第1394回「避難所となる学校施設の浸水対策」
オンライン:群馬大学 理工学部 災害社会工学 金井昌信さん

西村)記録的な大雨が各地で相次ぐ中、避難場所となる学校の浸水対策が求められています。全国の公立学校の2割は浸水想定区域にあります。今後どのような対策が必要なのでしょうか。
きょうは、災害社会工学が専門で地域防災や避難行動に詳しい群馬大学教授 金井昌信さんにお話を聞きます。
 
金井)よろしくお願いいたします。
 
西村)全国の公立学校の2割が浸水想定区域に建てられているとのことです。これはどういうことなのでしょうか。
 
金井)そもそも学校は、人がたくさん住んでいるところにあるもの。日本の都市は、河川が長い時間をかけて、何度も氾濫して作り上げた平地に形成されています。そこに人工的にダムや堤防を作って、水害の危険度を下げて生活しているのです。必然的に学校も浸水域内に作らざるを得なくなる。浸水域内に学校がたくさんあるというよりも、ほとんどの都市機能が浸水域内にあるということです。そして平成27年以降、国の法律が変わり、浸水区域図を作る際に想定する雨量が100年に一度から1000年に一度に変わっているので、多くの地域で浸水想定区域が広がっています。この数年で浸水域圏内になった学校もあると思います。
 
西村)昔と比べて、基準になる雨量が変わってきたのですね。最近の気候変動で雨が降る量もどんどん多くなっています。
 
金井)短時間に降る雨の量は増えています。
 
西村)自宅避難が難しい地域にいる場合、土砂災害の恐れがある場合などどこかに避難しなければならない人も多いと思います。避難所の学校が浸水してしまった例は実際にあるのでしょうか。
 
金井)2015年の関東・東北豪雨で鬼怒川が決壊して、茨城県の常総市の全域が浸水しました。このとき、避難所となっていた学校もいくつか浸水して、水の上で過ごしたという例があります。
 
西村)水の上で過ごすというのは、どのような状況だったのですか。
 
金井)校舎の1階の床まで水に浸かっている状態。2階にいれば安全です。下の階は水浸しでも高い階が無事ならそこで水が引くまで、もしくは救助がくるまで待つことができます。垂直避難といわれるものです。
 
西村)避難場所の浸水対策はどれぐらいの学校が対応しているでしょうか。
 
金井)先日公表された文科省の調査結果では、浸水対策を行っている学校は全体の約15%。かなり少ないです。一方で、大雨が降って自宅が危険となり、近くの学校に逃げることになった場合、学校はどこまで浸水対策をする必要があるのか。最悪の場合、首から上が水の上に出ていれば人間は死なずに済みます。学校の建物は、地方なら周りの一般住宅よりも高さがあり丈夫です。そこに駆け込んで、校舎の高い階に居ればやり過ごすことができる。特に浸水対策をしていなかったとしても、水害時の命を守ることはできると思います。浸水被害を軽減するための対策は、学校の再開時など後のことを考えたときには必要だと思いますが、災害から命を守ることについては学校の校舎が流されなければ問題ないと思います。
 
西村)今後、学校が大雨の避難所として使われることはあると思います。どんな対策をするべきでしょうか。
 
金井)浸水・防災対策よりも、普段学校を使っている子どもたちにとって使いやすい校舎にした方が良いと思います。例えばトイレの問題。公立の学校は、今も和式トイレのままのところも多いです。でも子どもの自宅はみんな洋式トイレ。災害時は浸水すると下水が止まって水が流せなくなる。トイレが洋式なら災害時用のトイレが使えます。袋と凝固剤と消臭剤がセットになっているものを備えておくと避難所のトイレ問題にも対応できます。普段の子どもの生活の利便性も上がり、水害だけではなく地震の備えにもなります。
 
西村)小学校は、1階に職員室があり、2階以上に教室があります。浸水することを想定すると、教室、職員室、校長室などの教室の配置も考え直す必要がありそうです。
 
金井)それぞれの学校に想定されている浸水の深さに応じて対策が必要ですね。1階が浸かってしまうなら、1階には浸水してもすぐにキレイにして使えるような特別教室やホールを配置するのも良いかもしれません。校長室、職員室など大事な資料やデータが入ったパソコンがある部屋は、2階以上に配置する。模様替えは一番簡単な浸水対策ですね。
 
西村)模様替えは、家の浸水対策にも応用できそうですね。そのほかにも避難所となる学校の備えでできることはありますか。
 
金井)電源施設は水に浸かってしまうと復旧に時間がかかるので、2階のベランダなどに電源設備の箱を置いておくと、水に浸かった後でも早めに電力復旧することができます。学校の早期再開につながり、避難所として使う場合も電気やガスがすぐ使えて便利だと思います。
 
西村)電源施設は、下の階にあることが多いのですか。
 
金井)日々のメンテナンスも考えると下の階に置いてあることが多いと思います。
 
西村)普段から子どもたちが生活しやすい学校にするために、ほかにも改善点はありますか。
 
金井)学校の校庭は、普段から水はけが悪いことが多いですよね。少しの雨が降ると水溜まりがなかなか消えません。浸水対策をしてあげれば、普段の子どもの生活の質の向上につながると思います。
 
西村)避難時は、まず体育館に逃げるイメージですが、体育館が水浸しになってしまったという例があるということは、避難の計画・行動についても改善が必要ですか。
 
金井)水害の避難を考える上で、多くの人が勘違いしている問題があります。水害からの避難場所には、避難所と緊急避難場所があります。避難所は一定期間生活できる機能を有している場所。水害で浸水してしまったら生活できないので、避難所は浸水想定区域外に置きます。一方で緊急避難場所は、迫り来る災害から命を守るために一時的に安全を確保する場所。浸水想定区域内の学校も緊急避難場所として使うことができます。緊急避難場所は浸水想定区域内にあっても高いところであれば使えます。まずは命を守ることができれば良い。雨が止んで水が引いて落ち着いたら、避難生活する避難所に移動する。これで十分対応可能です。いくつかの地域の避難計画ではそこが混同されています。水害のときに学校の体育館に避難し、浸水してきたら校舎の高いところに移動すれば良いのに、体育館では避難生活ができないからと大雨の降る危険な状況の中、次の避難所に移動させる地域もあります。
 
西村)雨の中避難するのは危ないですよね。
 
金井)豪雨のときに行政が用意したバスでほかの場所に移動する自治体もあります。住民も避難所に逃げればそこでずっと生活ができると思っていることが間違い。過剰に不安になる避難者も出てきます。それに対応しようと、行政も快適に過ごせる場所まで移動させようと考えてしまう。命を守ること以外に大事なことはありません。少し不便が生じたとしてもたかだか半日。一晩寝て過ごせば、水も引き始めるのがほとんどの災害です。普段の延長で災害を考えないでください。そのときは覚悟を持って、「とにかく死ななければ良い」というくらいの気持ちを持ってほしいですね。
 
西村)命を守る場所と避難生活を送る場所は違うということですね。地震と大雨の避難は全然違うのですね。先日、息子が通う小学校でも、大雨・台風に向けた避難訓練が行われました。暴風警報が出された際は、「まずは高い場所に避難しましょう」と、小学生1~6年生全員が屋上に避難したそうです。避難訓練は晴れた日に行われましたが、災害時に強い雨風の中、屋上に避難することは正しいことなのでしょうか。
 
金井)屋上まで行く必要はなく、一番上の階で良いと思います。先生はいざというときのために、屋上に上がったことがない子どもたちに1度体験させるためだったと考えることもできますが。水害を想定した避難訓練はやる必要がないと思います。高いところにみんなで移動するだけだからです。地震の津波被害とは違って、1分1秒でも早く行動しなければならないわけではありません。水害の場合は、川が溢れたという情報を受けてから子どもたちを誘導して、校舎の高いところに移動させれば良いんです。5~10分でできます。子どもと一緒に訓練しなくても、年に1度、先生同士が職員室で打ち合わせすれば十分。校内の地図を広げて、避難ルートや待機場所を図上で確認すれば良い。実際に災害が起こったときは、子どもが先生の指示に従ってすぐに動けるように、普段から指導をしておけば十分だと思います。
  
西村)避難訓練にも見直しが必要ですね。
  
金井)とりあえずやっているという訓練が多いので。時間を使ってやるのであれば、想定されている課題をきちんと踏まえた上で、訓練内容を検討してほしいですね。
  
西村)命を守る場所と避難生活を送る場所は別。避難訓練の見直しについても考え直さなければいけないですね。
きょうは、災害社会工学が専門で地域防災や避難行動に詳しい群馬大学教授 金井昌信さんにお話を伺いました。