オンライン:防災アナウンサー 奥村奈津美さん
西村)この夏休みを利用して防災を学ぶのもいいですね。
きょうは、「ジュニア防災検定」という子どもたちの防災検定について、防災アナウンサーの奥村奈津美さんにお話を伺います。
奥村)よろしくお願いいたします。
西村)「ジュニア防災検定」とはなんですか。
奥村)「防災教育推進協会」が実施する検定で、わたしも講師を務めています。東日本大震災の教訓を受け、「子どもたちが自分の命を自分で守れるようになってほしい」と作られました。子ども向けの「ジュニア防災検定」は、初級・中級・上級があり、受験対象は小学校4年生以上の小学生・中学生・高校生。毎年5000人ほどの子どもたちが挑戦しています。
西村)たくさんの子どもたちが挑戦しているのですね。
奥村)個人のほかに、学校の部活やクラブチームなどで受験する人もいます。
西村)どんな試験があるのですか。
奥村)暗記問題だけではなく、自由研究、家族会議レポートがあり、主体的に自分でテーマを決めて、実際に防災アクションをします。研究したり、レポートを作ったりして、自分で考えて行動することを大切にしている試験です。わたしは毎年、表彰式の司会を担当しているのですが、大変素晴らしい取り組みばかりで、いつも感心しています。
西村)これまでにどんな発表がありましたか。
奥村)昨年度の発表から紹介します。広島県の小学校4年生の男の子は、「家族防災訓練」というタイトルで発表してくれました。西日本豪雨当時は、まだ3歳で記憶にはないとのことでしたが、「再び西日本豪雨のような大雨が降ったら」という想定で、停電・断水している状況を家の中で作り、家族で実際に食事を作って食べたり、災害用のトイレを使ったりしました。さまざまな災害用トイレを使って比較検討し、音・匂い・価格・ゴミの量などを表にまとめ、どれが1番良いのかを新聞記事のようにまとめていて、本当に素晴らしい発表でした。「防災グッズはあるだけではダメ。みんなが使えるように訓練するのが大事」という最後のメッセージも素敵でした。
西村)新聞のように発表するのは、小学生ならではですね。
奥村)手書きで一生懸命作っていて。表もあって、すごくわかりやすかったです。そのほかにも、学校の防災部として受験して発表した中学生たちは、1年を通した活動について発表してくれました。地域の災害の歴史を学んだり、地域の防災訓練に参加して避難誘導したり。
西村)地域のどんな人と一緒に訓練したのでしょうか。
奥村)過去の歴史を学ぶ時は、歴史について知っている人、地域の防災訓練は、自治会の人々と活動したのだと思います。
西村)どんな感想がありましたか。
奥村)「もっとハイレベルな防災に取り組んでいきたい」という感想がありました。「より地域の人たちが助かるために貢献できることはないか」と、前向きに取り組んでいる姿が印象的でした。津波や能登の地震、これまでの災害を自分ごとに考えて取り組んでいると感じました。
西村)1つ目の家族防災訓練の発想について、どう思いましたか。
奥村)素晴らしいと思いました。学校で避難訓練はよくやると思いますが、家でも避難訓練をすることが大事。何か起きた時に初めてやるのはなかなか難しいものです。防災グッズも初めて使うとなると思うように使えないことも。事前に家族でやってみるのは、素晴らしい取り組みだと感じます。
西村)発表してくれた小学4年生は、西日本豪雨当時は3歳だったとのこと。ご家族は災害を経験しているのですね。
奥村)はい。大変怖い思いをしたのだと思います。自宅は被災しませんでしたが、地域が被災する中で、同じようなことが起きたら...と想定して、タイムラインを作っていました。
西村)それは、過去の災害を振り返って語り継ぐことにもつながりそう。
奥村)子どもたちが防災を学ぶと、地域に良い影響があります。家庭内で子どもが防災の自由研究をするとなら、備蓄や家具の転倒防止対策をするために家族の協力が必要です。そうすると、家全体の防災力が高まることになる。地域の災害について学ぶために、災害を知っている人に話を聞くことで、地域とのつながりができ、その情報が発表されることによって、未来に伝承することもできる。ある地域では、子どもたちが地域の災害の歴史を学んで、劇にして発表しました。実際にその地域で災害が起きたとき、子どもたちが劇のことを思い出して、「早く避難しよう!」と家族や地域の人に呼びかけて助かったという事例もあります。子どもたちが主体的に学ぶ中で、地域とのつながりができ、防災が見直され、未来へ伝承することにもつながる。子どもたちは"防災ヒーロー"だと思います。そんなきっかけづくりがこの「ジュニア防災検定」でもできたらと思っています。
西村)この自由研究は夏休みに実施されるのでしょうか。
奥村)防災検定は、年間を通して定期的に開催されています。まとまって受験する場合は、定期開催ではない機会に受けることも可能。詳しくは「防災教育推進協会」のホームページから問い合わせてください。大人用の防災検定もあるので、これを機に親子で挑戦するのもいいですね。大人用の防災検定は、1級になると、指導者ぐらいのレベル・スキルが求められます。小論文や面接もあります。学校の先生や企業の防災担当など防災に関わっているみなさんにぜひ挑戦してもらいたいです。
西村)子どもと一緒に防災を学ぶ意義や意味について、どう思いますか。
奥村)子どもが1人でいる時に災害が起きることもあります。家や学校ではない場所や、1人で留守番している時に災害が起きてしまうことも。1人1人が自分の命を自分で守れるように知識や判断力を身につけておくことが大事。受け身ではなく、自ら率先して調べながら、自分の興味のあるところから防災を学べば、興味がつながっていきます。以前、お城好きの女の子が「熊本城の防災力」というタイトルで発表しました。その子は歴史が好きで、防災にも関心を持つようになったそう。熊本城は、畳や壁が食べられるもので作られているそうなんです。
西村)どういうことですか!?
奥村)畳がサツマイモの茎でできていたり、土壁にかんぴょうが練り込まれていたり。わたしも知りませんでした。その子は、熊本城の歴史について調べている内に、防災や備蓄につながることに気づき発表してくれたんです。
西村)子どもならではの視点ですね。
奥村)昔は天守の中にも井戸があったそう。城内には約120の井戸があり、水も確保できていたそうです。その子は歴史がきっかけで、防災につながったのですが、逆に防災から林業に興味を持ち、森林を管理する仕事に興味を持つ人もいて。そんな風に将来の夢にもつながります。子どもが興味のあるところから防災を学んでいくと、楽しみながら自宅の備えをアップデートできて、防災力もつく。地域の防災力にもつながるし、本当に可能性を感じてます。
西村)家族の防災をテーマにした奥村さんの新しい本が発売されました。
奥村)ありがとうございます。6月に『大切な家族を守る「おうち防災」』という本を出版いたしました。
西村)どんな内容ですか。
奥村)地震、水害、原子力災害、地球温暖化対策まで、家族でできることを1冊にまとめた本です。防災は、家族構成によって必要な備えが変わります。妊娠中の場合、赤ちゃんがいる場合、障害がある人が家族にいる場合は、それぞれの分野の専門家の先生に必要な備えをインタビューしています。書籍の印税は、能登の子どもたちに防災授業を届けるため使われます。自身の備えを見直すことで、能登の子どもたちにもエールを送ってもらえたらうれしいです。
西村)能登の子どもたちにつながるとは、素敵な活動ですね。
奥村)ありがとうございます。能登の支援は発災直後からずっと続けています。人口減少の影響もあり、能登の学校から、子どもたち人数が減って予算が減り、講師を呼ぶことが難しいと相談を受けました。ほかにも多くの学校が、子どもに防災について伝えたくてもできない状況です。今は授業を希望する学校を募っている段階ですが、10月以降、いろいろな学校で防災授業ができたらと思っています。
西村)きょうは、ジュニア防災検定について、防災アナウンサーの奥村奈津美さんにお話を伺いました。