第1505回「旅行や帰省先での災害に備える」
オンライン:東北大学 災害科学国際研究所 准教授 佐藤翔輔さん

西村)みなさんは夏休みにどこかお出かけする予定はありますか。もし、お出かけ先で災害が起きたらどうすれば良いのでしょうか。7月30日にロシア・カムチャツカ半島付近で地震が起こり、津波警報が出されたときは、和歌山県白浜町に観光に生きていた人たちが旅館などに一時避難しました。
きょうは、お盆シーズンの旅行や帰省先での備えについて、東北大学 災害科学国際研究所 准教授 佐藤翔輔さんにお話を伺います。
 
佐藤)よろしくお願いいたします。
 
西村)8月30日の津波警報での避難行動で課題を感じましたか。
 
佐藤)今回の津波は、専門用語で遠地津波といいます。震源から日本まで距離があったので冷静に避難できましたが、夏休みで多くの観光客が街に出ている状況でした。和歌山県では、たくさんの人が砂浜で海水浴を楽しんでいた中で津波避難警報が出たので、きちんと避難できるかが改めて課題になりました。
 
西村)佐藤さんは去年1月1日に起きた能登半島地震で、帰省や旅行中に地震や津波に巻き込まれた人たちに調査を行ったのこと。なぜこのような調査をしようと思ったのですか。
 
佐藤)1月1日は多くの人が自宅にいて、帰省や観光をする人が多い時期でした。わたしは新潟出身で、実家に着いた30分後に能登半島地震が起きました。実家がある新潟市内も大きな揺れに見舞われました。自分が実際に帰省中に地震が起きたことで、調査をしようと思いました。
 
西村)実家は大丈夫でしたか。みなさんケガはなかったですか。
 
佐藤)家は新耐震の建物でしたが30年以上も経っているのでギシギシと音がして、ヒヤッとしましたが、家族全員無事でした。
 
西村)よかったです。揺れたあとどのように行動しましたか。
 
佐藤)新潟県内は海に接した県。津波の浸水を予想しました。自宅のある場所は浸水想定範囲内ではないと知っていましたが、改めて確認するためにハザードマップをインターネットで見ようとしたんです。たくさんの人がアクセスしていたようで、サイトにつながりませんでした。災害時にはなかなか情報にアクセスすることができないと実感しました。
 
西村)やはり事前の備え、確認・準備は必要ですね。アンケートでは、実際に佐藤さんと同じように旅行や帰省先で災害に巻き込まれた人が多かったのでしょうか。
 
佐藤)今回、約1000人にアンケートをとりました。1000人のうち、51%が東京23区から石川・富山・新潟に訪れていました。26%は大阪からでした。1000人のうち37%は、実家や親戚の家にいた人。34%は旅行先の宿泊施設にいた人。冬休み期間に旅行をしていた人もたくさんいたようです。
 
西村)その人たちが被害に遭わなかったのか心配です。
 
佐藤)回答してくれた人たちには、大きな被害はなかったと思いますが、揺れたとき実家や宿泊施設が傾いた、潰れたという回答が1割もいました。1割の人が自分自身の命が危なかったという状況。いた場所に津波が来たかも聞いたのですが、全体の9%が、自分がいた場所が後に浸水したと回答。帰省や旅行先で危ない目にあった人がたくさんいたのです。元日で帰省を目的に移動していた人が多く、冬休み期間中ということもあり、観光地で被災した観光客が多かった。帰省や旅行で普段その場所にいない人がたくさん被災した災害でした。
 
西村)今までの災害とは大きく異なりますね。アンケートの結果では、みなさんどんなことに困っていたのですか。
 
佐藤)1番多かったのは、「建物の安全性がわからなかった」という回答。揺れた瞬間にいる建物の耐震性についての情報がなかったということです。普段住んでいる自分の家なら判断がつきますが、たまたまいた場所で建物の安全性の情報が全くないので困ったようです。2番目は、「身を守るための安全な避難場所がわからなかった」という回答。普段自分が生活している場所では、安全な避難場所について知っていると思いますが、帰省先、旅行先ではどこに避難すればいいのかわからない。3番目は、「地震から身を守るためのスペースがわからなかった」という回答。家や職場や学校なら、どこにテーブルがあるかわかっているので、さっと下に潜り込めると思います。しかし、実家や旅行先の宿泊施設には、どこに安全な空間があるかがすぐわからなかったということです。
 
西村)実家なら大きなテーブルがあるかもしれませんが、ホテルの部屋はどこに隠れたら良いのか迷います。お正月は家族みんなが集まっているので、全員の身を守ることができる場所を探すのは難しいかもしれません。
 
佐藤)上にから物が落ちてこない場所に行くことも大事。そのような場所を日頃から見つけておきましょう。
 
西村)避難しなかった人もいたのでしょうか。
 
佐藤)今回アンケートをとった1000人のうち避難した人は6割。安全のための行動をとらなかった4割の人は、「今いる場所が安全だと思った」「避難が面倒だった」とのことでしたが、一番深刻だったのは、「安全な避難場所がわからなかった」という理由が多かったこと。これは、旅行先、帰省先にいた人特有の理由です。普段の場所ならどこに避難すれば良いかがわかっている人でも、避難場所がわからなくて避難しなかった、もしくは避難できなかったということです。
 
西村)わたしの友人の話なのですが、友人は、当時、夫の実家がある七尾市に里帰りをしていたそう。揺れが起こった瞬間、夫は買い物に出ていてなかったそうです。安全に避難するにはどこに逃げたら良いのかわからなくてすごく困ったという話を聞きました。冷静に避難するためには、しっかりと避難場所を決めておかないといけないですね。
 
佐藤)帰省をしている人は、旅行者に比べて避難場所はわかるかと思ったのですが、そのような状況だった人も何人かいました。帰省先といえども、避難場所に困った人がたくさんいたことがわかりました。
 
西村)想定していない分、不安も大きくなりますね。
 
佐藤)やはり事前に備えていれば冷静に対応できると思いますが、思ってもいないことが起きると不安やパニックに陥ってしまうと思います。
 
西村)旅行や帰省をする前にどのように備えておけば良いのか教えてください。
 
佐藤)帰省・旅行先に想定されている災害を把握する。目的地のハザードマップを見て、災害が起きた場合の安全な避難場所を確認しましょう。帰省や旅行を楽しみにしているときに、調べることは難しいかもしれませんが、荷造りや移動途中のスキマ時間を使って、事前に確認することが大事。普段、自分の家で十分に備えをしている人でも「旅行先では困った」という人が多かったです。さらに、家族や旅行者を受け入れるも対策が必要です。今回、「揺れた瞬間にいる建物の安全性・耐震性がわからなかった」と多くの人が回答しました。十分な耐震性と身を守る場所を確保すること、避難生活が中長期的に発生することを想定して、備蓄を多くするなど、受け入れる側もさまざまな対策が必要になるのです。
 
西村)おじいちゃんやおばあちゃんにわたしたちから話してみるのも、大きな方法かもしれませんね。
 
佐藤)「今度帰るんだけど、家の耐震性大丈夫かな」と話してみてください。耐震補強の負担が生じますが、それをきっかけにサポートをすることも、大事な家族の命を守る行動になると思います。
 
西村)佐藤さん、どうもありがとうございました。