第1509回「カムチャツカ半島沖地震で見えた"津波避難"の課題」
オンライン:東北大学災害科学国際研究所 教授 今村文彦さん

西村)7月30日にロシアのカムチャツカ半島付近で発生した地震について、政府は津波避難が適切に行われたのか、検証を始めました。今回の地震では、津波警報・注意報の全面解除まで
32時間もかかり、猛暑での長時間の避難に加え、各地で車による渋滞も発生しました。
きょうは、津波避難の課題について、東北大学 災害科学国際研究所 教授 今村文彦さんに聞きます。
 
今村)よろしくお願いいたします。
 
西村)今回のカムチャツカ半島付近で起きた地震では、遠く離れた日本でも津波が発生しました。津波警報・注意報の全面解除まで32時間もかかったのはなぜですか。
 
今村)日本は環太平洋に位置していて、このエリアでは巨大地震が起きます。発生する津波が大きいので、たとえ離れていても伝わってきます。今回もカムチャツカ半島から遠く離れたハワイや南米まで津波が低減せずに伝わりました。
 
西村)津波の勢いが弱まることなく日本にも伝わってきたのですね。どういう仕組みで伝わるのでしょうか。
 
今村)地震から直接来た波もありますし、ハワイやハワイの周辺の海底にある山脈に反射して、日本に向かってくる波もあります。
 
西村)津波が山脈にぶつかって跳ね返ってくるのですか。
 
今村)海山は円錐状なので、波が反射した場合、同心円状に広がります。その一部が日本に到達しました。環太平洋をおぼんの中の水だと思ってください。水を動かすとおぼん全体に広がっていきますよね。いろんな面に反射して水が動くのと同じ原理です。長い間、いろんな方向から波が来るので、32日間、警報・注意報が続いたのです。
 
西村)長く続いても津波の勢いは衰えないのですね。
 
今村)1~2万km伝わっても津波は弱まりません。過去にも遠いところで発生した津波が日本に来襲した事例があります。最近では2010年のチリ中部地震。一番大きなものは1960年のマグニチュード9.5のチリ地震による津波。日本でも100名以上が犠牲になりました。当時、環太平洋では国際的な警報システムがなかったので、前触れも警報もなく津波が来て、多くの人が亡くなってしまったんです。
 
西村)今の時代は警報・注意報があるので、情報をしっかりと把握して行動しないといけませんね。
 
今村)今回のように揺れがなくても遠くから津波がくることがあります。今は警報システムが充実しているので、情報をしっかり取ってください。
 
西村)今回のように、海外で発生した地震は揺れを感じないので、逃げようと思わない人も多いかもしれません。実感がないと行動に結びつきませんよね。
 
今村)突然スマホに津波注意報がきて、警報に切り変わって多くの人は驚いたと思います。
 
西村)でも行動した方が良いですよね。
 
今村)警報・注意報は、確実に根拠のある気象庁からの情報。特に沿岸部にいる場合はすぐに離れて、周辺の避難場所に移動してください。
 
西村)7月30日は夏休み中で、海にいた人も多かったと思います。海にいるときに警報・注意報が出たときにどこに避難すれば良いのかおしえてください。
 
今村)海水浴場ではライフセーバーからの指示があります。沿岸部では屋外のスピーカーから防災無線がながれます。スマホからも情報を得ることができますが、海水浴では持っていない場合もあるので、周辺のスピーカーからの情報に注意してください。
 
西村)ライフセーバーからはどのように指示が出るのですか。
 
今村)スピーカーや津波フラッグで指示を出します。大きな旗を振って遠くにいる人にもわかるようにします。仙台市では、スピーカーとカメラが搭載されたドローンで注意を呼びかけたという例も。
 
西村)今の時代ならではの知らせ方ですね。遊んでいるときでも危険が迫っていることがあるかもしれないので、しっかりと耳と目も働かせておくことが大切ですね。ほかに津波避難の注意点はありますか。
 
今村)猛暑の中、長時間にわたる避難では暑さ対策も大切。さまざまな冷却用アイテムがあるので、非常用持ち出し袋に準備してください。
 
西村)首を冷やすものなど、最近便利なものいろいろありますよね。
 
今村)一方、冬の場合は防寒対策が必要。季節に応じてチェックすると良いと思います。
 
西村)冷却スプレーやポンと叩いて涼しくなるものなど。冬場だったらカイロなどのあったかグッズも揃えておきたいですね。
 
今村)長時間避難する可能性があるので、準備が必要です。
 
西村)長時間とは、どれぐらいの時間を想定しておいたら良いですか。
 
今村)今回は1日半でした。それぐらいは長く続くと思います。
 
西村)津波が起こって高台に避難してから、一時避難の場所に移動するのでしょうか。
 
今村)これはケースバイケース。まずは近くの高台に移動して、今回のように最大波が遅れる場合は、2次的、3次的な避難場所に移動をしなければならない場合もあります。どのタイミングで移動するのかと避難場所の確認が重要です。
 
西村)一時的な避難でも、長い時間になった例は過去にありましたか。
 
今村)東日本大震災もそうです。2010年のチリ中部地震では、東北地方では警報が出て、1ヶ所で長く避難した人もいます。津波の場合は、徒歩避難が原則。車を使うと渋滞する可能性があるからです。渋滞で車が動かなくなると津波に飲み込まれてしまいます。
 
西村)東日本大震災のときにもそのようなことがあったのでしょうか。
 
今村)はい。沿岸部ではかなりの場所で渋滞が起きました。
 
西村)救急車も通れなくなりますね。
 
今村)津波避難に車はできるだけ使わないこと。車が必要な高齢者や歩行困難な人が優先的に車を使えるようにしてほしいです。
 
西村)高齢者、障がい者、妊婦などが車を優先的に使えるように譲り合いの心を持つことが大切ですね。
 
今村)地域で話し合って決めてほしいですね。
 
西村)一人暮らしで足の不自由なおばあちゃんが近所にいる、という場合は、話し合って、車で避難場所まで連れて行く約束をしておくとお互い安心ですね。
 
今村)地域ごとにそういうルールを作っておくと安心。途中で渋滞が発生する可能性も低くなります。支援する人を1人に固定すると難しい点も出てくると思います。
 
西村)歩くことができる人は徒歩で避難。誰が助けに行って、誰が徒歩で避難するのか、地域で避難の練習をしておくとスムーズに進みそう。
 
今村)避難の練習をすると課題が出てくると思います。車の避難も含めて、地域で課題解決をしましょう。
 
西村)そのほかに、もの・行動でも準備しておくべき備えはありますか。
 
今村)情報収集にはスマホや携帯ラジオが重要。長時間の避難に備えて予備のバッテリーを準備しておくと良いと思います。
 
西村)先ほど、一時避難で高台などの避難所に行って、その後、別の避難所に行くというお話がありました。それぞれどんなところで、どれぐらい滞在するのでしょうか。
 
今村)これもケースバイケース。平野部から山の方に行くときは、一時避難から高いところに移動できます。避難ビルでは、どのタイミングで移動するのか、次の避難場所がどのくらい離れたところにあるのか。そこが安全かなどを訓練で確認しておきましょう。
 
西村)きょうは、海外で発生した地震の津波避難について、どう行動すれば良いのかを教えていただきました。今村さんどうもありがとうございました。