第1541回「熊本地震10年【1】~安心・安全な「車中泊避難」とは?」
オンライン:「Bosai Tech」代表取締役社長 大塚和典さん

西村)明後日14日熊本地震の発生から10年を迎えます。熊本地震では、避難所に行かずに車中泊を選ぶ人も多く、健康面などが問題視されました。地震から10年たち、車中泊の問題はどう変わったのでしょうか。
きょうは、車中泊避難の環境作りを進める「Bosai Tech」代表取締役社長 大塚和典さんにお話しを聞きます。
 
大塚)よろしくお願いいたします。
 
西村)大塚さんはなぜ、車中泊の会社を立ち上げたのですか。
 
大塚)熊本地震、能登半島地震で車中泊をする人が多かったのですが、行政が全く把握できていませんでした。熊本地震では、今までの地震に比べ、4倍の災害関連死がありました。災害で助かってもその後の避難生活で災害関連死を招いてしまった。災害で助かった命を守るためにこの会社を立ち上げました。
 
西村)大塚さんは熊本地震当時、熊本市の職員をしていたそうですね。
 
大塚)熊本市の観光政策課で観光の業務を担当していました。
 
西村)地震後はどんな仕事をしていたのですか。
 
大塚)翌日からは、小学校や中学校の体育館に行って、避難所運営のお手伝いをしました。物資の配送、家屋調査など災害に携わる業務を経験しました。
 
西村)地震当時の車中泊の状況はどうでしたか。
 
大塚)熊本は一軒家が多く、みなさん自宅の駐車場や公園で車中泊していました。
 
西村)避難所に行かずに車中泊をしていた人の方が多かったですか。
 
大塚)地震後のアンケート調査によると、4割の市民が車中泊避難をしていたとのこと。かなりの人が車中泊をしていたと思います。
 
西村)なぜ車中泊が選ばれたのでしょうか。
 
大塚)たくさんの人が避難をしたため、避難所に入れない人が多かったのが一つの理由。ペットや子どもがいる人、赤ちゃんの夜泣きで迷惑をかけたくないという人や障がいのある家族が避難所に溶け込めず、車中泊をせざるを得ない人もいたと思います。
 
西村)熊本特有の理由もありますか。
 
大塚)車社会なので、1軒に1~2台は車があるということも理由です。
 
西村)わたしが取材で熊本に行ったときは、「ずっと揺れが続いていて、建物の中に入るのが怖くて車中泊をした」という人もいました。
 
大塚)避難所でもそのような声を聞きました。「揺れがひどいので、家に帰りたくない」と言う人も多かったので、車中泊が選ばれたのだと思います。
 
西村)車中泊による避難でどんなことが問題になりましたか。
 
大塚)みなさん、正しい車中泊のやり方を知りません。能登半島地震の輪島市では、6人の家族でミニバンクラスの車に避難した例がありました。6人でミニバンクラスの車だと、座ることしかできません。座ったまま過ごすとエコノミー症候群の危険が高まります。これを知らずに、翌朝おばあちゃんの具合が悪くなり、病院に行くと、エコノミークラス症候群と診断され亡くなったケースがあります。
 
西村)エコノミークラス症候群は、長時間同じ姿勢をとり続けることで、足の静脈に血栓ができて、それが肺に詰まって呼吸困難や心不全を引き起こす危険な病気です。エコノミークラス症候群の危険性がある車中泊は、なるべくやめた方が良いのでは?
 
大塚)大規模災害になると、避難所が足りなくなります。ペットや小さい子どもがいるなど、何か理由があって車中泊をせざるを得ない人もいます。車中泊は推奨されてなかったのですが、国が方針を変えて、在宅・車中泊避難者に対して、自治体が支援を行うことになりました。
 
西村)国は2024年の防災基本計画にやむを得ない車中泊避難への支援を盛り込みました。さらに熊本市も4月に車中泊避難の支援マニュアルを発表。車中泊の支援へと方針を大きく変えました。大塚さんは熊本市のマニュアル作成に関わったと聞きました。なぜ支援へと変わっていったのですか。
 
大塚)車中泊は、正しいやり方をすれば問題ありません。エコノミー症候群にならなければ。ペット問題や健康的ストレスもなく、個室なのでプライバシーも確保できる。コロナなどの感染症に関しても、個室なので安全。メリットはあるんです。熊本市は、正しい車中泊の方法を伝えようとガイドラインとマニュアルを作りました。熊本市のホームページにも載っているので、全国の自治体も参考にしてほしいです。
 
西村)正しい車中泊の方法について教えてください。
 
大塚)座ったままで過ごさないこと。車に何人寝ることができるかを事前に調べてください。足を伸ばして寝ることができるか。シートを倒してフルフラットになる車もあります。段差があると寝返りを打てないし、寝心地が悪いです。腰が痛くなることもあるので、タオルケットを敷いたり、空間があれば、ダンボールを敷いてフラットになるようにしたり...と工夫してみてください。訓練として、車中泊で遊びに行くことも推奨しています。
 
西村)どんなところに行ったら良いですか。
 
大塚)日本RV協会が、全国に「RVパーク」を作っています。24時間使えるトイレ、ゴミ捨て場があり、家庭用の電源が引き込めて、15~20分圏内に温泉施設があります。有料ですが、広い駐車スペースで安心して宿泊することができます。1回目は寝心地が悪かったら、2~3回行く内に改善して、レベルアップしていくと思います。旅行で車中泊を楽しむことが災害時の訓練になるんです。
 
西村)RVパークで検索してみると、いろんな施設が出てきます。近畿でも奈良・和歌山・京都などいろんなところが登録されていますね。
 
大塚)グルメ情報など観光スポットも掲載されているので、楽しく旅行ができると思います。
 
西村)車中泊の練習をして、エコノミークラス症候群にならない備えをしておかないといけないですね。ほかにどんなことを備えれば良いでしょうか。
 
大塚)練習をすると、車に何人寝られるかわかります。4人家族で3人しか寝られないなら、残りの1人をどうするか。近くの避難所に行くのか、車の横に1人用のテントを張るのか。事前に対策を考えておく必要があります。
 
西村)そのほかにエコノミークラス症候群にならないために何をすればいいですか。
 
大塚)きちんと水分を取って、トイレに行く。寝ているばかりではなくて、昼間は散歩などの運動をする。なるべく通常の生活のような動きをすることが大事です。
 
西村)大切なポイントを教えていただきました。車中泊はどこでするのですか。
 
大塚)現在熊本市では、熊本競輪場とアクアドームの2ヶ所が指定されています。トイレが完備されています。将来的には1区に1ヶ所は欲しいですね。
 
西村)家の駐車場などの近所で車中泊しても良いですか。
 
大塚)大丈夫ですが、避難場所を指定するのは、物資や保健師さんによる健康支援がしやすいから。車中泊避難者を1ヶ所に集めることで、行政が支援しやすくなるのです。
 
西村)わたしたちへの支援を届きやすくするために、場所が指定されているのですね。
 
大塚)まず正しい車中泊の方法を知ってほしい。絶対に座ったままで避難しないこと。熊本市のガイドラインやマニュアルを参考にして、事前に車中泊の対策を練ってください。それが災害関連死を防ぐことになると思います。
 
西村)大塚さんどうもありがとうございました。