第1513回「豪雨災害からペットを守る」
オンライン:ペットサロン「犬処ケンケン」代表 北森ちかさん

西村)各地で台風や大雨が相次ぐ中、家族でもあるペットの命をどう守ればいいのでしょうか。
きょうは、全国動物避難所協会の理事で、2019年台風19号が発生した際に、被災した飼い犬を受け入れた経験がある長野県須坂市のペットサロン「犬処ケンケン」代表の北森ちかさんに聞きます。
 
北森)よろしくお願いいたします。
 
西村)「犬処ケンケン」は、どのような施設ですか。
 
北森)地域密着型のペットサロンを作りたいと、2007年にオープンしました。当時はトリミングやシャンプー、宿泊などを行う一般的なトリミングサロンでした。今はシッターやセラピー、トリマーの育成なペット関連の事業を幅広く展開しています。
 
西村)北森さんは、2019年の台風19号で、被災した飼い犬を受け入れたそうですね。台風19号は千曲川が氾濫し、多くの家屋が浸水した災害。避難所での生活を余儀なくされた人もたくさんいました。北森さんはなぜ被災した動物を預かることになったのですか。
 
北森)トリミングサロンに連れて行けないペットのために、2010年に移動トリミングカーでのサービスを開始しました。翌年の2011年の東日本大震のときに、フードの備蓄、衛生対策等ができるということで、須坂市に協定書の提案書を提出。2015年に民間での全国初となる災害協定を締結しました。そこから犬たちを預かることにつながりました。
 
西村)衛生対策に具体的に聞かせてください。
 
北森)浸水して泥まみれのペットたちを避難所で預かるのは難しいですよね。トリミングカーは、水と電気があれば、ラジエーターでお湯が沸かせるので、足先だけでも洗ってあげることができます。衛生面が気になるペットたちのために始めました。
 
西村)それは飼い主にとってもありがたいですね。具体的にはどんな流れで預かるのですか。
 
北森)台風19号のときは、18時の閉店前から大雨がひどくなって、17時にSNSで呼びかけを開始。18時に大雨警報が出て、避難所に避難するように行政から通達が出ていました。呼びかけてはいたのですが、「うちは大丈夫だ」と動かなかった人もいました。その後、行政からも依頼があり、19時半ぐらいには、中型犬の人慣れしていないペットが連れてこられて預かりました。その日は2匹ぐらい。その夜は14ヶ所、1800人が避難所で生活していたようで、車中泊をしたペットは18件くらいあったそうです。そのようなペット受け入れをその夜から始めました。
 
西村)SNSで呼びかけたときは、どのような文章を発信したのですか。
 
北森)「ワンちゃんはうちで預かるので逃げてください」とそれだけです。災害時は電話もつながらなくなるので、できるだけ早めに呼びかけました。
 
西村)どんな思いで発信したのですか。
 
北森)ワンちゃんを抱っこしたおばあちゃんが避難所に行ったら、追い返されたこともあったようで。軽トラックの荷台にワンちゃんをつないで逃げたら、軽トラックごと浸水してしまったという話も聞いたことがあったんです...。
 
西村)そういったこともあって「まずはうちに預けてほしい」という思いがあるんですね。
 
北森)長野県は車社会なので、車中泊する人も多いのですが、高齢者は車の中よりも避難所できちんと寝たいと思います。そういう人たちのワンちゃんを預かるためにも、発信したい気持ちがありました。その後も、浸水した家の片付けや買い物をするために、半日預かりや1日預かりをしました。ペット可のアパートを探すまでの2~3ヶ月にわたって長期間預かることになった例も。全部で20匹弱ぐらい預かりました。
 
西村)お散歩とか大変ではないですか。
 
北森)須坂市のドッグランのイベントに参加したり、愛犬クラブやしつけ方教室のみなさんがボランティアでお手伝いに来てくれたり。オープンの頃から、地域密着型でやってきたことが手助けになったと思います。
 
西村)受け入れる側も助け合いのつながりがあったのですね。
 
北森)市役所の生活環境課は、ゴミの対応に追われていました。14日間で3587台の災害ゴミが出て、須坂市のドッグランは仮ゴミ置き場になってしまったんです。市役所もゴミ対応に追われて、ペットどころではなくなっているというのが実際のところでした。
 
西村)長期だと何日ぐらい預かったのですか。
 
北森)3ヶ月くらい。これまでも留学や入院で長期預かりをよくしていたので大変ではなかったです。"うちの子プラン"というプランで自宅に連れて帰って面倒見てあげたことも。宿泊場所に慣れていないワンちゃんにも3ヶ月間ストレスなく預かることができるように工夫していました。
 
西村)台風や大雨に備えて、飼い主はどんな注意が必要だと思いますか。
 
北森)雨が止んだら解決するのではなく、その後の作業や預け入れの長期化を考えて対策をしてほしいです。ケージで預かるのが一番良いですが、車中泊や多頭飼育の場合、みんなを連れて避難所に行くのは大変。1泊だったら良いですが、長期化することを考えるとケージにずっといれているとお互いがしんどくなってしまいます。できるだけ人慣れ、犬慣れをさせて、犬の経験値をあげることが大事だと思います。
 
西村)在宅避難ができるとしたらどんな準備をしておくと良いですか。
 
北森)犬を連れて旅行やキャンプに行くと災害の訓練になります。キャンプで犬たちと少し不便な思いをしてみる。電気がない、寝床が定まらない、周囲に音がするなど...。そんな場所でも落ち着いて寝られるか。11月中旬にさまざまな避難所を回ったのですが、犬が1匹吠えたらみんな吠えてしまう、少し外で音がすれば吠えてしまう、という状況でした。そうなると人間も犬もしんどくなってしまいます。できるだけ穏やかに過ごすことができるように対策をすることが大事だと思います。
 
西村)家族みんなでキャンプを楽しむことも大きな備えになるのですね。在宅避難に関して、いくつか部屋がある一戸建ての場合、備えておくことや普段からのしつけで心がけておくことがありますか。
 
北森)1階が浸水した場合、2~3階でケージやサークルで待たせることができたら、1階の片付けができます。ケージに入って待っていられるようにしつけておくことも大事。
 
西村)車中泊の備えもしておいた方が良いですか。
 
北森)布団など家の匂いのついたものがあれば、ワンちゃんも心細くないと思います。最近は手作りのペットフードも流行っていて、ドックフードを食べれらないワンちゃんもいるので、ドックフードはある程度食べられるようにしておきましょう。
 
西村)車中泊のときだけではなく、ほかの場所に避難する、預けるときにも大事なことですね。災害時のペットの預け先にはどんなところがありますか。
 
北森)ある学校では、先生が機転を利かせてペットと避難できる部屋を作ってくれたそうです。でも動物が苦手な人、動物アレルギーの避難者もたくさんいるので、それも難しくなると思います。近所に預けられる親戚やペット可のホテルがないか確認しておきましょう。
 
西村)親戚の家は、浸水しないエリアなければいけませんね。
 
北森)はい。ペットホテルだとすぐに満杯になってしまうことも。ペットホテルは、不安な飼い主もいると思うので、ペットと一緒に泊まることができるホテルをチェックしてください。量販店の資材売り場ならペットも入れるので、協会に登録してもらえないかお願いして回っているところです。ガソリンスタンドの待合室もペットの避難所として開放させてもらえたらいいなと。「全国動物避難所マップ」をチェックするなど、ペットを預け入れすることができる場所を調べておくと良いと思います。
 
西村)台風は予測ができる災害。しっかり備えておきたいですね。北森さん、どうもありがとうございました。