第1511回「なぜ高台の空港駐車場が浸水?」
オンライン:だいち災害リスク研究所 所長 横山芳春さん

西村)今月5日、静岡県内に大きな被害をもたらした台風15号について、気象庁は、観測史上最大クラスの竜巻が複数発生したと発表しました。また今回の台風では、山の上にある空港の駐車場が浸水して、多く車が水に浸かってしまいました。なぜこうした被害が発生したのか。
きょうは、だいち災害リスク研究所 所長で、地形や地質から災害が起きた要因を調査している横山芳春さんにお話を伺います。
 
横山)よろしくお願いいたします。
 
西村)今回の台風では、なぜ竜巻による被害が起こったのですか。
 
横山)台風というと台風から吹く強風で被害が出ると思いがちですが、低気圧が発生して風が吹き荒れるので、竜巻も発生しやすいです。気象庁の統計では、9月が一番竜巻の起きる回数が多いです。
 
西村)今回の台風15号では、竜巻でどのような被害がありましたか。
 
横山)多数の家屋の被害があり、亡くなった人もいます。
 
西村)静岡県にこれほどの被害が出てしまった原因は?
 
横山)沿岸部には、海から暖かく湿った空気が流入しやすいので、竜巻は太平洋側の地域で発生頻度が高いです。山側の地域は竜巻が発生しにくいですが、平地では気流が障害物に遮られずに回転しやすいので、竜巻が起きやすくなります。静岡県は条件が揃っています。
 
西村)関西では滋賀県に竜巻注意情報がよく発表され、被害も発生しています。滋賀県も竜巻が発生しやすい地域ですか。
 
横山)紀伊半島など山側の地域に比べると、琵琶湖周辺は平地が多いので竜巻が発生しやすいです。
 
西村)滋賀県は平野部が多く、琵琶湖もあるので竜巻が発生しやすいのですね。今回の台風15号では、竜巻のほかに山の上にある空港の駐車場が浸水しました。この駐車場はどんな場所にあるのですか。
 
横山)被害があった富士山静岡空港は、標高130mの山の上にあります。富士山からは少し離れた地域にあり、山を人工的に切り拓いて滑走路を作った空港です。
 
西村)そこの駐車場が浸水したのですね。
 
横山)低い場所の川沿いなら浸水するイメージがあると思いますが、山の上の駐車場が浸水して驚いた人が多かったです。
 
西村)こんなに高いところにあるのに浸水してしまったのはなぜですか。
 
横山)地形の高低差によるものです。浸水した駐車場は、空港の端にあるのですが、そこだけ数十cm低くになっています。記録的な豪雨が降ったときは、くぼんだ場所があると、そこに水が集まってしまいます。排水がうまくできないと浸水してしまいます。
 
西村)洗面器に水がたまるイメージですか。
 
横山)そうです。洗面器の底のような場所に駐車場があって、そこに雨水が集まってしまいました。
 
西村)数十cmの高低差でも大きな被害が出るのですね。
 
横山)数十cmでも低いと水が集まります。風呂の底から水を抜くようにどんどん水が抜けていけばよいのですが、お風呂を排水していても、周りからどんどんホースで水を入れていったら水位が上がってしまってしまいますよね。それと同じ現象です。
 
西村)車の持ち主は、かなりショックでしょうね...。
 
横山)まさか山上の駐車場に車を置いて、水につかるとは思っていないでしょうからね。
 
西村)車はどれぐらい浸水したら走行できなくなるのでしょうか。
 
横山)車によりますが、車高の低い車なら30cmぐらいでも走行不能に。タイヤの半分ぐらいまで水に浸かると故障に至ります。
 
西村)この事例は、ほかの地域でも起こり得ることですか。
 
横山)高台であってもどこでも、大雨が降った場所で、周りよりも低い場所なら同じようなことが起こり得ます。
 
西村)横山さんは、実際にこのような事例で浸水した場所に調査に行ったことはありますか。
 
横山)内水氾濫が起きた場所や原因を現地に調べに行っています。最近多いのは、高台でも周りより低い場所で起こる被害。水は低いところに集まります。今回の空港の事例と同じように、数十cmでも低い場所があったり、妨げになる障害物があったりすると浸水が起きます。
 
西村)障害物とはどんなものですか。
 
横山)中央分離帯やガードレールの基礎が20~30cm高いとダムのようになってしまうことがあります。
 
西村)そこに水が溜まってしまうのですね。
 
横山)壁や建物が障害となって、人工的なくぼ地を作ってしまうことがあります。
 
西村)アンダーパスもそうですか。
 
横山)アンダーパスはまさにそのようなパターン。線路をくぐるために周りの道路を低くしているので、浸水被害が起きやすいです。
 
西村)このような浸水は、全国どこでも起こり得るのですね。高台にありながら周りと比べると少し低い場所とは、具体的にはどんな場所がありますか。
 
横山)車で走っていたらほとんどわからないと思いますが、自転車で走るとわかりやすいです。少し坂になっている場所、雨の日に水が流れていく場所など。水溜りがよく残っている場所は周りより低いので浸水しやすいです。
 
西村)排水が悪い場所とはどんな場所ですか。
 
横山)ゴミなどで側溝が詰まっていると排水能力が低くなるので、きちんと排水ができないことで、浸水してしまいます。
 
西村)台風シーズンは「側溝の掃除をしておきましょう」といわれますね。
 
横山)12月に実際にあった事例では、紅葉シーズンの落ち葉が多い時期に雨が降って、周りより低いところに落ち葉が詰まって、うまく排水できずに浸水に至ったケースがあります。
 
西村)落ち葉は軽いものなので大丈夫かな...と思いますが。
 
横山)大量に集まって排水を妨げてしまうと、水が溜まってしまうので、浸水が起きやすくなります。
 
西村)先週実家に帰ったときに、排水溝に落ち葉がたまっていたので久しぶりに掃除をしてみたんです。泥も一緒にたまっていて掃除が大変でした。しっかりチェックしておいた方が良いですね。
 
横山)台風シーズンの前にはきちんと側溝の掃除をして、水が流れるようにしておきましょう。
 
西村)一般的な下水道の排出能力は、どのように想定されているのですか。
 
横山)都市部で1時間当たり50mmの雨に対応できるように設計されていることが多いです。
 
西村)最近は、1時間に100mmのゲリラ豪雨が降ることもあるので、簡単に超えてしまいますね。

横山)場所によっては、75mmで設計されているところもありますが、それでも最近は80~100mmを超える雨が頻繁に降っているので、想定外が起きやすくなっています。
 
西村)ほかにも実際に調査した場所で、具体的な事例はありますか。
 
横山)田畑があると土の中に水が浸透していきますが、今は、道路は全部アスファルトでおおわれています。都市部ほど水害が起きやすいことも。周りよりも少し低い場所、場合によっては、普段は意識しない自宅の駐車場などに水がたまることもあります。地図やハザードマップでよく土地の高さを確認すること。ハザードマップで色がついてない場所でも内水氾濫が起きることがあります。水をふさぐような構造物によって人工的に低い場所になっていないか注意してください。
 
西村)インターネットで地域名を入れるとすぐに確認をすることができます。ほかにも調べる方法がありますか。
 
横山)方法はふたつあります。一つは現地を実際に見ること。これから家を買おうとしているとき、借りるときなど内見をするときは、一般的には晴れている日の方が日当たりがわかりますが、雨の日に見ることをおすすめします。
 
西村)あえて雨の日に見るのですね。
 
横山)大雨の日に家の雨樋がきちんと機能しているか。しっかり雨水が流れているか。自宅に水が集まるのか、自宅から離れたところに水が流れていくのかを確認しておきましょう。水が集まりやすいと、大雨が降ったときに浸水しやすいです。
 
西村)大きなポイントですね。
 
横山)ハザードマップの中でも内水氾濫を想定した内水ハザードマップを見てください。内水氾濫は、雨水が処理しきれずに起きるものになので、川がない場所でも起こります。周りよりも低い場所は内水氾濫が起きやすくなるので、ハザードマップで確認してください。ハザードマップで色がついていない場合は、標高がわかる地理院地図を見てみましょう。10~20cm単位の高低差もわかるので、自宅と周りの標高をチェックすると、水が集まりやすい場所の目安がわかります。
 
西村)自宅や勤務先、新しく家を買うときにはぜひチェックしましょう。
横山さんありがとうございました。