは知っていましたがなかなか行く機会がなくて。真備町にはボランティアで入っていたので、写真洗浄ボランティアに一度行ってみようと始めました。
 
西村)被災者が大切にしている写真を洗浄する体験をして、どう思いましたか。
 
篠原)そんなに難しくなくて、やりやすいボランティアでした。とても手間がかかる作業なので、たくさんの人の手が必要だと思いました。思い出を守ることができるので、やりがいがあると思います。
 
西村)篠原さんはなぜ代表になって、大阪で活動しようと思ったのですか。
 
篠原)真備町に毎週通えないので、写真を送ってもらったり、持ち帰ったりすることができれば、大阪でもできると思いました。呼びかけたところ、トントン拍子で話が進み、毎週活動ができるように。自分がやりたかったことをやったら、みなさんが集まってくれたんです。
 
西村)毎週日曜日に大阪市阿倍野区の桃ケ池公園市民活動センターで写真洗浄会が開催されています。先月行われた「あらいぐま大阪」の写真洗浄会にわたしも参加してきました。そのようすをお聞きください。
 
音声・西村)「あらいぐま大阪」の活動場所にやってきました。きょうの参加メンバーは約10人。多くが大学生です。みなさん作業を進めています。篠原さん、わたし初めてなのでやり方を教えてください。
 
音声・篠原)アルバムが濡れてしまった場合は、早く乾かすことが大事。濡れたままにしておくとどんどん劣化が進んで、インクが溶けて何が映っているかわからなくなります。アルバムが乾いたら、写真を剥がします。次に剥がした写真を洗い流して干します。洗い残りや水滴の汚れをエタノールでふいて綺麗にして、ポケットアルバムに入れてお返しします。
 
音声・西村)きょうは、どんな作業をするのですか。
 
音声・篠原)きょうは、アルバムの台紙から写真を剥がす作業です。
 
音声・西村)どちらの被災地の写真ですか。
 
音声・篠原)昨年9月の奥能登豪雨で被災した輪島の写真を大阪で預かったものです。
 
音声・西村)こちらの写真はかわいらしい男の子が写っています。保育園の写真でしょうか。水に濡れて粒がついています。これはカビですか?
 
音声・篠原)台紙が黒くなっている部分はカビです。黒や緑になっています。粒はインクが溶けた状態で乾いたものです。台紙の糊に写真を貼っていくタイプのアルバムは、糊にカビができます。まず台紙から写真を剥がすためにフィルムをカッターナイフで切ります。このときに裏の写真を切ってしまわないように、フィルムだけを切ってください。
 
音声・西村)力を入れすぎると裏の写真まで切ってしまうんですね。フィルムをやさしく切って、カッターナイフの先の部分を写真の下に滑り込ませて優しく剥がしていきます。最初の写真を剥がしているところですが、間に黒い粒々が予想以上に多くついています......今取れました!
 
音声・篠原)簡単に剥がれる場合もありますし、このように台紙が一緒に付いてきてしまうことも。なるべく写真を守って作業してください。
 
音声・西村)家族の思い出が伝わってきて、すごく温かい気持ちになります。カッターで大切にフィルムを切っています。
 
西村)アルバムの汚れ具合がすごくかったです。白いアルバムが泥と水に浸かってシワシワになっていて、ページも張り付いていました。写真の汚れを丁寧に取り除いていくと見えてくる表情があるんです。不器用なわたしに務まるのか心配でしたが、篠原さんが優しく丁寧に教えてくれました。ありがとうございました。
 
篠原)こちらこそありがとうございます。
 
西村)台紙も波打っていて汚れもすごいのですが、丁寧に剥がす作業は大変ですね。
 
篠原)そうですね。より多くの人に手伝ってもらえたらと思います。
 
西村)どの作業が一番大変ですか。
 
篠原)状態によりますが、西村さんに体験してもらった、アルバムから写真を剥がす作業は時間がかかります。最初の干す作業は、なかなか乾きにくいので大変かもしれません。みなさんに手伝ってもらう工程ではないのですが。
 
西村)アルバムが泥に浸かってしまったら、すぐに干しておいた方が写真の再生には効果的なのですね。
 
篠原)汚れてビニール袋に入れてしまう人が多いですが、濡れた状態のまま泥を落としてからすぐに干してください。ページが重ならないように広げて干すと写真を守ることができます。
 
西村)わたしが取材に行った日は、追手門学院大学の学生さんたちが参加していました。学生さんにお話を聞きました。
 
音声・西村)写真洗浄のボランティアに参加するのは何回目ですか。
 
音声・学生A)2回目です。
 
音声・西村)何がきっかけでこのボランティアを知ったのですか。
 
音声・学生A)大学のボランティアの部活で存在を知って、やりがいがあって、楽しそうと思って参加しました。写真が手元に帰ってきたときにうれしいと思ってもらえるようにやっています。
 
音声・西村)実際に被災地には行ったことはありますか。
 
音声・学生B)被災地に行ったことはないのですが、行ったことがなくても、被災者に対して何かできるのがいいなと思って。少しでも力になれたらと参加しています。
 
西村)もうひとり、お話を伺ったのは、「あらいぐま大阪」で2年以上、写真洗浄ボランティアを続けている西川利子さんです。西川さんは、自分自身の家族の思い出を重ねながら作業を行っているそうです。
 
音声・西川さん)写真洗浄をしていると無になれるんです。この写真、多分幼稚園の運動会だと思うんですけど、"うちの娘の運動会もこんなんやったな..."と。わたしも思い出すきっかけになる。きっとこのアルバムの持ち主もこれが帰ってきたら、被害にあう前の暮らしを思い出して、先に進む小さなきっかけになるんじゃないかなと思います。
 
音声・西村)一番印象的だった写真は。
 
音声・西川さん)生まれたばかりの赤ちゃんの写真がいっぱいあって。おっぱいをあげている写真があったんです。その赤ちゃんが大きくなっていたら、これは絶対残しておいてあげたいなと思いました。
 
西村)作業している人にも思いがあるんですよね。西川さんは60代。この日は大学生が多かったのですが、いつもどんな人が参加しているのですか。
 
篠原)SNSを見て、個人で参加してくれる人もいますし、最近は大学生が団体で参加してくれています。よく来てくれる小学校2年生の女の子もいます。座って手作業ができるので、高齢者もたくさん参加しています。
 
西村)お孫さんと、おじいちゃん・おばあちゃんが一緒に参加することもできるのですね。被災地に行きたいけど行けない人が、大阪できるというのも良いですね。どうやってこの写真を預かるのですか。
 
篠原)能登半島地震や奥能登豪雨で被災したアルバムは、「あらいぐま能登」からアウトソーシングで預かったり、直接持ち主から送ってもらったりしています。現場作業に入っているボランティア団体から声をかけてもらってつながることもあります。
 
西村)洗浄後のアルバムを持ってきてもらいました。こんなに綺麗になるんですね!泥をウェットティッシュで拭いて、枠が白くなっている部分はあるのですが、ここまで綺麗になるのなら捨てない方が良いですね。返却したときの持ち主の反応はいかがですか。
 
篠原)高齢者は写真に対する思いが強く、「生きてきた証。本当にありがとう」と言ってくれます。「これから生きていく糧になる」と言ってもらったこともあります。
 
西村)写真につけられていた付箋からアルバムを作った人、撮影した人のお子さんへの愛情も伝わってきます。写真は心の復興に欠かせないものですね。
 
篠原)やりがいがあります。写真が水に濡れたり、泥をかぶったりすると捨てしまう人が本当に多いのですが、このように残せるので、捨てないでほしいです。捨てることはいつでもできます。捨ててしまったら終わりなのでぜひ残してほしいです。
 
西村)ありがとうございます。写真洗浄ボランティア「あらいぐま大阪」に参加したい人はインスタグラムとFacebookで情報発信しているので、「あらいぐま大阪」で検索してみてください。篠原さんどうもありがとうございました。