第1418回「富士山の噴火に備える」
オンライン:山梨県富士山科学研究所 吉本充宏さん

西村)最後の噴火から300年以上が経過している富士山。1707年の宝永噴火では、火山灰が江戸の町に2週間ほど降り続いたとされています。富士山の噴火は、今後起こるとされている南海トラフ巨大地震と連動する可能性も危惧されていて、噴火に備えた防災対策が急がれています。
きょうは、富士山の噴火に詳しい山梨県富士山科学研究所 吉本充宏さんに富士山の噴火への備えについて、教えてもらいます。
 
吉本)よろしくお願いします。
 
西村)富士山は本当に噴火するのでしょうか。
 
吉本)日本には111の活火山があり、富士山もそのひとつ。近年では雲仙・普賢岳(1990年)や御嶽山(2014年)が噴火しました。富士山も活火山なので、いつかは必ず噴火が起こると考えられています。人間もいつかは病気になりますよね。ですが病気にいつなるかはわからないのと同じ。噴火の時期を予測することは非常に難しいです。富士山の最後の噴火は、316年前の宝永噴火(1707年)。富士山はこれまで約300年間噴火していませんが、研究では、過去5600年の間に約180回噴火しています。平均すると30年に1回の割合で噴火しています。
 
西村)そんなに短い周期で噴火していたのですね。
 
吉本)数年おきに噴火したときや長い間噴火しなかったときもあります。現在は平均より約10倍休止している状態。いつ噴火してもおかしくないと思います。
 
西村)マグマがたまっていて、エネルギーも閉じ込められているのなら、噴火するとものすごいことになりそうです。火山は頂上から真上に噴火するイメージですが、すべての噴火はこのパターンなのですか。
 
吉本)1707年の宝永噴火では山頂ではなく、山腹から噴火しました。富士山の中腹にある大きな穴は、宝永噴火のときにできた火口で山頂の火口より大きいです。そこから巨大な噴煙を上げて火山灰が飛んでくる場合と、溶岩流がドロドロと流れて辺りを埋め尽くす場合もあります。どちらかになるのかは噴火するまでわかりません。その点が火山の防災対策が難しい理由です。300年間マグマたまっていることで大規模な噴火になる可能性もあります。
 
西村)噴火したときの影響が心配です。富士山が噴火した場合、首都圏や大阪にも影響が出るのでしょうか。
 
吉本)大量の火山灰を放出する噴火が起これば、季節にもよりますが、西から東に強い風が吹く偏西風の影響で火山灰が首都圏へ降り注ぐ可能性が高くなります。政府のシミュレーションでは、大阪まで火山灰が届くということはないようです。火山灰が降ると首都圏の交通機関は麻痺して帰宅困難者が出るでしょう。インフラ等に大きな影響が出ます。
 
西村)そうなると物流も止まってしまいますよね。火山灰が降り積もると飲み水も火山灰で汚れてしまうのでしょうか。
 
吉本)はい。火山灰によって水が濁るのはもちろん、火山灰に付着している火山ガスの成分によって水質が悪くなることも。たくさんの人が火山灰を水で洗い流すことで、水の供給も間に合わなくなります。水で洗い流したものを下水に流すと火山灰が溜まり、下水が氾濫する可能性もあります。
 
西村)火山灰とはどんなものですか。
 
吉本)火山の噴火はマグマが噴出して起こります。800~1000℃あるマグマが地上で急激に冷えて固まってバラバラになります。その欠片が火山灰。ガラスや結晶の破片でできています。
 
西村)サラサラではなく、トゲトゲしているのでしょうか。車にも傷がついてしまいますね。
 
吉本)電子顕微鏡で見ると鋭く尖っています。火山灰をガラスに当てて指でこするとすりガラスのようになります。ガラスには傷がつきますし、目に入ると非常に痛いです。火山灰を吸うことで死ぬことはありませんが吸い込むと苦しくなることもあります。
 
西村)富士山の噴火で火山灰が関西に直接降ってくることはないとのことですが、富士山以外にも関西の周りには九州の阿蘇山などたくさんの火山があります。九州で火山が噴火したら関西にも影響がありますか。
 
吉本)はい。1914年に起きた鹿児島県・桜島の噴火は、宝永噴火と同じクラスの噴火でした。そのときは、関東まで火山灰が届いたので、大阪にも影響がありました。2011年に九州南部の霧島山が噴火したときは、火山灰は関西まで届きませんでしたが、もう少し規模が大きければ関西にも届いたかもしれません。
 
西村)「関西には火山がないから安心」というわけではないのですね。
 
吉本)九州の火山が大噴火をしたときには注意が必要です。
 
西村)わたしたちはどんな備えをすれば良いのでしょうか。
 
吉本)「富士山は火山である」ということを認識することが大事。噴火はいつ起こるかわかりません。関西に住んでいる人も関西方面に出張や観光で行くこともありますよね。富士山の近くに滞在するときは避難するタイミングや場所について理解しておくことが必要です。火山の噴火は、火口から離れるほどリスクが減ります。阿蘇山や箱根など火口の近くに行くのは非常にリスクが高くなります。
 
西村)交通機関が麻痺したら新幹線の中に閉じ込められるかもしれません。カバンの中に水・食料など準備しておいた方が良いですね。
 
吉本)持てるものの範囲で度用意しておきましょう。それはほかの災害にも当てはまることです。
 
西村)地震の備えと一緒ですね。ほかの災害と共通した備えが必要です。富士山噴火の火山灰への備えとして、何か用意しておいた方が良いものはありますか。
 
吉本)ゴーグルやマスクがあると良いですね。花粉症用のゴーグルやスイミング用の水中眼鏡でも良いですよ。目に火山灰が入らなければ良いので、スノボやスキーのゴーグルでも大丈夫です。
 
西村)使わないときはクローゼットの奥にしまっているスノボやスキーのゴーグルも活用できるのですね。
 
吉本)火山灰用として買っても使わないので、できるだけ家にあるもので代用してください。災害が起こる確率は低いので、普段使っているものを災害用に転用する方が準備しやすいです。火山灰が体内に入らないように密閉率が高い防塵マスクがあれば良いですが、普段使っているマスクを二重にするだけでも十分対応できます。
 
西村)それはありがたいですね。一から備えるとお金がかかりそうですし。家にあるもので対応できるなら気が楽です。富士山の近くに住む人は、ほかにも何か対策をしているのでしょうか。
 
吉本)基本的には地震や風水害の備えと同じです。わたしは富士山の麓の富士河口湖町に住んでいるのですが、日常で使うゴーグルやマスクしか用意していません。
 
西村)小さな子どもにもわかりやすい備えや避難についてのアドバイスはありますか。
 
吉本)火山灰が降ってきたら、外を出歩かないでください。目と口から火山灰が入るのを防ぎましょう。火山灰が目に入ったら目をこすらないこと。手でこすると目に傷がついて失明のおそれもあります。
 
西村)それは気をつけないといけませんね。大掃除のときに使っていなかった花粉症のゴーグルや水中眼鏡、スキー・スノーボードのゴーグルなどを見つけておいて、マスクと一緒にセットで置いておくと良いですね。
 
吉本)火山が噴火すると何が起こるかを知らない人が多いと思います。火山灰は現代社会のインフラに非常に大きな影響を与える可能性があり、少量の火山灰が降っても電車は止まります。移動にも影響があるということを知っておいていただけたら。
 
西村)きょうは、富士山噴火への備えについて、山梨県富士山科学研究所 吉本充宏さんにお話を伺いました。