第1520回「防災目線で考える空き家対策」
オンライン:明治大学 教授 野澤千絵さん

西村)きょうは、全国にある空き家の災害リスクについて考えます。空き家は地震で倒れたり、津波で流されたりと、二次被害を引き起こす可能性があります。どのように対策すれば良いのか。
きょうは、住宅問題や都市開発に詳しい明治大学 教授 野澤千絵さんにお聞きします。
 
野澤)よろしくお願いいたします。
 
西村)今、全国にどれぐらいの空き家があるのでしょうか。
 
野澤)2023年の「住宅土地統計調査」では全国に約900万戸、住宅総数の13.8%が空き家という調査結果が出ています。900万戸の中には、賃貸用、売却用、別荘なども含まれています。住宅地の空き家は約385万戸あります。
 
西村)多いですね...。
 
野澤)町を歩いていると、10年前に比べて空き家が目につくようになりましたよね。
 
西村)わたしの家の周りでも、屋根瓦が外れてブルーシートが張ったままの家、蔦が絡まって朽ち果てた家もあって不安になります。なぜ空き家が増えているのですか。
 
野澤)高齢化が進み、相続される持ち家が増えていることが一つの要因。思い出のつまった実家をすぐに処分できない、遺品整理をする時間と体力がない、相続人同士の確執や不仲が原因で話し合いが持てないなど、さまざまな理由があって放置されることが多いです。屋根が飛んだ家、草木が繁茂している家など荒廃した空き家の多くは、既に何代にもわたって登記がされていない、所有者がわからないことも。相続人が主体的に手間や時間、コストをかけて解決するケースが少なく、核家族化が進行し、地元を離れる人が多い状況で、対応されない空き家が増えています。
 
西村)空き家は災害時にどんなリスクを引き起こしますか。
 
野澤)地震や台風などで空き家や擁壁が倒壊したり、建材が吹き飛んで通行人や隣の住民にけがをさせてしまったり。命に関わる危険性をもたらすリスクがあります。さらに近隣の住宅を壊す、避難をするための道路をふさぐなどの二次被害も問題です。
 
西村)避難だけでなく救助活動の遅れにもつながりますね。
 
野澤)大規模な土石流、浸水、水害が発生した際、どの家に人が住んでいるのかがわからないと、空き家にも救助活動に入り、人がいないことを確認しなければなりません。そうすると緊急性を要する人命救助に大きな影響が及びます。別荘や空き家が多いエリアで起こった熱海市の土石流災害では、一刻を争う救助活動の中で、空き家が被災者の所在確認を混乱させました。災害発生後の人命救助にも影響があります。
 
西村)空き家が地震火災の火元になることもありますか。
 
野澤)地震火災だけではなく、平時も火災が起きることがあります。犯罪に使われることも。放火等で火災の出火点になってしまうこともあります。
 
西村)大分で先週、大きな火災がありました。空き家が多い地域だったそう。
 
野澤)あのエリアは2020年度の調査によると、空き家が561軒あります。市内の空き家の16.5%を占めていて、被災した170戸のうち、空き家や倉庫など人が住んでいない建物が約40戸。4つにひとつは人が住んでない状況で、延焼にも影響が及んだのだと思います。
 
西村)空き家が少なければ、こんなにも広がることはなかったのでしょうか。
 
野澤)それはまだわかりません。空き家の影響があったかは今後の調査によります。燃えやすいものがたくさんあり被害が拡大した可能性はあるかもしれません。元々、木造の密集地だったこと、地形や風の向き・強さなど複合的な要因があると思います。
 
西村)災害の後にも影響はありますか。
 
野澤)2020年7月、熊本県・人吉市に大規模な水害が発生。所有者不明の空き家が解体できずに避難道路整備の足かせになりました。ほかの地域でも全国各地で空き家が残り続けて、地震・台風・豪雨の復旧・復興の妨げになっています。
 
西村)能登半島地震の被災地に行ったときも、更地にひとつだけ残っている家があって。所有者不明の空き家と聞いたことがありました。
 
野澤)空き家でも自治体が所有者にすぐに連絡が取ることができたら、公費解体もできるのですが。空き家は所有者不明状態が多く、自治体が所有者を探索してもたどり着けない。相続放棄が相次いで所有者がいない状況も。あるいは代替わりで所有者が多くなりすぎて、どうしようもないこともあります。
 
西村)自治体はどうやって所有者を把握しているのですか。
 
野澤)自治体ですら、所有者の連絡先を把握するのは至難の技。固定資産税台帳を調べて、戸籍から1件1件家系図を作る。家系図を作ってたどり、それぞれに書面で連絡し、連絡を待つ。連絡が返ってこないことが多いです。災害で緊急を要する場合、このプロセスをやるのは大変。災害エリアでポツンと空き家が残っているのは、まさにその所有者に連絡が取れない、所有者がいない状況だと思います。
 
西村)空き家の緊急連絡先を把握しておくことが大切ですね。
 
野澤)平時から空き家を特定し、空き家の所有者リストを作っておく。浸水、土砂災害の危険性がある場所の空き家は、連絡先を把握しておくことが大事。災害が起きて、自治体にマンパワーがないときに、1軒1軒家系図を作って連絡を取らなければならなくなると、全体の復旧復興に影響を及ぼします。
 
西村)空き家対策が進まないのがわかりました。どうすれば所有者の重い腰を上げられると思いますか。
 
野澤)空き家対策は「北風と太陽」の両面が必要。最近「空き家特別措置法」が改正されました。固定資産税の住宅用地特例では、固定資産税の評価額が6分の1に軽減されます。管理不全の空き家は、住宅用地ではないので、固定資産税を上げることができるようになりました。それによって、東京23区など固定資産税が高いところは、6分の1の軽減がなくなると、多額の固定資産税を払わないといけなくなるので、所有者が動き出しています。この措置は、都会では効果的ですが、固定資産税が安い地方は、固定資産税の軽減がなくなっても痛手がないので不十分な効果がありません。
一方で介護の政策も必要。対応しない所有者を責めても問題は解決しません。所有者も事情を抱えていることが多い。和歌山県・田辺市は、事情を抱えた所有者に寄り添って、サポートするスタンスを大事にしています。その結果、多くの空き家が解体に向かっています。それぞれの事情が解決しないと空き家問題も解決しない。自治体や民間事業者、NPOと一緒に、知恵を絞りながらサポートしていくことも大事です。「北風と太陽」の両面で空き家の所有者のやる気スイッチを押すことが必要と考えます。

 
西村)野沢さんどうもありがとうございました。