ゲスト:ときわ病院歯科口腔外科部長 足立了平さん
西村)阪神・淡路大震災31年のシリーズ5回目のきょうは、災害関連死を防ぐ「口腔ケア」についてお伝えします。ゲストはときわ病院 歯科口腔外科部長で、兵庫県保険医協会 副理事長も務めている足立了平さんです。
足立)よろしくお願いいたします。
西村)阪神・淡路大震災の発災当時、足立さんはどんな活動をしていたのですか。
足立)わたしは神戸市中央区で被災しました。当時勤務していた長田区の市民病院が被災し、診療ができないので避難所を回っていました。避難所は水が不足していたので、歯磨きや入れ歯の掃除ができない状況。虫歯や歯周病の予防のために、歯ブラシや歯磨き粉を配っていました。
西村)被災者に歯ブラシを渡したときはどんな反応でしたか。
足立)「こんなときになぜ歯磨きをしないといけないのか」と強い言葉で追い返されたことも。避難所で肺炎が多いことは内科の先生から聞いていましたが、肺炎の原因が口の中の細菌が原因でおこる誤嚥性肺炎ということは、わかっていませんでした。
西村)誤嚥性肺炎は、お正月に高齢者が餅を詰まらせて亡くなる病気というイメージがあります。
足立)口の中の唾液を誤嚥することもあります。唾液の中にはたくさんの細菌がいます。歯磨きができないと細菌の数は増えます。細菌を含んだ唾液を誤嚥してしまったときに、体力が落ちている人は肺炎を起こします。それを誤嚥性肺炎といいます。
西村)当時、肺炎で亡くなる被災者が多いことはわかっていたけど、それが誤嚥性肺炎ということはわからなかったのですね。
足立)口のケアをしっかりしていれば肺炎が減るとわかったのは、1999年のこと。当時は誤嚥性肺炎は、口とは関係のない病気と思っていました。
西村)誤嚥性肺炎は、高齢者の病気というイメージがありますが、災害時はどうですか。
足立)災害関連死の中で最も多い疾患が肺炎。阪神・淡路大震災では4分の1の人が肺炎で亡くなりました。肺炎の多くが誤嚥性肺炎といわれています。普段も誤嚥性肺炎で亡くなる高齢者が多いですが、災害時は若い人でも体力が低下した人、持病がある人が誤嚥性肺炎で亡くなっていて、普段よりも平均年齢が下がることがわかっています。
西村)高齢者はなぜ誤嚥性肺炎になってしまうのですか。
足立)若い人に比べて体力が落ちている、飲み込む筋力が落ちている、口の中が汚れたままになっている、という理由があります。高齢者は、虫歯になったら歯科医院に行きますが、普段から磨いたり、歯のケアをしたりする意識が低い。災害時は水がないので歯磨きができないと思い込んでいる人が多いと思います。
西村)水が配られても、「歯磨きに使って良いのか...」と思ってしまいそう。
足立)「貴重な水を歯磨きや入れ歯の掃除に使うなんて」と。これは東日本大震災、能登半島の支援に行ったときにも同じでした。
西村)災害時の口腔ケアで重要なことは何でしょうか。
足立)自分で磨くセルフケアは重要ですが、避難所で歯磨きがきちんとできる環境を整えることも大事。体育館や学校の教室には、水場がほとんどありません。運動場の真ん中に自衛隊が水場を作ってくれますが、電気や屋根がないことが多い。雨が降ったら使い勝手が悪いので、明るいうちに1回歯磨きに行く程度、という人がほとんどでした。避難所に使い勝手の良い近場の水場を作ること。公助として国や自治体がしっかり取り組んで欲しいですね。
西村)わたしたちができることは何ですか。
足立)普段からしっかり歯磨きをしておくこと。災害時には、口腔ケアがおろそかになりますが、歯磨きは虫歯や歯周病の予防・治療ではなくて、肺炎から命を守るためのケアだということを知ってほしいです。
西村)歯医者さんは痛いし治療費も高い。少々の痛みだったら我慢しようと思ってしまいます。
足立)それが一番よくない。痛くなってからではなく、普段からケアのために歯科医院を受診してほしいです。3~4ヶ月に一度は検査、クリーニングをすることによって虫歯や歯周病が見つかります。
西村)命を守るために日頃から歯医者さんでケアすることが大切なのですね。虫歯を抱えたまま被災して、水のない避難所に行ったらどうなってしまうのだろう...と思います。
足立)口腔ケアをしないと肺炎になることを理解してほしい。体力の低下も肺炎の原因になります。初期の避難所では、冷えたおにぎりしか出きません。歯がなければなかなか食べることができません。普段から食べられる、飲める口を整備しておくことがサバイバルを生き抜く自助になります。東日本大震災や能登半島地震では、誤嚥性肺炎という言葉は知っていても、口の中の菌が原因で起こる肺炎だとは知らない人が多かった。普段から口腔ケアをしっかりしていれば、災害関連死は少なかったと思います。口の中のケアを普段からしっかりしておくことで、しっかり食べられる口を作っておいてほしいです。
西村)口腔ケアグッズも備えておくことが大切ですね。
足立)歯ブラシだけではなく、歯間ブラシやデンタルフロス、液体歯磨も備えておきましょう。液体歯磨きは、水ですすぐ必要がないので罪悪感が少ないと思います。
西村)液体歯磨きは、平時でも便利ですね。
足立)避難所では、液体歯磨きの使い方がわからない人もいました。支援物資の中に使い方がわからないグッズが山積みされて、もったいない状況がありました。入口にアルコール消毒薬と口腔ケアの液体があって、手を消毒している人も。指導する専門家が必要だと思います。
西村)避難所だけではなく、在宅避難をしている人のところにも、くまなく回れるように国の対策をしっかりしてほしいですね。
足立)在宅避難をしている人は、体力が落ちている人が多く、東日本大震災後の調査では災害関連死が増えている。肺炎で亡くなった人が増えたと予想しています。指定避難所は自治体の支援がありますが、在宅避難者には支援物資が遅れます。入れ歯を持ち出せなかったという報道も。阪神・淡路大地震のときは、入れ歯がない人が食べることに困ったという話もありました。
西村)教訓を生かして、平時から口腔ケアをしていきましょう。足立さんありがとうございました。
