オンライン:京都大学防災研究所 教授 矢守克也さん
西村)地震はいつどこで発生するかわかりません。もしも、寝ている夜の時間帯に地震が起きたら、昼間と違う状況の中、どのように身を守れば良いのでしょうか。きょうは、夜の避難訓練について、京都大学防災研究所 教授 矢守克也さんに聞きます。
矢守)よろしくお願いいたします。
西村)避難訓練は明るい昼間にしか経験したことがありません。夜の避難訓練もあるのですね。
矢守)昼間しか訓練をしたことがない人が多いと思います。地震や台風は昼間だけではなく、夜に襲ってくることもあります。
西村)阪神・淡路大震災や熊本地震も深夜、明け方の時間に発生しました。
矢守)多くの地震が夜中に起こっています。夜中に大雨が降ることもあります。夜の時間帯の避難訓練は大事です。
西村)夜に大きな地震が起きたら、昼間とは何が違うのでしょうか。
矢守)大きく2つ違います。1つは夜中なので暗いということ。大きな地震が起きたら停電になる可能性が高いです。熊本地震で親戚が被災したのですが、地震ですぐに電気が消えて、真っ暗になったそうです。2つ目は心理的な特徴。寝ていた場合、不意を突かれるので、十分に準備体制がとれません。寝起きで何が起こったかわからないと判断力も鈍ります。阪神・淡路大震災のときも、「真っ暗闇の中で何が起こったのかわからなかった」という人が多かったです。
西村)わたしは、中学1年生のときに大阪で震度4を経験したのですが、何が起こったかわかりませんでした。
矢守)真っ暗に加えて何が何だかわからず、準備ができない。夜中は条件が悪いです。昼間とは違います。
西村)真っ暗闇の中、地震が起こるとどんな危険があるのでしょうか。
矢守)そもそも避難訓練をやるときに、「玄関がスタート地点で外に出かけていく」という訓練をやってないでしょうか。「玄関までは何の問題もなく行ける」ということが前提になっている人が多いと思います。でも夜の場合は、そもそも玄関まで怪我をせずに無事に行けるのか。蛍光灯や食器などのガラスの破片が散乱しているかもしれない。自分の周りに大きなタンスが倒れていて動けないかもしれない。防災リュックは準備していてもどこにあるかわからない。戸棚がどっちの方向かわからないし、戸棚が開くかもわからない。熊本地震で被災した親戚は、下水の配管が壊れて、高層階なのに室内が水浸しになったそうです。
西村)それはかなりうろたえますね。
矢守)阪神・淡路大震災では2階で寝ていたはずなのに、外へ出ようと思ったら階段がなかったという例も。夜は室内から屋外に出るまでに起こることを想像しておくことが大事です。
西村)灯りがないのは、大きなハンデになりますね。
矢守)ヘッドライトや懐中電灯は、寝ているときに身の回りに置いておかなければなりません。
西村)手の届く範囲に置いておいて、飛ばされないようにくくりつけておく。家具の固定も大事ですね。自分が動けないと避難できないですもんね。何とか外に出られたとして、暗い中を歩くとなるとどんな危険がありますか。
矢守)10回以上、夜の避難訓練に参加して気づいたことは、小さな段差や小石のような障害物に自分の歳のせいもあるかもしれませんが、よくつまずくということ。階段などは気をつけるので大丈夫ですが、普段は気づかない傾いた道や側溝と道路の隙間などに足取られます。シルバーカーの車輪がひっかかることも。昼間だったら意識して避けることができますが、夜になると難しいです。マンホールで滑ることもあります。
西村)ただでさえマンホールは滑りやすいですよね。暗闇だとわからないし、転んでしまいそうですね。
矢守)被災地では液状化によって、マンホールが地面の上に飛び出ていることがあります。
西村)能登半島地震の被災地の輪島市でたくさん見ました。
矢守)電柱や電線が倒壊して垂れ下がっていると、昼間ならわかりやすいですが夜は見えにくいです。
西村)いろんな障害物があるし、上から何かが落ちてくる危険も。想像して動かないといけないし、体験しておくことは大切ですね。矢守さんがサポートした夜の避難訓練は、どんな地域で行われたのですか。
矢守)津波が来る危険のある地域で、海岸沿いの小さな集落で行われることが多かったです。高知県四万十町興津地区で、10回ぐらい夜の避難訓練をしました。夜だからこそ起こるトラブルやハードルがあるので、夜も避難訓練をやることになりました。
西村)四万十町では大きな地震が発生したら、何分で何mの津波が来るのですか。
矢守)興津地区の海岸線には、南海トラフ地震の場合、地震が起きてから20分後には津波の第1波がやってきて、35~40分後くらいに第2波もやってきます。高いところでは、10m以上浸水するかもしれないという厳しい地域です。
西村)だから夜間の避難訓練を何回も続けているのですね。
矢守)東日本大震災の後に避難訓練を始めました。2014年の伊予灘地震は、夜中に起こって高知県もだいぶ揺れました。2016年の熊本地震も夜に起こって、高知県内も揺れました。夜に地震が多いと思います。夜に津波から逃げなければならなくなったらどうするのかという声が住民や自治体からも上がって。危険も伴うけど、夜に避難訓練をやろうと始まりました。
西村)住民の声から始まったのですね。夜の避難訓練を実施している自治体は多いですか、少ないですか。
矢守)残念ながら多いとは言えません。高知県四万十町や黒潮町は10年近く、昼も夜も避難訓練を続けています。私の知っている限り、大きな事故は起こっていません。逆に夜ならではの課題も見つかり「やってよかったね」と言っています。ぜひ他の自治体でもやってほしいと思っています。
西村)昼間の避難訓練と夜の避難訓練で参加人数は変わりますか。夜は寒いし、暗いし怪我しそうと思ってしまいます。
矢守)地域の避難訓練は、土日の午前中に行われることが多いです。その時間帯は、子育て世代は、学校や子どもの行事がある。共働きの場合、たまの土日は、午前中は寝ていたいという人も多いです。土日は、避難訓練に出たいと思う時間帯ではないんです。その点、夜にやると仕事が忙しい人や子育て世代が参加しやすい。夜といっても夜中にやるわけではなく、冬場は18時くらいから暗いですよね。そのような時間帯に暗いときを想定した訓練をやって、その後はうちへ帰って夕飯にできます。夕飯前に少し運動をするノリで参加できます。昼の訓練に一度も参加したことがない人が意外に参加してくれます。避難訓練は昼も夜もやるのが正解だと思います。
西村)わたしたちが住んでいる街中で震度5の大きな地震が来た場合、津波の影響がない地域に住んでいても、避難した方が良いですか。それとも頑丈な建物なら家にとどまって良いのでしょうか。
矢守)建物の耐震性によりますが、耐震性が十分であれば、少々の余震程度で大きな影響を受けることはないでしょうから、慌てて外に出るよりは建物の中で様子を見る方が良いと思います。家具を全部固定できれば良いですが、中には固定できない家具もあると思うので、倒れそうな家具からは離れること。地震で建物が大丈夫だとしても、電気や水が止まってしまうと大変だとは思いますが...。
西村)でも火災が迫ってきていたら逃げなくてはいけないので、夜の避難訓練は、我が家もやらないといけないと思いました。
矢守)火災も大きな要因。しばらくは自宅にとどまるとしても寝入るのはよくない。テレビやラジオを通して、情報を取り続け、周りの様子に気を配ること。それなら、慌てて家から出ない選択肢もあると思います。
西村)矢守さんどうもありがとうございました。
