第1422回「阪神・淡路大震災29年【2】~能登半島地震でも明らかになった『進まない耐震化』」
オンライン:元・神戸市職員 一級建築士 稲毛政信さん

西村)今月17日で、阪神・淡路大震災の発生から29年。阪神・淡路大震災では、亡くなった人の8割が建物の倒壊などによる圧迫死でした。今回の能登地震でも、国の耐震基準を満たさない多くの建物が倒壊しています。
きょうは、耐震化の必要性について、元・神戸市職員で1級建築士の稲毛政信さんにお話を聞きます。
 
稲毛)よろしくお願いいたします。
 
西村)1995年の阪神・淡路大震災当時、神戸市の職員だった稲毛さんは、どんなお仕事をしていたのですか。
 
稲毛)交通局で地下鉄海岸線をつくっていました。駅舎の内装設計などを担当していました。
 
西村)稲毛さんの自宅は、阪神・淡路大震災当時、どちらにあったのですか。
 
稲毛)阪神西宮駅から1km北にありました。
 
西村)被害が大きかった地域ですね。地震当日のことを教えてください。
 
稲毛)わたしは、離れに寝ていて無事でした。長男と次男が母屋の2階にいて次男は助かりましたが、高校2年生だった長男が屋根の下敷きになって亡くなりました。それから耐震化について調べるようになりました。
 
西村)倒壊した家はどんな家だったのですか。
 
稲毛)築50年のいわゆる旧耐震の家でした。耐震の新基準が定められた1981年以前の建物は壁が少なく、耐震性がなかったのです。
 
西村)息子さんが亡くなりもうすぐ29年になります。今の気持ちはいかがですか。
 
稲毛)残念です。近所の人がたくさん助けに来てくれました。わたしの家は壊れましたが、隣の家は何ともなかったのです。隣の家は、1981年に定められた新しい耐震基準に基づいて建てられた建物でした。それ以降に建てられた建物はほとんど倒れていません。戦後の貧しさで、住む家もなかった時代。1950年にできた建築基準法では、壁の量は現在の基準の半分でした。
 
西村)厳しい時代だったのですね。
 
稲毛)1981年以前に建てられた建物は、壁の量が少ないので新基準まで改修しなければなりません。
 
西村)先日の能登半島地震では、多くの木造住宅が倒壊してしまいました。
 
稲毛)1995年12月に耐震改修の促進に関する法律ができて、耐震改修が始まったんです。まだ28年しかたっていませんが、その間にかなり技術的な発展がありました。すごく安く耐震改修ができるようになったんです。
 
西村)いくらぐらいで耐震改修できるのですか。
 
稲毛)耐震改修費の全国平均は、220万円です。
 
西村)改修が必要な建物は、戦後建てられた木造2階建ての住宅ですか。
 
稲毛)はい。上が重たいと地震で揺れてつぶれてしまいます。
 
西村)能登半島地震では、珠洲市や七尾市で、2階の屋根瓦が歩いている人の膝下にあるという状況をテレビで見ました。
 
稲毛)220万の内訳は、耐震診断、改修設計が約50万円。残りの約170万円が工事費の全国平均です。地域による差はほとんどありません。
 
西村)補助金は出るのですか。
 
稲毛)たくさんでます。石川県は、改修工事費に150万円の補助金が出ます。全国一位ではないでしょうか。兵庫県も多くて、西宮市は100万円の補助金がでます。設計や耐震診断にも20万円の補助金が出ます。合計170万円は補助金が出ることになります。220万から引いた約50万円で耐震改修ができるということです。
 
西村)そんなに補助金が出るのになぜ能登地震でたくさんの木造住宅が潰れたのでしょうか。
 
稲毛)地震の経験が少なく、耐震改修をしていた家が少なかったのでしょう。耐震改修は簡単です。壁を強くするだけなので間取りが悪くなることはありあません。
 
西村)今回、能登半島地震で多くの住宅が被害を受けました。珠洲市は高齢者が多い地域で、耐震化率は全国平均の87%を大きく下回る51%だったそうです。全国の約1割の住宅はまだ耐震化ができてないということについてどう思いますか。
 
稲毛)伝統構法による古民家や町屋はほとんど耐震化ができていません。伝統構法の家は、瓦が落ちて、大きく傾いてもくずれない性質があります。それに対する簡便な設計法が2002年にできました。
 
西村)関西でもやはり気をつけた方が良いですか。
 
稲毛)全国で耐震化が必要です。大きな古民家なら耐震改修に約200~300万円の費用がかかります。京都市などは町屋に補助金が出るところもあるのですが、全国的にはまだまだ。戦後に建てられた軸組構法の建物もたくさん残っています。100万円ぐらいあれば耐震改修ができます。
 
西村)「阪神・淡路大震災や大阪北部地震を乗り越えたから大丈夫」と思っている人もいるかもしれませんが、そうではないのですね。
 
稲毛)前の地震でいたんでいるので、差し込み式になっている柱や梁が外れかけているところもあるかもしれません。
 
西村)建物がダメージを受けている可能性が高いのですね。
 
稲毛)危険ですね。でも耐震改修をすれば大丈夫。新築の建物と同じ強度になるように、腐っているところやいたんでいるところは取り替えて、補強していく。バランスよく計算しながら設計していきます。最近はソフトで耐震設計ができます。高知県では、4~5年前から耐震改修に積極的に取り組んでいます。高知県は、南海トラフ地震が起きたらすぐに津波が来るといわれていますが、家が倒れていたら逃げられません。できるだけ天井や床を剥がさない安い構法もできているので、耐震改修はやらないと損です!
 
西村)耐震化を進めるためには、防災意識を高めることが大事。補助金がもっと出るようになれば、できる人が増えそうですね。みなさん今一度、自宅の耐震について考えてみてはいかがでしょうか。
きょうは、元・神戸市職員で1級建築士の稲毛政信さんにお話を伺いました。