オンライン:NPO法人「日本防火技術者協会」理事長 関澤愛さん
西村)阪神・淡路大震災31年のシリーズ6回目のきょうは、地震火災についてです。阪神・淡路大震災では、285件の火災が発生しました。住宅が密集していた神戸市長田区を中心に、7000棟近い建物が焼失し、大勢の人が亡くなりました。地震火災のリスクと課題について、NPO法人「日本防火技術者協会」理事長 関澤愛さんに聞きます。
関澤)よろしくお願いいたします。
西村)地震火災は普通の火災とは違うのでしょうか。
関澤)平時は、1件の火災に何台ものポンプ車が駆け付けて火を消すことができますが、地震時には同時多発で火災が起きます。ポンプ車より火災件数の方が多いという状況になり、大規模火災になってしまう。当時、長田区の長田消防署にある4台のポンプ車に対して13件も火災が起きました。2件は消すことができましたが、のこり11件は1000平米以上に火が広がってしまいました。
西村)3倍以上の火災が起きてしまったのですね。神戸市全体ではどうでしたか。
関澤)神戸市全体では、ポンプ車40台に対して、約60件の火災が起きました。これは北区や西区など地震被害が少なかったところを含めた台数。被害が集中した海岸沿いの区ではポンプ車が圧倒的に少ない状況でした。
西村)普段なら火災は1日に何件ぐらい起きるのですか。
関澤)阪神・淡路大震災が起きた当時の神戸市では、1日の建物火災は2~3件程度。同時に発生するわけではなく時間をあけて出火するので、いろんな消防署から消防車が駆けつけて火を消すことができます。
西村)阪神・淡路大震災では、どのような理由で火災が発生したのですか。
関澤)地震が発生した5時46分から6時までの15分の間に多数の火災が発生しました。建物の倒壊、損壊に伴うガス管の破断や損傷によってガスが漏れ、それに着火して火災が発生。7時以降~翌日は、電気に関係した火災が多かったです。電気器具の配線が断線、損傷すると発火しやすくなります。電気ストーブや観賞魚用ヒーターが転倒して、近くの可燃物に着火して火災が起きる。翌日~2日後に停電が回復したときに電気が通じたことによって、火災が起きることもあります。阪神・大震災以降、通電火災という呼び名で注目されるようになりました。
西村)阪神・淡路大震災が起こった1月は寒いですし、布団やこたつ布団など燃えやすいものが多いですね。
関澤)暖房器具も出火を増やす要因になったと思います。
西村)阪神・淡路大震災のときは、火が燃え続けている時間も長かったのでしょうか。
関澤)大規模火災になったので、なかなか消防が駆けつけることができず、消防隊が渋滞で火災現場に到着できないことも。翌日以降まで消火に時間がかかりました。
西村)普段なら、十分に水を使うことができますが、断水で水が使えないですしね。
関澤)断水になると消火栓も使えません。当時の神戸市には防火水槽も少なかったので、それが消火の困難につながっていました。火災が広がった理由は、建物の倒壊にもあります。道が封鎖されて、消防車が駆け付けたくても火災現場に到達できず、ホースを伸ばしたくても伸ばせない。建物の倒壊が消火活動を困難にしました。
西村)火災による延焼が指摘されているのが、木造密集地。去年11月の大分県佐賀関の火災も住宅密集地が被害に遭ってしまいました。関西には、こうした危険な密集地の6割が集中しています。なぜ木造密集地では、火災の被害が広がりやすいのですか。
関澤)古い木造住宅が多く集まっていて、壁、建物の外観に木造部分が多く、着火して延焼しやすくなっている。古い木造は倒壊しやすく、燃えやすい。木造同士が非常に接近しているので、火災が一件起きたら延焼しやすい。佐賀関の火災も密集した街区だったので、延焼も早く、消防隊も中に入っていけなかったのです。
西村)木造密集地で火災があちらこちらで起きると消火活動も難しくなりますか。
関澤)平常時なら、消火栓も使えるし、ポンプ車もたくさん集まってくるので、包囲作戦をとって消すことができますが、地震時は、1件の火災にポンプ車が1~2台しか行けない、水も足りない、最初に倒壊した建物で延焼が始まると手がつけられなくなる。佐賀関の場合は、強風で飛び火し、最初の段階で急速に延焼したことで大規模火災になりました。
西村)対策はできるのでしょうか。
関澤)国が指定する「地震時に著しく危険な密集市街地」は、この10年で減少しました。ただそれは木造密集市街地のわずかな部分。大規模火災が起きた糸魚川市も、能登半島地震の輪島市も、佐賀関もすべて木造密集市街地です。全国にはまだ対策されていない木造密集市街地がいたるところにあります。
西村)数がカウントされていない場所でも火災が起こると危険な場所がまだまだあるということですか。
関澤)国も自治体も手をこまねいているわけではありません。根本的な改善のためには、木造密集市街地を全面的に不燃化することが基本的な対策ですが、住民に納得してもらい、合意を得て進めるには時間も労力もかかります。
西村)なぜ住民の合意を得るのが難しいのですか。
関澤)想像してみてください。「今住んでいるところに新築の鉄筋コンクリートの家を建ててください」と言われたら。しかも「自分のお金で建ててください」と言われてすぐに「はい」とは言えませんよね。リタイアした人たちが多いし、すぐに合意を得ることは難しいです。
西村)金銭的にも難しいですし、住み慣れた土地を離れてしまうと、近所付き合いもなくなってしまうかもしれないし。
関澤)国や自治体では、現在2つの方策で事業を行っていいます。ひとつは、木造密集市街地同士の街区間の延焼を防ぐために、道路のすぐ脇にある建物を不燃化して、延焼遮断帯を作って、街区間の延焼を防ぐこと。もうひとつは、木造密集市街地の中には二項道路(4m未満の道路)が多数あるのですが、拡幅整備を補助する狭あい道路拡幅促進整備事業があります。道が広がると消防車が通れるようになります。全面不燃化は道遠いですが、道路を広げるなどできるところから取り組みが行われています。
西村)少しずつ進んでいる地域もあるのですね。わたしたちは地震火災について、どんなことに気をつけたら良いでしょうか。
関澤)木造密集市街地の安全は国や自治体が進める公助。公助だけではたりません。地震時は、ポンプ車の数よりも火災件数が多くなります。地域にいるわたしたちが少しでも火災件数を減らすための努力をしなければなりません。ひとつは出火防止。耐震自動消火装置付きの安全器具や感震ブレーカーの使用、調理器具のスイッチやガスの元栓を閉めるなどのとっさの火の始末。各家庭での火を出さない努力が求められます。万が一、火災が起きた時、大規模な火災にしないためには、初期消火をする必要があります。一家にひとつは消火器を備えておくこと。小さい火であれば消火器で消すことができるので、消防署の負担を減らすとことができます。それでも火災が起きて火が広がった場合は避難が必要。最寄りの小・中学校の体育館ではなく、火災から安全で、熱からも影響を受けにくい広場や公園に避難しましょう。各自治体で指定されている広域避難場所の場所をふたつ以上覚えて、どこから火災が迫ってきても安全な方向に逃げられるように備えておきましょう。
西村)詳しく教えてくだり、ありがとうございました。
