オンライン:アウトドア防災ガイド あんどうりすさん
西村)台風や豪雨の際の避難手段として車を利用する人も多いのではないでしょうか。しかし土砂降りの中での車避難には、水没や転落など多くの危険が伴います。
きょうは、アウトドア防災ガイドで、車の防災に詳しいあんどうりすさんに、台風や豪雨のときの車避難の注意点について教えてもらいます。
あんどう)よろしくお願いいたします。
西村)台風や豪雨のときの車避難の注意点を教えてください。
あんどう)「雨に濡れたくない」「高齢者がいる」などの理由で、車避難をしたい人も多いと思います。2019年に東日本に被害をもたらした台風19号では、犠牲者の3割が車中死でした。橋を渡ろうとしたとき、手前の道路が陥没して落ちてしまった例もあります。冠水している夜道をヘッドランプで照らすと、水で反射して真っすぐな道に見えることがありますが、進むとすり鉢状になっている場合も。冠水した道には、想定を超えるリスクがあると思ってください。
西村)恐ろしいですね。暗い時間、土砂降りのときに車で移動してはいけませんね。
あんどう)夜は夜のリスク、昼は昼のリスクがあります。夜は本当に怖いと思います。農村部で道路が冠水すると、田んぼや畑で用水路と道路の区別がつかなくなり、路外に落ちると水没するリスクが高まります。都市部では、道路の縁石にタイヤをぶつけてパンクさせたり、乗り上げてしまったりするリスクも。縁石ぐらいの高さまで冠水したら走らないこと。最近はマンホールが吹っ飛んだりしていますよね。
西村)マンホールの下から水が持ち上がって噴水のようになりますね。
あんどう)その上を車が通ってしまったら、バーンと下から水が来てしまうこともあります。脱輪で済めばいいですが、何が起こるかわかりません。水圧受けることになるので、冠水した道は非常に怖いと思っておいてください。
西村)冠水した道には、たくさんのリスクがあるのですね。
あんどう)泥水だったら何も見えないので、どこに縁石があるかもわからなくなります。
西村)歩道か車道か見分けがつかなくなりますね。縁石まで冠水したら、車避難はやめておいた方が良いですね。もし車が浸水してしまった場合は、どうなるのでしょうか。
あんどう)最近の車の電気系統は、脆弱ではなくなっているので、「冠水した道でも走りました」というような走行動画をみかけます。でもテストコースはまっすぐで、縁石もありません。そのような動画を見ると、「自分もいけるかも」とチャレンジ精神を持ってしまって、浸水した道を進んでしまう人もいます。気をつけてほしいです
西村)冠水した道で自分の前に走っている車がいたら、行けるかもしれない、と走ってしまいそうです。
あんどう)前の車が進むと、止まることが難しいかもしれません。エンジンが止まらなくても、ドアの敷居(タイヤの半分くらい)より水深が深くなると、浸水するリスクが高まります。車は雨が中に入らないように、ドアのところにパッキンのようなゴムがついています。雨が入らない程度のものなので、水圧を受けたら耐えられません。軽いパッキンなので水圧まで想定してないからです。水圧をかけると、じわじわ水が入ってくる可能性があります。そうすると、布張りの床の下には、良い車ほど厚いフェルトのようなものが車全体に敷かれていて、それが全部水を吸い取ります。そうすると、車が臭くなります。浸水した道には汚物も含まれるので、それを全部吸ってしまう。水がキレイだったとしても、後からカビ臭くなり、修理代がかかることになります。
西村)臭くなるのはイヤですね......。
あんどう)車が臭くなると思うと、水の中を進むのはやめようと思いますよね。車の臭さを気にして引き返すと、命を守ることができます。
西村)でも、どうしても迎えに行かないといけない事情などで、冠水した道へ車を走らせてしまったとき、冠水した道路で車が動かなくなってしまったらどうなりますか。
あんどう)ドアのあたりまで浸水すると水圧でドアが開けられなくなって脱出が不可能になります。そんなときは、浸水時に車から脱出するためのツールを利用してください。先がとがった金槌などで、窓ガラスを割ります。
西村)車から出られなくなってしまうのですか。
あんどう)ドアが開けられないので、窓ガラスを割るしかなくなります。そのまま天井まで浸水してしまうと、ドアが開くことがありますが、どこまで待っていいかわからないので、窓ガラスを割るツールが必要。
西村)窓ガラスを割るツールは、どんなものがありますか。
あんどう)先が尖った金槌のような物があります。振りながら窓を割るツールです。フロントガラスは、割れにくい合わせガラスになっているので、簡単には割れません。運転席の横や、後部の窓の四隅は割れる場合があります。高級車ほど横のガラスも割れない仕様になっているので、どんなガラスが使われているか調べてください。ネットでは、「ヘッドレストを取り外して窓ガラスを割ることができる」という情報が出回っていますが、JAFの実験では割れないという結果が出ています。車のヘッドレストは、衝撃を受けたときに頭を守るためのもの。簡単には取り外せなくなっているので、水没したときにうまく取り外せないこともあります。割ることも難しいので、専用のツールを持っている方が命を守ることができると思います。
西村)いろんなツールがあるんですね。あんどうさんがおすすめのものはありますか。
あんどう)国民生活センターや消費者庁はJIS規格のものを推奨しています。正規品と名前が一文字違うものなど、怪しい製品が多いからです。規格をクリアしているものはシートベルトカッター付きのものが多いです。車が横転したときに、自分の体重の重みでシートベルトが切れなくなることがあります。脱出するためにシートベルトカッターがあると役に立つので持っておいてください。これは、水没対策用ではなく、事故で車が炎上したときに脱出するためのもの。普段から備えておきましょう。水害で窓を割らければ出られないほどの状況では、窓から出ることができても流されてしまうリスクがあります。水に入ることで病気になることもあります。"ツールを持っているから安心"ではなく、そのような事態になる前に決断する、浸水しないようにすること何よりも大事です。
西村)早めの避難・決断が大事ですね。道具を揃えていたら安心してしいますが。
あんどう)浸水した道に入ってしまったら、窓ガラスを割っても助かるかわかりません。浸水して歩けない道は、車で走ることも危険になります。1.5m/sの水流になると、歩行者には、両足に約8.6kgずつの力がかかります。水の塊が押し寄せてくるので、3m/sになると木造家屋が倒壊してしまうことも。流れが速い水は怖いです。ハザードマップを見て、車で避難するときは、警戒レベル3で安全な場所に避難しましょう。「Yahoo!防災速報」や「NERV防災」など自治体が推奨するアプリを入手して、早めに判断してください。冠水した道には突っ込まないようにしましょう。
西村)警戒レベル3=高齢者等避難で避難できればベター。明るい時間の方が良いですね。
あんどう)明るい時間に避難するのが良いですが、明るくても雨がたくさん降っていると危険です。
西村)事前にハザードマップをチェックしておくことも大切。アプリも役立つのですね。
あんどう)雨がひどくなる前に通知を受け取れると思います。
西村)平時に、家族や友達と一緒に確認をしておきましょう。わたしたちの親世代も高齢者も今は、スマートフォンを持っている人も多いですし。うちの母は、まだアプリは使いこなしていないのですが......。
あんどう)防災アプリを入手して、一緒に使う練習をしてみてください。字が大きくなるから高齢者も使いやすいと思います。
西村)一緒にチェックして設定しておくと良いですね。
あんどう)"冠水した道を入ると車が臭くなる"ことも覚えておいてください。
西村)覚えておきます。早めの避難を心がけておきたいと思います。あんどうさん、ありがとうございました。
