オンライン:京都大学防災研究所 教授 西村卓也さん
西村)鹿児島県のトカラ列島近海で、この3週間地震が続いています。十島村では6月21日以降、これまでに震度1以上の地震を1700回以上観測しました。7月3日には最大震度6弱の揺れを観測し、多くの住民が島の外へフェリーで避難しました。現在、悪石島と小宝島から64人が鹿児島市などに避難しています。一時的に島を離れて避難を決めた人の話、避難が難しい人の話をお聞きください。
音声・住人1)横揺れや下から上からドーンと来ました。いつどうなるか不安だったから鹿児島に行きます。行きたくても行けない人のことを思うと不安もあります。
音声・住人2)息子がまだ低学年なので避難してホっとしています。
音声・住人3)ずっと地震が続いて不安で。大きいのが来るのかと思うと不安。まだ島に残っている人たちのことを考えたら...。早く収まってほしいです。
音声・住人4)うちは牛を飼っていて簡単には避難できないので残ることにしました。長く続くなら、奥さんと子どもたちだけでも避難させることも考えています。
西村)大きな不安が続いて、みなさんの体調が心配です。地震の回数は多いときは1日に180回以上も観測されていたのですが、ここ数日はかなり回数が減ってきています。十島村の久保源一郎村長は、一定期間、震度4以上の地震がなければ住民が島に帰れるよう準備を進めることを明らかにしました。
音声・村長)震度4以上の地震が5日間以上発生しなかった場合、帰島する意向の有無を確認することとしました。帰島に向けての準備を進めます。
西村)この群発地震、早く収まってほしいと願うばかりです。ここからは、地震のメカニズムに詳しい京都大学防災研究所 教授 西村卓也さんに聞きます。
西村教授)よろしくお願いいたします。
西村)今回のトカラ列島近海での群発地震の要因はなんですか。
西村教授)トカラ列島近海では過去に何度も群発地震がありました。今回は、1995年以降の観測記録が残っている中で、最大規模の地震が起こっています。地震の回数も過去に比べるとかなり多いです。トカラ列島は陸のプレートの下に海のプレートが沈み込んでいる場所。今回の地震は、ユーラシアプレートの比較的浅いところで起こっています。この辺りには活断層や火山がたくさんあります。火山のマグマ活動も関連して断層を動かしていることが、小さな地震がたくさん起きている原因ではないかと考えています。
西村)マグマの活動が関連しているのですね。
西村教授)トカラ列島の島々には火山が多く、悪石島や小宝島の周辺には海底火山もあります。活断層による地震を頻繁に起こさせる原因となっているのが、マグマの活動ではないかと考えています。
西村)ほかに、一般的な地震と異なる点はありますか。
西村教授)普通の地震活動では、最初に大きな本震が来てその後に小さな余震が続きます。そして時間とともに数が減っていく。しかし、トカラ列島の地震活動は群発地震と呼ばれる地震で、必ずしも明確に大きい地震があるわけではありません。同じような規模の地震が何回も続くのが特徴です。
西村)住民からは、「ずっと地震が続くのが不安」「大きい地震が来ると思うと不安」という話がありました。
西村教授)過去の例では、約2~3ヶ月続いた事例も。ここ数日間は地震活動も低下してきたので、このまま落ち着いてほしいですね。
西村)群発地震はなぜ長い間続くのですか。
西村教授)地下10kmぐらいのところに"マグマだまり"という、マグマが大量にたまっている場所があり、そこからマグマが浅い方向に移動します。移動している間は地震が継続して起こります。マグマが海底まで達すると海底から噴火することも考えられますが、マグマはほとんど途中で冷え固まってしまうので、それ以上マグマが移動することはありません。そうすると、群発地震も収まります。
西村)今後、大きな地震や津波が起こる可能性はありますか。
西村教授)現状、マグニチュード5程度の地震が起こっています。この規模なら津波の原因となる海底変動は生じませんので、津波が起こる可能性は低いです。ただ、これが周囲の大きな断層を刺激し、大きい地震につながることも。地震の揺れに伴った海底の地滑りや大規模な土砂崩れが海に流れ込むと、津波の危険性が高まります。
西村)今起こっている地震は、マグニチュード5程度なのですね。
西村教授)はい。現状では、津波を起こす規模ではありません。
西村)震度6弱の大きな揺れもありましたが、それもマグニチュード5クラスですか。
西村教授)震源と人が住んでいる島が近いため、震度が大きくなっていますが、地震の規模としてはそこまで大きな地震ではありません。
西村)鹿児島県では新燃岳が噴火しました。何か関連はあるのでしょうか。
西村教授)新燃岳の噴火も地下のマグマの移動が原因ですが、新燃岳とトカラ列島は約300km離れています。関連性はあまりなく、それぞれが同じような時期に活動が活発化したというふうに考えられます。
西村)トカラ列島では、諏訪之瀬島で噴火があり、震度3の揺れが5回ありました。これについてはいかがですか。
西村教授)こちらも地震が今起こっているところから約50km離れています。諏訪之瀬島は、普段から頻繁に噴火しています。今回の地震の影響を受けて噴火したのではなく、独立した現象ではないかと考えています。
西村)同じ時期にいろいろなところで、噴火したり地震が起こったりすると不安になります。
西村教授)日本列島は地震や火山が多い場所。ある時期に活動が集中することもありますが、お互いに因果関係があるわけではありません。日本列島で普段から起きている活動がたまたま集中してしまっただけと考えて、それほど心配せずに、普段から地震や火山の噴火に対する備えを強めるきっかけにしてもらえたら。
西村)気温が暑くなる夏に噴火しやすいということはありますか。
西村教授)気温は、噴火には関係しないというふうに言われています。ただ、季節と地震の発生の関係についての研究もされています。まだまだ研究段階で調べている段階です。
西村)トカラ列島の外に避難している住民がいます。早く日常生活に戻りたいという話も。十島村の久保源一郎村長によると、震度4以上の地震が5日間以上発生しなかった場合、島に帰ることができるとのことです。
西村教授)大きな地震が5日以上発生しなければ、地震活動が収束したと判断するのは妥当だと思います。原因の一つであるマグマ活動については、マグマは、1度冷え固まってしまうとそれ以上地震を起こすことはなくなります。過去の事例でも、1週間~1ヶ月で固まって止まってしまうことが多いです。
西村)どれぐらいの期間、注意が必要なのでしょうか。
西村教授)過去のトカラ列島の活動を見てみると、一旦落ち着いたように見えても、1~2ヶ月の間にぶり返すことがあったので、今後もその可能性は十分あると思います。ただ、活動的な期間は1~2週間に集中することが多いので、一旦地震活動が下火になれば、しばらくの間は地震活動に注意しながら通常の生活を続けられると思います。今回のようなことが起こりやすい地域であると認識して、今後も群発地震が発生する可能性があることを知ってほしいです。
西村)今回の地震が南海トラフ巨大地震を誘発する可能性はありますか。
西村教授)心配要りません。今回の地震の規模や南海トラフ地震の震源域までの距離を考えると、今回の地震が南海トラフ地震に何らかの影響を与えることは考えにくい。ただ、南海トラフ地震は、今後30年間に80%の確率で発生すると言われているので、十分に備えをしてください。
西村)改めてどんな備えが必要でしょうか。
西村教授)まずは身の回りの家具の固定、簡易トイレ・食料・水の備蓄など。連絡が取れなくなった場合、どのように集まるのか家族で確認しておくということも必要です。
西村)夏休みに、家族や友人と改めて備えについて確認しましょう。
きょうは、京都大学防災研究所 西村卓也さんにお話を伺いました。