第1521回「避難時の感染症対策」
オンライン:白鷗大学 教育学部 教授 岡田晴恵さん

西村)各地で感染が急拡大しているインフルエンザ。空気が乾燥して気温が低くなるこの時期はインフルエンザやコロナなどの感染症が広がりやすく、十分な注意が必要です。もし今、大きな地震が発生したら、避難所ではどのようなことに気をつけたら良いのでしょうか。
きょうは、コロナなどの感染症に詳しい白鷗大学教育学部 教授 岡田晴恵さんに伺います。
 
岡田)よろしくお願いいたします。
 
西村)インフルエンザが急拡大しています。今、大きな災害が起こるとどうなりますか。
 
岡田)避難所には人がたくさん集まるので、インフルエンザ、ノロ、コロナが流行りやすくなります。インフルエンザは、高熱、頭痛、全身の倦怠感などの症状が出ます。
 
西村)しっかりと感染対策をしないといけませんね。
 
岡田)人が集まるということは感染者も紛れています。避難所では、十分に換気ができません。災害で命が助かっても感染症で病気になってしまいます。
 
西村)助かった命をつなぐために感染症対策をしっかりしましょう。インフルエンザが流行しています。今年は例年より早いですか。
 
岡田)1ヶ月ぐらい流行が早いです。来月12月の半ばくらいからピークになると予想されています。
 
西村)まだまだ気が抜けませんね。避難所での感染症対策について教えてください。
 
岡田)手洗い・うがいが基本。避難所には十分な水がありません。初期は消毒用アルコールで手をふくこともなかなかできないので、事前にワクチンを打っておくと良いです。ワクチンは死亡・重症化のリスクを下げます。高齢者は重症化を阻止するためにコロナワクチンの定期接種をおすすめします。
 
西村)早めのワクチン対策も必要ですね。ワクチンのほかに用意しておいた方がいいものはありますか。
 
岡田)非常用持ち出し袋には、消毒用アルコールシート、液体、不織布マスクを数枚。子どもには、アセトアミノフェンの解熱剤も必要です。
 
西村)なぜアセトアミノフェンの解熱剤が必要なのですか。
 
岡田)インフルエンザは、15歳未満の子どもには合併症を防ぐために、アセトアミノフェンの解熱剤が推奨されています。大人の薬を飲ませるわけにはいきません。口の中を衛生的に保つことも大事。わたしは歯磨きセットのほかに液体歯磨きを持ち出し袋に入れています。口腔内を清潔にするとインフルエンザの予防になります。
 
西村)非常用持ち出し袋には、アルコール消毒液や不織布マスク、子どもがいる家庭は、アセトアミノフェン成分の解熱剤、常備薬、口腔ケアグッズ、マウスウォッシュ。水も一緒に入れておくといいですね。
 
岡田)血圧の薬など毎日飲む薬がある人は、多めにもらっておきましょう。避難所が混んでいるなら、自宅避難や車中避難をして人を分散させることも大事。一箇所に集中しないように。
 
西村)インフルエンザ、コロナ以外でも災害時に気をつけたい感染症はありますか。
 
岡田)破傷風です。東日本大震災では、避難所で60歳以上10人に破傷風がありました。破傷風菌は、世界中の土壌にいます。地震や豪雨災害では、泥まみれの怪我が多いです。泥水の中で怪我をすると、破傷風菌が泥と一緒に傷から体内に入ってきて、破傷風という病気になります。傷がでてでたとき、この泥を洗い流すキレイな水が避難所にはありません。傷を洗い流す水もない状況で、医療の救援が来るまで、何時間も待っている間に破傷風菌が体の中で発芽して、神経毒素を作るんです。
 
西村)恐ろしいいですね。東日本大震災の津波被害で破傷風が広がったことが想像できます。
 
岡田)真っ黒な泥水の津波にのまれてけがをして、破傷風を発症した人がいました。豪雨災害や地震は、泥まみれの怪我がつきものです。
 
西村)災害時はみんなが怪我をしているから、「擦り傷ぐらいなら大丈夫」と我慢をしてしまう人もいそうです。
 
岡田)呂律が回らない、顔がこわばるなどの初期症状が出ていても、避難所では「もっとひどい人もいるから...」と我慢してひどくなった事例もありました。
 
西村)破傷風の症状について詳しく教えてください。
 
岡田)頭痛、呂律が回らなくなるなどの初期症状があります。治療が遅れると、全身の筋肉がけいれん性の強い硬直をおこして、最後は呼吸困難になって窒息死することもあります。
 
西村)そんなに怖い病気なのですか。
 
岡田)平時でも100人前後の破傷風の患者が毎年確認されています。治療できる環境がある平時でも致死率は10~20%。災害時では適切な医療が受けられず、薬もワクチンも不足します。重症化のリスクを想定しなければなりません。
 
西村)断水してキレイな水もないと傷を放置してしまう人もいますよね。
 
岡田)破傷風ワクチンは事前に打つことができます。子どもたちは5種混合ワクチンで接種済です。後の世代は、3種混合ワクチン(破傷風・百日咳・ジフテリア)で接種済。東日本大震災のときの破傷風患者10例はすべて中高年でした。これには理由があって。破傷風のワクチンは、1968年に定期接種になっています。1968年以前に生まれの人は、破傷風ワクチン無接種で育った世代。免疫がないために東日本大震災のときは、この世代に多くの破傷風患者が出てしまったのです。さらに、1975~1981年は3種混合ワクチンが中止に。1981年以前生まれの人は、破傷風ワクチン未接種の人が多いので、任意で打つことが必要です。
 
西村)今からでも打つことができるのですね。
 
岡田)わたしは、1963年生まれなので、東日本大震災後にその報告を見て驚いて、すぐに打ちに行きました。母子手帳を見たこともなかったので。1968年以前、1981年以前生まれでワクチンを打ってない人は、破傷風ワクチンを一般病院で打つことができます。ワクチンは3回打ちます。まず1回目を打って、約3~8週間間隔を置いて、もう1回打つ、その後、半年以上間隔を空けてもう1回。3回接種で基礎免疫ができます。半年~1年かかります。
 
西村)結構長い時間がかかりますね。
 
岡田)破傷風ワクチンの接種は、事前にできる災害対策のひとつです。
 
西村)南海トラフ地震への備えとしても大事ですね。
 
岡田)子どもの頃に破傷風や3種混合のワクチン、4~5種混合のワクチンを受けた人でも、接種完了から10年以上経つとワクチン免疫が低くなっています。30歳以上になると免疫力が低下してくるので、10年ごとぐらいに破傷風ワクチンを追加接種していくと良いです。未接種の人は、まず3回を半年から1年かけて打ってください。
 
西村)岡田さん、どうもありがとうございました。