第1419回「防災士資格取得後の課題」
オンライン:岩手大学 名誉教授 齋藤徳美さん

西村)きょうのテーマは防災士です。防災士とは、2003年にスタートした民間の資格で現在、26万人を超える人が取得。しかし、資格をうまく活用できないという悩みも多いそうです。
きょうは、防災士の養成研修講座で講師を務める岩手大学 名誉教授 齋藤徳美さんにお話を伺います。
 
齋藤)よろしくお願いいたします。
 
西村)防災士の資格制度はどのようなきっかけで生まれたのでしょうか。
 
齋藤)阪神・淡路大震災など大きな災害が起きると、行政のフォローだけでは安全の確保が難しくなります。民間の人も防災の知識を持って減災に役立ててほしい。防災士は国の資格ではなく、日本防災士機構が認定する資格です。地球は生きています。風水害も地震も火山の噴火も起きる。自然災害は止めることはできません。わたしたちにできるのは被害を少なくする減災という働きかけだけ。防災士という資格はその取り組みの一環です。
 
西村)防災士にはどのような役割があるのですか。
 
齋藤)災害が起きたときにお互いに助け合う、避難場所の運営を手伝うなどさまざまな危機管理の手助けをすること。災害が起きる前に、安全を確保するための知識を地域の住民に持ってもらいたい。そんな啓発の役割もあります。
 
西村)町内会長さんなどが多く受講しているイメージがあります。
 
齋藤)当時はそのような人々を対象に進めていましたが、特に東日本大震災以降は、一般の人も、「何かしたい」という使命感を持った人が手を挙げるケースが多くなりました。
 
西村)実際に防災士の資格を取得する場合、どのような勉強をするのですか。
 
齋藤)資格を取得するには、防災士教本で自習をしてレポートを提出。さらに2日間にわたって、教本の中の12の講義を対面で受講します。
 
西村)12の講義とはどのような勉強をするのでしょうか。
 
齋藤)災害発生の仕組み、公的機関や企業等の災害対策、自助・共助、防災士制度などの講義を受講します。
 
西村)地震だけではなく、さまざまな災害について勉強するのですね。
 
齋藤)風水害・地震・津波・火山噴火などの自然災害について学びます。
 
西村)その講座は、何時間受講するのでしょうか。
 
齋藤)1コマ約1時間で、2日間受講し、試験を受けます。合格すると防災士の資格が得られます。ただし消防署、日本赤十字社が行っている救急・救命の実技講習も別途、受講する必要があります。
 
西村)自主的に地域の消防署などに行って受けるのですか。
 
齋藤)受講すると証明書がもらえます。
 
西村)おさらいすると、購入した教本で実習して、12時間(6時間×2日間)の講義を受けて、勉強して試験を受ける。さらに地域の消防署などが主催している救急・救命講習の受講も必要なのですね。
 
齋藤)自習後はレポートの提出も必要になります。
 
西村)結構ハードルが高いですね。
 
齋藤)受講生は自ら資格を取ろうと意欲を持った人が多いので合格率は高いですよ。勉強する意欲を持っている人ばかりなので、居眠りもなく、講義をするこちらにも熱が入ります。受験した人はほぼ全員、防災士になることができます。
 
西村)小さい子どもがいる人などは、対面授業の講座のために2日間家を空けるのはなかなか難しいのでは。
 
齋藤)50人の受講生がいれば、講座を開いてくれる自治体もあるので交通費や宿泊費をかけずに受講することもできますよ。
 
西村)それはうれしいですね。自治体からの補助で費用が安くなることもあるのですか。
 
齋藤)東日本大震災以降は、自治体が積極的に防災士を育成しています。自治体の危機管理だけでは啓発も防災の実務的な対応もとても手が足りません。町内会・集落・事業所・学校などで防災士を育成するために、自治体が受講料を負担するケースも多いです。授業料を個人で負担するケースもありますが、自治体主催の場合はほとんど補助されます。
 
西村)大阪府の防災士養成講座について調べてみたのですが、今年度の費用は、受講料、教本代、受験料、登録料も込みで2万2000円とあります。大阪府が防災士を養成しようと呼びかけているようです。防災士の資格を取得した人は、資格をどのようなことに役立てて活動しているのでしょうか。
 
齋藤)資格を取ったものの「どのように役立てたら良いのかわからない」という人も多いと聞いています。資格を取った人を市町村が把握して、危機管理の対応、防災訓練の呼びかけ、避難時の誘導など具体的に動いてもらうことが必要です。岩手県では、津波対策として、避難場所の整備などいろいろなことを地域住民と一緒にやっていかなければ安全の確保が難しいです。防災士の資格を持った人たちに率先して動いてもらって、組織的な体制を作ることを行政に強く呼びかけているのですがまだ十分ではないのが現状です。
 
西村)行政の防災担当が少ないと大きな災害が起きたときに混乱を招いてしまうかもしれませんよね。大阪府が主催している防災士養成講座に参加した人の名簿などがあると思うのですが...。そのようなネットワークはまだ整っていないのですね。
 
齋藤)小さな市町村なら補助をして資格を取ってもらっているので、防災士の情報は掌握できるはずです。自治体が情報を活用するしくみを構築してくれたら、さまざまなことが可能になると思います。
 
西村)個人としてはどのようにつながりを広げていけば良いのでしょうか。
 
齋藤)都道府県ごとの日本防災士会では、資格取得後に受けられるスキルアップの講座があり、地域の防災の講義や訓練への派遣など実行動に結びつけていくことができます。この防災士会は資格を取った人が自ら会費を支払って登録しなければならないのですが、ぜひ資格を取った人は、防災士会に登録して、さまざまな活動に参加してほしいです。
 
西村)年会費はいくらですか。
 
齋藤)全国組織のところは年会費5000円。正直言って少し高いかもしれません。
 
西村)私もそう思いました。
 
齋藤)日本は地震も多発するし、火山も多い。日本列島の面積は地球上の400分の1しかありませんが、地震や火山によるエネルギーは世界の1割近く。災害列島では、国民の命を守るのは国の責任。国が率先して自然災害に対する減災システムに力を入れて、資金的な援助をすることが必要だと思います。
 
西村)南海トラフ巨大地震が近い将来必ず起こると言われている中で、防災士にはどのような役割があると思いますか。
 
齋藤)どんな災害がいつ起きるか、そのときにどうすれば命を守ることができるか。毎日心配していたらとても生活できませんが、災害時にどのように命を守るかは日本列島に住む日本人として身に着けておかなければなりません。普段から災害対策をしておく必要があります。そのために防災士がいろんな役割を果たしてくれるということが期待されます。
 
西村)きょうは、防災士の養成研修講座で講師を務める岩手大学 名誉教授 齋藤徳美さんにお話を伺いました。