第1427回「南海トラフ地震 大阪に津波が来るのはいつ?」
取材報告:MBS報道情報局 福本晋悟記者

西村)きょうは、今後必ず起こる南海トラフ地震の津波についてです。「地震が起こっても、津波が来るまでには時間がある」と思っている大阪在住の人にぜひ聞いていただきたいです。
スタジオにMBS報道情報局 気象災害担当 福本晋悟記者に来ていただきました。
 
福本)よろしくお願いいたします。
 
西村)南海トラフ地震の津波では、大阪駅の周辺でも浸水が予想されていますね。
 
福本)南海トラフ地震の津波は、「徳島県や和歌山県には大きな津波が来るけど、大阪府には大きな津波は来ない」と思い込んでいる人もいると思います。でも最悪の場合、大阪駅周辺でも津波による2mの浸水が想定されています。
 
西村)「海から離れているから大丈夫」というわけではないのですね。
 
福本)浸水するエリア・浸水の深さ・津波が来る時間などが書かれている津波ハザードマップがみなさんの自宅にも届いていると思うので確認してください。
 
西村)南海トラフ地震が起きた場合、大阪には何分後ぐらいに津波が来ると書かれているのですか。
 
福本)大阪府の南部に津波が来るのは、地震から約1時間後と書かれています。大阪市内は、住之江区で110分後と書かれています。ただ、これは最初の津波が来る時間ではありません。この時間は1mの津波が来るまでの時間。つまり、数10cmの低い津波はもっと早く来るということは書かれていないのです。
 
西村)110分後と書かれていたら意外と余裕があると思ってしまいますがそうではないのですね。
 
福本)大阪市のハザードマップが手元にあるので見てみましょう。
 
西村)「南海トラフ巨大地震による津波(+1m)は発生後、110分で大阪市域に到達すると予想」と小さい字で書かれていますね。
 
福本)これは1mの津波は110分後に来ると意味です。大阪市、大阪府・岬町、大阪府・泉南市は1mと書かれていますが、ほかの9つの市と町には、書かれていません。
 
西村)例えばどこですか。
 
福本)例えば関西空港がある泉佐野市です。津波到達時間は何分後と書いてありますか。
 
西村)津波到達時間81分後。最大津波水位3.8mと書かれています。
 
福本)津波到達時間81分後と書かれていますが、何mの津波が来るのかは書かれていません。これは1mの津波が来るまでの時間です。津波到達時間81分後と書いてあると、最初の津波が来るのが81分後だと思ってしまいませんか。
 
西村)はい。結構時間に余裕があると思ってしまいます。
 
福本)ハザードマップに書かれている津波到達時間は、多くの場合「1mの津波が来るまでの時間」となっています。では1mの津波はどれくらい危ないと思いますか。
 
西村)東日本大震災では数10mの津波が来たので、1mはそこまで危ないと思わないかも...。
 
福本)国の資料によると、1m以上の津波に巻き込まれた場合、ほとんどの人が亡くなるとされています。東日本大震災では5~数10mの津波が来たので、1mと聞くと低いように感じるかもしれませんが1mはわたしたちの腰の高さくらいです。
 
西村)1mって結構高いですね。
 
福本)ものすごい速さと圧力の水がやってくるのですから、1mの津波でも流されてしまうと命を落としてしまいます。普通の波と津波は全く違うもの。ハザードマップ書かれている「1mの津波」とは、命を落としてしまうというレベルの津波です。1mの津波が来るまでの時間がハザードマップに書かれているということは、低い津波はもっと早く来るということ。大阪府は、2013年に、市ごとに1mの津波が来る時間と20cmの津波が来る時間の両方をデータとして公表していました。しかし、20cmの津波が来る時間はハザードマップには反映されていません。大阪の住之江区に1mの津波が来るのは110分後とされています。では、20 cmの津波は地震から何分後に来ると思いますか。
 
西村)20 cmの津波は大人の足首ぐらいの高さですよね。もっと早く来ると思うので80分後ぐらいでしょうか。
 
福本)正解は68分後です。1mの津波より42分早く来ると想定されています。
 
西村)予想より早いですね。
 
福本)関西空港のある泉佐野市では、1mの津波は81分後、20cmの津波は31分後に来ると想定されていて、50分も差があります。この時間差を聞いていかがですか。
 
西村)もっと早く逃げなければと思います。80分もあるのなら、子どもを迎えに行こうとか、おやつを取りに帰ろうとか、買い物に行っておこうとか...と思ってしまいますが、そんな余裕は全くないですね。
 
福本)大阪市内には、地震が起きてから110分後に津波が到達すると思っている人が多いと思います。子どもを学校に迎えに行く、防災用品を家に取りに行く、近所の人を助けに行くなどの想定をしているかもしれません。でも実は20cmの津波は、数10分後には来るということが公表されていたんです。地震が起きてからの行動を改めて考える必要があります。では、20cmの津波はどれくらい危ないのか。大人ならどうなると思いますか。
 
西村)大人なら踏ん張ったら流されずに耐えられるのではないでしょうか。
 
福本)20~30cmの津波がどれくらい危ないのかを、東京・中央大学理工学部で津波の研究をしている有川太郎教授の実験施設で体験してきました。わたしは身長182cm・体重が82kgあります。足元に20~30cmの津波を約10秒間再現してもらいました。
 
西村)20~30cmの津波はどれぐらいの高さがありましたか。足首ぐらいでしょうか。
 
福本)水しぶきも出るので、膝まではいかないぐらいの高さでした。その津波に10秒間おそわれました。踏ん張ろうと思ったら踏ん張ることはできたのですが、左足が後ろに50cmほど流されていきました。
 
西村)それぐらいの勢いがあるのですね...。
 
福本)たった10秒間だったので、どうにか踏ん張ることはできたのですが。身長152cmの女性スタッフにも体験してもらったところ、1秒も踏ん張ることができずに流されてしまったのです。
 
西村)小柄の女性や子ども、高齢者や足腰の弱い人は流されてしまいますね...。怖いな。
 
福本)次に40~50cmの津波も体験してみました。40~50cmの津波は、津波が来るとわかっていても踏ん張ることもできずに流されてしまいました。津波の高さは膝くらいでした。
 
西村)そんなに恐ろしいとは。体験しないとわからないですね。
 
福本)実験では津波が前から来るとわかっている状態で、たった10秒間。でも実際の津波は、いつ来るかわからないし、時間も数10秒では収まりません。津波から逃げているときは、後ろ側から津波が来てもっと危ない。きれいな水だけではなく、物や車なども流されてきます。避難するときは、絶対に津波に襲われてはいけないということを改めて感じました。海水浴場などにいる人が、海の様子を見ようととどまってしまった場合、1mの津波より早く20~30cmの津波が来て、津波におそわれてしまう可能性があります。
 
西村)昔、ニュースの映像で、津波注意報が出ているのに釣りを続けている人がいましたね。
 
福本)去年12月にフィリピン沖で大地震があり、愛知県・和歌山県・徳島県などに津波注意報が出ました。愛知県の沿岸地域で、大勢の人が海に足をつけた状態で釣りをしていました。市の防災担当の人が避難するように言ったのですが、釣りをしていた人は避難しなかったそうです。幸いそのときは大きな津波が来ませんでしたが、20~30cmの津波の怖さを知っているので、あのような行為は絶対やめるべきだと思います。
 
西村)20~30cmの津波でもこれだけ怖いのに、ハザードマップには1mの津波のことしか書かれていないのはなぜですか。
 
福本)20~30cmの津波について、ハザードマップに載せることは難しいそうです。それについて、泉佐野市に取材をしました。現在のハザードマップには20~30cmの津波のことは載っていないのですが、ひとつ古いハザードマップには載っていたんです。
 
西村)なぜ今のハザードマップには載っていないのですか。
 
福本)割愛した理由は3つ。1つ目は、防災ハザードマップの情報量が増えたという点。高潮・洪水・ため池決壊...などたくさんのハザードマップがあります。泉佐野市ではハザードマップは冊子になっていて、約40ページもあります。
 
西村)結構ありますね...。
 
福本)津波に使えるページ数にも限界があります。そんな中、20~30cmの津波の情報は割愛せざるを得なかったのです。2つ目は、防災情報をなるべくシンプルにわかりやすく伝えたいという理由。たくさんの津波到達時間を載せるのではなく、1mの情報だけを載せた方がわかりやすいからです。3つ目は、20~30cmの津波の浸水想定地域を載せると、海水浴場や沿岸地域だけになってしまうという理由。20~30cmの津波の浸水想定地域だけをマップにしてしまうと、「うちの家は大丈夫」と思う可能性があるので、大きな被害が出ると想定されている1mの津波の浸水想定地域のみを載せています。それに合わせて、1mの津波が来るまでの時間をハザードマップ上に載せています。なので、泉佐野市なら、津波到達時間81分後と書かれているのです。
 
西村)その話を取材で知って、どう思いましたか。
 
福本)インターネットのハザードマップなら、さまざまな想定で調べることができますが、住民に紙で配るハザードマップにあれもこれも載せるわけにはいきません。掲載する情報を厳選しなければならない。防災担当の人の苦労が垣間見えました。全ての情報を載せて、辞書のような分厚いハザードマップを作ることは得策ではないと思います。
 
西村)分厚いハザードマップは読み辛いですね。
 
福本)ハザードマップに書かれている津波到達時間は、あくまで1mの津波が到達する時間。20~30cmの津波はもっと早く来るということを啓発する必要があります。20~30cmの津波は、1mの津波より30分以上早く来るということを知った上で、地震が起こったらすぐ避難する。警報が出たらすぐ避難する。これは、大阪のみなさんが南海トラフ対策でできることだと思います。
 
西村)「すぐに避難する」という基本に立ち返って、頭に置いておかないといけませんね。
 
福本)東日本大震災のときのような大きな津波ではなければ、被害が出ないと誤解している人もいるかもしれません。今回の取材を通して、1mの津波は命を落とすレベル、20~30cmの津波でも流される、命を落とす可能性が十分あるということがわかりました。実は大阪府は、来年度をめどに、津波の被害想定を改定する予定があります。その中で、20~30cmの津波についてもっと啓発する必要があるという話が出れば、ハザードマップも変わっていくかもしれません。
 
西村)ハザードマップは、どんどん変わっていくもの。しっかりチェックをして、いろんな想定をして、行動することが大切だと思いました。「まずは逃げる」この基本を改めて押さえておきたいと思いました。
きょうは、MBS報道情報局 気象災害担当 福本晋悟記者にお話を伺いました。