第1230回「新型コロナウイルス 避難生活お役立ちサポートブック」
ゲスト:認定NPO法人 全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)
避難生活改善に関する専門委員会 浦野愛さん

千葉)新型コロナウイルスの感染が拡大する中で、避難所を開設することになったらどんなことに注意すればいいのかということを、この番組でずっと伝えてきましたけれども、その参考になる冊子が作られました。
亘)「新型コロナウイルス 避難生活お役立ちサポートブック」といって、カラーのかわいいイラストがたくさん書かれているような、とても見やすい冊子です。
インターネット上にアップされていますので、みなさん自由にダウンロードできます。
 
「新型コロナウイルス 避難生活お役立ちサポートブック」
http://jvoad.jp/wp-content/uploads/2020/05/acaeac91791746611926b34af7d61c4d.pdf
 
千葉)この冊子を編集したのは、「認定 NPO法人 全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)」の「避難生活改善に関する専門委員会」です。
メンバーの浦野愛さんにお話を聞きます。よろしくお願いします。
 
浦野)よろしくお願いします
 
千葉)この冊子は、どんな思いから生まれたものなんですか。
 
浦野)私たちの専門委員会は、これまで過去の災害で、いろんな被災地の避難所の運営やサポートに関わってきたメンバーなんですね。
ただでさえ災害起こった避難所って大変な状況になるのに、ここで新型コロナウイルスの影響が重なった時に、本当に一人一人の大事な命が守れるのかどうかというのが不安になりました。少しでも対策のポイントを知っておくことで予防できる部分がいくつかあるので、それを確実に知っていれば誰でもできるっていうような視点に立って、そういった情報を多くのみなさんと共有したいと思って、このサポートブックを作りました。

 
千葉)外からボランティアの方がすぐ駆けつけるっていうようなことは、出来にくい状況ですもんね。
 
浦野)そうですね。
いつもだったら全国からすごいたくさんのボランティアさんも来てくれますし、お医者さんや、保健師さん、看護師さんとか、そういった人たちも、派遣チームっていうのを特別にしつらえて、避難所に支援に入るっていうようなことが当たり前なんですが、今、病院もてんやわんやで、そういう専門職の人たちの確保というのも相当難しくなると思います。
今までの災害のように多くの支援者が被災地に行くっていうことが難しくなるので、より一層そこの地域の住民の方や行政の方や、ボランティアの方々が、協力しないと乗り切れないという状況になるかと思います。


亘)地元で頑張るしかないということですね。
 
浦野)そうですね。
本当に、ひとりひとりができることを積極的にやっていただかないと、避難所の運営というのも立ち行かなくなるということです。

 
千葉)特にどんな方々に読んでもらいたいと思って編集されたんですか。
 
浦野)避難所を設置するのは市町村になるので、その職員の方にはまず見ていただきたい。
とはいえ、たくさんの場所に避難所ができてしまった場合、職員も足りなくなると思います。
そうなると、そこの地域の中心人物となり得る自治会の役員の方だとか民生委員の方だとか、あと日頃から地域でよく活動されている、そういった方々にも読んでいただきたい。さらに避難する可能性のある人たち、一般市民の皆さんにも見ていただきたいです。ひとつでもできることを探していただいてやってもらえれば、クリアできる部分っていうのもあると思いますので、そういう人たちに手にとっていただきたいなと思います。

 
千葉)読ませていただくと、いろんなことが具体的に書いてあって、非常に参考になります。
最初の方で、「1人1人がどこにいても必ず守ること」ということで、3つ箇条書きされています。
1つ目が「3密=密閉・密集・密接を避けましょう」
2つ目が「汚れた手で無意識に目・鼻・口を触らないようにしましょう」
そして3つ目が、「こまめに手洗い、アルコール消毒をしましょう」
3つ目のところには、「断水または石鹸やアルコール消毒液がない場合は、その時あるものでできるだけのことを行う」と書かれているんですが、これは具体的にどうすればいいのでしょう。
 
浦野)感染を防ぐには、やはり手洗いはすごく重要な作業です。
基本は流水で、石鹸で手を洗って、ちゃんとペーパータオルとかで乾燥させて、アルコール消毒をするのが完璧な手洗いのやり方なんですね。
とはいえ、大きな災害が起こると、水が止まってしまう可能性がとても高いですよね。
しかも、いろいろな物が不足してくるということを考えた時に、その中でどうやって手の衛生を保てばいいのかということなんですが、この全てが揃ってなかったとしても、どれか一個でも二個でもいいから、ある物でとにかくこの作業を継続していくという考え方なんです。
それでも、石鹸もない、水も出ない、手を拭くものもない、アルコール消毒も確保できないっていうことがあるかもしれないですよね。
例えば、飲料水なんかは結構、備蓄品としてよくあると思うので、そのペットボトルの水をティッシュか何かに含ませて、それで手を拭く。汚れをこそぎ落とすような気持ちで拭くっていう、これだけでも、やらないよりは効果があるということなんですね。
あるいは、そういった物もない場合は、口の中に入れるもの、食べ物とかは手で触らないで済むように、例えば包装袋がかかっていたら、その包装袋の上から手で持って、口に入れる部分は手で絶対に触れない。
あとは、ラップなどに包んで食べるとか、そういうような工夫をしていただければ、感染リスクは少しでも抑えることができると言われています。

 
千葉)石鹸とか水が足りないとき、「何もできないからやらなくていいや」じゃなくて、少しでもできることを工夫してやらないといけないということですね。

浦野)そうです。
でも、手洗いってやっぱりすごく感染予防には重要なんだっていうところだけは、頭に入れておいていただけたら、あるものでなんとか工夫してやっていただける方が増えるんじゃないかなと思うので。


千葉)それから、サポートブックをめくっていきますと、「食器や洗面用具、タオルを他の人と共有しないようにしましょう」というポイントも書かれています。
避難所の状態では物が十分じゃないので、避難者がお互いに助け合って、物の貸し借りをすることも多いんじゃないかなと思いますが、どんな場面で特に注意すればいいですか。
 
浦野)やはり、食事の場面かなと思います。よく被災地で炊き出しってされますよね。
炊き出しの場合は、大鍋からよそってみなさんに提供するっていう形になると思うんですけれども、お皿が足りないとかいろんな状況があると、大きなお皿に入れて、「そこの5人ぐらいで食べてね」とかいうこともあると思うんですね。
だけど、それをやってしまうと、自分の口に入れた箸でまた料理をつまむような状態になって、そこから感染してしまうので、できれば一人一人、器を変えてよそって、それを提供するというような形でやっていただきたいなと思います。
あとは、くしや髭剃り、タオル。
結局は、ウイルスってどこから入ってくるかというと、粘膜からなんですよね。
目とか鼻とか口とかそういったところにあるものなので、人が使ったものがそこに触れてしまうとウイルスが体の中に入りやすい環境を作ってしまうということになるので、個人で使うものはその人だけが使うということで、多少不便かもしれないですけれども、基本的に使い回しはしないということが原則になります。

 
亘)あとは携帯電話、スマホですよね。
やはり「電源が少ないからちょっと貸して」とか、そういうことはあるかなと思うんですが。
 
浦野)そこらへんはやむを得ないと思うので、その場合は例えばですが、チャックがついている密閉式の袋ありますよね、ジップロックみたいな。
そういった袋に携帯電話を入れて、その上から操作できます。
操作した後に、次亜塩素酸等で拭き取って消毒をするというやり方もあります。
「なんで直接、携帯電話を拭いちゃダメなの」っていう疑問も湧くと思うんですけど、消毒液によってはサビの原因になったり、差し込み口とかちょっと開いている隙間から液体が入ってしまって、故障の原因になったりということが心配されるので、なるべく直接拭くというのは避けた方がいいと言われています。

 
千葉)スマホは今、必需品ですから、こういうことも考えなきゃいけないんですね。
 
浦野)多少不便なんですけど、慣れてくると...みなさんもそうだと思います、手洗いとかマスクつけるっていうのも最初は煩わしかったと思うのですが、今、当たり前になってなんとかやれていると思うので、ちょっと気持ちをそこは切り替えていただきたいなと思います。
 
千葉)さらにこの冊子をめくっていくと、避難所を設置するにあたって、感染防止のためのゾーン分けが必要と書かれています。
いろんな人が来る避難所で、どのようにゾーンを分けるんですか。
 
浦野)何よりも一番重要なのは、少人数、個別空間をいかに確保するかっていう考え方です。
これができることによって、感染の拡大を防止することができるようになるんですね。
なので、少人数、個別空間を避難所として開設された避難施設の中で、どうやって作っていくのかというのが基本の考え方になります。

 
亘)部屋を分けるということですか。
 
浦野)そうです。
ではどのように部屋を分けるかということですが、専門家の先生からもアドバイスをいただいた結果、まず「感染者」の人、あとは感染しているという診断は受けていないけど「症状のある人」、例えば熱があるとかだるいとか、あとは感染者とか症状のある人の「濃厚接触者」、おもに家族になると思うんですけどもそういった人。そして、あとは「症状のない人」。
大体これぐらいの区分けが最低限必要かなと考えています。
そして、症状のない人の中で、例えば介護が必要だとか、妊娠をしているとか、乳幼児がいるとか、そういった人たちは、より周囲からのサポートが必要なので、専用の部屋を用意する必要があるかなと思います。

 
亘)避難所というと、体育館などの大きなスペースというイメージがありますが、部屋を作っていくことができるんでしょうか。
 
浦野)そうですね。
小中学校が、だいたい、みなさんおなじみの避難所だと思います。
小中学校のエリア内に建物が複数あれば、もう建物ごと、この建物は感染者用、この建物は症状のある人用というふうに分けるという方法もあります。
だけど、施設によっては、ひとつの建物に全部の機能が入っているところもあると思うので、その場合はフロア、階段で分けていくという考え方もあります。
与えられた避難施設の中で、いくつかのタイプの人たちを、いかに交わらないように生活してもらえるような環境を作っていくかというのが、大きなポイントになるかなと思います。

 
千葉)熱があるなどの症状がある人は、避難所にも入ってもらわないで別のところに移動してもらう方が安全なような気もするんですが...。
 
浦野)基本の考え方はそうなんです。
熱があったり、「感染していると言われているんだけれども、軽症者ということで自宅待機している」という人は、今もいると思うんですよね。
そういう人も、家が安全だったらそのまま家に留まることができると思うんですが、例えば津波が来るとか、近くに火災が迫ってきているとか、浸水して住めないとか、家が倒壊して住めないとか、いろいろな事情が出てくると思うので、そうなると、避難所に行きたくなくても行かざるを得なくなると思います。
通常だったら、行政の人や医療チームが来て、病院まで搬送するということもやってくれると思うのですが、大規模災害になったら道路は壊れて、緊急車両も出払って、専門職の人も足りないという状況で、速やかに医療機関にというのはかなり難しいと思うんですね。
となると、避難施設で一時的にでも受け入れる必要がきっと出てくると思うので、その時に困らないようにするためのものとして、このレイアウト図を掲載した経緯があります。

 
亘)受け入れを拒否するっていうのではなくて、一旦は受け入れるという考え方ですか。
 
浦野)はい。
「感染者なんてうちはとても無理だよ、向こうに行ってくれ」ではなくて、仮に準備が整わなくって受け入れが無理だったとしても、その人が次に行ける場所を一緒に探すとか、最終的にその人がつながる先っていうのをきちんと確認した上で、対処を考えていただきたいということです。
ある地域では、実際に「もう、うちは入れません」ってシャットアウトしてしまって、された側の人が非常に傷ついたと。
差別とか、排除の対象になったという感覚を受けたという話も聞いているので。
なるべく、そういうことが起こらないようにしておきたいです。

 
千葉)最初から拒否するっていうのは、絶対ダメということですね。
 
浦野)そうですね。
今、自治体によっては、ホテルとか旅館を借りて、そこに症状のある人や感染者たちを早く搬送できるように準備をすでに進めているところもあるので、そこは、行政にきちんと確認をしておくと、次のつなぎ先も見つけやすくなるのではないかなと思います。

 
亘)ゾーンに分けて、それぞれのゾーンごとに、あまり人が行き来しないようにするというか、感染の恐れのある人、あるいは症状のある人と一般の避難者が接触しないようにする必要はあるんでしょうね。
 
浦野)そうですね
ポイントとしては、その人たちがお互いに、階段とか廊下ですれ違わないようにすることですね。
感染者用の階段、症状のある人用の階段という風に、明確に分けておくというのがひとつ。
あとは、トイレや手洗い場も、別々で使えるように準備をしないといけないということになります。

 
千葉)避難所のレイアウトも、そういった形で考えないといけないということですね。

浦野)そうですね。
動線と言うんですけれども、それもポイントを押さえれば、ある程度そのような作りを考えていくことができるので、最初のヒントになるようにと思って、サポートブックにもレイアウトの事例を掲載しました。

 
千葉)あともうひとつ、すごく気になるのが食事なんですが、食事を配るときに注意することはどんなことがあるのですか。
 
浦野)だいたい食事を配る時って、一か所に人がバーッと集まってきて、長蛇の列ができて、みなさんが入れ替わり立ち代わりで必要な食事を持っていくっていうのが一般的な風景なんですけれども、そうすると密になっていますよね。
感染のリスクが高くなってしまうので、できれば部屋ごととか、あるいは体育館みたいなスペースだったら大広間をブロック分けして、そのブロックごとにできた食事を決められた人が届けるみたいな形で料理を運ぶというようにできると、密は回避できるかなと思います。
それが難しければ、一か所に配布場所を作って、そこに時間差で来てもらって密を防ぐ。
今、スーパーとかがやっていますよね、そういう対処を。
それと同じような考えで、配布するというやり方はどうかなというふうに思います。

 
亘)なるほど。
食器なんかはどうですかね、あまり一緒に使ったりはしない方がいいと言いますが。
 
浦野)そうですね。
基本は、共用はダメという考え方なので、できるだけ使い捨ての器で対処すると。
ただ、それも災害時なので、そんなに頻繁に手に入らないかもしれない。
お皿にラップを敷くと、ラップだけ替えれば、またそのお皿が使えるよ、とかありますよね。
あれを実践していただくと良いかなと思います。
だから、ご自分で自分の非常袋に、容器やラップ、あとはポリ袋ありますよね。
ポリ袋なんかも、お皿にかぶせて使えば、使い捨ての器の代わりにできるので、自分で用意できる分は持っていった方がいいと思いますね。

 
千葉)あらかじめ準備しておいて、避難所に自分で持っていくんですね。
 
浦野)はい。
向こうに行ったら誰かが何かしてくれるだろうっていう考え方はちょっと捨てていただいて、その時に自分が困らないようにするために、今の話を聞いて、あるいはサポートブック見て、必要だなと思うものは、やはり持っていた方がいいと思います。

 
千葉)このサポートブックには、他にも洗濯物の扱いやゴミの処理など、いろんなことが書かれています。このサポートブックを読む人に、どんなことを伝えたいですか。
 
浦野)初めてのことなので、とても不安に感じていらっしゃる方も多いと思います。
サポートブックを読むと、感染の専門家じゃない医療従事者ではないけれど、ポイントを知っていればできることというのも意外と多いことがわかっていただけると思います。
必要以上に怖がらずに、このサポートブックを見ながら、「やっぱりこのやり方が効果があるんだな」とか「これを避難所でスムーズにやるためには、この道具はやっぱり自分で用意しておいた方がいいな」っていうことを考えるための判断材料にしていただけるといいなと思っているんですね。
そして、それを理解したら、今度は周囲の人にそれを伝えてあげたり、実際に避難所が開設されてみなさんが避難された時には、知らない人たちにそれを教えてあげたり。
みなさんが率先してそういう対処をしていただくことで、なんとかコロナ禍においても、避難所で命を守るっていうことを進めていけるんじゃないかなと思います。

 
千葉)「何も知らない」「何もできない」っていうふうに思うんではなくて、このサポートブックを読めば、こうした方がいいよってことがしっかりわかるので...
 
浦野)そうですね。豆知識、アイデアの引き出しが増えるという感覚かなと思います。
 
亘)できることをやるっていう感じですよね、ある物で。
 
浦野)そうです。みんながそうなので。
国だって、「100%これで大丈夫です」なんて情報は、今、出せない状態ですしね。
ですから、ちょっとでも「これ役に立ちそうだな」っていうものがあれば、みなさんが覚えていただいて、アイデアの引き出しをいっぱい増やして、いざという時に応用して使えるような力をつけていただけるといいなと思います。

第1228回「巣ごもりの今、在宅避難の訓練を」
電話:株式会社 危機管理教育研究所 代表 国崎信江さん

千葉)新型コロナウイルスの感染が広がる今、災害が起きたらどうするか。
感染のリスクを避けるため、避難所に行かずに、自宅で避難生活を送ることも選択肢のひとつです。いわゆる「在宅避難」です。
きょうは、女性の視点で家庭での防災について研究している、株式会社危機管理教育研究所 代表の国崎信江さんに、在宅避難に備えた防災対策について聞きます。 
今、災害が起きたら避難所に行くのをためらう方も多いと思います。
自宅で避難生活を送れるように、今からどんな備えをしておけばよいのでしょうか?
 
国崎)家が大地震に耐えられるのかどうか、家にとどまってよいのかどうかの判断のために、やっていただきたいことが、「自宅の耐震性を調べておく」ということなんです。
一般的には業者を呼んで点検していただくという方法があるんですが、このご時世でなかなか呼びにくいということもあろうかと思います。
そんな時には、簡易的ではありますがインターネットで、「耐震診断のチェックリスト」という検索をしていただくと、例えばハウスメーカーなどが掲載している10項目ほどのチェックリストを見ることができますので、そこから簡単にとりあえず耐震性があるのかどうかを知りたいということで、確認することもいいのではないかと思います。

 
千葉)「耐震性 チェックリスト」と入力してインターネットで検索をするんですね?
 
国崎)はい。そうすると、さまざまなチェックリストを掲載しているWEBサイトが出てきます。
できるのであれば、そこからご自身で信頼性が高いと思うWEBサイトにアクセスをしていただいて、その項目をチェックしていただくとよいと思います。

 
千葉)そうすると、自分である程度、耐震性をチェックできるということですね。
 
国崎)はい。まずは、インターネットのこういったチェックリストを参考に、簡易的ではありますが確認をしておくということが大事だと思います。
 
新川ディレクター)自宅で避難生活を送ろうと思っても、家がつぶれてしまっては元も子もないですもんね。
 
国崎)そうですね。耐震診断の簡易チェックをしていただいて、不安がある場合には、家具の固定をしっかりしておくというのもいいと思います。
 
新川)阪神・淡路大震災では、家が大丈夫でも家具が倒れて亡くなられた方もいらっしゃいましたし、やっぱり避難しようと思っても家具が倒れては、部屋の中がぐちゃぐちゃになってしまいますもんね。
 
国崎)そうですね。
いざ逃げようと思った時に避難経路が断たれてしまうということがありますので、耐震性が不安な家に住んでいる方はなおのこと、家具の固定をしていただきたいと思います。

 
千葉)自宅での避難生活を想像しにくいのですが、その避難生活を想像するために、国崎さんがおすすめされていることがあるんですよね。
 
国崎)はい。私がすすめているのが「おうちDEキャンプ」です。
 
千葉)「おうちDEキャンプ」?

国崎)はい。
「キャンプ」と呼んでいるのは、「家庭における防災訓練」と言うと響きが楽しそうではないので、「おうちDEキャンプ」と呼んでいます。
具体的にはある一定時間、電気・ガス・水道と全てのライフラインを止めて過ごして、被災生活の疑似体験をするというキャンプ、訓練なんです。

 
千葉)キャンプということは、例えば庭にテント張ったりするんですか?
 
国崎)そのような大がかりなことでなかったとしても、例えば簡単なことでいうと、リビングがフローリングであれば、固い床を経験するためにフローリングで寝てみるというのもよいと思います。
 
新川)このキャンプは、どれぐらいのスパンで、どういうことをすればよいのですか?
 
国崎)私は、3時間以上は全てのライフラインを止めた被災の疑似体験をしてもらいたいと思います。というのも、人は2~3時間に1回、尿意をもよおすと言われています。
 
千葉)トイレに行きたくなるんですね?
 
国崎)そうなんです。我慢しても5~6時間と言われています。
災害時に断水した時に困って苦労するのがトイレと言われていますので、そのトイレを経験してもらうためにも3時間以上はやってもらうとよいと思います。
例えば夕方から翌朝までとか、思い切って週末の2日間チャレンジしてみてもよいと思います。

 
新川)夕方からというのはライフラインを止めるということで、暗い中で過ごすことも経験できますね。
 
国崎)そうですね。
明かりがない中でとても不安だと思いますが、それを経験しておくことで、何が必要なのかということも分かってきますので、家に必要な防災用品をしっかり備えておく、その準備ができるんじゃないかと思います。

 
千葉)私、年のせいかトイレに行く回数が増えていまして、トイレは非常に気になるのですが、ライフラインが止まった状態ということは、水道も止まっている状態でトイレって...どうやってやるんですか?
 
国崎)例えば、戸建てだけではなく、マンションに住んでいる方も多いと思います。
マンションの場合には、たとえ流す水があったとしても、配管が壊れていた場合、漏水する恐れがありますので、流さないタイプのトイレを経験しておいていただきたいのです。
市販されている、便座にポリ袋をかけて排せつして、凝固剤等で固めて袋をしばって捨てる、というものです。

 
新川)携帯用トイレですね。
今、説明してくださいましたが、元々ある便座に携帯用トイレの袋をかぶせて、その中に排せつをする。
 
国崎)そうなんです。
とても簡単なことですが、実はとても勇気がいることなんですね。
流さないトイレを経験していないと、ポリ袋に排せつするということ自体に抵抗感があります。
ですので、経験しておくことは非常に重要なんですね。
さらに、経験することによって、細かいことですが色んなことに気づきます。

 
新川)袋の中にトイレをするだけじゃないんですか?
 
国崎)はい。細かいことなんですが、日ごろからトイレの中には水が張ってあります。
そこでいきなり携帯用トイレのポリ袋を便座にかけて、排せつした後にそれをしばって捨てようとすると、袋の底がビチャビチャしてしまうんですね。
そうすると、処理する時に床も周りも汚してしまうという恐れがあります。

 
千葉)じゃあ、どうしたらいいんですか?
 
国崎)家にある大きなポリ袋を1枚かけて、その上から携帯用トイレをかけます。
 
新川)なるほど。
汚してもいいポリ袋を1枚余分にかけておいてから、携帯用トイレのポリ袋をかけるということですね。
 
国崎)はい。実際にやってみてこのような細かいことに気づくこともありますので、災害が起きていきなり「わぁ困った」ということを増やさないためにも、トイレを一度は経験しておいていただきたいと思います。
 
新川)今、特にコロナの状況で家族間とはいえトイレは感染に気をつけたい場所でもありますし、そういった細かいことも大切ですね。
 
国崎)はい。携帯用トイレは色んな種類が販売されていて使い勝手もさまざまですので、実際に使ってみて家族に合うもの、使いやすいものを見つけておかれるといいと思います。
 
千葉)そうか、どれでもいいというわけじゃないんですね。
 
国崎)はい。例えば凝固剤とか消臭剤が、個別包装されていて、排せつした後にそれをふりかけるというタイプのものもあれば、あらかじめ袋に吸水シートがあって、そのままして自動的に固まって臭いもせずにあとはしばるだけ、というタイプのものもあります。
なので、どのタイプが面倒でないかとか、ポリ袋の色も黒であったり透明だったり半透明であったりとかもありますので、ご自身で「これだったら恥ずかしくない」とか「これだったら扱いやすい」というものを見つけられるといいと思います。

 
千葉)あと避難生活を想定したキャンプとなると気になるのが「食事」ですよね。
これはどんな風に体験するんですか?
 
国崎)調理は、例えばガスが使えない場合は、卓上のカセットコンロを使うといいと思います。
それから、調理をすると必要になってくるのが調理用水ですが、ここで飲料水を使うかどうかという判断になるわけです。
その時に貴重な水をできるだけ使わないようにするために、例えば我が家では「豆乳」を常備しているんですけど、豆乳を使った料理、鍋をしたりとか。
また、調理用水以外にも貴重な水ってあって、例えば手の洗浄であったり、食材や調理器具の洗浄がありますが、手の汚染を防ぐためにもビニール手袋をはめたり、キッチンペーパーで代用するということもできます。
手袋は使い捨ての手袋があって、病院で使われるような手術用手袋のようにピタッとしているものがあるので、その調理用の手袋を用意しておくといいと思います。

 
新川)今、コロナの状況でビニール手袋もあちこちで売り切れたりしていますが、私の家にあるものは結構ガバッと手にかけるようなものですが、そうではなくて手術用手袋のようなものが売っているんですね。
 
国崎)そうですね。
掃除用のタイプと違ってピタッと手にフィットしますので、調理の時の細かい作業に適しているんですね。調理用の手袋が売っていますので、そういった使い捨ての手袋を買っておくといいと思います。

 
千葉)食べ物についてもう少し聞きたいです。国崎さんは豆乳を使うと言いましたが、これでいろんな料理ができるんですか?
 
国崎)そうですね。
常温で備蓄できる豆乳を我が家では必ず切らさないようにしているんですが、災害時もその豆乳を使おうと考えています。
災害時に適した料理というのが、私自身は「鍋」だと思っているんですね。
鍋というのは、具材を選ばない。
肉であろうと野菜であろうと魚であろうと加工食品であろうと、なんでも具材として使えるというメリットがありますし、さらに我が家で切らさないように備蓄している常温で保存できる豆乳があって、それを鍋に入れて使おうというイメージをしています。

 
新川)たしかに、鍋だったらふだんでも余り野菜を入れたり、いろんな具材が一気に食べられますね。
 
国崎)そうですね。
特に停電して冷蔵庫の庫内の温度が上がって食材が傷んでしまうという時に、一度に傷んでしまう恐れがありますが、鍋でしたら大量に多くの具材を相性関係なく入れられますし、また、追加でどんどん具材を入れられるという点からも、災害時に鍋をするというのはおすすめします。

 
千葉)でも、豆乳鍋ばっかりだと飽きたりしませんか?
 
国崎)そんな時には、これも鍋の魅力ですが、カレーのスパイスを入れたり味噌を付け加えたりして味のテイストを変化させてあげると、飽きにくくなるのではないかと思います。
 
新川)味噌豆乳鍋、美味しそうですね。
千葉)ふだん食べている鍋と同じような感じにできますもんね。
 
国崎)そうなんです。
普段食べ慣れているものが、災害時にも気持ちがほっとするということがありますので、そういった日ごろの食材で日ごろの食事を心がけるという意味でも、家にある食材をいかに無駄なく使うかということを「おうちDEキャンプ」でも考えていただければと思います。
ただ、卓上コンロを使う時は換気に気をつけてください。
一酸化炭素中毒の恐れがありますので、必ず窓を開けるなどの換気をして使用していただきたいと思います。

 
新川)そうか。普段でしたら換気扇をまわしますけど、災害時を想定して電気が使えないとなると換気扇が使えませんもんね。
窓を開けなければいけませんね。
 
千葉)トイレ、食事ときて、あと避難生活で考えると大事なのは、寝る環境ですよね。
これは家でキャンプするんだから、いつものように自分の布団やベッドで寝ればいいんですよね。
 
国崎)多くの方がそのように考えられるかもしれませんが、実はそれができるとも限らないんですね。
例えば地震の揺れでガラス窓が割れたりとか、照明器具のガラス管が破損して布団の上に散らばってしまうということも起こりうるんです。
そうすると布団が使えなくなってしまうということもありますし、さらに、家族全員が地震で不安なので、それぞれの部屋で寝るのではなくて、まとまって過ごしたいと多分思われるんです。
その時に各々が使っている布団をズルズル持ってくるのも大変ですし、それだけのスペースが確保できるのかという問題もあります。
例えば、キャンプで使うような寝袋がありますよね。寝袋でしたら場所も取りませんので、そういった寝袋を用意してそこで寝てみるという経験もいいと思います。

 
新川)今、聞いて思い出しましたが、私も阪神・淡路大震災の時、中学生でしたのですごく余震が怖くて、自分の部屋から出て親と一緒に寝ていた記憶があります。
 
国崎)そうですよね。
何度も何度も大きな揺れがきて一人で部屋にいることはとても不安だと思いますし、家族としても、家族の安全を確保するために安全な部屋でまとまっていたいと思うでしょう。
実際、阪神・淡路大震災でもそうですし、その後の過去の地震でも、すぐに外に出られるように家族みんなで玄関の近くの廊下で寝たという方もいらっしゃるんです。

新川)家の中であっても、非常時には違う状況で寝ることがあるということですね。
 
国崎)はい。ですので、ある意味どこでも寝られるような経験をしておかれるといいと思います。
 
千葉)そうか。それも「おうちDEキャンプ」の目的になるわけですね。
普段寝ないところで寝ると。
新川)たしかにフローリングの上に寝られるかというと、どうでしょうかね。
千葉)いやあ、体痛いだろうなっていう感じがするなぁ...。

国崎)そうですね。
なので、例えば硬さを少しでも緩和するためにあれやこれやということで選んで、できる限りクッション性のあるものを探して寝ていただきたいと思います。
寝袋もいいと思いますし、クッションマットをさらに敷いて柔らかさを確保するのもいいと思います。

 
新川)座布団なんかも使えそうですね。
 
国崎)そうですね。
 
千葉)この「おうちDEキャンプ」を通して、ラジオを聴いているみなさんに、どう備えて欲しいと思っていますか?
 
国崎)まずは、この「おうちDEキャンプ」を通して、被災体験をすることによって、災害に対しての心構えがつくという意味でも、試していただきたいと思います。
体験していないと実際の災害の時に不安が増えますし、また、不安だけではなくて、何を備えていいかわからないといった場合にも、体験を通じて実際に自分たちに本当に必要な防災用品が何かというのが見えてきます。さらに、用意したものがあればその使い方を知ることによって、被災当日に慌てないということもできます。

 
千葉)やっぱり、実際にやってみるということが大切なんですね。
 
国崎)そうですね。
私自身も経験して、懐中電灯よりヘッドライトとかランタンがいい、ということに気づきました。
例えば何か掃除をしたり調理したりといった時に、誰かに光を当ててもらって作業をするという状況になりますが、なかなか自分がここに光を当ててほしいというところにピンポイントで光がくるかというと、その、あうんの呼吸が難しいんですね。

 
新川)懐中電灯だったら、そうやって照らしてもらって、人に手伝ってもらわないといけないかもしれないんですね。
 
国崎)はい。じゃあ自分で照らすとなると片手が奪われてしまって、なかなか作業がはかどらないということがありますので、我が家では懐中電灯ではなくヘッドライトを1人ひとつ、この経験から用意することにしました。
 
新川)今、家の中にいてなかなかやることがないという人にとっては、ちょうどいい時間かもしれませんね。
 
国崎)そうですね。
いきなり長い時間やろうと無理をせずに、短い時間でも結構ですので、全てのライフラインを止めて、まずは体験をしてみるという風に気軽に考えていただければと思います。

 
千葉)3時間でもできるんですもんね。
 
国崎)そうですね。
 
新川)これからの季節は暑くなってきますし、その中で電気を使わずに、エアコンや扇風機を使わないということを経験してみるのも、ひとつ必要かもしれませんね。
 
国崎)そうですね。体調に留意をしながら暑さや寒さを経験して、その時にどんなものを用意しておけばいいのかという気づきにもなると思います。

第1227回「長引く自粛生活で生じる心の問題」
ゲスト:筑波大学 准教授 高橋晶さん

千葉)新型コロナウイルスの感染拡大にともなって4月7日に政府が出した緊急事態宣言は、当初5月6日までの1ヵ月の予定でしたが、今月31日まで延長されることになりました。
新川)自粛生活がつづく中、強い不安やストレスを感じているというという方も多いと思います。
千葉)きょうは、災害精神医学がご専門の筑波大学准教授の高橋晶さんに電話でお話を聞きます。高橋さんはこれまで、災害が起きた時の心のケアに携わってこられたとのことですが、災害時の心の問題と、今回のコロナウイルスで起きる心の問題は、共通点がありますか?
  
高橋)その点はすごく大事なところだと思っています。今まで阪神・淡路大震災や東日本大震災など、日本はかなり多くの災害がありましたけれども、例えば今回、それぞれのご家庭がひとつの、最小単位の避難所だと考えると、まさに避難所で起きているようなことが各家庭で起きているということがあると思うんですね。
その意味からすると、まさに今、各家庭で外になかなか出られない状況の中で、さまざまなストレスがかかってきていて、対人的な問題も含めて、非常に似通っている部分があるのではと思っています。

 
千葉)家が小さな避難所、避難所の中で起きることが家庭の中で起きているということが考えられるわけですね?
 
高橋)そうですね。避難所というのは、プライバシーがなかったり、普段と違う環境の中でかなりのストレスを抱えながら生きていかないといけないというところ。
例えば、最近ですと、家庭内でちょっと攻撃的になったり暴力的になったりしてしまうようなこともあると聞きますが、ストレスのはけ口がどうしても弱い方にいってしまうということも含めると、すごく似通っているところがあるのではと思っています。

 
千葉)具体的に聞いていきますが、新型コロナウイルスの収束が見えない中で、今、人々の心にはどんな影響が出ているのでしょうか?
 
高橋)これは1月とか2月からずっと継続している問題ですが、最初は日本全体としてちょっと楽観的なところがあったと思うんですね。クルーズ船の対応をしている時は、日本にはなかなか広がらないんじゃないかというところがあったんですが、それから急速に世界中に広がって、日本にも急速に広がって、シナリオが前よりどんどん悪くなっているということが、非常に大きく影響している思います。
最初から「これはとんでもないことだ」と思っていたら、もう少し最初からみんな気を引き締めてやっていたところがあるのですが、だんだん悪いニュースが来て、どんどん悪い状況になっていくというのが、精神的にはすごくストレスがかかりやすいと思うんですね。
見立て、予測が最初と比べるとズレてきてしまったということがあります。
その結果、やはり人間の心理として恐怖がより大きくなると。
ダメージ、不安が累積して重なってきている状況だと思います。

  
千葉)どんどん落ち込んでいくという気分になりますもんね。
 
高橋)そうですね。例えばいろんな不安があって、「感染しちゃうんじゃないか」とか、「ひょっとしたら自分がうつしてしまうんじゃないか」とか、あとは経済の問題とか、さまざまな不安だらけの現状です。
普段ですと、不安を感じるというのは、人間が生きる意味ではすごく大事な機能なんですね。
不安を持ちながら、新たな恐怖に立ち向かっていくという人間の心のメカニズムがあるのですが、今はアラームが鳴り続けている。そういう非常につらい状況なんだと思います。

 
新川)不安を感じること自体は、正常な反応なんですね?
 
高橋)そうですね。不安を感じて、「これは危ない」と思うから、人間は動物としてこれだけ長く生きてこられているという意味では、すごく大事な機能、正常な反応だと思います。
 
千葉)でも、ずっと続いているとやっぱりイライラしてきますもんね。
 
高橋)そうですね、朝起きて1回アラームが鳴ってというのならピクッと起きますが、全然予想していない時に心のアラームが鳴ってしまったりしたら、やっぱりちょっと恐いと思うんです。
そういう状態がずっとあると、また、予期不安という「あの不安が襲ってくるかもしれない」という漠然とした不安が常につきまとうようになることですが、そういったことに常に向かい合わないといけない。
「また不安になっちゃうんじゃないか」とか、そういったことに常に向かい合わないといけない。とてもつらいと思います。

 
新川)そんな中で、外にも出られなくてずっと家の中にいるというのは、やはりストレスが溜まりますよね。
 
高橋)そうですね。今までは、人と会って、人とお話してストレスを解消しましょうというのが主なコミュニケーションのやり方だったんですが、それが、今はむしろ、人と身体的には接触しないでとか、距離をあけましょうとか、今までの考えとは全く違うコミュニケーション方法を求められています。
外に出るな、会うな、みたいなことですね。
なかなか、そういった言われたことのないことに、急速に人は適応できないと思うんです。なので辛くなる。
ただ、人間というのはいろんな環境に適応していく能力はあるので、徐々には適応できることがあると思っています。

 
千葉)じゃあ、今、私がストレスを感じたりイライラしていることは、別におかしなことではないんですか?
 
高橋)全くおかしいことではないですね。
「異常な事態における正常な反応」という言い方をするのですが、あくまで今が異常な状態ですよね。
感染症がまん延するという異常な事態なので、そこで出てくる、本当に普通の正常な反応で、病気とかそういうことでは全くないということです。

 
千葉)でも、こういった精神的な不安感やダメージが、どんな問題を引き起こすことになるのですか?
 
高橋)どんな人でも不安になると、恐怖に打ち勝とうとして、場合によっては攻撃ということが出てきてしまう。例えば、自分より弱い対象に攻撃することによって、自分の中の不安を解消することもあるでしょう。。最初のころは結構、怒りとかイライラなんかが表に出ると思います。
そこで家庭内でぶつかり合うということも出てきてしまいますし、今ですと自粛を強く要請するということで、本当に我慢している方もいっぱいいるので、我慢している方からすると、ちょっと自由な行動を見るとそれに対して攻撃的になってしまう、なんていうことにもつながってきていると思います。

 
千葉)インターネット上でよく「自粛警察」なんて言われています。他の人の行動を監視する...
 
高橋)それも本当にそういった行動のひとつになると思います。
一生懸命、自粛されている方からすると、自分が我慢しているのにどうしてそんなことをするんだというのは、やっぱり、怒りに変わるわけです。
今、インターネットだと特に匿名で、そういった方を攻撃することもありますし、あとは張り紙をそういった場所に置いたり...。する側は正しいことをしていると悪気はないとは思うのですが、ただやはりみんながみんなを監視するようなことも出てきます。そういった心理も理解できる部分はありますが、やはり、みんなギリギリのところでやっているところで、出来る限りお互いがお互いを建設的なよりよい対応していけばいいのですが、どうしても、今、そういった形で問題が出てきてしまっています。

 
千葉)そういったものは、自分自身の不安感から生まれ出ているものなんですね?
 
高橋)そうですね。不安感や、ある意味、絶望感とか、抑うつとか、いろんなものが自分の中に出てきて、それをうまく解消できない時には、外に解消法を求めるということが、一般的にはあると思います。
 
新川)あと気になるのが、ずっと家にいることで、お酒の量が増えている方が多いのではと思います。
千葉)それは私も、はっきりと増えています。
新川)このあたりは、心の問題と関係してくるのでしょうか。
 
高橋)お酒というのは、普段、お仕事が終わってちょっとリラックスして夕食から飲むということがありますが、例えばそれが今、昼からあるべき仕事がなくなっちゃたりとかすると、することがないなという時に飲んでしまうことがあり、習慣化することがあります。
あとはイライラしたり眠れない時に、いちばん手軽に手に入るものとしてお酒があります。
飲んでいる時は気分がちょっと楽になると思うんですね。
ただお酒もすぐ醒めますから、そうするとまた不安なところに戻ってきてしまう。
そうするとまた飲みたくなるというくり返しで、眠れない方なんかでもお酒の量が増えて、朝起きるとだるいんですよね。それによって、うつっぽくなってしまう人も実際にいます。

 
千葉)あきらかに今、アルコールの量が増えているなと思っているんですが、やっぱりそれも不安感からですね。
 
高橋)そうですね。不安感をみんな一生懸命、自分なりに解消しようと思って、がんばっている姿勢の表れなんだと思うんですけどね。
ただやはり、お酒の場合は依存になる。一杯が二杯、二杯が三杯という風に酔える量が増えていってしまうところがあるので、ちょっと怖いところもあります。
東日本大震災の時も、同じように、普段お酒を飲まない方々の、そして普段からお酒を飲む人のお酒の量が増えてしまったということも実際にあったと聞いています。

 
新川)適度に解消する方法があればいいなと思いますが、今、挙げていただいたような心の問題というのは、どうやって解消や予防をしたらいいのかというところが一番気になります。
千葉)そうですね、教えてもらえますか?
 
高橋)はい。これ、答えは決してひとつではないと思うのですが、私が考えている中ですと、ひとつはどのように今の状況を受け止めるかということ。
例えば、今のコロナの問題を短距離走だと思うと息切れしてしまう。
これはもう長距離走、マラソンだという風にちょっと心の中でシフトチェンジをして、これは長めに付き合わなきゃいけないという風にちょっとこころのポジションを変えないと、ずっと短距離走のスピードで長距離を走っているとバテてしまうと思うんですね。

  
千葉)マラソンもしんどいですけどね・・・
 
高橋)そうですね...。
例えばこれ、先が見えるようなことがわかっていると、ある程度人って耐えられるんです。
いつ終わるかわからないものに対して、ずっと向き合っていると疲れちゃうので、ちょっと自分の心を変えて、むしろ休みながらでもとにかく最後にゴールまでたどり着くように、「長距離走だ」という風にやっていく。
今、目の前のことを頑張りすぎると疲れてしまうので、「ちょっと休みながら」ということは必要だと思います。

  
千葉)マラソンといってもずっと走り続けるんじゃなくて、ところどころ休みながら、歩きながら、自分のペースで歩いていけばいいというマラソンなんですね。
 
高橋)おっしゃる通りだと思います。
 
新川)その休みながらの方法ですが、実際に日々どうやって過ごすとストレスが解消されるのか...例えば私はスーパー銭湯に行くことが好きなんですが、今は閉鎖されてしまっている。
普段やっているストレス解消方法ができないということがありますが、例えばどんなことをして過ごすと、心の安静が保てるのでしょうか。
 
高橋)ひとつは、普段、自分がやっていたものに近いことを行うということ。
先ほどのスーパー銭湯だったら、おそらくそこの雰囲気だったり、お湯につかってあたたかかったり...。
不安や緊張によって、体が冷えてしまったり、体の動きが硬くなったりしますが、温泉に行くと、少しゆったりした気持ちになりますよね。体も心もほぐれる。
そういったものが自分に合っているのであれば、近いこと、例えば、ストレッチとか、乾布摩擦みたいに自分の皮膚を刺激してあげるとか、そういったこともあるでしょう。
あとは、いろんな情報、悲惨なニュースが今、朝から晩までずっと流れていて、それをずっと聞き続けることもできるのですが、逆に「一日のうち、このニュースだけ聞いて、あとは極力聞かないようにする」という風に、怖い刺激を入れないということも一つあると思います。
要するに、食べ物とか飲み物でもそうですけど、ずっと取り続けていると、お腹とか心もいっぱいになってしまう。刺激的なニュースが多いので、それを聞いていると、どうしても心がすり減ってきてしまうんですね。
心も消耗品だと思って、メンテナンスをうまくしてあげるということも大事です。

 
新川)意識して情報から離れる時間をつくるということですか?
 
高橋)そうですね、それは多分、自分自身で選ぶことができると思うんです。
この時間にそれを聞くということもできるし、あえて今は聞かないということも自分で選べるんです。
例えば、東日本大震災の時もほとんどの番組が津波の情報をやっていましたが、ひとつのチャンネルだけアニメを流していた。それを見ているとちょっとだけほっとして落ち着くなあということがあったり...。
選ぼうと思えば自分で選べると思います。情報を選ぶ主体は自分ということです。

 
高橋)あとは、体を保つということ。
心を保つというのは、体を保つということとすごく近い。
心を鍛えようとか整えようと思ってもなかなか難しいので、例えば、体を保つという意味で、栄養と睡眠と、あとストレッチとかそういったものを使う。
人間には、心の中にレジリエンスという強いバネがあります。
それを使って、心を保つということができるのではないかと思います。

 
千葉)栄養と睡眠と適度な運動...普段、体にいいと言われていることをすればいいんですね。
  
高橋)そうですね。普段より、より戦略的に、例えば眠ることにしても、普段より早めに寝てしまうとか、ちょっと朝型にしてみるとか。
あとは、体を作っているタンパク質などの栄養をしっかり取るように心がけるとか。
また、運動できないと便秘気味になるので、きちんと食物繊維などを意識的に取るとか、そういうこともできると思います。

 
新川)家でどう過ごしたらよいのか...何かおすすめの過ごし方ってありますか?
  
高橋)おそらくずっと緊張している状態というのは、すごくつらい。
やはり心に栄養、サプリということからすると、自分自身にごほうびタイムとか、サプライズとか他の方に対しても行うのはどうでしょう。今、通信販売などでいろんなサービスがありますので、自分にごほうびを買ってあげたりすることも大事です。他の方に対しても、そうです。
あとは昔、やっていたこと。例えば、小さいころ笛をやっていたけど久々にやってみようかなとか、そういうことでもいいと思います。昔、バイオリンやっていたなとか、絵なんかも好きだったな、ちょっと描いてみようとか。ちょっと楽しいなというのがあるといいと思います。

 
新川)そういった創作活動をすると、ちょっと没頭できそうですよね。
 
高橋)そうですね。おそらくその間は、嫌なことをちょっと忘れていると思います。
「マインドフルネス」と言って、茶道とか華道、写経とかもそうかもしれませんが、そこに集中している時はそのことばかりを考えているので、不安なことがちょっと消えるんですよね。不安がその間どこかにいっているんですね。
1日のうち、5分でも10分でも自分の中で不安がない時間をつくる、自分自身をうまく律することができるという時間ができると思います。
粘土とか買ってきて少し土に触れる。
どうしてもインターネットでキーボードばかり叩いていると実際の手の感覚(ぬくもりとか冷たさとか)を忘れてしまうようなこともあるので...

 
新川)有機物に触れる、みたいなことですかね?
  
高橋)そうですね。土をこねたりすると、なんか、生きている感覚が少しつかめるようなこともあるのではないかなと思います。
 
千葉)なんか、ごほうびタイムとかサプライズとかいう言葉を聞くと、少し明るくなれる気がしますが...
心の問題が深刻になってしまいそうな人に対して、まわりが気づいてあげられることとか、できることはありますか?
 
高橋)やはり、まわりの方のサポートはすごく大きいと思います。
普段、仲良くしている方であれば、その人が具合が悪いのが多分すぐにわかると思うんですね。
例えば行動面、お酒やタバコが増えているようなことがあったら、「ちょっと減らした方が...」と言ってあげるとか。
あと、普段早起きの人が、朝起きられなくなったりした方なんかがいたり、普段だったらこんな事で文句を言わないような人が怒っているとすると、やはり何らかのストレスがかかっているので、そういった時にはちょっと声かけをする。「何かあったの?」みたいに言うと、「実は...」と伝えてもらえることもあると思います。

 
千葉)声をかけたらケンカになっちゃったりして、怖いということはありませんか?大丈夫ですか?
 
高橋)おそらく元々、いい関係性がある同士なら大丈夫だと思うんですね。
もちろん、イライラしているので、ガーっと大声でいろいろと言ってしまうこともありますが、ある程度ガス抜きをさせてあげることも大事なのかなという気がします。

 
千葉)やっぱりコミュニケーションとった方がいいんですね。
 
高橋)そうですね。日本だとよく自殺の問題とかもありますが、やはり孤独になってしまうところからそういう方向に進むと言われているので、なんとかお互いを「孤独にしない、させない」というところは大きいです。
どうしても、孤独になってしまうと、極端な思考になってしまうことがあるので、そうならないようにサポートすることは大事だと思います。

 
新川)自殺というショッキングな言葉が出ましたが、災害の時にも将来を悲観して...ということがありました。今回のコロナの問題でも、長い時間がかかってくるとそういったことも、今後、心配されますか?
 
高橋)そうですね。やはり、過去のバブルがはじけた時とか、大きな災害の後というのは、どうしても経済の問題とか、いろんなもの、いろんな人を失うという喪失から、多くの人が非常に傷つきます。
ひとつの問題だけならまだしも、二つ、三つ、四つといくつもの問題が一気にふりかかってくると、どんな方でも心が折れてしまうということはあります。
そういったところからすると、これからコロナに関連して何か問題が起こってくるというのは、心配に思っているところはあります。

 
新川)今、自治体なども心のケアの相談窓口を設けています。そういったものも活用すべきですよね。
 
高橋)そうですね。最近ですと、それぞれ都道府県や市町村でそういったサービスをしています。
相談してみるということは、大事な援助希求と言いますか、自分が援助を求めるということは決して恥ずかしいことではないので、しっかり援助を求めてほしいと思います。

 
千葉)やっぱり助けを求めていくということが大切なんですね。
 
高橋)そうですね。日本は、災害と共に生きてきた国民であるというのは、歴史が物語っています。
その中でなんとかお互い支え合いながら、ここまでがんばって生きてきているというところはあるので、上手に助けを求めることができるといいんじゃないかなと思っています。

 
千葉)この感染症は長引いていますが、収束はしていくんですよね?
  
高橋)いつか必ず収束するというのは、今までの歴史が教えてくれていると思います。
意外と長引くことはありますが、それでも必ずいつかは収束する。
以前フランスの首相が「これはウイルスとの戦争だ」と言っていましたが、最近ですと、イタリアの首相は「ウイルスとの共存の時代がきた」という風に言っています。
完全に新型コロナウイルスがゼロになるというのは、まだまだ先の話かもしれませんが、うまく生活と対応・適応しながらやっていくことは十分できると思っています。

  
新川)いつか、マラソンもゴールがあると思って、私たちは過ごさないといけないですね。
  
高橋)そうですね。普段のニュースを見ていると、もうダメなんじゃないかという風に絶望的になるんですが、それでもいつかは大丈夫になると、希望を持つということも大事だと思います。

第1226回放送「新型コロナ感染拡大に災害法制の適用を」
ゲスト:弁護士 津久井進さん

千葉)きょうは、災害復興支援に携わってこられた弁護士にお話を聞きます。
亘)弁護士の有志で、新型コロナウイルスの感染拡大を「災害」ととらえて、災害関連の法制度を適用すれば、もっといろんなことができる、という提言をされたんですね。
千葉)この番組にも、これまでご出演いただいてきた、日弁連災害復興支援委員会・委員長の津久井進弁護士です。
 
千葉)新型コロナ感染拡大を災害ととらえると、どんないいことがあるんですか?
 
津久井)コロナ感染拡大は災害だと考えたら、普段の自然災害でやられているいろんな施策が当然行われるべきだとみんな思うはずなんです。
わかりやすいことで言うと、例えば「避難指示」というのがありますよね。みんな、避難所に行くことと勘違いしていますが、水害の時なんかは、「自宅にいなさい」という自宅待機の避難指示があるのですが、これを今回のコロナ問題にあてはめれば、「自宅にいなさい」という指示を法的にも義務づけることができると。

 
千葉)行政が出すことができるわけですね。
 
津久井)はい。あとよくテレビでロックダウンとか都市封鎖とか言っています。具体的にどこまでどうするかはともかく、災害対策基本法の中には、例えば警戒区域を設定して、立ち入り禁止だとかいろいろな制限を罰則つきでするということがあります。例えば、感染拡大のクラスターになっている地域については立ち入りを禁止する、などということも実はやろうと思えば法律はあります。
 
亘)例えば、ある病院とか福祉施設とかでクラスターが発生しましたと。そこを何らかの形で立ち入り制限をかける、なんていうことができるんですか?
 
津久井)はい。関係者以外の立ち入りはできませんと。
これは、今は要請だとか自粛という形でやっているわけですが、法律にもきちんとその仕組みはあるということです。

 
千葉)じゃあ、新しい法律を制定したりしなくてもそこまでできるということなんですね。
 
津久井)そうです。今、法律が無いとか制度が不十分だという議論がありますが、例えば災害救助法という法律の中で言えば、食料品とか飲料水なんかを家に届けることや、宿泊場所を供与する、避難所のことですね。ホームレスの方々やネットカフェ難民の方々に、きちんと感染を防止するための宿泊所というものも提供できる。これ、災害の時を考えたら普段やっていることなので、みなさんもすぐにイメージできると思う。
ところが、コロナ問題は災害じゃないと思い込んでいるがために、その発想がどこかに飛んでしまっているのではないかと。

 
千葉)そうか、ホテルなんかも一時的に逃げ込むための避難所という風に考えれば。
 
津久井)そうです。そうすると、例えば財政措置もきちんとつけることができますし、避難所であることによって一定のルールも仕組むことができるわけです。ですから、災害というものを、地震や台風という風に小さく捉えているところがあるんですが、実際はそんなことはないと。自衛隊は実際、災害派遣でもう既にいろんなところに飛んで行っているわけです。
 
千葉)そうですね、派遣されていますね。
 
津久井)そうなんです。あれは災害派遣ということで自衛隊法の83条で派遣されているので、災害なんですよ。
 
千葉)そうですね、防衛出動じゃないですもんね。
そういう状態なのに、災害法制が適用される状態には今、なっていないということなんですね。
 
津久井)なっていないということなんです。
 
亘)やっぱり災害だと家がつぶれて、しょうがないから避難所やホテルに住むとか、そういうのはイメージしやすいと思うんですけど、今回のコロナで家を失うというのがあまりイメージできないのかなという気がするんですが...。
 
津久井)たしかに、全壊、半壊といってもピンとこないと思うんですね。
私が言いたいのは、災害にあたるかあたらないかという形の話ではなくて、災害で培ってきた知恵や経験、教訓を生かすということなんですよね。

 
亘)そういう意味では本当にたくさんの災害を経験していますよね、私たちは。
 
津久井)はい。世界中、どこにも負けないくらいの知恵や教訓が日本にはあるはずなので。よその国の背中を追いかけるのではなく、むしろ手本を見せるぐらいのことが本当はできるのではないかと思います。
 
亘)今、問題になっているのはやはり経済の問題、雇用の問題が大きいと思うのですが、災害法制を使えば何かできることはあるのですか? 
千葉)そうです、お金ですよね。
 
津久井)実際、一番困ることは毎日の暮らしですから、暮らしを立てるための労働、これについてもちゃんと災害の特例はあるんです。
激甚法という法律の25条には「みなし失業給付」があります。要は、災害で会社が休業になってしまった時は、失業保険をもらえると。

 
千葉)会社を辞めされられたとかそういう状態にないにもかかわらず、失業保険がもらえるのですか。
 
津久井)そうなんです。これも災害の時には当たり前のように行われているのですけど、今回のコロナでは思いつかないみたいなんですよね。
 
亘)激甚法というのは、「激甚災害」の「激甚」ですね。
 
津久井)そうです。災害の中でも特に大規模な被害が発生して、会社が休業を余儀なくされたと。こういう場合は、会社がなくなったのと同じようにみなして、会社が再開するまでの間、失業保険を給付すると。こういう仕組みが昭和30年代ごろからずっとあるんです。
 
千葉)東京のタクシー会社が、雇って給料払っているよりも失業保険もらった方がいいからと、全従業員を解雇したというニュースがありましたよね。
 
津久井)ありました。私はあのニュースを見た時にびっくりしたんですよ。
タクシー会社のやっていることではなくて、この「みなし失業給付」がまだ使われていないのかと、そっちにびっくりしました。
つまり、阪神・淡路大震災の時にも東日本大震災の時にも、西日本豪雨とか令和の台風の時にも会社が休業になった時には、「みなし失業給付」が払われてきたのです。

 
亘)あまりわかっていなかったのですが、それは普通にされてきたことなんですか。
 
津久井)そうです。もちろん特例ですから、これが激甚災害にあたると、労働局が一定の認定のすることは必要ですが、そういうことも全部ひっくるめて、コロナの特例ということでやれば、今、問題になっている「雇用調整助成金」はなかなか手続きが大変で、労働者も事業者も両方困っているというニュースが出ていますが、直接、労働者の人がもらえばいいし、そうすると会社は休んだ方がいいんですよね。休業したということが、「みなし失業保険」の大前提なので。
動いているものとみなして休業手当を出すよりも、休んでしまって給料を失業保険でもらう方が、よほど単純で確実に労働者もお金がもらえると。

 
亘)失業保険というと、どのくらいの額がもらえるんですか。
 
津久井)どれくらいの間勤務していたかとか、6割ぐらいとかですね、一定の基準があって、もとの給与の満額もらえるというわけではもちろんありません。しかし、今、雇用調整助成金でも、助成の対象というのは、一定の金額を越えると一定の割合しかないわけで、もらう方からするとそんなに変わらない。
 
亘)雇用調整助成金というのは、雇用主の方に入るわけですよね。それで、手続きがややこしいと今、問題になっています。
 
津久井)そうです。みなし失業給付が全ていいですよと言うつもりはないのですが、これまでの災害でも雇用調整助成金とみなし失業給付は両方、行われてきたんです。阪神・淡路大震災の時もそうなんです。でも、今回は片方しか行われていないので、不思議だなと思うんですね。
 
千葉)やはり雇用主の方としても、今まで苦楽を共にしてきた従業員を解雇しないで済むし、働く方としても失業してしまった、明日からどうしようかなと思わず、ちゃんと勤めているという立場を守りながら失業給付が受けられるということですもんね。
 
津久井)そういうことです。もともと雇用保険は給料の中から天引きされていますからね。いざという時のための保険ですから、こういう時に使うべきだと私は思います。

津久井)むしろ災害の時より今回は大変です。局地的な問題ではなく全国で大変なので。フリーランスの方であるとか、あと、失業保険も1か月半くらいお金がもらえるまでに時間がかかったりだとか。あるいは一回もらってしまうと、辞めたものとみなされてしまうので、これまで勤続何十年というのもリセットされて、復職された時にまた一からカウントされてしまいますので。だからそういった特例もひっくるめて、コロナ対策のみなし失業給付という形で整備すればよいと。
これは既に、激甚法という法律がありますから、単に激甚災害を「コロナ感染拡大」という風に読みかえをするだけで、簡単に法律はできると思います。

 
亘)結構、簡単にできそうですよね。
 
津久井)はい。なぜやらないのかというのが私には不思議で。
 
千葉)政府はどう考えているのでしょうか。
4月28日の衆議院予算委員会で、立憲民主党の枝野代表が、西村大臣に聞いています。
 
立憲民主党・枝野代表)災害救助法を使えば、今、仕事を失い、生活の拠点を失っている人たちに、住まいも食料も生活必需品も供給することができるんです。
もう一つ、災害対策基本法。実は、災害対策基本法を適用すると、屋内退避の指示や立ち入り禁止命令、退去命令ができます。どうです、総理。この内容を検討しませんか。
 
西村国務大臣)
法制局とさっそく相談したが、災害基本法、災害救助法の災害にするには難しいという法制局の判断をいただいたところでありまして、他方、ご指摘の救助法でできるさまざまなことは、今回用意しております地方創生臨時交付金で、都道府県知事が、地域の事情に応じて対応できることになっておりますし、必要なことを臨機応変にできるようになっております。

 
亘)これは、災害法制を適用するのは難しいけれども、やれるんだよと言っていますよね。
 
津久井)私はそう聞きました。
実質的な理由を大臣は一言も触れなかったですよね。つまり、実質的に国民みんながこのコロナ感染拡大は災害だと理解すれば、適用できますよと言っているのと等しいのではないかと。
それから、地方で柔軟に対応すればよいという話もありましたが、地方の判断でできるというのも実は、災害の知恵そのものなんです。
災害対策基本法は、市町村が権限をもつ。災害救助法は都道府県が権限をもつ。コロナ対策については国や都道府県単位で対策をするという仕組みになっているので、きめ細やかな市町村の対応がどうしても後手に回ってしまう仕組みになっているんです。
やはり災害は現場で起きていると。現場の判断者がきちっと対応するというのが正しい対応ではないかと思うので、やはり私はこの災害対応で乗り切ってほしいと思う次第です。

  
亘)内閣法制局は、なぜ適用は難しいと言っているのでしょうか。
  
津久井)正式なデータや文書があるわけではないですが、私は、これは法制局というよりも、これまでの統治あるいは官僚組織の問題だと思っています。
というのは、厚生労働省とか経済産業省とか自衛隊のような大きな組織と違って、災害については、内閣府防災というたった90人ぐらいの小さな部署で、全国の災害を担当している。

  
千葉)90人の部署で全国の災害を?
  
津久井)そうです。もういっぱいいっぱい、アップアップなんです。
ですから、彼らのところでこのコロナ対策は災害として対応せよと言っても、人員的に無理だと。これが本音ではないかと私は推定しています。

  
千葉)とはいえ、今、大変なことが起きて国民が大変な状況になっているんだから、そんなことで何もしなくていいのかと。
亘)そうですね、その縦割りな感じは何なのかなという気がします。
  
津久井)東日本大震災でも阪神・淡路大震災でも、対策本部というものを作って、大きな組織で対応しました。今回は、厚生労働省や経済産業省が中心になっていますが、そこに災害というものも取り入れて総合的に対応することが正しいし、あたり前の対応だし、よその国ではそうしているという風に私は見ています。
  
千葉)そういう状況をふまえて国会でガンガン議論すべきだし、政府も踏み込んでいくべきではないのかなと思いますが、津久井さんはどうご覧になっていますか?
 
津久井)私は、これはツケが回ってきたと思っています。
つまり、これまでの災害対応で数々の失敗や改善の声があったのですが、喉元過ぎれば熱さを忘れるということで災害対応を怠ってきた。この国は。
今回、緊急事態宣言というのが注目されていますが、思い出していただくと、緊急事態として熊本地震の時に安倍総理が、緊急事態だから早く屋内に避難者を収容せよということを言った。一回回目の震度7の時に。それで、実際に現場でそうしようとしたのですが、みんな余震が怖いから外にいるんだと言って、結局応じなかった。二度目の震度7の時に、屋内に退避していたら何百人も体育館で死んだかもしれない。
言うことをきかなかった、現場判断したから命が助かったということがあるんです。
こういう、緊急事態の時に現場が正しい判断ができるようにするということがずっと言われているのに、緊急事態宣言では生ぬるいから緊急事態条項を憲法に設けてはどうか、などという議論が与党内で出ています。国民の方も、憲法改正した方がいいのではないかと、私権制限のために、パチンコを制限するためには憲法を改正した方がいいんじゃないかとか、変な話が出ているのが私にはちょっともう我慢ができない状態ですね。

 
千葉)そんなことをしなくても、今ある法律をちゃんと使ったら対応できるじゃないかということですね。
 
津久井)おっしゃる通りです。
 
亘)他にも何かいろいろ災害法制でできることはあるのですか?
 
津久井)他にも、災害救助法とかあるのですが、「災害ケースマネジメント」という鳥取県などで既に制度として行われている、ひとりひとりに寄り添って、ひとりひとりに個別ケアしていくという仕組みがあります。今、お家の中でみんな我慢して暮らしていますが、中にはコロナ以外の病気でずっと我慢して命を失いつつある方などが実際にいます。それから、ひきこもりの方がこれまでずっと外とのつながりを少しずつ拡大していったものが、急速になくなって、本当に自立が困難な状態になりつつある。こういう時に家を訪問できないじゃないかというお声もありますが、いろんなWEBを使ったり電話をしたり、あるいはハガキを送ったりというボランティアも今、大阪で行われています。
ひとりひとりに寄り添ってニーズを把握して適切に対応するという仕組みを、コロナ対策と同時並行でやっていかないと、いざ、コロナ禍が終わった時に大変なことになってしまうと思います。

 
亘)これまでの災害でそういう「ケースマネジメント」っていうのは、されてきているのですか?
 
津久井)そうですね。例えば鳥取県が皮切りで始めたのですが、ずっと屋根が壊れたままで2年3年暮らしていた方が、この仕組みを使うことで何とか修理ができたと。
西日本豪雨や令和の台風などでも、地域支え合いセンター、社会福祉協議会などが中心となって、ひとりひとりのニーズに寄り添うということをなさっています。
これ、非常に大事なのは、行政の仕事ではないんです。行政と民間が連携して、あるいは専門家とかいろんな人たちが寄ってたかって、ひとりの為に計画的な対応をしていくという仕組みなんです。

 
亘)行政まかせではダメだということですか。
 
津久井)はい。私は「コロナ関連死」というのがとても怖いです。コロナで亡くなられる方は毎日報じられていますが、その陰で十分な医療が受けられずに亡くなられる方がいらっしゃると。
阪神・淡路大震災の一番の教訓は「ひとりひとりを大事にしよう」ということだったと思うのです。
我慢はみんなでするけれども、立ち直る時はみんな支え合ってやっていかないとね、というモードを今のうちからあたためておく必要があるのではないかなと思っています。

 
千葉)コロナ感染拡大の状況を災害と解釈していいのかという意見も世の中にありますが、どうなのでしょう?
 
津久井)とにかく知恵を絞っていくというのがポイントです。
今、「持続化給付金」というものも注目されています。私たちがこれからもらう10万円の個別の特別給付金については、差し押さえ禁止という法律が、地味ですがちゃんと手当てされました。
持続化給付金は事業者に払われるものなのですが、これに、差し押さえ禁止をつけるかどうかということを巡って議論がある。

 
亘)これは、中小企業の方が200万円、フリーランス100万円というお金ですね。
 
津久井)そのお金を、債権者が横から出てきて差し押さえてしまう。経済活動なんだからしょうがないだろうという議論があるらしいのですが、これ、何のためかといえば、つぶれそうな、壊れそうな中小の事業者の人たちが何とか立ち直るため、事業を続けるためのお金だから、差し押さえなんかしてはダメですよね。
 
千葉)差し押さえられちゃったら全然助けになってないですもんね。
 
津久井)そうです。もし、この持続化給付金がフリーな形で支給されることになったら、金融機関だとか、めざとい債権者だとか、あるいは私たち弁護士が、本来の差し押さえの業務と言って差し押さえに走るかもしれない。何のためのお金かわからなくなっちゃうじゃないですか。
これは、災害の時の教訓ということで、地味ですが、きちんと対応しておくひとつのポイントかなと。
義援金の差し押さえ禁止というのがあったのを覚えておられると思うのですが、あれです。

 
亘)それは今回で言うと、新しい法律をつくらないといけないのでしょうか。
 
津久井)そうですね。今回の10万円の個人に払われるもの、これについては義援金と一緒だねということで法律ができましたが、事業者に対する義援金ってイメージできないよね、という感じで、そのままいってしまいそうな不安を私は感じています。
 
千葉)コロナ感染拡大の今の状況というのは、大きな災害と同じなんだと考えて対応していかなければならないということですね。
 
津久井)はい。私はそう思います。

第1225回放送「避難所の感染予防対策」
電話:日本赤十字北海道看護大学教授 災害対策教育センター長 根本昌宏さん

千葉)コロナウイルスがまん延している今、災害が起きたら「避難所」はどうなるのか。感染拡大を防ぐためにどういった対策が必要で、私たちは何をすればいいのか。
今日は、日本赤十字北海道看護大学教授で、災害対策教育センター長の根本昌宏さんに電話でお話を聞きます。
 
千葉)根本さんは、災害時の避難所について研究されているということですが、具体的にどんなことを研究されているのですか?
 
根本)災害が起きますと避難所がたくさん立ち上がりますが、避難所の中で健康悪化が起きるというのが最近の災害の中でも生じています。ですので、災害が起きた後、避難所の環境についても、よりよいものにレベルアップする必要があるのではないかということで、避難所の環境改善について検証、研究を進めています。命を守るということは当然だと思いますが、それだけではなく避難所の中でも健康な体を維持していただくという考えで進めています。
 
千葉)災害で「避難所」ができる場合、感染予防対策として考えておかなくてはならないことは何ですか?
 
根本)コロナウイルス感染症の中で「3密」ということがさかんに言われていますが、この「3密」を避けるための行動。自治体の方々も最大限の努力をされるとは思いますが、それだけではなくて、住民ひとりひとり、避難された方ひとりひとりが、まずは3密にならないような努力をすることが大切です。
通常の生活と災害時で大きく異なることがございまして、それがライフラインの停止です。水とか電気とかが止まりますので、今だと手洗いによって感染を防いでいますが、災害時には断水が起きることも想定しなければいけません。

 
千葉)水で手が洗えなくなる。
 
根本)そうですね。ですから、アルコールの消毒液、今ちょっと手に入りにくいですが、もし手に入っている方は、非常袋の中にそういったものを入れる心がけをしていただければと思います。
 
亘)個人で避難所にアルコール消毒液を持っていくということですね。
 
根本)おっしゃる通りです。持って行っていただきたいものは災害だけでもさまざまあるのですが、感染症予防のために必要なものがあるということを分かっていただきたいです。
 
亘)アルコール消毒液が無い場合は、代わりになるようなものはあるのでしょうか?
 
根本)非常に難しいです。次亜塩素酸ナトリウム、ハイターのような製品を薄めて、器具などを消毒することはできますが、手指の消毒に使うことはできません。ですから、手を清潔に保つことができない場合、使い捨てのビニール手袋をお持ちいただいて、手が汚れていると思ったら、そこにかぶせるといった方法もひとつだと思います。
 
亘)手袋を避難袋の中に入れておくということですか?
 
根本)さまざまな用途で使えますので、ビニールのディスポーザブル、使い捨ての手袋は、ぜひ非常袋に入れておいていただきたいです。
 
千葉)そういったものは、自治体があらかじめ用意してくれないのですか?
 
根本)ディスポーザブルの手袋は、ほとんど無いと思います。用途は感染症でしかほとんど無いので、なかなか難しいかもしれません。自治体の方々もこのコロナの状態で、落ち着いたさまざまな対応がむずかしい状況にありますので、自分たちでできることをできるだけ増やしていただくというのが、コロナの中での防災の考え方になるのではないかと思います。
 
千葉)普段から準備している避難持ち出し袋の中に、消毒液、使い捨ての手袋を入れる。
 
根本)あと2つあります。それが、マスク、そして体温計です。
 
亘)体温計ですか。
 
根本)これも、自治体の方々はご準備いただけると思いますが、やはり使いまわしになりますので、清潔性を保つのが難しくなるかも知れません。ですので、マイ体温計をぜひご持参いただきたい。
あと、マスクについても手に入らない状況が続いていますので、キッチンぺーパーと輪ゴムで作れるマスクというのが、さまざまなところで公開されています。これを作るだけでも大きな違いになります。

 
千葉)インターネットで作り方が見られたりしますね。
 
根本)はい。これをあらかじめ作っておいても構いませんし、もしたいへんであれば、キッチンぺーパーを非常袋に入れておいてもいいと思います。
大切なことは、コロナウイルスの感染症があること、これは今、災害のレベルがひとつ上がっています。ですから、コロナが流行る前の状態の時よりも、防災の意識を高めなければいけないということを、ぜひご理解いただきたいと思います。

 
千葉)先ほど「3密」を避けなければいけないとおっしゃっていましたが、避難所の環境はまさに「3密」そのもののような気がするのですが、その点はどうですか?
 
根本)「3密」を避けるためには、もちろん自治体の方々が、避難所の中が過密にならないような人数制限をかけるとか、位置取りを考えるということが必要になってきます。ただし、自治体の方々だけにお願いするのは不可能だと、私は思っています。ここはもうシンプルに、今、さかんに言われている「ソーシャルディスタンシンング」という考え方、社会的な間隔ですね。これをまずは念頭に置いていただいた上で、自分たちで少し間隔を取るということに努める。
もうひとつは、例えば避難所に行くということを大前提にせずに、もし選択肢があるのであれば、「縁故避難」といわれる親戚のお宅に避難する。あとは、車中泊、車も避難施設として使えますので、安全に行う車中泊というものも、コロナまん延下での災害対策になると思います。

 
亘)縁故避難は今、県境を越えて移動することをやめてほしいということもあって、ちょっと難しいかもしれませんね。
 
根本)ここも想定内にしなければいけません。
まず大事なことは、洪水や津波の災害に関しては、「逃げるが勝ち」です。絶対に逃げなければいけません。お互いのリスクがありますので、そのリスクが高い方をとにかく優先的に解消していくということが、災害の行動の中で必要になってきます。

 
亘)高いリスクから優先的に解消していくということですね。
千葉)ということは、津波などの場合は府県境を越えるということもやむを得ないと考えていいのですね?
 
根本)当然です。まずは、逃げることが大切。それと、津波の場合は車で避難することで巻き添えになることがあります。ですので、この場合には着の身着のまま。自分であえて何かを取りに帰ろうとせずに、とにかく高台に逃げていただくということが最優先です。
 
千葉)避難所についてですが、トイレの環境が非常に厳しいということを取材でも聞きます。
そういったところから感染症は広がったりしないのですか?
 
根本)トイレ対策というのが、コロナ感染症下での非常に大きな部分です。トイレは、やはり共用になりますし、さらにドアノブ、手すり、蛇口、トイレの流すところなどさまざまな場所に皆さんが触れたり、そこに飛沫が飛んでいる可能性があります。ですから、トイレの共用ということをふまえて、まずは自分で防止する行動、あとはそこを汚さない行動ということを、ひとりひとりがやっていただかないと、ここも自治体の方々へのおまかせでは、安全な使用ができなくなると思います。
 
亘)先ほどおっしゃっていた車中泊であっても、トイレはどこかを使わないといけないいうことになりますよね。
 
根本)おっしゃる通りです。
車中泊については、一番簡単な考え方は、流行しているキャンピングカー。レジャーで使われていますが、キャンピングカーのみなさんは自己完結型が多く、トイレも自己完結していらっしゃいます。何を使うかというと、「携帯トイレ」といわれる便座のようなものがあって、そこにビニール袋をくっつけてその中で用を足していただく。こういったものは、用を足した後はきちんと凝固剤を使えば可燃物として処理できるので、そういったものを今、備えていただくことも大切だと思います。

 
千葉)車中泊の可能性を考えて、車の中に携帯トイレを家族で何日か使える分、備えておくということですか。
 
根本)これは、今のコロナの中においては、ぜひ考えておいていただきたいです。
一昨年の胆振東部地震では北海道は大停電になりましたが、停電が起きただけでも水が流れなくなって「トイレが使えないので避難所に行った」という方が数百人いらっしゃいました。
このコロナの環境下で避難所に行くのがたいへんだと思う場合には、自宅で水が流れなくても「トイレだけは使えるから在宅避難がひとつの選択肢だ」と思えるような対策をしていただけるとよいと思います。

 
亘)携帯トイレはどのくらい用意しておけばよいのですか?
 
根本)非常にむずかしい算出になりますが、ひとりがだいたい一日トイレ5回と算出します。
これを1週間として35枚。それが4人家族だと140枚という計算になります。

 
亘)1週間分と考えたらいいのですね。
 
根本)そうですね。まずは1週間を自分たちで乗り切れる術を考えていただけるといいのかなと思います。
 
千葉)やむを得ず避難所のトイレを使わなければいけない状況になった時に、例えば、便座を他の人と一緒に使うといった形で感染症になる可能性はあるのですか?
 
根本)便座を介した感染があったかというと、そのエビデンス、実証というのはございませんので、現時点で便座が危険だと言うことはできないと思います。
ただし、やはり接触機会を減らすというのがコロナの感染症の拡散を防ぐ大きな要因になるので、便座にあえて座らないとか、もしくは和式を使うとか、そういったこともひとつの考え方になってくると思います。

 
亘)水が出るようになった場合は、水道の蛇口などもウイルスがついている可能性はありますか?
 
根本)そうですね。みなさんが使うところというのは、やはり、自分もウイルスをつける可能性がありますし、他の人がつけている可能性もあると思います。共用部はまずその観点を持っていただいた上で、ではどのように自分たちが使えば安全かなという風に考えを変えていただくとよいかと思います。
 
亘)手は一生懸命洗いますが、ドアノブを触るタイミングが手を洗う前であったりとか...
ドアノブがポイントになるのではと思うのですが。
 
根本)可能であれば、ドアノブを消毒できるアルコールスプレーなどを用意されていると本当はよいのですが、消毒液が手に入りづらい状況にあります。ですので、先ほどお話しした、使い捨ての手袋をうまく使いこなしていただくのもよいかと思います。気になる場所を触る場合には手袋をしていただく。逆もあると思います。汚いところを触る時は素手でいくけど、ちょっと清潔にしたい場合は手袋をつけるというやり方もあると思います。
とにかく、手とか汚れた部分が顔、特に目・鼻・口につくことを避けたい。そのためにマスクをしているということもありますので、粘膜に汚い部分が触れないようにするにはどうしたらいいのかということを災害の時にも考えていただきたいと思います。

 
根本)あともうひとつの観点としては、熱がある方や咳が出ている方など少し症状があると感じている方は、積極的に運営管理者に声かけをしていただいて、発熱の方だけのトイレを整備するとか、そのような観点も避難所の中では必要になると思います。
 
亘)もしかしたら感染しているかもしれないという可能性のある方ということですね。
 
根本)そうですね。そういった方がそこで言葉を発することをためらうということが、その後、避難所の中の大規模な感染を起こすなんていうこともあり得ますので。
まず、自分の体は自分しかわかりませんから、おかしいなと思った時には、お声がけをいただくと大変ありがたいと思います。

 
亘)そういう方は、トイレだけではなくて居住スペースも、別の部屋にうつさないといけないのではないでしょうか?
 
根本)もちろんです。飛沫で感染するということがコロナの大きな特徴ですので、可能であれば、例えば大規模な体育館は無症状者の方、少し症状のある方は教室であるとか、違う部屋であるとか空間を分けるということが運営側の方としては必要になります。
 
亘)居住スペースは分けたけど、トイレは一緒とかいうことになりがちですよね。
 
根本)その通りです。そこを避けなければいけなくて、私たちは「ゾーニング」という言葉でよく言いますが、緑のエリアと赤のエリアにゾーンを分ける。赤のエリア=感染している方になりますが、そこでは全てを自己完結する必要があります。すなわち、トイレも食事も寝る場所も。これを私たちは、「TKB」、トイレ・キッチン・ベッドと呼んでいますが、トイレ・食事・ベッドを自己完結できるようにゾーンを組むということが重要です。
 
千葉)TKBの「キッチン」、食事もすごく気になりますが、これで感染してしまう可能性もあるのですよね?
 
根本)食事を作っている過程でいくと、基本的には加熱などが入るので、ある程度は大丈夫なのかなと、これもあくまでも推測になりますが。ただやはり、さまざまなものが共用になる可能性があります。例えば、バイキングのような形でトングが一緒になっているような時には、感染のリスクがあるということは、さまざまなところで報告がある通りですので、共用のものを避けつつ食事の提供を考えるというのがひとつです。ですので、炊き出しというのが、非常に難しくなるのではないかということが、今のところの推測です。
 
千葉)避難している時の大きな楽しみが食事だと思います。栄養のあるものやバランスとか大切ではないですか?
 
根本)もちろんです。在宅避難の方々にお話ししているのは、どうしても在宅避難だと炭水化物が多くなります。保存のきくもの、ご飯とかパンとかホットケーキとかラーメンとかですね、全部、炭水化物食になってしまうので、そうではなくてできるだけ、特にご高齢の方はタンパク質をとってほしいという話をしています。
高齢の方は「フレイル」と言いまして「虚弱」という表現をしますが、どんどん筋力が落ちてしまって避難している過程の中で立ち上がりができなくなって、要介護になってしまうということもあります。
ですので、食事からそういったことを予防することが大切で、そのためにはタンパク質を積極的にとっていただきたい。ただし、にわかに立ち上がった避難所でこれを提供できるようにする仕組みというのは、非常に難しいと思います。現状の災害、例えば、直近の台風19号災害においても、栄養素をしっかりと配慮できた超急性期の避難所というのは、ほぼ無かったかなと思います。

 
亘)タンパク質はどんなものから取るのがよいのでしょうか?
 
根本)さまざまなものから取っていただくのがまず大事です。代表的なものは、お肉、お魚、もうひとつが豆腐ですね。この3つがタンパク質の大きな部分でして、あとコレステロールが高くなければ卵。この4つの要素がタンパク質として積極的に取っていただきたいものです。
だたし、注意点があって腎臓病を患っている方はタンパク質の制限がかかっている場合があるので、主治医の方にきちんと相談していただきたいと思います。

 
千葉)きちんと栄養のあるものを食べることは、感染症についても何か役に立つのですか?
 
根本)もちろんです。一番簡単に言いますと、おいしいものを食べるだけで人の免疫力は上がると思います。それこそ、大阪でいきますと「笑い」が免疫を高めるということが実証されていますので、おいしいものを食べてにこやかになって免疫力を高めてコロナウイルスへの耐性をつけるということもひとつの術と考えています。
 
千葉)避難所というとどうしても重く苦しい、おいしいものも食べられないし、よく眠れないというイメージがありますが、それはコロナに対してもあまりよくないのですね?
 
根本)おっしゃる通りです。そこが私の研究の主題です。命を守るための避難所という解釈があまりに強すぎて、我慢、根性、忍耐、辛抱を強いてしまうのです。これが日本の避難所の特徴です。
これをできるだけ解消する。すなわち、避難しているからこそ普段よりもいい食事を食べられるなんていうのは、本当は大切な考えなのではないかと思います。
日本のこの独特の風習が避難所の環境を少し悪くさせているということもあるのではないかというのが私の印象です。

 
亘)やはり、行政に対してもそういうことを求めていかないといけないですね。
 
根本)実は今、さまざまな自治体で避難所の環境をよくしようという取り組みが進められ始めています。例えば、私たちの住んでいる北海道でいいますと、一昨年、胆振東部地震がありましたが、あの地震では直後から「避難所の中は全部ベッドにするぞ」という話で動いていました。
こういった取り組みが全国的にどんどん進むと、避難所の環境はよりよくなってくると思います。
このコロナの感染症がまん延しているからこそ、安全に、本当に少しですが安心して眠れるような環境を作れるようにご尽力いただきたいと思います。

第1224回放送「感染拡大のなか、水害の避難所を設置するなら」
電話:避難所・避難生活学会理事 水谷嘉浩さん

千葉)新型コロナウイルスの感染が広がる中で、実際に、大雨で避難勧告が出されるという事態が発生しています。取材した新川和賀子ディレクターです。

新川)千葉県の南房総市と鴨川市では13日(月)のお昼前に、土砂災害警戒情報、そして避難勧告が出されました。避難所を開設した、千葉県鴨川市の危機管理課の方に電話で取材しました。
鴨川市では34世帯80人に避難勧告を出して、3つの避難所を開設しました。
 
千葉)避難所では、新型コロナウイルスの対策はしていたのでしょうか?
 
新川)鴨川市内ではこの時点で新型コロナウイルスの感染者は確認されていませんでしたが、今回、避難所の入り口に消毒液やマスクを準備しました。そして、新型コロナウイルスの感染が疑われるような症状のある方については、帰国者・接触者相談センターを紹介する対応を取りました。
避難者全員に検温を実施してもらい、微熱があったり体のだるさがある人には別室に入ってもらう準備をしていました。また、特に体調が悪くない避難者にも2メートル以上の間隔をとって過ごしてもらうことになっていました。

 
千葉)避難所には、それだけの広さや部屋があったのでしょうか?
 
新川)今回の避難所は3か所とも公民館でした。部屋数にはばらつきがありましたが、どの避難所も最低5~6室あり広さもあったので、隔離をあけるなどの対応をとっても十分足りていたとのことです。
 
千葉)実際に避難してきた人はどのような様子だったのでしょうか?
 
新川)今回、避難者はゼロでした。これに関して、鴨川市の担当者は、今回は昼間の大雨で長く降る予報ではなかったこと、そして、新型コロナウイルスの感染に関して市民が不安を持っていたからではないかと分析しています。
 
千葉)これから雨の季節で、また避難勧告や避難指示を出すことも考えられます。コロナウイルスもしばらく収束しそうにありませんが、鴨川市では今後、どんな対策をとるのでしょうか?
 
新川)千葉県鴨川市は去年秋の台風で被害を受けた町で、元々、避難所の体制の見直しを進めていたところでした。去年の台風の時は避難所の数が足りずに、追加で避難所を開設しました。こういった経緯から、指定避難所の数を増やすことで、今回のコロナウイルスで密集を避けるために多くの避難所開設が必要になったとしても、対応できるキャパシティは確保できているとのことです。
ただ、感染症のリスクを考えると、指定避難所ではなく安全な場所にある親戚や知人宅への避難についても合わせて周知していきたいとのこと。
今回は大きな災害にならず、混乱もありませんでしたが、やはり行政側も事前の準備が必要だと感じたといいます。鴨川市危機管理課主幹の滝川俊孝さんの話です。
 
鴨川市危機管理課主幹・滝川俊孝さんインタビュー)
避難した結果、感染が拡大してしまったということは絶対避けなければなりません。今回は急な大雨での対応になってしまいましたが、本当に事前のシミュレーションや準備が必要だと痛感しました。発熱等の症状がある方、どのような順路でどのような部屋に案内するかということ、それと、一般の方との導線をどのように区切るのか、トイレをどのように分けて使ってもらうか、そういった施設の使い方、それと必要な物品、あるいは保健士といった専門職の確保、そういった諸々も含めた対応をあらかじめ考えておく必要があるということです。

 
新川)避難した結果、避難所で感染が拡大するということはもちろん避けなければなりませんが、逆に感染を恐れるあまり避難が遅れて、命が危険にさらされるということも絶対に避けなければいけません。
鴨川市では、土砂災害警戒区域の世帯には防災ラジオが配布されていて自動的に避難情報などが入る仕組みがあります。また、要支援者は個別に避難を呼びかけるなどの対応を行っています。
自治体にも準備を進めてほしいですが、私たち自身も、感染のリスクのある中、避難が必要になった場合、どこに避難するのか、指定避難所なのか、知人宅なのか、車で一旦、安全な場所に行くのか。自分の住んでいる地域で想定される災害も含めて、今一度、考えて、準備しておいてほしいと思います。
 
千葉)この後は、避難所の環境の改善についてお話を聞きます。
 
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千葉)新型コロナウイルスの感染が拡大している今、水害が起きたら、どんな避難所をつくるべきなのか。先週、災害時の避難生活の改善を目指す「避難所・避難生活学会」が、自治体の担当者に対する要望をまとめました。

避難所・避難生活学会 自治体の災害対応担当者への要望書
http://dsrl.jp/wp-content/uploads/2020/04/e71a82466613b9099214ec979b766135.pdf

新川)先ほどの鴨川市危機管理課の滝川さんのような方への要望ということですね。
千葉)はい。きょうはこの学会の理事の水谷嘉浩さんに、電話でお話を聞きます。水谷さんは、東日本大震災の後、避難所でのエコノミークラス症候群を予防する段ボールベッドを考案し、これまで、さまざまな避難所を見てこられました。

千葉)水谷さん、「避難所・避難生活学会」というのは、どんな団体でメンバーはどんな方がいらっしゃるのですか?
 
水谷)東日本大震災がキッカケだっだのですが、災害医療に携わっている医療関係者が半分、そして医療以外の部分が実は重要ということで、例えば社会学であるとか法律であるとか、さまざまな分野の方に参加していただいています。私は民間企業という立場なのですが、いろんな職種の方に参加していただいています。
 
千葉)水谷さんは民間企業ということですが、普段はどんなことをしているのですか?
 
水谷)私は製造業です。段ボールを作っている会社を経営しています。
 
新川)段ボールベッドも作られているのですか?
 
水谷)そうですね。段ボールベッドを東日本大震災の時に考案して普及させる活動の中で、従来、私たちは安全な場所が避難所であると思っていたと思うんですが、実は避難生活の中で体調を崩して病気になったり亡くなったりという方が多く出てしまっているということに気が付いたのです。そこで、避難所の環境を良くしていこうという活動を始めました。
そして「避難所・避難生活学会」に繋がっていったわけです。

 
千葉)具体的に今回出された要望書を紹介していきたい。要望には、いわゆる「3密」を避けるための具体的な案が書かれています。
まず、避難所の密集状態で感染が拡大することがないように、 「レベル2(注意報)」の段階から、避難所を開設し、エリア内の住民の計画的な避難を開始する」とあります。
通常、「レベル3」の「避難準備・高齢者等避難開始」で、高齢者や障がい者が避難を始めますが、それ以前の注意報段階で、避難所を開設するということですね。なぜ、こんなに早くから?
 
水谷)水害や台風など、事前に想定される災害の場合、早めに避難所を開設して住民の方を収容する準備ができるわけです。事前に平時に計画を立てて住民に周知することで、早めに避難していただくということです。
 
千葉)地震のようにドンと一気に発生するというわけではなくて、だいたいどうなっていくのか予測できる災害というわけですね?
 
水谷)そうですね。とにかく準備をして確実に収容できるという風になれば理想です。空振りを恐れないことも非常に重要かと思います。
 
千葉)私が去年、宮城県大郷町で台風被害の取材をした時も、避難所を開設すれば危機意識を持っている方は、自分から避難を始めていくという状況でした。早ければ早いほど、避難を早く始めることができるわけですね?
 
水谷)そうですね。とは言うものの、人口に対する避難率というのはなかなか上がらない。避難所になかなか足が向かないわけです。本来、住民にとって安全というメリットがあるわけですが、逆にデメリットも。避難所に行くことはメリットが大きいんですよということをちゃんと伝えないといけない。そういう意味ではこれまでの避難所環境というのは、まだまだ避難しにくい。避難しやすい環境にはなっていないわけです。
 
新川)避難所がきちんと命を守れる場所であるとわかったら早めに避難をするということですよね?
 
水谷)そうですね。どうしても、例えば体育館の床に寝ないといけないとか、トイレも和式しかないとか、そういうイメージがついてしまっているので、なかなか避難所に足が向かないということが課題としてあると思います。
しかし、環境を良くして、例えば体育館の床に寝ずに簡易ベッドとか段ボールベッドが用意されていますよ、暖かい布団がありますよ、食事もありますよ、トイレもちゃんと備えていますよということであれば避難しやすくなると思うんです。

 
千葉)要望書の中には「計画的な避難」とありますが、どんな計画を立てておけばよいのですか?
 
水谷)まず、要配慮者、例えばお年寄りや障害がある方は、危機が迫ってから急いで逃げることは難しい。さらに早めに避難できるように。これは、平時に計画を立てておかなければいけないので、地域で考えて周知をする、そして、もし災害が近づいた時には実行していくことが必要かと思います。
 
千葉)避難所は市町村ごとに区切られていますよね。その市町村の境を超えることはできるのでしょうか?
 
水谷)災害時に住民の命を守るのは市町村であると、災害対策基本法には書かれています。ということはそれぞれ行政が守っていかないといけないのですが、どうしても隣の市と区切りがついてしまいます。住民にとって安全な場所とは自分の町とは限りませんので、近くにある隣の市町村の安全な避難所にいくというのも一つの手だと思います。そのあたりを都道府県が主導して住民にとって濃淡が出ない、どこに逃げても安全であるということを広域で整えておくことが求められると思います。
 
新川)新型コロナウイルスの感染拡大の状況下でいうと、特に都市部は密集が懸念されて避難所のキャパシティが足りないということも考えられますね?
 
水谷)感染症という特殊な事情もありますが、そもそも、避難所が都市部で足りるのかということが大きな課題としてあります。小学校の体育館などが指定避難所になっていますが、やはり現状では収容しきれないということがあります。解決方法として、避難先の選択肢をいくつか持つということがいいだろうと思います。例えば体育館だけではなくて教室も開放してもらう、屋外にテントを設置してそこに避難をしてもらうとか。さらに、これは非常に慎重にしなければいけないことですが、例えば車中泊もやむを得ないと。ただし、エコノミークラス症候群にならないような安全な車中泊を検討していく。このように、体育館の密集だけではなくて、さまざまな選択肢を持つことが重要かと思います。
 
千葉)要望書には避難所の図面もあります。「密接」を避けるために、簡易ベッドとパーティションを用いてゾーニングを行うということで、避難所のレイアウトの例が描かれています。
居住スペースは1人4平方メートル。たて2m×よこ2mの仕切られたスペース。
そのスペースの半分が簡易ベッドで、ベッドの横のスペースも広いので、ベッドに腰掛けて食事したり、話したりできるという設定です。
新川)一般的な避難所は、雑魚寝で、寝るスペースで生活もしますね。
  
水谷)多くの自治体では、一人あたり約2平方メートルというところが多いです。大阪や東京都は1.6平方メートルが多いのですが、畳一枚ぐらいで狭いです。
やはり避難所も収容人数にある程度、上限を設ける必要があるのではないかと思います。
特に感染症ということであれば人と人とは2メートル以上と推奨されていると思いますが、やはり一人当たり4平方メートルくらいを確保する方がよいのかなと。

 
千葉)実際の避難所が2平方メートルとか1.6平方メートルという状況だとすると、水谷さんたちがおっしゃっているのはその倍は必要だと。
新川)さらに通路も2メートル必要で、感染症の対策を加えるとさらに間隔が広いものになっていますね。
千葉)こんな広さを確保することができるのですか?
 
水谷)非常に難しい問題だと思います。ですから、先ほど言いました、体育館避難所だけではなくて教室をどんどん活用するとか、テントの活用、安全な車中泊も一つの方法だと思います。
いずれにしてもこれぐらいは目指していく必要があるのではないかと。
そして、この4平方メートルの避難所は、国内で過去に例があります。
愛媛県西予市で、西日本豪雨の際によく考えられた避難所が設営されました。この時は一人あたり4平方メートルを確保していました。当然、人口の規模にもよりますが、過去に事例がありますので、こういうことも研究していただいて、できるだけ詰込み型ではなく人口密度をある一定に抑えることは非常に重要かなと。

 
千葉)図面を見ていると、食事スペースが別に作られています。自分のスペースで食べた方が感染予防になるのではないかなと思いますが?
 
水谷)もともと、これまでの避難所では食事スペースはないことが多かった。雑魚寝をして床に座って、床にお弁当などを置いてバラバラに食べていました。
要は、占有スペースと共有スペースを分けるということと、寝床で食事をしないということです。
今回、感染症ということなので、向かい合わせには座らず距離を取ることも考慮しながら。寝床で食べるということは食べこぼしもあってカビが発生したり衛生面で課題がありますので、食事はできるだけ共有スペースで取ることが良いかなと思います。

 
新川)図面を見ると、共有と言えども感染症対策として対面にならない、斜めに座るということと、机が離れているという図面になっています。
 
水谷)やはり距離を取る必要があるということですので。本来は大勢で食べるということはコミュニケーションも取りますし、お互いの体調の管理ができる。顔色がわかるなど、いろいろなメリットがありますが、今回のコロナの対策では距離を取らなければいけないということです。
 
千葉)自治体への要望としては、30分に1度、窓を開けて空気を入れ替えることや、マスク、エタノールなどの消毒剤、簡易ベッドをきちんと備蓄するということも書かれている。
感染症予防にも、簡易ベッド(雑魚寝の解消)が役立ちますか?
 
水谷)いろんな研究の中で、床にウイルスが多いということも言われています。あとは、従来の避難所がなかなか安全な場所と言えない中で、さらにコロナのことが被さってきていますので、非常に慎重に避難所を取り扱わなければいけない。非常に難しい問題だと感じています。
 
千葉)新型コロナの問題にとどまらずに、避難所が健康で暮らしやすい場所になることが必要だということですか?
 
水谷)そうですね。住民の命を守るということは国の仕事であり、行政の仕事でありますが、従来の避難所でも災害関連死がなかなか無くならない。平成の30年間で5000人が亡くなっていますので、そもそも避難所に課題があるのではないかと思います。従来の避難所でもインフルエンザの発生やノロウイルスでの食中毒も起こっています。まず、人が暮らせるスペース、健全な環境とはどういうものか、我慢ばかりをさせるのではなく避難者を病気にさせない観点から環境整備をしていく。さらに、コロナウイルスの対策を行うことを今から検討していかないと間に合わないのかなと感じています。

第1223回放送 「感染拡大で見直される車中泊」
取材報告:番組ディレクター 新川和賀子

千葉)今月14日で、熊本地震が発生してから丸4年を迎えます。
熊本地震で多くの被災者が避難生活を送ったのが、車の中、車中泊でした。
新型コロナウイルスの感染が広がる今、災害が起きると、車中泊での避難生活を余儀なくされることも考えられます。そこで、きょうは、災害時の車中泊のリスクと備えについて、取材した番組ディレクターと共に考えます。
 
新川)4年前の熊本地震では、熊本県益城町で最大震度7を2回観測しました。指定避難所となっていた建物が一部、被災して使えなかったり、強い余震が何度も続いたために建物の中にいることに恐怖心を感じて、車の中で生活を送った人が多くいました。
千葉)私も熊本に取材に行きましたが、広い駐車場にずらーっと車中泊の車が並んだ状態でした。
新川)熊本地震のあとに文科省が被災者を対象に行ったアンケートでは、回答した半数以上の人が、避難場所に「車」を選んだと答えています。これは、指定避難所と答えた人の倍以上の数でした。
 
新川)車中泊は、おととしの西日本豪雨や北海道胆振東部地震の際にも見られました。
災害の時に、これだけ多くの人が車中泊を選択していますが、国が車中泊についてガイドラインを示していないこともあって車中泊について対策に乗り出している自治体は少ないのです。
行政側からすると、車中泊では避難者の場所や人数を把握できずに十分な支援ができないという問題もあって、被災者には指定避難所で避難生活を送ってもらうことが基本なのです。
千葉)現実には、車中泊をしている人が多いんですけどね。
新川)新型コロナウイルスの感染が広がっている今、災害が起きれば、その選択する人はもっと増えるかも知れません。
 
千葉)でも、車中泊というと頭に浮かんでくるのが「エコノミークラス症候群」。これが心配とよく言われます。
新川)2004年に起きた新潟県中越地震の時に大きく問題化しました。地元の医師の調査では、発災2週間で少なくとも6人がエコノミークラス症候群で亡くなっています。
狭い場所で長時間座ったままでいると、ふくらはぎの血の流れが悪くなって、血の塊、血栓ができやすくなります。その血栓が肺を詰まらせてしまうことがあります。血栓ができた段階では無症状のことも多いため、気づいた時には重症化してしまうこともあります。
熊本地震では、かなり当初から啓発活動がなされましたが、51人が入院を必要とするエコノミークラス症候群を発症して、5人が重症、そして50代女性1人の方が亡くなっています。
 
新川)今回、熊本地震の被災地でエコノミークラス症候群を防ぐための支援活動を行った医師を電話で取材しました。
新潟大学・特任教授で医師の榛沢和彦さんに、熊本地震の被災者の様子や車中泊で生じるリスクについて聞きました。
 
榛沢和彦医師インタビュー)
足が腫れていたり、胸が痛いという人が結構いました。車中泊で足を下ろして座っている時間が長いとか、足を曲げたまま寝ることが多いんじゃないかと思います。そうすると足の中に血栓ができてしまって、それが流れて肺に行くと肺塞栓。運が悪いと頭にいくこともあり危険です。地震の時には食料、水が足りなくなるので、脱水が重なってきます。脱水と足を動かさないことが重なり、さらに交感神経もたかぶっていますので、体の中に血栓できやすい状況が重なってしまっている。それが危険ということです。

 
千葉)頭にいくということは脳に血栓がいく、つまり、脳の血管がつまってしまうということ。怖いですね。
新川)災害時は水が不足していて、水分をとらない。そして、人は食事からも水分を半分以上とっているので、食事もきちんととらないと脱水状態になりやすいということです。
また、車中泊でトイレが近くになかったり、避難所のトイレが汚かったりすると、水分を控える傾向になってしまう。災害時は、血栓ができやすい状況が揃ってしまっています。
 
新川)車中泊の際、足の血流を悪くしないために気をつけておくことを医師の榛沢さんに聞きました。
 
榛沢和彦医師インタビュー)
足を下げて寝ると危ないのでなるべく上にあげること。なるべく足をフラットにして寝るということ。
それから、4~5時間に1回は車を出て歩くことが重要です。(歩く時間や距離の目安は?)ほんの少し、トイレに歩いていくぐらいで十分です。実際に、新潟県中越地震でもトイレに行っていた方はほとんど肺塞栓になっていない。なっていたとしても、命は亡くなっていないんです。
また、ふくらはぎをもむ。足の指でグーを握る。つま先を立てる。とにかく、足首の動きと足の指をぎゅっとにぎる、この二つの動きでだいぶ(血が)流れます。

 
新川)また、榛沢さんたちは、被災地で「弾性ストッキング」を被災者に配布しました。
手術をされたことがある方は使ったことがあるかもしれません。
圧迫力がある医療用のハイソックスで、血流がよくなって血栓ができるのを防ぐものです。
医療用の物が手に入らなくても、登山用やスポーツ用の弾力性のあるスパッツでもよいそう。
就寝時のむくみ防止用の「着圧ソックス」でも、効果は少し劣りますが、代用になるとのことです。
 
新川)こうしてエコノミークラス症候群はある程度予防できますが、特にリスクの高い人は、車中泊自体を避けた方がいい
特に最近、手術を受けた人は、入院中に血栓ができていることがあります。特に、がんの方は足に血栓できることが多いということです。そして、妊娠中の人や出産したばかりの人。
それから、普段、立ち仕事をしている人
。警備員、料理人、教師、美容師、理容師といった職業の方は、血栓ができやすいので、車中泊は避けた方がよいそうです。
 
千葉)高齢者もリスクが高いのでは?
新川)高齢者は、車中泊をしなくても元々、血栓がある人が一定の割合でいるそうです。もちろん、避けた方がよいのですが、高齢者は被災地でも意識して大事にされている場合が多い。むしろ急に血栓ができる、40代~50代くらいの中高年の方があぶない場合もあるということです。
 
千葉)リスクを減らして少しでも快適に車中泊をするには具体的にどうすればよいのでしょうか。
 
新川)車中泊の専門雑誌「カーネル」の編集部を、電話で取材しました。
「カーネル」編集部は、昨日、「災害時に役立つ車中泊ガイド」というムック本を発売。
元々は、レジャーとしての車中泊が近年、注目されていた中で専門雑誌がありましたが、最近は災害の時に車中泊をする人が多く、そういった時にも車中泊の知識を役立ててもらえればと、今回のムック本を出版されました。
 
新川)熊本地震の被災者も取材したカーネル編集長の大橋保之さんに、車で寝る時に気をつけることや役立つものを聞きました。
 
「カーネル」編集長・大橋保之さんインタビュー)
体をリラックスして寝ること、シートの凹凸をできるだけ平らにすること。足が下に曲がっているとエコノミークラス症候群になりやすいので、足も水平にする。
あとは、目隠しでかなり気持ち的に安心するんですね。
やっぱり外から丸見えだとなかなか安心できないので、そういったことに気をつけたり。
あと、寝るために必要なものが、よくホームセンターなどでも販売している「銀マット」。ちょっと厚みがあるものがよくて、寝る時に下に敷いたり、窓をふさいだり、いろいろ使えます。
あと毛布やタオル。シートの段差を埋めて平らにするのに使う。あとは、ひもか何かで窓に吊り下げる形で。やっぱり外から見られないことは重要だと思っています。

 
新川)お話に出てきた「銀マット」は、ホームセンターなどで売られている表面がアルミの銀色で裏が青いウレタンのもの。毛布やタオルでシートのすき間をうめて、その上に銀マットを敷くだけでもかなり、凹凸がなくなります。
他に、役立つ身近な物として、重要なのはやはり「携帯用トイレ」、そして水、非常食。清潔を保つウェットティッシュやトイレットペーパー、そしてライト。非常持ち出し袋と似ていますね。
家族の衣類も圧縮袋に入れて、車に積んでおくとよいそうです。

こういった荷物は、車のデッドスペースを探してふだんから積んでおくとよいとのこと。シートの下や床板を外したら小物入れがあったり、車には意外とデッドスペースがあるそうです。
年に1~2回は、荷物の確認をしてください。
 
千葉)車中泊と言っても車の種類も大きさもさまざまです。
やっぱり大きい車だと寝やすくていいですよね?
新川)そうとも限らないといいます。車中泊をするにあたっては、自分の車がどういう車か事前に知っておくことが大事だと大橋さんは話します。
 
「カーネル」編集長・大橋保之さんインタビュー)
自分の車が何人寝られるのか把握していない方が多いです。ただ大きければ寝られるのかというと、そうでない場合もあります。シートがどうか、荷物置き場のラゲッジに何人寝られるかとか。自分の車がどのくらいの大きさでどういったタイプでどういったシートアレンジなのかを事前にシミュレーションしておく。
例えば、軽自動車に寝られるのは4人家族ならがんばって2人かなと。
では、あとの2人は避難所に行くのか、簡易テントを積んでおいてそこに寝るのか。
事前にシミュレーションしておくことが大事です。

 
千葉)うちの車は5人乗りだけど、やっぱりがんばっても車中泊は2人ですね。
新川)最近では、アウトドアブームを受けて、ミニバン、中には軽自動車でもフルフラットになるシートの車種があったりします。逆に大きな車でも、シートが倒しきれなくて眠りづらいものもあります。
それから、乗車できる人数=寝られる人数ではないということ。もし、乗車定員なみの人数がどうしても車中泊をしなければいけない場合は、できる限り一泊程度にとどめてほしいということです。
 
新川)それから、車中泊でもうひとつ重要なのが、暑さ、寒さ対策です。
エンジンをかけっぱなしで寝るわけにはいかないので、エアコンが使えません。
冬はとにかく着込んで、窓からの冷気を毛布やシートでふさぐこと。
積雪がある時はエアコンを絶対に使わない。マフラーから排気ガスが逆流して一酸化炭素中毒の危険があるので、積雪の際はエンジンをかけないでください。
夏は、レジャーの場合は標高の高い場所、物理的に涼しい場所で車中泊を行うのが鉄則だそうですが、災害時はそうもいきません。
熊本地震の時は、窓を開けられるようにDIYで網戸を取り付けている人もいたそうです。
やはり熱中症になるとそれこそ命にかかわるので、夏は我慢せずにクーラーを。
夏の車中泊は正直、かなりきびしいものがあります。車中泊自体を見直す必要があるかもしれません。
 
新川)新型コロナウイルスの感染が広がる中で、災害が起きるかも知れません。
自宅避難ができれば一番だとは思いますが、車中泊が必要になることも考えてシミュレーションや準備をしておいてほしいと思います。

第1222回放送 「感染拡大で避難行動は?」 
電話出演:兵庫県立大学減災復興政策研究科教授 室崎益輝さん

千葉)リスナーの方からメールをいただいています。
「毎日、コロナウイルスに振り回され、いま、災害が起こったらなんて考えたくないけど、こればかりは避けられませんよね。」

亘)私は阪神・淡路大震災で避難所生活を経験しているんですが、あのときに、この新型コロナウイルスの感染が拡大していたら・・・と思うと、ぞっとします。
千葉)避難所の環境は、まさに今言われている「三密状態」の環境ですもんね。
亘)十分な距離をとるのが難しい状況でしたので、あのときに感染症がはやったら、壊れかけた家に帰ってしまおうと思うんじゃないでしょうか。

千葉)いま、コロナウイルスの感染者が増えている状態で、近畿でも大阪などで外出自粛要請が出されている状況でもあります。そんなときに、「いま、地震や水害が起きたら」と考えたくはないんですが、考えないといけませんよね。
亘)この番組でも、コロナの問題をどう扱うのか、たいへん悩ましいんですが、きょうはそれについて考えていきたいと思っています。

千葉)きょうは、「感染拡大で災害避難行動は?」というテーマで送りします。
いま、新型コロナウイルスの感染が拡大している中で、災害が起きたときの避難行動はどうすればいいのか。そして、地震や、これからの季節は水害が起こる可能性も大きいですが、そういった災害が起きたら避難所はどうなるのか、兵庫県立大学減災復興政策研究科教授の室崎益輝さんにお聞きします。
出演者の距離をとるため、濃厚接触防止のため、きょうは室崎さんは電話出演になります。

千葉)いま、自然災害が起こったら、避難でどんな問題が起きるでしょうか?
 
室崎)まず、その前に確認しておかないといけないのは、コロナウイルスの今の厳しい状況は、長期化すると思うんですよね。1年ぐらい、こういう状態が続くかもしれない。他方で、この1年以内に、豪雨災害のようなものが必ず起きると考えられるわけです。大きな地震が起こるかもしれません。まさに、コロナウイルスと大規模災害が複合するということを、あらかじめ考えておかないといけないということだと思います。もし、今のコロナウイルスが蔓延している段階で、大きな災害が起きて、避難しなければならないとなったときに、どういう問題が起こるかというお尋ねだと理解しています。
それで基本的には、コロナウイルス対策は三つの密(密集、密閉、密接)を避けないといけない。ところが災害時の避難所を見ると、雑魚寝状態でぎゅうぎゅう詰め。ひとりあたり1平米もないような超過密状態におかれるわけですよね。他方で、家族も、家族以外の人たちも、体をすり寄せるように話をしなければならないということで、密接の状況が生まれてくる。結論からいうと、最も感染が広がりやすい状況になってしまうということです。

 
千葉)そうですよね。最悪の状態といえるんじゃないでしょうか。

室崎)25年前の阪神・淡路大震災のときに、震災関連死といって、避難所などで生活していて命を落とした人が900人も出た。そのうちの300人はインフルエンザなんですよ。
 
千葉)あのとき、300人もインフルエンザで亡くなったんですか?
 
室崎)そのときのインフルエンザは、今のコロナほどそんなに強烈なものではなかったけど、それでも300人の命が奪われているんですよ。そういうことを考えると、今回もみんなが避難所に逃げてきて超過密状態になると、みんながコロナに感染してしまうので、過去の教訓からも要注意というか、みんなが避難所に殺到する状況を避けなければいけないと思います。
 
亘)阪神・淡路大震災のとき、私も避難所をいろいろ取材したんですが、インフルエンザにかかった人に出会った記憶がなくて、その当時は、インフルエンザにかかった方を隔離するようなことはあったんでしょうか。
 
室崎)そういうことはしていないです。どうしても悪くなれば病院に運ばれた人はたくさんいたんですが。

千葉)避難所での感染拡大、クラスター発生を避けるためには何ができるんでしょう?
 
室崎)基本的には避難所に殺到しない、避難所に行かないようにしないといけない。論理的に矛盾するんですけどね。避難勧告や避難指示が出たら避難するということになっているので、避難所に行かないといけないんですが、行くとコロナウイルスに感染して命を失うかもしれないという、そういう状況におかれてしまうわけですよね。少なくとも今の状況で体育館にたくさんの人が入ってしまうとコロナが広がってしまうので、それはやめないといけないと思います。そうすると、考えられることは2つしかないんです。避難所をたくさんつくって、広くして、子どもの教育には差し支えるんですが、各教室を隔離病棟みたいな感じで、個室型に使えるようにするという、避難所の側を改善するのがひとつですよね。
もうひとつは、体育館に入らなくてもいい避難形態というか、別のかたちの避難を考えるということになってくると思うんです。

 
千葉)別の形の避難ですか?
 
室崎)そうですね。まず考えられるのは、避難所に行かないようにする、在宅避難。東日本大震災のときも、西日本豪雨のときも、避難所に行かずに自宅にいた人がたくさんいるんですよね。2階だと暮らせる。1階は泥まみれだけど2階では暮らせるので、やはり自宅のほうがいいという人もいるし、避難所に行くとプライバシーもないし、ゴミゴミしているので自宅にいようということで、自宅に避難した人がいるんですよね。在宅避難者というんですが。
 
亘)それは、一旦は命を守るために避難場所に行くけれども、その後、家に戻るという理解でいいですか?
 
室崎)そうです。一旦は避難所に行くけれど、ゴミゴミして超過密でプライバシーもないので、自宅のほうがいいと。ところが、自宅にいると、必要な水や食料が届かないとか、情報が届かないとかいう状況に置かれてしまうので、孤独死などにつながるおそれがあるんですよね。
 
千葉)孤立してしまうんですね。
 
室崎)そうですね。だけど、コロナウイルスの面からみると、避難所にたくさん来てもらっては困る。なるべく家にいてほしい。逆に、家にいても安心できる環境をつくるということだと思うんですよね。食料や水は届けるようにするし、いろんな情報はちゃんと届くようにするというか。また、在宅被災者のいるところには、仮設のトイレを近くの公民館にきちんと置くとか、仮設の風呂のような車を持って行ってお風呂にも入れるとか、そういう環境をつくって、在宅でも助かるようにする。今のコロナでいうと、病院に行けない人が在宅療養にするようなもの。自宅にいても健康でいられる環境づくりを考えておかないといけないというのが、一番目の対策だと思うんです。

亘)行政が、だれが在宅避難しているか、ちゃんと把握しないといけないですね。

室崎)もちろん、そうです。そういうことも含めて、だれが在宅かもつかみながら、でないと物も届けられない。コミュニティ単位でしっかり全体像を把握すると言いうことですね。
 
千葉)でも、阪神・淡路大震災のときのように、家が崩れてしまって、どうしても家で生活できない方は、どうすればいいんでしょう?
 
室崎)そういう人たちをどうするか。アメリカとかヨーロッパは、あまり建物の中に避難しないんですよ。大きなテント村をつくるんです。イタリアでは6人用のテントを何千も並べて生活する。プライバシーが確保できるんですよ、テントごとに生活するということなので。屋外なので密閉というのも避けられるわけですよね。屋外避難という仕組みを取り入れないといけないと思うんです。
 
亘)イタリアのテントは誰が持っているんですか?
 
室崎)行政とボランティア、両方なんです。イタリアのボランティアは、行政にかわって避難所の運営をしたりするので、ボランティアごとにちゃんとテントを備蓄している。それとは別に、行政、国とか県が大量のテントを用意していて、48時間以内に一斉にテントが建ち並び、全員が入ることができるという仕組みに、イタリアではなっているんですよ。
 
亘)48時間って、2日間ですよね。
 
室崎)はい、2日以内です。この前のイタリアの地震だと、1日24時間でそれができあがっているので。日本では避難所開設に2日とか3日とか、かかっているところがありますよね。2日以内にキャンプ場みたいなものができるわけです。それが世界の潮流なので、日本も世界のそういう優れた経験に学んで、屋外避難のシステムを取り入れたほうがいいと思うんですよね。
 
亘)日本では、あまりテントを建てる土地がないとか、よく言われますよね。
 
室崎)そうです。それは土地探しをしないといけなくて、野球場や陸上競技場、公園なども使わないといけない。そういうことも含めて考えないといけない。
 
千葉)テントだと、今は暖くなってきたからいいですが、寒さも心配ですね。
 
室崎)そのへんも対策が必要で、イタリアなんかは、暖房器具もセットになっているんですよ。
もうひとつ、テントじゃなく、日本の人たちになじみがあるのが車中泊なんですよ。自分のマイカーの中で過ごす。これは3番目の方式なんです。ただ、車中泊もエコノミークラス症候群、狭い車の中でじっとしていると体調を崩すことがおきてしまう。それで車中泊で亡くなる方も多いので、小さな車ではダメで、できるだけ広い車。そういうと、「我が家には小さな車しかない」と言われるかもしれないけど、少し大きな車を持っている方は大きな車で避難生活をしてもらう。お持ちでない方は、行政がモービルハウスやキャンピングカー、トレーラーハウスなどを持ち込んできて、そこで生活できるようにすることが必要なんですね。

 
亘)千葉さんは、トレーラーハウスの取材をしていましたね。
千葉)非常に家族の空間や、距離がとれて、私はとても有効だと思ったんですよ。ただ、短期間でトレーラーハウスを集めて準備することができないので、普段から準備しておかないといけないですね。
 
室崎)だから、そういうことで言うと、まず車を持っている人はご自分の車で、エコノミークラス症候群がおきないような対策を考えながらというのが、とりあえずできる方法ですね。

千葉)テント避難も、キャンピングカーも、準備するまでに時間がかかると思うんですが、今ある避難所を改善するとか、避難所生活が必要なときに感染予防のために何ができるかというところは、何かありますか。
 
室崎)避難所を広げたり増やしたりするのは、なかなか至難のわざ。ただ、避難所の中でも、隔離できるような、感染した人だけが暮らす部屋をつくるとか、医療スペースをつくるとかは考えなければならないと思うんです。そういうことであれば、もうひとつ、ぼくが4つ目の方法と思っているのは、疎開避難。遠くの友達のところや親せきのところ、あるいはホテル、有馬温泉とか、いわゆる自分のコミュニティや小学校区の中でなく、離れたところに少し避難できる場所を確保するというのは、頭に入れておかないといけないと思うんです。ホテル避難なんかいいなあと思うんですけど、そんなに部屋数もない。そう考えると、結局、遠くの親戚や知人を頼って、しばらくは九州に行くとか、そういうことが必要。まあ、九州に行っても、コロナウイルスのリスクはあるかもしれませんけど、とりあえずの避難生活はできますよね。
 
亘)東日本大震災のときは宿泊施設の利用が結構ありましたよね。
 
室崎)そうです。だから私は、ホテルをもっと活用するほうがいいと思う。というのはホテルはコロナウイルスの問題でお客さんが減っていますよね。空き部屋がたくさんあるはずだし、民泊の施設も空いていると思うんです。そういう空いている施設をうまく利用することも必要だと思います。
 
亘)行政がその部分の費用をきちんと負担できたらいいですね。

室崎)当然そうです。本来は行政がしっかり安心できてゆったり過ごせる避難所を整備しないといけないんですけど、行政にかわってホテルや宿泊施設の協力を得るなら、当然、その費用は行政がみないといけないと思います。あるいは車中泊した人に、1日いくらという生活費を出すなら、みんながんばって快適な車中泊を考えてくれるかもしれないと思います。
いずれにしても、どのやり方も、いま、私の思いつきで話しているので、もう少し科学的に検討して、リアリティのある方針をつくらないといけない。それは行政が専門家の協力も得て、至急に検討して方針を出さないといけないと思うんですよ。あす大きな地震がくるかもしれないという状況なので、急いで方針をつくらないといけないし、できることを始めないといけないと思うんですよね。

 
亘)その場合に、どの役所が音頭をとるかというようなことで、時間がかかってしまうような気がします。
 
室崎)もう、それぞれの自治体が自治体をあげて、取り組まないといけない。行政が外出禁止とかいうのもいいけど、同時に地震のときの避難対策を、知事とか市長を先頭にがんばってもらわないといけないと思いますよね。
 
亘)あと、なるべく早く避難所を解消できるようにしないといけませんね。みなし仮設とか、一般の仮設住宅の建設もそうですが。
 
室崎)そうですね、避難所生活を短くして、より快適な生活ができるように、プレハブ仮設をつくるとか、みなし仮設を確保する取り組みのスピードを上げることも必要だと思います。
 
亘)そのスピードを上げるためには、行政が主体的に動くということになりますね。
 
室崎)そうです。まず、提供いただける空き家のリストをつくっておくことも必要でしょうし、仮設住宅の建設資材もなかなか難しくて、プレハブ仮設のような建材は、いま、生産もストップしているんですよ、みんな家の中にいなければならないので。だから資材がすぐ集まるかどうか怪しい。だけど、日本の伝統的な木材みたいなものをうまくストックしておいて、そういう木材でも何を使ってでもいいから、もっと簡便な仮設住宅のつくり方も頭に入れておかないといけないと思います。
 
亘)なるほど。私が思うのは、今回、コロナウイルスが都市部で広がっているので、一極集中の弊害というか、日本の都市政策も問われているという気がします。
 
室崎)まさに都市政策のあり方が問われているということと、避難所がただでさえ過密だという意味でいうと、災害時の避難対策とか、住宅の再建政策も問われていて、コロナ感染拡大だから検討するというのではなく、長期的に、日本の避難所のあり方や仮設住宅のあり方も同時に考え直さないといけないので、今回だけの問題でなく、もっと大きな視点からも考え直す必要があると思いますよね。
 
千葉)今回のコロナウイルス感染拡大で気づかされる防災上の教訓って、たくさんあるんですね。
 
室崎)たくさんありますね。メカニズムがちがうので、地震や豪雨とコロナウイルスのちがいはあるんですけど、共通する部分がたくさんあるんですよね。たとえば、人々の生活や地域の経済に間接的な問題を引き起こすという意味では、最近の地震・豪雨災害とまったく一緒なんですよね。最終的には経済にダメージがいくし、人々の生活が苦しくなるということは地震とコロナ、全く一緒なので、そういうところに目を向けて対策を考えなければならないというと、今までの防災対策と全く一緒だと思うんですよね。
 
亘)防災の専門家の間でも、コロナウイルスの感染拡大は、話題になっているんでしょうか。
 
室崎)話題になりますし、ぼくはもっと防災の専門家が発言しないといけないと思っていますよ。危機管理という面で。コロナの感染のところは医療関係者の世界ですけど、都市を閉鎖するだとか、学校を休みにするというのは危機管理の問題なんですよね。そういうことに対し、危機管理の専門家が、こうあるべきだと言わないといけない。安全性というのは必要条件なので、安全はしっかり考えないといけないですけど、安全だけで我々は生きているわけではなくて、日々の暮らし、経済、文化、たとえば音楽に触れるということで生きているので、むしろ芸術・文化という視点からもしっかり考えないといけなくて、コンサートホールをストップすればいいというものではないと思うんです。そういうところに防災の専門家がもっと発言して、どうすればコンサートができるかという提案をしっかり示さないといけないと思うんですよね。
 
千葉)「ネットワーク1・17」は防災番組なんですが、コロナの感染症問題をどう扱うべきか、すごく悩んでいたんです。
 
室崎)コロナも防災ですよ。ぼくは以前から「5つのリスク」を提示してきたんですけど、自然災害とともに、感染症(インフルエンザなど)のリスクもあると、かなり早くから提起しているんですよ。それ以外に、「犯罪」というのもあるし、大きな気象変動、地球温暖化みたいな、いくつかパターンがあって、人類の生命に危害を及ぼすという意味では全く同じだと思うんですよ。人類が滅びるならどういうことがあるかといろいろ考えているんですけど、地球温暖化、地球の温度がどんどん上がってしまうということがひとつと、もうひとつは核戦争みたいな放射能汚染が進むということと、3番目がウイルスだと思っているんです。ウイルスを軽視してはいけない。まさにそれは危機管理なり防災のテーマだと思うんです。
ただ、ウイルスに関しては、防災の学者だけでは答えが出せないので、医療や福祉の人たちと協力し合って答えを見つけていく必要があるので、今回ももっと分野を越えた連携というか、協力が必要だと思いますよね。

 
千葉)では、私たちも積極的にこの問題を考えないといけないですね。
 
室崎)ぜひ取り上げて、いろいろな人にアドバイスをしていただければありがたいと思います。
 
亘)考えていきたいと思います。
千葉)これからもよろしくお願いします。ありがとうございました。

千葉)防災というのは、人類の生命に危機を及ぼすことに対処することなんだという室崎さんの言葉は、心に刺さりました。
亘)私もこの番組でどういうふうに新型コロナウイルスの問題を扱えばいいのか迷ってきましたけれども、それが吹っ切れたというか、並行して考えていかなければいけないんだと気づきました。もちろん、共通する部分、そうでない部分、ありますけれども、本当に私たちがいま、考えるべき問題だなあと思いました。
千葉)コロナウイルスに加えて大きな災害も起きる可能性がありますので、対処法を考えていきたいと思っております。
亘)そうですね、「複合災害」ということばがありますけれども、まさにその危機が今年は迫っていると思うんです。

千葉)番組ではメール、お便りを募集しています。みなさんにお寄せいただきたいテーマがあるんです。
「感染拡大の今、災害が起きたら、あなたは指定避難所に行きますか?
避難生活でどんなことが心配ですか?」
ちょうど、きょうの放送のテーマになったことですが、これについて考えていることを、私たちに教えていただきたいんです。よろしくお願いします。
亘)みなさんご自身の家から、普段避難しようと決めているところに、躊躇なく避難できるか、そして、こういうことが心配だということがあれば、教えていただきたいです。そして、一緒に考えたいですね。
千葉)きっとみなさん考えておられることがあると思うので、メール、おはがきでお寄せください。
メールの宛先は
117@mbs1179.com
みなさんと一緒にこの番組をつくっていきたいと思いますので、よろしくお願いします。