第1425回「能登半島地震1か月~被災地の現状と必要な支援」
オンライン:兵庫県立大学 大学院 教授 阪本 真由美さん

西村)甚大な被害をもたらした能登半島地震の発生から1ヶ月が経ちました。2月1日現在で1万4000人以上が避難生活を送っています。被災地以外の地域に避難する2次避難は、あまり進んでいない状況です。
きょうは、被災者への支援や調査を続けている兵庫県立大学大学院 教授 阪本真由美さんにお話を伺います。
 
阪本)よろしくお願いいたします。
 
西村)阪本さんはいつ頃から被災地に入ったのですか。
 
阪本)これまでに2回被災地に行っています。地震が起きた翌日の1月2日~8日。2回目が1月18日~25日です。
 
西村)翌日に被災地に入ったのですね。どうやって入ったのですか。
 
阪本)わたしは「全国災害ボランティア支援団体ネットワーク」というNPO活動もやっています。被災地支援を行うボランティア団体をサポートするネットワークです。今回は被害が大きく、たくさんの団体が支援に駆けつけようとしていました。そのような人たちをサポートするためにNPOと一緒に被災地に向かいました。
 
西村)サポートとはどんなことをするのですか。
 
阪本)ボランティア団体の活動状況、支援の手が足りない場所の情報共有が主な目的です。被害の範囲が広いので、支援が届きにくい場所があります。そのような支援のムラを調整する活動をしています。
 
西村)そのような調整はすごく大切だと思います。団体の車で移動したのですか。
 
阪本)はい。NPOは、昨年1月に石川県と災害時に協力して活動するという協定を結んでいます。そのような経緯もあって、まずは石川県庁に行き、災害対応の状況について情報共有しながら、今後の対応方針を相談しました。金沢までは、高速道路を使って車で向いました。
 
西村)金沢から先の道路状況はどうでしたか。
 
阪本)道路状況はとても悪かったです。能登半島を縦断する「のと里山海道」は、今回の地震によって通れなくなりました。それを避けて一般道で移動するにも、道路には亀裂や陥没、段差があって前に進めません。被災地から避難する車も向かう車もパンクしたり、段差に引っかかって横転したり...大変な状況でした。
 
西村)町のようすはいかがでしたか。
 
阪本)石川県珠洲市は昨年5月の地震でも被害を受けていますが、当時と比べても被害状況が悪いです。まず、道路事情が悪く、被災現場に入っていけない。電柱や倒壊した住宅が道を塞いでいて、あたり一面に被害が広がっています。さらに津波被害を受けているところも。被害が複層的で大変な状況です。
 
西村)複層的というのはどのような状況ですか。
 
阪本)地震による家屋の倒壊だけでなく、土砂災害、津波による浸水被害など、さまざまな形の被害がある状況です。
 
西村)被災者のようすはいかがでしたか。
 
阪本)地震が起きたのは正月。帰省していた家族が家でゆっくり過ごしているときにいきなり大きな揺れが来ました。津波から慌てて逃げて、その後は避難所生活。自宅がどうなっているのかもわからない。支援物資が全く届かない状況で、みんなで持ち寄ったもので生活しています。とにかく辛いという話をたくさん聞きました。
 
西村)不安が続く中、発災直後は、食事、トイレなどはどうしていましたか。
 
阪本)食事は、みんなで壊れた家から持ち寄れるものを持ち寄って生活していました。通信環境も悪く、誰がどこにいるのかもわからないので、いる人たちで精一杯のことをしていました。断水で水洗トイレは流すことができません。それでも何とかトイレはキレイに使おうと努力していました。水洗トイレにビニールシートをしいて、排泄物を新聞紙にくるんで処理していました。水も掃除道具もないという厳しい状況でした。
 
西村)発災直後は里帰りをしていた若い世代も多かったと思いますが、地震発生から1ヶ月経った今、被災地の状況も変わってきているのではなでしょうか。
 
阪本)被災地の状況は日々刻々と変わっています。直後に比べると生活環境は少しずつ良くなってきていると思います。まだ温かい食事は出ていませんが、支援物資が届いたり、仮設トイレや避難所のパーティションが設置されたりと住環境は少しずつ良くなってきています。家族ごと広域避難する人もいて、被災地にいる人の数は減ってきています。金沢市、野々市市など石川県の中でも比較的被害が少なかったエリアには、広域避難する人が増えていて、新しいコミュニティができています。広域避難している人は、被災地の状況をとても心配していて、毎日ニュースを見たり新聞を読んだりして、情報を手に入れようと一生懸命です。
 
西村)広域避難をしている人たちは、どのような場所に行っているのですか。
 
阪本)さまざまなケースがあります。家族や親せきがいるところに避難している人も。石川県が2次避難先として、ホテルや旅館などの宿泊施設を確保しているので、ホテルや旅館などに避難している人もいれば、地域別にコミュニティ単位で金沢市の避難所に行っているケースもあります。
 
西村)広域避難をしている人は、どんなことに困っていて、どんな支援が欲しいと言っていますか。
 
阪本)生活環境はとても良く、何でも手に入るし生活は楽になったのですが、被災地の家や家族が心配だと言っています。
 
西村)食事はどうしているのですか。
 
阪本)2次避難先では、弁当や温かい食事も提供されています。避難所の場合は食事が提供されますが、ホテルなどの宿泊施設では、それぞれで生活していると思います。食事が出るところと出ないところがあるので。
 
西村)毎日お金がかかりそうですね。
 
阪本)避難所も洗濯機があるところとないところがあります。洗濯機がないとコインランドリーで洗濯しなければならないので、お金がかかります。
 
西村)2次避難先は自分で選べるのでしょうか。
 
阪本)人それぞれです。地域単位で避難所に避難しているところもあります。
 
西村)おしゃべりできる友達や親しい人が近くにいない場合は、ひとりで悩みを抱え込んでしまいそうですね。
 
阪本)まとまって避難している人たちは、仮設住宅などの心配事も共通しているので、情報共有ができていると思います。しかし、ホテルなどに避難している人たちへの情報提供は十分にできてないので、気になるところですね。
 
西村)ホテルでは自治体や看護師、ボランティアなど相談・支援してくれる人はいるのでしょうか。
 
阪本)そのような体制の整備は十分にできてないと思います。そのためには、誰がどのホテルにいるのかという情報が必要。情報集約ができないのでアプローチできない状況にあります。
 
西村)県外に行った人などは、情報がわからない場合、要介護者、障害者などへの支援が行き届かなくなりそうですね。
 
阪本)1.5次避難という仕組みがあります。障害者、高齢者など普段から介護サービスを使っている人に避難先を紹介する仕組みです。ケアマネージャーの情報を避難先に引き継ぎ、避難先でも介護サービスが継続して受けられるような取り組み。しかし、支援を必要とする人が多くて、まだ十分につなぎきれていません。
 
西村)2次避難や1.5次避難をしたいけど、自宅にとどまっている人も多いのでしょうか。
 
阪本)「自宅が心配だから」「家族が被災地にいる」などさまざまな事情を抱えて、被災地に残っている人もいます。
 
西村)家族の仕事によっては、残る人もいそうですね。
 
阪本)行政の職員など災害対応に従事する人が家族にいる場合は、被災地に残ることが多いです。
 
西村)倒壊した自宅にとどまるなど危険な状況の中、気温も厳しく、断水もしています。大変な生活をしているのではないですか。
 
阪本)一旦は2次避難したけど避難先に馴染めなくて自宅に戻った人もいます。自宅避難で支援が必要な人に関しては、今後、1件ずつ訪問して、支援につなげる努力をしていかなければなりません
 
西村)人と人の心をつなぐことが大切ですね。支援をする人たちの人数は足りているのですか。
 
阪本)被災地は道路状況や住宅環境も悪くて、支援者の滞在先を確保することが難しいです。今支援に入っている人はほとんどが自己完結で滞在しています。車中泊をしながら、1週間以上お風呂にも入れずに支援している状況。支援者向けの滞在先の確保は、これからの課題です。
 
西村)一般のボランティア受付開始が始まったというニュースを見ましたが、そのような現状があるのですね。例えばわたしが個人でボランティアに行くとしたら、どこまで電車で行って、どうやって被災地に入り、どんな活動をすることができるのでしょうか。
 
阪本)比較的道路事情が良い地域は、ボランティアの受付が始まっています。自家用車で行くか、復旧している地元の鉄道で被災地に行くことができます。しかし、奥能登は道路事情、宿泊施設の状況が依然として悪いです。道路の復旧状況を見ながら、都市部からボランティアバスを運行できるかを検討しているところです。実現するともっとボランティアに行けるようになると思います。
 
西村)被害が大きい珠洲市や奥能登にいち早く入りたいところではありますが、現在は難しい状況が続いているのですね。ボランティアバスが早く整備されて、多くの人が足を運べるようになりますように。交通網の復旧はこれからでしょうか。
 
阪本)これから被災地では、瓦礫の除去や復旧工事が始まるので、ますます渋滞すると思います。個人の車で被災地に駆けつけるよりは、ボランティアバスをピストン輸送させるなど効率よく道路を使っていくことが大事。
 
西村)今後必要になってくる支援は何ですか。
 
阪本)本当に被害が大きいので、復旧・復興にはとても時間がかかると思います。阪神・淡路大震災と比べても、今回の被害はかなり大きい。息の長い支援をすることが大事です。住宅を再建するだけではなく、そこに住む人たちのつながりを取り戻す、観光地としての復興など、長いプロセスで寄り添って歩いていくことが大事。ボランティアも今だけではなく、来年も再来年も続けて、息の長い支援をしてくれるとうれしいです。
 
西村)お手伝いに行くだけではなく、観光として旅行に行って、美味しいものを食べて経済を回していくこともできます。お取り寄せや募金などいろんなことができるのではないでしょうか。
きょうは、被災地で支援や調査を続けている兵庫県立大学大学院 教授 阪本真由美さんにお話を伺いました。