06月29日(日)
第1499回「大雨への備え~ハザードマップの見方」
オンライン:備え・防災アドバイザー ソナエルワークス代表 高荷智也さん
西村)各地で大雨が相次いでいます。きょうは、災害への備えとして大切なハザードマップの見方について、備え・防災アドバイザーで、ソナエルワークス代表 高荷智也さんに聞きます。
高荷)よろしくお願いいたします。
西村)ハザードマップを見るには、まず何から始めたら良いですか。
高荷)おすすめしたい地図が2つあります。ひとつは自治体が作っているハザードマップ。紙で印刷をされたものが各家庭に配られていると思います。自分が住んでいる町の紙のハザードマップを見てみてください。
西村)ハザードマップが家にない人はどうしたら良いですか。
高荷)スマートフォンやパソコンが使えるなら、「〇〇市 ハザードマップ」と自分が住んでいる町を入力して検索してください。市役所・区役所・町役場などのホームページにデジタルのハザードマップがあります。画像やPDFで紙のハザードマップと同じものを見ることができますよ。
西村)紙とデジタルならどちらのハザードマップがオススメですか。
高荷)自治体が作っているハザードマップなら紙もデジタルも中身は同じ。見やすい方で大丈夫です。スマホの画面が小さくて見づらい場合は紙がオススメ。紙のハザードマップが家にない場合は、町の役場の防災課・危機管理課などの窓口に行くと無料でもらえます。
西村)なぜ紙の方がオススメなのですか。
高荷)紙の方が広い範囲が載っているので地図として見やすいです。災害時にハザードマップを確認したいとき、停電が起こるとパソコンやインターネットが使えないことも。今はデジタル化の世の中ですが、確実に見られる媒体は紙だと思います。
西村)紙のハザードマップを見やすい場所に貼ると良さそう。どこに貼るのが良いですか。
高荷)家の中の見やすいところに貼っておきましょう。普段から目に入るので防災意識が高まります。リビングでも廊下でもトイレでも良いと思います。もうひとつ、国が作っているハザードマップもあります。これはスマートフォンやパソコンから見ることができるデジタル専用の地図。スマホやパソコンを使えるならぜひ覚えてください。「重ねるハザードマップ」という地図です。
西村)今、パソコンが目の前にあるので、検索してみますね。みなさん一緒に検索しましょう。
高荷)普段インターネットを見ている画面から「重ねるハザードマップ」と入力をしてください。地図が画面に出てきます。「重ねるハザードマップ」は、国土交通省が運営しているものなので、大きな利点があります。自治体が作っているハザードマップは、その町の情報しか載っていませんよね。災害や避難場所の情報は隣町のものは載っていません。「隣町の職場や学校に通っている」「隣町のスーパーで買い物をしている」などという場合は、自分の町のハザードマップだけでは情報が足りないことがあります。その点、「重ねるハザードマップ」は国の地図なので、日本中、北海道から沖縄まで同じ地図上で、災害や避難場所の情報を見ることができるのです。
西村)出張や旅行に行くときも、あらかじめ調べておくことができますね。
高荷)初めて出かける場所に行くときには、「重ねるハザードマップ」を見て、自分が行く駅、泊まるホテルや観光地にどのような災害リスクがあるのか確認してください。わたしは全国に講演会などで出張していますが、初めての駅やホテルに着いたら、まず「重ねるハザードマップ」を開いて確認しています。「今日泊まるホテルは、津波は来ないから、地震が来たらその場にとどまろう」という風に。慣れれば10秒でチェックできますので、ぜひ使ってみてください。
西村)今、「重ねるハザードマップ」の画面を開いています。
高荷)画面の左上にボタンがいくつかあると思います。「重ねるハザードマップ」の中には、洪水・高潮・土砂災害・津波の4種類のハザード情報をオン・オフしながら"重ねて"表示させることができます。自分が見たい情報のボタンを押すと重ねて表示されます。災害が多い地域は全部押すと、たくさん色がついてわかりにくくなるので、その場合は、ボタンをひとつずつオン・オフしてください。これでまず自宅周りにどのようなリスクがあるのをチェックしてください。
西村)一番上の検索窓に住所を入力すると付近の情報が表示されます。MBSラジオがある「大阪市北区茶屋町17-1」を入力してみます。出てきました!洪水・高潮・土砂災害といろいろありますが、洪水を見てみると、MBSラジオがある茶屋町は、3~5m浸水するエリアだそう。桃色になっています。2階部分まで浸水するようです。しかし、高潮になると一段階上の赤色になっていますね。5~10mで、2階の屋根以上が浸水するようです。高潮の方が一段階上がることに驚きました。
高荷)場所によって情報が変わります。町が大雨で沈む状況には二種類あります。ひとつが洪水。川の堤防が決壊して、水が街の中にあふれる。これは比較的イメージしやすいと思いますが、もうひとつが高潮という現象です。高潮は、大阪なら大阪湾が満潮を迎えるタイミングで、台風が海を通過すると低気圧の効果と強い風の勢いで、海側から水があふれる現象のことです。そうなると、川の堤防は1ヶ所も切れていないのに海水が盛り上がって海の方から浸水します。まるで津波のように沈んでしまうのです。過去に起こった最大の高潮被害は、1959年に起きた伊勢湾台風によるもの。伊勢湾台風は、死者約6000人という日本史上最大の水害でした。主に被害を受けた名古屋は、高潮で海側から浸水して甚大な被害を受けました。これは今の時代でも起こり得ます。堤防が決壊しなくても海側から沈むことがあるので、洪水・高潮はセットでチェックをしましょう。
西村)淀川が近いので、川の方が危険かと思い、高潮のことはあまり考えていませんでした...。いろいろ調べないとわからないですね。
高荷)ハザードマップを見れば、具体的な情報が載っています。改めてハザードマップを確認してください。
西村)MBSラジオは、ビルの9階にあるので、移動して避難するのではなく、高いところへ垂直避難をすれば良いですか。
高荷)ハザードマップの自宅周辺に色がついていない場合は、避難指示が発表されても、家にとどまって電気・ガスの停止に備えましょう。色がついている場合は、最大の高さまで沈んだ場合、部屋がどうなるかをイメージしてください。一戸建ての場合、洪水で3mまで水が来たら2階の床が沈むので、避難をしなければ命が危ないということになります。この場合、避難指示が出たら速やかに逃げましょう。マンションの4階、5階なら、3m沈んでも部屋は大丈夫ということに。ただし、停電や断水は、いつでも起こる可能性があるので、備蓄品はきちんと準備をしておかなければなりません。逃げるべきなのか、とどまって良いのかを判断をする材料として、ハザードマップを使ってください。
西村)広島で土砂災害が起こったときに、「大雨の被害大丈夫?」と広島の友人に連絡したんです。そうしたら「うちはマンションなので大丈夫」と。でもすぐそばに山があったんです。この場合、土砂災害に巻き込まれる可能性がありますよね。
高荷)土砂災害・崖崩れ・土石流・地滑りの危険性があります。重ねるハザードマップや自治体の紙の地図には、崩れそうなところにすべて色が付けられています。2014年の広島の土砂災害がきっかけとなり、ハザードマップの整備が進みました。もし自宅が土砂災害の危険性がある範囲にあるなら、建物ごと飲み込まれてしまう可能性もあります。マンションでも高層階なら土砂災害が起こっても安全である可能性は高いですが、2~3階で、ベランダ側に崖がある場合は、危ないので、念のために避難をすることを考えてほしいですね。
西村)西日本豪雨のときも逃げ遅れた人が多かったですよね。避難について、しっかりと備えておかないといけません。
高荷)最近は、ハザードマップに書かれている通りの被害が起こっています。逃げれば助かります。水害で命を落とさないために、紙のハザードマップ、重ねるハザードマップを改めて確認してほしいですね。
西村)どのようなポイントをチェックすれば良いですか。
高荷)紙のハザードマップには逃げる場所が記載されています。ハザードマップには、「命を守るための避難場所」と「生活をするための避難所」という2つの施設が載っています。
西村)避難場所と避難所は違うのですね。
高荷)名前は似ているのですが、津波から逃げる「津波避難ビル」「津波避難タワー」、水害が起こったときに逃げる「沈まない場所の学校」、大地震の火災から避難するための「運動場や広場」など災害から命を守る場所は避難場所と書かれています。一方で、災害で自宅が被害を受けて、家で生活ができなくなったときに、一時的に身を寄せるのが避難所。避難所は最寄りの学校であることが多いですが、避難場所は災害の種類ごとに違います。避難場所には、対応している災害が地図上に書かれています。
西村)災害への備えとして大切なハザードマップの見方についてお話を伺いました。高荷さん、どうもありがとうございました。
06月22日(日)
第1498回「災害時の偽情報に注意」
オンライン:防災科学技術研究所 総合防災情報センター センター長 臼田裕一郎さん
西村)来月、日本で大きな地震が起こるという"噂"がSNSなどで出回っています。この噂に科学的な根拠は全くありません。しかし、この噂を信じて日本への旅行を取りやめる外国人も多くいて、観光面への影響も出ています。
きょうは、災害時の情報について、防災科学技術研究所 総合防災情報センター センター長 臼田裕一郎さんに聞きます。
臼田)よろしくお願いいたします。
西村)今回のような地震予知に関する"偽の情報"や"噂"はなぜ出回るのでしょうか。
臼田)地震というのは非常に大きな災害です。心配からこのような情報がたくさん出てくるのだと思います。
西村)「7月に大きな地震が起こる」という説についてどう思いますか。
臼田)現在の科学では、地震予知や予言は不可能とされています。「30年間に1回地震が起きる確率」は出されていますが、それがいつ起こるかまではわかりません。今日かもしれないし、明日かもしれない。30年の間でいつ起こるかわからないとなれば、常日頃から備えることが重要です。
西村)いつどこで大きな地震が起こるかわからないから備えを進めていくことが大切ですね。特に災害時に、"偽の情報"や"噂"が増えるイメージがあります。
臼田)大きな地震が起きて社会にとってつらい状況になると、いろんな人が情報を発信したくなります。今は簡単に拡散できるので、そのような情報が出回りやすくなってしまうのかもしれません。
西村)能登半島地震のときも偽の情報が出回りましたよね。
臼田)救助要請や支援を求める投稿がSNSで相次ぎました。
西村)それはなぜだったのでしょうか。
臼田)不安からそのような情報を発信する人もいますが、当時はSNSで投稿を表示する回数が多いほど収益が得られる仕組みがありました。さまざまな手を使って表示回数を増やしたいという人もいたのです。
西村)実は、国際災害レスキューナースの辻直美さんが撮影した写真が、Xの偽投稿に使われました。投稿されたのは、キッチンの床一面に割れたお皿や調味料などが散乱している写真。これは2018年に発生した大阪北部地震の写真ですが、この写真が今年4月に発生した長野県の地震の被害写真として、別の人の投稿に使われていたんです。その件について、辻直美さんにお話を聞きました。
音声・辻さん)ある新聞社の記者さんから、「あなたの写真、勝手に使われてますよ!」と連絡があって知ったんです。
音声・ディレクター)偽投稿を見たときどう思いましたか。
音声・辻さん)「ふざけんな!」と思いました。あれを見たら「そんなにひどいことになってるの!?」と現場の人も思うし、そのエリアに住んでいる友達や家族がいたら不安になりますよね。何より、あの写真は本物なのに違う地震の写真として使われるとあの写真が嘘で、AIで作ったと思われるかもしれません。わたしはすぐに削除・謝罪依頼をリプライしたんです。何の返事もないです。怒り心頭です。めちゃめちゃ腹立ってます。
西村)今のお話を聞いていかがですか。
臼田)最近本当にこういうことが多いですよね。
西村)自分の写真がまさか偽投稿に使われるなんて。辻さんは、長野県の新聞記者から連絡を受けて、初めて偽情報の投稿に使われているということを知ったそうです。この新聞記者は、自分が取材した現場の実際の被害の状況と比べて、「この写真おかしいな」と思って調べたとのこと。類似画像を見つけるアプリで検索をしてみると、この写真は2018年の大阪北部地震のときに辻直美さんが撮影した写真ということがわかりました。そこで、新聞記者が辻さんにSNSを通じて連絡をしたということなんです。このようにインターネット上から無関係の写真をコピーして投稿する人もいるのですか。
臼田)災害時に、ほかの災害やほかの地域の写真を使って投稿されるものもよく見かけます。ここ最近そういうことが多いと感じています。
西村)最近増えてきたのはなぜだと思いますか。
臼田)それによってアクセス数を稼ぎたいのかもしれません。
西村)もう一つ、この件に関して辻直美さんが訴えたいことがあります。お聞きください。
音声・辻さん)まだ腹が立つことがあるんです。そこにいろんな人がリプで取材依頼をしてくるんです。テレビ・ラジオ・新聞から「この写真について詳しく知りたいので連絡ください」という取材依頼がDMではなく、リプライでくる。だからみんなが見られる。それは愉快でしょうね。一般の人がメディアに取材されるのはすごいこと。有名なテレビやラジオから自分が取材される立場になる。承認欲求が満たされると思うんです。こういうことがフェイクニュースを助長しているということにメディアは気がついてない。それにもまた腹が立っています。
西村)投稿写真や動画が本物かどうか見極めるのは、大手のメディアでも難しいのでしょうか。
臼田)最近は生成AIを使って画像や映像を作るので、見極めるのは難しいと思います。
西村)どうしたら良いのでしょう。
臼田)一個人が発信しているSNSの情報を全面的に信じないことが重要。メディアから「写真について詳しく知りたいので連絡ください」と話がくるとのことですが、それによって情報の拡散が助長されるので、メディアには気をつけてもらいたいですね。メディアは情報を伝える立場。現場での直接取材を活発に行ってほしいです。
西村)リプライで有名な番組が注目しているのなら、「本当かな」と思ってしまう気持ちもわかります。メディアにいるわたしとしても、現場取材を大切にしたいと思いました。生成AIはかなり進化してきています。今はどんなことができるのでしょうか。
臼田)自然な会話文や絵や動画を作ることができます。
西村)普通の写真のように偽画像を作ることができるのですね。例えばどんな写真からどんな画像を作り出すことができるのですか。
臼田)災害時には、普段の風景写真から作った洪水時の写真がよく出回ります。
西村)でもそれが本物かどうか見極めるのは難しいとのこと。どうやって見極めたら良いのでしょう。
臼田)一つの画像をすぐ信じてしまうのではなく、複数の発信源から情報が出されているかを確認すること。個人ではなく政府・自治体、公的機関の公式のアカウントが発信している情報は、信じられる情報です。そのようなところから複数発信されていることを確認してください。
西村)信頼している友達や先輩がSNSに書いている内容は疑った方がいいですか。
臼田)その人がほかの人の情報を発信している可能性もあります。気をつけた方がいいと思います。
西村)怪しい投稿に共通するポイントはありますか。
臼田)拡散されている投稿です。拡散はその人が本当に見た情報ではないことが多いので、まず1回落ち着いて、情報源を見てみましょう。
西村)リポストですね。実際に今まで見てきた投稿の中で、怪しい印象だったものはありますか。
臼田)数年前に静岡で洪水が起こっている画像を目にしたのですが、不自然に感じました。風景写真に泥水が流れているんです。深い川の写真なんですが、「流れが不自然だな」と思っていたらやはり偽画像でした。
西村)先生でもだまされるということがあるのですね。
臼田)今のAI技術があればわからないものがあっても不思議ではないと思います。
西村)技術の進化はうれしいけど、悪いことに使われるのは困りますね。「困ってる人のために、何かできることはないか」という気持ちでリポストしてしまう人もいると思いますが、きちんと情報を見極めることが必要。改めてSNSの情報を受け取る場合、発信する場合に注意した方がいいことがあれば教えてください。
臼田)「だいふくあまい」という言葉があります。SNSの情報を受け取る場合、発信する場合に気をつけてほしいことの頭文字です。
西村)最初の「だ」は何ですか。
臼田)「だ」は情報を受け取る場合に、「誰が」発信しているのかということ。「い」は「いつ」の情報か。1時間や半日前、数日前の情報も一緒に流れてくるので、「いつ」発信された情報なのかを確認してください。
西村)「ふく」は?
臼田)「ふく」は、「複数」の情報源があるのかを必ず確かめる。
西村)最後の「あまい」は?
臼田)「あまい」は自分が情報を発信するときの注意点です。「あ」は自分の安全を確保する。自分が安全でないと情報発信をしてはいけません。「ま」は、その情報が間違った情報ではないか。人が発信した情報を拡散する場合は、それが間違った情報ではないかということを気にしてください。「い」は、位置情報を上手に使う。この情報はどこで起こったことなのかをきちんと示して発信すると良いですね。
西村)大切なことを教えてくださってありがとうございます。最後に改めて伝えておきたいことはありますか。
臼田)SNSでは、リポスト(拡散)を安易にしないこと。もし偽情報だった場合、偽情報を拡散して、より社会に不安を与えてしまいます。リポストをするときは特に気をつけてください。
西村)誰かのためにと思ったリポストが、混乱を招くきっかけになってしまうかもしれません。気をつけましょう。
きょうは、災害時の偽情報について臼田さんにお話を伺いました。
06月15日(日)
第1497回「大阪北部地震7年~帰宅困難者問題」
オンライン:工学院大学 教授 村上正浩さん
西村)今月18日で、大阪北部地震の発生から7年を迎えます。2018年6月18日午前7時58分頃、大阪府北部を震源とする地震が発生しました。高槻市などで最大震度6弱を記録しました。この地震は、朝の通学・通勤時間帯に発生し、自宅に帰ることができない帰宅困難者が大きな問題となりました。
今、改めて帰宅困難者問題はどうなったのか。都市防災が専門の工学院大学 教授 村上正浩さんに聞きます。
村上)よろしくお願いいたします。
西村)大阪北部地震は午前7時58分に発生しました。出勤途中や外出中に地震が起きた場合、どうしたら良いのでしょうか。
村上)職場以外で被災することはあまり想定していないかもしれません。職場以外で被災すると行き場がなくなってしまいますがその場にとどまることが基本。無理して帰らないというのが大事です。
西村)それはなぜですか。
村上)みなさんが一斉に災害直後に動き始めると周辺が大変混乱します。救助を求めている人がたくさんいる中で、多くの人々が動き始めると、救助活動に影響することが考えられます。まずはその場にとどまって状況を確認することが第1です。
西村)その場合、状況や人の気持ちによっても行動が変化すると思います。実際にわたしの家族も大阪北部地震で体験しました。義理の母が大阪から神戸の職場に向かう電車の中で被災したんです。義理の母は電車の中にとどまったのですが、「降りてください」と指示があり、そこからどこに行ったら良いかわからなくなり、パニックになって、「早く車で迎えに来て!」と夫に電話をしました。夫は義理の母を迎えに行ってしまったんです。
村上)そのような場合、心配で迎えに行ってしまうと思うのですが、東日本大震災のときを思い出してください。2011年3月11日に首都圏で帰宅困難者の問題がありました。都心に家族を迎えに行く車の流れが発生して、都心に向かう車が渋滞。さらに家族をピックアップして自宅に帰る車の流れも発生して、二重に交通に影響を与えたんです。そのとき119番の通報をした人のところに、救急車が到着したのが3~4時間後になったそう。車の渋滞はさまざまな活動に影響を与えます。連絡があって迎えに行きたい気持ちはわかりますが、義理のお母様は、そこにとどまっていただく方が良かったですね。電車は途中で止まると、必ず駅まで誘導されるので、そこからは、自分たちで情報を入手して、安全な場所に行きましょう。一定の期間そこにいることを覚悟して行動すべきだと思います。
西村)そのまま駅にいたら良いですか。
村上)復旧活動をしなければならないので、駅のホームからは出されると思います。その後は、駅から離れて、近くにある一時滞在施設などに移動しましょう。
西村)駅にいた方が、電車が動き出したときにわかって安心だと思うのですが、駅にそのままいてはいけなのでしょうか。
村上)駅にいると駅の復旧活動に影響します。震度4を超える大きな地震があると必ず電車は止まるので、路線の安全確認をします。規模が大きくなると、全線に渡って目視で点検をすることに。多くの人がホームに集まっていると、交通の復旧に影響を与える。だからできるだけ駅の外に出るというのが正しい対応です。
西村)大阪北部地震のときもJR大阪駅にたくさんの人がいました。まずは駅から離れて、別の場所に行くことが大切なのですね。
村上)駅で被災する人もいれば、駅の周りで被災する人もいます。そのときに駅に向かう流れを作らないこと。駅にたくさん人が集まると駅の復旧が遅れてしまうので、駅から離れることが重要です。
西村)大阪府では、体育館や公民館など公共の施設のほか、駅と直結したホテルなどを一時滞在施設として指定しています。そのような一時滞在施設では、帰宅困難者全員を受け入れることができるのでしょうか。
村上)できません。何万人、何十万人を受け入れるためのスペースの確保は難しいです。駅で被災した人も、駅周辺で被災した人もみんなが駅に向かってしまうと、行き場のない帰宅困難者になってしまいます。一時滞在施設は、基本的には行き場のない人を受け入れる場所。職場が近い人は、できるだけ職場で待機することが、行き場のない帰宅困難者を発生させないポイントです。
西村)一時滞在施設は、行き場のない人が行くところなのですね。
村上)近くに職場など行く場所があればそこに行くこと。とどまるための準備が必要です。わたしは、ラジオ、電池、ライト、ビニール袋などをカバンに入れています。あと紙タイプの歯磨きも便利です。ほかには保温シート、ティッシュ、携帯トイレも。このような備えは、個人ができることだと思うので対策をとっています。
西村)それらがカバンの中にあると思うだけで安心につながりますね。
村上)スマートフォンに安否確認のアプリもいれておきましょう。171(災害用伝言ダイヤル)では、どの電話番号で登録をするのかを事前に決めておく。災害時にお互いの安全を確認し安心できるような環境を作っておくこと。まずはあわてないことが、とどまることにもつながります。
西村)公衆電話から電話することに慣れていない若い世代や子どもたちもいると思います。日頃から練習しておいた方が良いですね。
村上)受け入れスペースが足りないのは当然のこと。雨風がしのげて安全な場所なら、あわてて動き始めなくて良いと思います。全てを賄うスペースを用意するとなると、普段から膨大なスペースを用意しておかなければなりません。それは不可能だと思います。スペースが開放されても、自分たちの災害時の対応をしながら受け入れすることになる。地域の人々や観光客も自分でできることをするためには、一定の対策をとっておくことが必要だと思います。
西村)わたしたちがしっかりわかっておけば、観光客や海外の旅行客にも案内ができますね。一時滞在施設はどこを見ればわかりますか。
村上)町によって異なりますが、大阪の場合、インターネットで確認できます。
西村)「大阪市 一時滞在施設」と検索すると出てきますね。
村上)携帯のアプリがある自治体も。東京都には専用アプリがあります。あとは各駅の周辺の事業者が情報提供をしているところも。
西村)大阪市の場合は一覧が出てきます。中にはホテルや梅田のグランフロント大阪などの商業施設もあります。これはどの地域でも公開されているのですか。
村上)場所によりますが、非公表のところもあります。
西村)なぜ非公表なのですか。
村上)各企業が社会貢献として対応をしています。情報を事前に公開すると、受け入れ時に多くの人が殺到して断れなくなり、安全面の問題も出てきます。なかなか難しい側面もあるのです。
西村)大阪市の場合は、事前に公開されています。大阪に住んでいる人はもちろん、旅行で大阪に来る人、わたしたちもどこかに旅行に行く際は、一時滞在施設を調べておくと備えにつながりますね。
村上)施設で全員を受け入れできるとは限りません。すぐに一時滞在施設が開設されるかもわかりません。大きな規模の地震なら、企業も自分たちのことをまずしなければならないのでスペースの開設に時間がかかると思います。
西村)そうなると、自分自身できちんと備えておくことが大切ですね。
村上)それが一番ですね。
西村)きょうは、大阪北部地震から7年、帰宅困難者の問題についてお話を伺いました。村上さんどうもありがとうございました。
06月08日(日)
第1496回「"災害ケースマネジメント"を進める法改正」
ゲスト:大阪公立大学 大学院 文学研究科 准教授 菅野拓さん
西村)被災者の個別の事情に応じて支援する「災害ケースマネジメント」。東日本大震災で注目を集めた被災者支援の新しい仕組みです。先月28日、「災害ケースマネジメント」の実施を後押しするような災害対策基本法などの改正案が国会で可決・成立しました。
きょうは、この法改正に関わった「災害ケースマネジメント」の名付け親、大阪公立大学大学院 文学研究科 准教授 菅野拓さんにスタジオにお越しいただきました。
菅野)よろしくお願いいたします。
西村)「災害ケースマネジメント」の最大の特徴は何ですか。
菅野)災害で被災した人は、仕事を失った、家が壊れた、借金が返せなくなった...などのさまざまな困りごとを抱えているので、一律の支援では難しい。行政や支援する側から被災者のところに出向いて、どんなことに困っているのかを聞いて、伴走しながら支援をしていく仕組みが「災害ケースマネジメント」です。自治体だけではなく、社会福祉協議会やNPO、弁護士や建築士も一緒に被災者の困りごとに寄り添って、被災者に生活再建をしてもらう取り組みです。
西村)「周りの人も大変だから、"自分だけが大変"とは言い辛い」という声も聞きます。すごく大切な支援ですね。
菅野)信頼関係を作りながら、長期的に支援していきます。
西村)現状の支援では、被災者に寄り添えていなかったのでしょうか。
菅野)不十分だったと思います。行政もいろんな支援をしてきましたが、本当に被災者にとって正しい支援だったのかという疑問も。住んでいた家の壊れ具合は、罹災証明で証明されます。借家も持ち家も関係なく、家の壊れ具合で支援を決めてしまうことになる。「家は大丈夫でも仕事はない」などほかの困りごとが出てくると、支援制度と被災者の困りごとが適合しなくなります。このような問題点をどう変えていくのかが大事です。
西村)なぜ今までうまくいかなかったのでしょうか。
菅野)災害は時間が経つと報道も減ります。被災した自治体や被災者は大変でも、離れたところにいる人にとっては対岸の火事。法律や制度改正までつながらず、古い制度が毎回被災者を困らせてしまうのです。
西村)これまではどんな制度で支援が行われてきたのでしょうか。
菅野)仮設住宅や避難所の運営など被災者の支援については、全て1947年にできた災害救助法が根拠になっています。1947年は、戦後のまだ焼け野原が残っているような時期。GHQも関与して作っている法律なので、現状の社会と合わない部分もあります。
西村)その法律が今回改正されました。ポイントを教えてください。
菅野)災害救助法という古い法律に、福祉サービスの提供が規定されました。さまざまな相談やケアを災害時の救助として行うことになったのです。民間との連携も災害対策基本法や災害救助法に規定されました。災害救助法は、少しずつ改正はされてきたとは言え、抜本的には1947年から変わっていませんでした。当時は、日本は貧しく福祉サービスがなかった時代。今では高齢化が進み、少子高齢化しているにも関わらず、災害時の法律は当時から全然変わっていなかったのです。
西村)今まで福祉が取り入れられていなかったことにびっくりしました。
菅野)福祉サービスの提供は70年ぶりのこと。避難所は、いつも酷い状況が報道されていますよね。そんなところに介護が必要な高齢者を連れていけません。
西村)体育館の狭いスペースに毛布にくるまって、冷たい床で寝なければならないことも。プライバシーが守られていないこともありますよね。
菅野)本当に支援が必要な人ほど、壊れた家に住み続けてしまう。人をきちんと支援していかなければなりません。避難所は、昔は法律で「収容施設」と書かれていたんですよ。そうではなく、人を見て必要な支援を届けていくことが大事。
西村)車中泊をしているお年寄りにもそのような福祉サービスが行き届くのですか。
菅野)それを目指しています。「災害ケースマネジメント」とは、被災者の元へ出向いて支援をすること。それが法律上で規定されたのです。
西村)具体的にどんなことができるのでしょうか。
菅野)在宅で困っている人は、何に困っているのかが周りも本人もわかっていないことも。そんな人の相談に乗ります。地域や家族で介護をしてきた人にもケアの手が必要だということがわかれば、福祉サービスを案内することができます。このように関連死や生活再建がうまくできない人たちを減らしていくことができるのです。
西村)今まで手が届いていなかった人たちにも支援が行き届くのですね。2つ目のポイントについても教えてください。
菅野)今後は、民間と連携した被災者支援が基本的になります。法律上は登録被災者援護協力団体という名前の制度ができるのですが、要は"餅は餅屋"でいろいろな支援ができるということ。例えば食べ物を食べるとなったら、みなさん普段はどこに行きますか?
西村)スーパーかレストランです。
菅野)食べ物を買うのに、役場の窓口に並ぶことはないですよね。でも災害時はどうですか。
西村)役場の窓口に並ばざるを得ないです...。
菅野)市役所や町役場は、普段は食べ物を配ることがないのに、災害時は物資を配給することになっています。役場も人手不足な中で、やったことがない仕事をすることになる。これは医療や福祉も同じ。被災者支援が混乱してしまうので、民間のプロにお願いできるように制度改正が行われたのです。
西村)民間のプロとは具体的にどのようなところですか。
菅野)例えば、大きな流通小売りやコンビニエンスストアが運営する避難所と役場が運営する避難所なら、どちらに行きたいですか?
西村)それはコンビニですね!
菅野)当初の備蓄物資は役場が出すことになると思いますが、例えば、ハラール対応の食事やアレルギー対応の食事は...?役場だとできない部分を民間のプロなら埋めることができるかもしれません。福祉サービスも民間のプロにお願いすれば、在宅被災者の相談・支援に回ってもらうこともできます。
西村)プロなら、コミュニケーションの取り方のコツとかもわかっているでしょうね。
菅野)全国から応援に入ってもらうこともできます。
西村)心強いですね!
菅野)自治体にとっても心強いと思います。災害はたまにしかこないので、災害の経験がある自治体職員はほとんどいません。そうすると当然混乱してしまう。そして自治体の職員も被災者。今まではそこに全て任せる法律になっていたのです。それが変わる方向になったことは大きいです。
西村)今までに能登の被災地やほかの被災地で実際に行われた例もありますか。
菅野)「災害ケースマネジメント」は、先行的に法改正前から進んでいたので、内閣府や厚生労働省で予算をつけて取り組んできました。ただ、どうしても法律になっていないと事前の準備ができません。特別な予算でやるとなると、急に体制を作らなければならなくなり、初期から支援できないことが課題になっていました。能登では2月末ぐらいから、実際に在宅被災者向けの訪問も始まり、福祉サービスにつないでいます。
西村)このサービスを受けた人の声は聞きましたか。
菅野)支援者に知り合いに聞いたところによると、うまく生活再建できない人については、早期から把握できているそう。「家が壊れて住むところがない」「住めるかどうかわからない」というような人には、建築士や弁護士も寄り添ってアドバイスをします。そうすると「地元に残ることができる」と希望が湧いてきますよね。
西村)困りごとは、被災直後だけではなく、ずっと続いていくもの。これが法改正によって、全国的に広がっていくのは大きいですね。改めて今回の法改正で、「災害ケースマネジメント」の普及に期待できると思いますか。
菅野)期待できると思います。法律は準備をするためにあるもの。準備不足の中から始めていては、対応が遅れ、その間に災害関連死の危機も。そうではなく、平時からどのように体制を作っていくかが大事。社会全体で足りないものについて考えることができる。法律に規定されることで、計画的に決められることによる効果は大きいと思います。
西村)大きな一歩を踏み出したということですね。今後の課題はありますか。
菅野)法律に書かれただけで社会が変わるわけではありません。それを実現していくためには、福祉に関わっている人やNPOに準備をしてもらわなければなりません。福祉の現場は人手不足で、毎日が災害のような状況になっています。そこをどうやって強化していくのか。これについては、実際に厚生労働省でも考え始めていて、防災庁でも議論されています。災害に備えることが平時の人手不足解消につながることもあると思います。
西村)きょうは、これからの被災者支援がどう変わっていくのかをお聞きしました。菅野さんどうもありがとうございました。
06月01日(日)
第1495回「災害時に役立つ井戸」
オンライン:大阪公立大学 教授 遠藤崇浩さん
西村)去年の元日に発生した能登半島地震では、水道施設が広い範囲で壊れ、断水が長期間続きました。災害時に水が不足すると、健康被害や衛生環境の悪化にもつながります。そんな中、能登の被災地では、地域の井戸から井戸水をくみ上げて生活用水を確保したケースが多くあったそうです。
きょうは、災害時における井戸の重要性について、大阪公立大学 教授 遠藤崇浩さんにお話を伺います。
遠藤)よろしくお願いいたします。
西村)能登半島地震の被災地で活躍したという井戸。具体的にどんな例があったのですか。
遠藤)能登半島地震では、3ヶ月以上断水した地区もありました。そこで必要になるのは、飲み水や生活用水。飲み水は、給水車やペットボトルの水でまかなうことができますが、入浴、手洗い、トイレなどの生活用水は飲料水の10倍ほどの水が必要なので、ペットボトルや給水車では足りない。そこで生活用水をまかなうために、能登半島の一部の地域では、自宅の庭や工場、個人商店にある井戸が開放されて、そこから生活用水を確保したという事例がありました。
西村)そういうことが実際にあったのですね。
遠藤)わたしが初めに能登に行ったのは、震災発生から1ヶ月後。2月上旬に七尾市に行きました。七尾市の中心部を歩いたところ、少なくとも59ヶ所で井戸が使われていることがわかりました。
西村)七尾市は被害が大きかった地域ですよね。
遠藤)町には倒壊した建物がそのまま残っているところもたくさんありました。
西村)そんな中、井戸がたくさん使われていたのですか。
遠藤)断水しているはずなのに道路が濡れているところがあったんです。地域のみなさんが井戸の水を汲んでいたからでした。そんな場所がたくさんありました。
西村)みなさん、ポリタンクやペットボトルに入れて水を持ち帰っていたのですね。井戸があるとありがたいですね。井戸の水はどんなことに使われていたのですか。
遠藤)トイレを流す水、食器を洗う水として使われていました。
西村)水は欠かせないものです。井戸を開放してくれる人がいるのはありがたいですね。
遠藤)井戸を開放している人に「なぜ井戸を開放したのか」と聞くと、ほとんどの人が「誰から言われることもなく、率先して開放した」という回答でした。
西村)災害時に役立つ井戸は、大阪にもあるのでしょうか。
遠藤)大阪にも登録されている井戸はたくさんあります。災害時に利用できる井戸を登録して、情報を共有している自治体もあります。大阪府のホームページで確認できます。
西村)何ヶ所ぐらいの井戸があるのでしょうか。
遠藤)現在、約1400ヶ所の井戸が登録されています。
西村)たくさん登録されているのですね。きょうは、番組の子どもリポーター・桃佳さんが「災害時協力井戸」を取材してきてくれました。大阪にあるお宅です。取材の模様をお聞きください。
音声・桃佳さん)「ネットワーク1・17」子どもリポーターの桃佳です。中学校1年生です。きょうは、大阪府の「災害時協力井戸」に登録されている橋本武さん宅に取材にきました。こんにちは。
音声・橋本さん)よろしくお願いします。
音声・桃佳さん)井戸はどこにあるんですか。
音声・橋本さん)井戸は庭の片隅にあります。どうぞ、こちらです。開けます。
音声・桃佳さん)(井戸の中を見て)思っていたよりも深いですね。落ちても上がってこられるくらいの深さをイメージしていたんですけど...。
音声・橋本さん)8~10mぐらいあると思います。
音声・桃佳さん)橋本さんが子どもの頃からこの井戸を使っていたのですか。
音声・橋本さん)子どもの頃は、ここで行水をしていました。家に五右衛門風呂があったのですが、そこへ水を運んで、風呂に入っていました。井戸の水は、夏が冷たくて冬が温かいんです。夏はビールを冷やしたり、スイカを網に入れてつけたり。これが井戸水です。
音声・桃佳さん)(井戸水をさわって)水道水よりも冷たいですね!すごく気持ちいいです。どうやって、井戸水を引き上げているんですか。
音声・橋本さん)現在は電気でポンプアップしています。昔は釣瓶で汲み上げていました。
音声・桃佳さん)この水は飲めるのですか。
音声・橋本さん)保健所が毎年1回検査しますが、煮沸すると飲めるといわれています。
音声・桃佳さん)これまでに井戸水が枯れたことはありますか。
音声・橋本さん)枯れたことはないです。
音声・桃佳さん)なぜ「災害時協力井戸」として大阪府に登録したのですか。
音声・橋本さん)災害のときに何らかの形で役に立てればと思ったからです。
音声・ディレクター)桃佳さん、「災害時協力井戸」を見てどう思いましたか。
音声・桃佳さん)井戸が家の近くにあったらすごく心強いと思いました。断水や停電になったときは、水を分け与えてもらいたいなと思います!
西村)橋本さんが子どもの頃から使っていた井戸が今も現役というのは、すごいですね。井戸水は、夏は冷たく、冬は温かいということも初めて知りました。停電になるとエアコンが使えなくなるので、冷たい井戸水で水浴びしたり、手足を冷やしたり、煮沸して飲み水にしたり...と熱中症対策にも役立ちそうですね。
遠藤)井戸が自宅にあるというのは非常に羨ましいですね。
西村)停電したら電気のポンプで水を汲み上げることができません。停電しても水を汲めるように、何か準備しておくことはありますか。
遠藤)自家発電用のバッテリーや車のバッテリーから電源を得る方法があります。災害の後は、水道より電気が先に復旧します。今までのケースでは、水道が先に復旧したというケースはゼロです。
西村)それを覚えておくとパニックにならずに済みそうですね。手動のポンプも売っていますか。
遠藤)はい。バックアップとして非常に有効だと思います。
西村)備えておいた方が良いですね。わたしたちの身近にも災害時に役立つ井戸があるかも知れません。
遠藤)大阪府の「災害時協力井戸」はホームページで確認できます。登録されている場所には、登録の標識が出ていることも。災害時に慌てないように、一度、自宅周辺の「災害時協力井戸」を探してみると良いですね。
西村)家族で防災散歩をして、「災害時協力井戸」を探してみようと思います。どのくらいの自治体に「災害時協力井戸」の登録制度があるのでしょうか。
遠藤)数年前にわたしが全国調査をしたときには、全国1741の自治体のうち、418の自治体が「災害時協力井戸」「震災対策用井戸」などの具体的な名前をつけて、災害時に井戸を利用する仕組みを設けていました。約25%という数字になります。全国的にまんべんなくというわけではなくて、東京・名古屋・大阪といった大都市圏に偏っているということがわかりました。このような取り組みを今後全国的に広めていくことが大事です。
西村)実際に自宅に井戸があっても、この制度を知らない人もいるかもしれません。
遠藤)大多数の人は知らないと思います。
西村)だからこそ防災散歩をして、井戸を見つけて、顔見知りだったら、声をかけてみるのも良いかもしれません。地震以外にも、今までに災害用井戸が役立ったことはありましたか。
遠藤)2021年10月に和歌山市で突然断水が起きましたよね。和歌山市を横断する紀の川に架けられた水道橋が老朽化で崩落して、地域が断水した事故です。このときに、和歌山市は事前に「災害時協力井戸」を登録していたので、翌日には使用できる井戸を市のホームページで公開していました。
西村)井戸は何ヶ所ぐらいあったのですか。
遠藤)23ヶ所です。これは非常に早い対応でした。和歌山市は、南海トラフ地震の備えとして、2017年から「災害時協力井戸」の登録を進めていたのですが、このインフラ事故は、想定外のトラブルでも井戸が役立つということを示した事例です。
西村)きちんと備えていたからこそ、いざというときに使うことができたのですね。
遠藤)昔ながらの方法ですが、災害時に有効だと思います。
西村)もっとこの制度が広まると良いですが、災害時の井戸について、これからの課題はありますか。
遠藤)これからの課題は、井戸の維持です。建て替えなどの機会に井戸を潰してしまう家庭が多いです。
西村)なぜ潰さないといけなくなるのですか。
遠藤)井戸を使っていない人が多いからです。井戸を潰してしまう人が多く、登録数が減っている自治体も多いです。井戸の手押しのポンプに補助金を出している自治体もあるんです。水質検査を行うなど、自治体からのサポートも大事だと思います。
西村)井戸を所有している家ではどんなメンテナンスが必要ですか。
遠藤)メンテナンスというより、普段から使うのが一番大事だと思います。
西村)先ほどの橋本さんは、庭の水やりに井戸の水を使っているそうです。
遠藤)災害用にわざわざ井戸を掘ると、災害が起きるまでの間、ずっと遊ばせておかないといけないので割が合わない。それよりは、普段からビールを冷やしたり、散水したりして水を使って、いざというときに井戸を近所に開放する。そのような普段使いと防災の境目をなくす使い方が大事だと思います。
西村)ローリングストックのように、井戸も同じように普段から使うことが大切なのですね。
きょうは、災害時に役立つ井戸についてお話を伺いました。遠藤さんありがとうございました。
05月25日(日)
第1494回「災害時の停電に備える」
オンライン:名古屋大学 減災連携研究センター 特任准教授 小沢裕治さん
西村)先月、スペイン全土とポルトガルの一部で大規模な停電が発生し、交通機関の運休や通信障害など約6000万人が影響を受けました。停電は災害発生時の避難や復興に大きな影響を与えます。災害時の停電に対して、どのような備えが必要なのでしょうか。
きょうは、ライフライン防災に詳しい名古屋大学 減災連携研究センター 特任准教授 小沢裕治さんにお話を聞きます。
小沢)よろしくお願いいたします。
西村)南海トラフ地震が起こって停電すると、どんな事態が想定されますか。
小沢)今年3月に内閣府の被害想定が改定されています。40の都府県で、最大で約2950万戸停電する可能性があります。場所にもよりますが、停電の回復に1週間以上かかる可能性もあります。
西村)そんなにかかるのですね...。
小沢)能登半島地震や2019年の台風15号による千葉の停電で、電柱がたくさん倒れて電線が断線した地域では、修理までに長い時間がかかったという事例も。
西村)電源車が来て、早い段階で復旧しないのでしょうか。
小沢)電力会社や通信会社は電源車をもっていますが、災害時にどこにでも行けるほどの台数はありません。病院などが優先されると思います。
西村)南海トラフでは、今までの災害よりも広いエリアが被害を受けるので、電源車が全てをカバーするのは難しいのですね。1週間ずっと停電するのですか。
小沢)可能性はあります。電気は貯めておくことができないエネルギーです。発電所の停止、稼働の制限があるとわたしたちの家庭や会社で使える電力量が制限されます。東日本大震災の後に関東地方であったような計画停電が行われる可能性もあります。
西村)計画停電では、電力を使える地域が順番に移動していくんですよね。
小沢)例えば、「11~15時までは使用禁止」というような運用になります。
西村)想像以上に大変なことになりそう。1週間も停電が続くとなると、わたしたちの生活や避難にどんな影響が出ますか。
小沢)わたしたちの生活は、日々電気に頼っています。冷蔵庫を使っていない家庭はないですよね。エアコンも電気で動くので電気も使えません。日々の生活でスマホやパソコンに依存していますが、スマホの充電も制限を受けることになります。
西村)わたしたちの暮らしは電気がないとやっていけませんね。冷凍庫の中に買い置きしていた肉が腐ってしまったり、アイスクリームが溶けてしまったり...。
小沢)停電になると全て現実になります。
西村)我が家が台風で半日停電したとき、半日でも大変でした。食材を無駄にしないように、カセットコンロで調理して。結構パニックになりました。それが1週間も続くとなったら、本当に大変だと思います。避難所は電気を確保しているのでしょうか。
小沢)2023年の調査では、自治体が管理している指定避難所で、非常用の発電機を備えているとところは約6割でした。全ての避難所に発電機が備えられているわけではありません。南海トラフ地震の被害の範囲は広いので、避難する人が多くなると避難所がさらに開設される可能性もあります。発電機を備えていない場所を避難所として使うこともあると思います。
西村)自家発電機はきちんと動くのでしょうか。
小沢)東日本大震災では、大きな揺れや津波被害で発電機が被害を受けた事例がありました。それ以外にも、途中で発電機の燃料が切れてしまったとか日頃のメンテナンスをやっていなかったために動かなかった事例もあります。非常用発電機を持っている人は、日頃から試運転をしておいて、いざというときに使えるように備えておいてください。
西村)実際に使っておくことも大切な備えになるのですね。
小沢)避難訓練や防災訓練をきちんとしている組織、町内会もあると思いますが、発電機を実際に使ってみて、使えるかを確認することはとても大事です。
西村)いろんな困り事の中で特に心配なことは何でしょうか。
小沢)今までは冬に災害が起きることが多かったですよね。阪神・淡路大震災も東日本大震災も能登半島地震も寒い時期に起こりました。もし暑い夏に災害が起こったら...。冷やすという行動には必ずエネルギーが必要です。寒いときは、服を着込むこともできます。少し病気は気になりますが、部屋の中でまとまって過ごすと寒さがやわらぎます。しかし、冷やすには冷やすための機械が必要。エネルギーを投入しないと冷やすことができないのです。
西村)エアコンや扇風機が必要ですよね。冷やすエネルギーが確保できないときは、どうしたら良いのでしょう。
小沢)原始的ですが風通しのよい日陰で過ごす、色が濃い服より色が薄い服の方がいくらか熱を吸収しにくいので服装に気をつけるなど、わずかなことが大切になるかもしれません。
西村)熱中症も気になります。熱中症になっても助けが来るのかどうか...。
小沢)東日本大震災や能登半島地震の報道では、早い段階で救助が来ていると感じているかもしれません。しかし、南海トラフ地震は広い範囲で大きな被害になります。そうすると今までの災害で支援に来てくれた人たちも被害者になっている可能性が高い。本来、助けにきてくれる自治体や自衛隊の人たちも家族の安否がわからない、怪我をしているとういうことも。そんな人たちに「支援に来て」とはちょっと言えないですよね。
西村)しっかりと備えておかなければいけないと思います。ほかに心配なことはありますか。
小沢)国土交通省や自治体では復旧の計画を立てていますが、発災から3日間は、職員の安否確認や被害の把握、支援の計画に費やすことになる。支援に動けるのは、4日ぐらい経ってからになると思います。ぜひ3日分の備えはしておきましょう。水は1日あたり1人2~3Lは必要。3日分となるとやはり6~9L必要。大変ですが自身で備えておきましょう。
西村)水や食料をしっかり備える。さらに停電にも備えが必要だと思いますが、どんなものが有効ですか。
小沢)今はポータブル電源が普及してきています。能登半島地震では、スマホの充電のためにポータブル電源が支援物資にあったという事例も。支援に4日ほど時間がかかるので、ぜひみなさん、ポータブル電源を持っておいてください。一般の家庭で使う電力量は10kWh~25kWhと言われています。この量のポータブル電源を備えるとなると、100~200万円の投資をしなければならない。各家庭でそこまで出すのは現実的ではないですよね。家庭で災害時に必要な電気について日頃から考えおいて、その分を賄えるだけの電源は用意しておきましょう。
西村)ポータブル電源で、扇風機や携帯電話を充電することはできますね。
小沢)災害時にはスマホの充電や通信料も貴重に。情報収集は乾電池式のラジオを使って電池も備えましょう。調理にもなるべく電気は使わずに、カセットコンロを使うなど、エネルギーを電気に集中させない工夫をしてほしいと思います。
西村)小沢さん、どうもありがとうございました。
05月18日(日)
第1493回「熱中症の正しい対処法」
ゲスト:救急救命士 窪田陽平さん
西村)気象庁の3ヶ月予報によると、5月から7月の気温は全国的に平年より高くなる見通しです。体が暑さに慣れていないと、熱中症の危険はより高くなります。もしも自分自身や身近にいる人が熱中症になってしまったら、どのように対処すれば良いのでしょうか。
きょうは、元消防士で救急救命士として多くの熱中症患者を搬送してきた窪田陽平さんに熱中症の正しい対処法をお聞きします。
窪田)よろしくお願いいたします。
西村)窪田さんは熱中症対策アドバイザーとして、熱中症の啓発活動もしているのですね。
窪田)熱中症対策アドバイザーという資格は、環境省が後援している民間資格です。その資格をいかして、学校や企業で熱中症対策講座などを行っています。
西村)熱中症患者が一番多いのは何月ですか。
窪田)7月後半~8月がピークですが、夏の暑さに慣れていない今の時期から熱中症が発生する可能性があります。5月は熱中症に注意が必要です。
西村)熱中症の初期症状はどんな症状ですか。
窪田)高温多湿な環境下で、体温調整がうまくできない場合に熱が体内にこもって発症します。初期症状は、めまいや筋肉のこむら返り、手足のしびれ、大量の発汗など多岐にわたります。
西村)吐き気や頭痛も熱中症の症状ですか。
窪田)はい。いろいろあるのですが、初期症状は、大量の発汗やめまい、フラつきが多いと思います。
西村)子どもは暑いとき、よくしんどいと言いますが、熱中症か風邪かの見極めが難しいと感じます。
窪田)高温多湿な環境下に長時間いたかどうかが判断基準になります。家に帰ってから熱中症になることも多いです。
西村)これから夏祭りや万博、野外ライブなどに行く人も多いと思います。身近にいる人に熱中症の症状が出たら、どのように対処したら良いですか。
窪田)一番の判断基準は会話ができるか。対処法は4つあります。まず1つ目は、声をかける。会話ができて、呼びかけに応えることができたら、2つ目は、涼しい場所に移動させる。3つ目は、体を冷やす。4つ目は、水分・塩分の補給をする。この4点に注意してください。
西村)声をかけるときは、どんな言葉をかけたら良いですか。
窪田)名前がわかっていれば、名前を呼んで「〇〇さん、大丈夫?」と声をかけてください。一番反応しやすいのは、名前を呼ばれたときだからです。倒れている人を見つけて、名前がわからない場合は、肩をたたきながら「わかりますか?」と声かけをしてください。
西村)涼しい場所に避難させるとき、歩けない場合は、運び方など注意するポイントはありますか。
窪田)歩けない場合は、何人かで涼しい場所に移動させる。1人で歩けない状態、歩こうとしてもフラフラする状態であれば、迷わず119番してください。
西村)体を冷やすポイントも教えてください。
窪田)体には三大局所冷却部位があります。首元・脇の下・足の付け根です。この3点には太い血管が通っているので冷却に効率的です。手のひらや足の裏も冷やすと効果的。手のひらには動脈と静脈を繋ぐ血管があります。手のひらの血管を冷やすと全身を効率よく冷やせるので、ペットボトルを握らせてあげるだけでも冷却効果があります。
西村)冷たいものを何も持っていないときは、どうしたら良いですか。
窪田)涼しい場所に避難させて、近くにお店があれば「氷をください」と頼むと良いと思います。
西村)近くにコンビニがあったら良いですね。
窪田)コンビニで凍ったペットボトルを買って対処すると良いですね。
西村)首や脇の下、足の付け根に冷たいものを当てるだけで良いのですか。
窪田)凍ったペットボトルや氷嚢をタオルなどで包んで当ててあげると良いと思います。
西村)お年寄りや子どもなど、年齢によって注意するポイントはありますか。
窪田)高齢者や未就学児は自己判断が難しいので、家族や周りの人が日頃から熱中症対策をしましょう。水分補給に気をつけて、涼しい環境を整えてあげることが大事ですね。
西村)先ほどの4つの対処ポイントに戻ります。4つ目の水分・塩分の補給について教えてください。
窪田)無理やり飲ませるのではなく、ペットボトルを渡して、自分で飲めるのか判断してください。自分で飲めるなら、冷たい水・スポーツドリンク・経口補水液を飲ませてあげてください。自分で飲めないのに無理やり飲ませてしまうと、誤嚥や窒息の危険があります。
西村)子どもには、普段から飲ませてあげているので、いつもと同じように飲ませてしまいそう。自分で飲めない場合は、病院に連れて行くか救急車を呼ぶべきですね。ペットボトルにストローをさして渡してあげるのは大丈夫ですか。
窪田)ストローを使って自分で飲めるのなら可能です。
西村)この4点に注意して、どれぐらいの時間、安静にしていたら良いのでしょうか。
窪田)最低でも20分。20~30分様子を見て症状が改善しなければ病院へ。改善すれば自宅に戻って、安静にしましょう。めまいがあれば、めまいがおさまって、汗がひいて、しっかり歩ける状態になれば大丈夫です。
西村)歩けるようになって、吐き気も治まって頭痛がある場合は、病院に行った方が良いですか。
窪田)ちょっとでも不安に感じることがあれば病院へ行った方が良いです。
西村)最初に声をかけたときに、会話ができなかった場合は、救急車を呼んだ方が良いですか。
窪田)一番重要なのは会話ができるかということ。声をかけても「意識がはっきりしない」「ぼーっとしている」「自分の名前が言えない」「今日の日付が言えない」という場合は明らかに意識状態が悪いので、迷わず119番してください。声をかけたときに痙攣や歩けない状態にある場合は運動障害があるので、119番をしてください。熱中症は、重症化すると脳がダメージを受け、後遺症が残る場合も。最悪の場合は死に至るケースもありますので、非常に怖いです。
西村)特に熱中症に注意が必要な人は。
窪田)自己判断ができない高齢者や子どもです。高齢者は暑さを感じにくい、汗をかきにくいことも。周りの人が声をかけて、水分補給や暑さ対策を行ってください。過去に救急車で搬送した患者は屋内にいることが多かったです。クーラーあるのに節約を優先して、扇風機で過ごしてしまう人をたくさん見てきました。命を守ることを一番に考えてほしいです。小さい子どもは、大人よりも身長が低く、地面からの距離が近いです。太陽の照り返しの熱を受けやすいので、夏は常に熱中症対策が必要です。
西村)ベビーカーで散歩するときも気をつけた方が良いですか。
窪田)ベビーカーにつける扇風機や冷やす氷も活用しましょう。
西村)ペットも気をつけた方が良いですか。
窪田)ペットも暑さを感じやすいです。
西村)散歩しているワンちゃんを見ていたら、足が熱いコンクリートに当たっていて...。散歩の時間帯も気をつけた方が良いですよね。
窪田)夏は、いつもより散歩の距離を減らすなどの対処をしてください。
西村)高齢者に「クーラーつけて」と言っても、「節約するから」と言ってなかなかクーラーをつけてくれないことがあります。そんな人は多いですか。
窪田)多いと感じます。統計を見ても、高齢者が屋内で熱中症になるケースが多いです。家族に注意を呼びかけられたのに家族が仕事から帰ってくるとクーラーをつけてなかったという例も。一人暮らしの高齢者は、久々に訪れた家族やヘルパーが救急車を要請することが多いです。
西村)地域の見守りは大切ですね。
窪田)自助共助が大切です。熱中症も災害と捉えて、地域で命を守ることは重要だと思います。
西村)自分自身に熱中症の症状が出たらどうしたら良いですか。
窪田)涼しい環境と自分の体温を下げること。第1は無理をせず、こまめに水分補給をしましょう。少しでもしんどいと感じたら、一旦涼しいところで休む。自分自身で気をつけるのはもちとん、職場でも注意を促していただければ。
西村)職場の環境も大切ですね。来月から企業で熱中症対策が義務化されます。水分はその状況に応じて水、経口補水液など飲むものを変えた方が良いのでしょうか。
窪田)水分とともに塩分も減るので、スポーツドリンクや経口補水液はおすすめです。1Lの水に対して、1~2mlぐらいの食塩を混ぜることが推奨されています。
西村)お年寄りがいる家庭は、経口補水液を買って冷蔵庫に入れておくと良いですね。
窪田)毎年のように熱中症で亡くなられる人がいますので、誰にでも起こり得ることと捉えて、油断しないこと。外出の際には帽子や日傘など熱中症対策をしましょう。水分補給など簡単にできることが自分の命を守ることにつながります。熱中症予防を心がけて、健康で充実した夏を過ごしてください。
西村)きょうは、元消防士で救急救命士として多くの熱中症患者を搬送してきた窪田陽平さんに、熱中症の正しい対処法をお聞きしました。
05月11日(日)
第1492回「落雷から身を守る」
オンライン:防衛大学校 教授 小林文明さん
西村)先月、奈良市の帝塚山学園のグラウンドに雷が落ち、サッカーの練習をしていた中学生2人が一時意識不明の重体となりました。これから落雷が増えるシーズンを前に、改めてどんな点に注意すれば良いのか。雷のメカニズムに詳しい防衛大学校 教授 小林文明さんに聞きます。
小林)よろしくお願いいたします。
西村)4月10日の夕方、グラウンドでは帝塚山学園の中学校と高校のサッカー部約20人や野球部が練習していました。顧問によると、「急に雨脚が強くなって中断しようか迷っていたところに落雷があった」「判断する間もなかった」などと話しているということです。小林さんはどう感じましたか。
小林)春は落雷の事故が多い季節です。入道雲がたくさんあって雷が落ちてくる夏に比べて、春は雷が少ない印象だと思いますが、条件によっては春も雷が起きやすいです。1年前の4月に九州で、サッカーの試合準備中に落雷事故がありました。スポーツ中の落雷事故はよく起こっています。また起こってしまったのか...という印象です。
西村)帝塚山学園の顧問は当時、「雷注意報は頻繁に出ているので認知していなかった」と話しているそうです。
小林)雷には警報がなく注意報しかありません。竜巻も注意報しかありません。ピンポイントではなく、県や市町村など広い範囲に長時間出されるのが一般的。注意報が出ていたとしても自分の頭の上は晴れていることがあります。雨も降ってない、雷も起こってないことがしばしばあるので、竜巻や雷の注意報で行動を100%決めるのは難しいと思います。もちろん注意はしなければなりませんが、雷注意報が出ているからといって、練習を中止していたら練習をする日がなくなってしまいます。非常に判断が難しい状況だったと思います。
西村)夏なら積乱雲が出ていると雷が起こるとわかるのですが、春の突然の雷に予兆はあるのでしょうか。
小林)雷は発達した積乱雲が発生するというのが一つの条件。それを事前に探知・認識していれば、回避することは可能です。大阪なら六甲山地から雷雲が駆け下りてくることがあると思うのですが、春は決まった条件がありません。過去の事例でも大気が不安定になっているときに雷が起こっています。今回も強い寒気が上空に入ってきて対流活動が活発になりました。上空に寒気が入ってくると日本中に雷が鳴る状況が続きます。低気圧に伴う前線の影響もあります。寒冷前線が通過するときに、強い雨、雷が伴います。今回もそのような条件が整っていて、雷は起こるべくして起こったのだと思います。ただ、非常に局地的だったので、当該グラウンドでは、それまでに雷は起こっていなかったのに、ファーストストライクで事故が起こったのだと思います。
西村)他人事ではないと感じます。屋外で雷が発生した場合はどうしたら良いのでしょうか。
小林)雷がピカっと光って、ゴロゴロと音が聞こえるまでに時間差がありますよね。音の方が遅いので、10秒かかったら3km離れていると聞いたことがあると思います。今は状況が変わって、発達した雷雲は数10km~大きいものなら100kmを超えます。ですから、3km離れていて光ったら、次は自分の頭に落ちる。ゴロゴロ鳴ったり、光ったりしたら次は我が身ということです。そこから行動するのでは遅い。今は、スマホで落雷の情報が見ることができるので、スポーツやレジャー中、日々の生活の中で、情報に注意をして行動することが必要です。
西村)どんな情報を見れば良いのでしょうか。
小林)気象庁ホームページで「雷ナウキャスト」を公開しています。これは、明日の天気ではなく、5~10分後の天気がわかるものです。あるいは、さまざまな気象会社が出しているレーダー予報などを見ながら、自分の周りの雷雲、遠くの雷雲のようすを確認すれば、ほぼ状況を把握することができます。雨が降り始める前、雷が落ちる前に、50~100km離れている雷雲を確認しながら逃げることができます。
西村)お天気アプリの「雨雲レーダー」の雷版ですね。
小林)気象庁の「雷ナウキャスト」は雷に関して最も信頼性が高いと思います。さらに雨雲レーダーなどでリアルタイムの雨雲の位置を見てください。最後は自分の目で見上げて判断する癖をつければ、ほぼ身の安全を守ることができると思います。
西村)どんなときに雷情報をチェックしたら良いですか。
小林)登校、通勤時、買い物に行くときなど日々の生活の中で、情報をチェックする癖をつけておけば、いざというときに役に立ちます。学校の指導者は、雷注意報が出ているときは、常に情報をキャッチしながらいつ練習をやめるか、再開するかを判断する。今回の事例は突然ではありましたが、周辺で雷雲が発生して接近している状況ではあった。常に監視していれば早めの行動をとることができたと思います。
西村)やはり自分で情報を集めておかないといけないですね。
小林)1年前の4月に起きた九州の落雷事故では、曇天で雨が降る気配もなかったのに突然雷が落ちました。雷雲が遠くから近づいてはきているけど、全く予兆がなかったのです。そこが春の雷の怖いところです。夏の雷なら、発達したひとつの積乱雲から数千回という雷が起ります。春や冬の雷は1回落ちておしまいということも。あまり学校で教えてくれないと思いますが、良い機会なので、家庭や学校で話し合っておいてほしいと思います。
西村)突然雷が発生した場合、どのように避難すれば良いのですか。
小林)近くに雷が落ちたら、もう神に祈るしかないですが、昔から「雷におへそを取られないように」といいますよね。頑丈な建物や車(手を出したり何か触ったりしければ安全)の中に逃げれば安全ですが、逃げる場所がないときにする対策はふたつ。ひとつは保護域を見つけること。「高い木の近くは危険」ということはみなさん認識していると思います。木に落ちた雷の電流が人に移って人の頭から足先に出ていくからです。しかし、高い木や高い鉄塔から4m離れていれば安全です。これを保護域と呼びます。例えば30mの鉄塔があれば、半径30m以内が保護域。ポールから4m離れて領域中に入って小さくかがむ「雷しゃがみ」をすると、ほぼ雷から身を守ることができます。「雷しゃがみ」は単にしゃがむだけではなく、ポイントが3つあります。ひとつは、足を揃えること。雷は「直撃雷」「側撃雷」のほかに「地電流」もあります。地面に落ちた雷の電流が地面を流れるのです。そこに人が立っていると、両足の間に電位差ができるので、電流が流れてしまう。ですから、電流が流れないように足を揃えてください。一番いいのは1本足。でも1本足でしゃがむのは難しいと思うので、足を揃えてしゃがむ。できれば地面への接地面積を小さくしたいので、つま先立ちで足を揃えてしゃがんでください。言うのは簡単だけどやるのは難しいと思います。
西村)しゃがみながらかかとを上げなければいけないのですね...。
小林)接地面積を小さくしたいからです。さらに、近くに雷が落ちるとその衝撃波や爆音・爆風で鼓膜が破れるので、親指で両耳をふさぐこと。保護域を見つけてこの「雷しゃがみ」をしていると、雷雨なのでずぶ濡れにはなりますが、命は守ることができる。これらを学校で教えて欲しいのですが...まだまだ知られていないのが現状だと思います。
西村)雷からの避難方法をまとめると...
●木から4m離れて保護域へ
●「雷しゃがみ」をする(耳を両手でふさいで、足は揃えて、つま先立ちでしゃがむ)
小林)ぜひ一度やってみてください。多分難しいと思います。スクワットするより難しいかもしれませんが、生きるか死ぬかというときには、正しい姿勢を取ることが大事です。
西村)どれぐらいの時間、この姿勢をキープしたら良いのでしょうか。
小林)雷雲が通り過ぎるまで最低でも20~30分かかります。でも30分もこの姿勢を保つことは、なかなかできないし、周りは嵐で怖いしずぶ濡れになってしまいます。これは最終手段。「雷しゃがみ」をしなくていいように、それまでに逃げることが大事です。
西村)改めてわたしたちは、雷に対してどんなことを心がけておいたら良いのでしょうか。
小林)日本は、世界的にも一年中雷が起こる場所。夏の雷だけではなく、日本海側の雪雲からの冬季雷もあります。雷は昔から日本人にとっては身近な存在です。こうした人体に対する被害だけではなく、スマホやコンピュータなど電化製品に対する被害もあります。雷や嵐が来たら、収まるまでは家の中で何も触らずにじっとしていること。電化製品のコンセントを抜くなど対策をしましょう。自然現象に対しては、昔の人と同じように畏怖の念を持って、通り過ぎるのを待つ。普段からの備えをする気持ちは大事です。気象は目で見ることができるので、スマホなどで確認して学習しておけば、いざというときに危険な積乱雲を見分けることができると思います。
西村)きょうは、雷のメカニズムに詳しい防衛大学校教授の小林文明さんにお話を伺いました。
05月04日(日)
第1491回「南海トラフ巨大地震 13年ぶり被害想定見直し」
オンライン:名古屋大学 名誉教授 福和伸夫さん
西村)今後30年以内の発生確率が「80%程度」とされている南海トラフ巨大地震。その被害想定が13年ぶりに見直されました。被害が最も大きかった場合の死者は、全国で29万8000人と、前回の想定から1割弱減少しましたが、国が掲げた「8割減」の目標には到底およびませんでした。
きょうは、被害想定などを検討してきたワーキンググループの主査で名古屋大学名誉教授の福和伸夫さんにお話を聞きます。
福和)よろしくお願いいたします。
西村)今回の被害想定に対する率直な感想を聞かせてください。
福和)南海トラフ巨大地震による被害は甚大であるということが言えます。この10年間で8割減を目標としていた死者数がほとんど減りませんでした。住宅の耐震化があまり進まなかった、津波の避難意識が明確に上がったという証拠が得られなかったからです。住宅の全壊焼失棟数は235万棟でほとんど減っていません。このままではこの国の将来は危ぶまれます。これからの10年間で本気になって、被害を減らす努力をしなければならないと思います。
西村)この被害想定は、どのようなケースを想定しているのでしょうか。
福和)地震の起き方によって被害の幅があります。今回行った被害想定は、最悪のケースであるマグニチュード9クラスの最大クラスの地震を想定しています。東日本大震災が起きたとき、多くの人たちは「想定外」と言いました。当時はまさか日本でマグニチュード9の地震が起きるとは考えていなかったからです。南海トラフ地震に関しては、再び想定外を再び起こさないために、万が一に備えたマグニチュード9の地震を想定しているのです。しかし、地震の揺れが東に寄ることや西に寄ることもあるので、今回は一番被害が大きいケースとして、マグニチュード9の地震で陸側に震源域が寄った場合で、さらに津波から避難しにくい冬の深夜を想定しています。
西村)まさに阪神・淡路大震災が起きた時間ですね。
福和)さらに風が強く吹くと被害が大きくなるので、このような最悪の事態を想定しています。
西村)南海トラフ巨大地震で津波が来る地域はどのあたりですか。
福和)南海トラフ地震の震源域は、駿河湾から九州の宮崎沖まで広がっています。東西700kmぐらいあります。これによって生じる津波は関東から九州までおよびます。津波の高さは四国の土佐清水や黒潮町で最大で34m。伊豆半島の先端の下田で31m。10階建てのビルぐらいの高さの大津波が襲ってくると予想されています。
西村)関西もその範囲に入っているので他人事ではないと改めて思います。今回、国が掲げた「8割減」に及びませんでしたが、前回の想定よりも少し死者数が減りました。これは評価できますか。
福和)あまりにも減った量が少ないです。8%程度しか下がっていません。8%しか減らなかった理由は、家屋の耐震化がほとんど進まなかったからです。津波避難意識が確実に高まったという状況もありません。このふたつが大きな原因です。それが如実に現れたのが、去年の元日に起きた能登半島地震。たくさんの建物が壊れましたね。日本全体では、耐震化率90%程度と言われていますが、奥能登の耐震化率は50%前後でしかなかった。西日本の多くの被災自治体は、東京・大阪・名古屋のように耐震化率が高い地域はありません。多くの市町村では若者が減っていて、多くの人は大都市に出て行ってしまいます。そうすると建物の建て替えが進みません。しかも高齢者が多くなってくるから耐震補強も進まない。一方で、災害に弱い人が増えてくる。これは深刻な状況です。奥能登で起きたことは、「今の日本の災害危険度は改善されていない」ということを教えてくれています。
西村)能登の被害を見ていると、倒れている建物は木造の家屋が多いですよね。能登を訪れたときに、住人に「家の耐震化をしようとは思わなかったのですか?」と聞いたら、「もうわたしたち先が長くないから。お金もないし」とおっしゃっていました...。
福和)でも、石川県は、耐震改修の補助制度はものすごく充実していて、150万円を補助してくれるんです。耐震にあまりお金をかけなくてもいい制度はあったのに「耐震化しましょう」と説得する人が十分にいなかったのではないでしょうか。制度をきちんといかせていなかったとも言えます。
西村)これは能登だけではなく、ほかの地域にも言えることですね。
福和)その通りです。あまりお金をかけなくてもすぐできる対策はどんなことがあると思いますか?家具の転倒防止対策はすぐできますよね。
西村)そうですね。突っ張り棒をつけるとか...。
福和)突っ張り棒はあまりオススメしません。
西村)そうなんですね!
福和)突っ張り棒は、天井がやわらかければ突っ張りません。突っ張り棒ではなく、きちんとL字金具をつける方が良いです。L字金具で固定するときも壁の奥に硬い部分がある場所に固定しなければと役に立ちません。このような対策は、お金がかかるわけではないのに多くの人はやりません。どうしてだと思いますか。
西村)いつでもできると思っているから?
福和)面倒くさいからです。家屋の耐震化も申請も面倒くさいでしょう。家の中に人が入ってくると工事をしている間、居心地が悪くなる。だから耐震対策を先送りしてしまうんです。
西村)面倒くさいことだらけ...と思ってしまいますね。
福和)でも、対策をしなかったら、自分の命もないし、家族の人も困るし、家が壊れたら隣近所にも迷惑がかかるんです。みんなできちんと耐震対策をしようという雰囲気を作ることが大事。
西村)住宅の耐震化を進めれば、死者数は減るのでしょうか。
福和)きちん住宅の耐震化をすれば命を守ることができます。怪我もしません。怪我をしたら津波から逃げられない。まず「耐震化をしっかりする」「揺れたらすぐに逃げる」このふたつを確実にすれば、圧倒的に死者を減らすことができます。ひとりひとりの気持ちで決まるんです。これは行政ではできないことです。
西村)わたしたちの気持ちひとつですね。
福和)その気持ちを変えてくれるのが、西村さんたちジャーナリズムなんです。
西村)そうですね。大きな役目を担っているのですね...。
福和)多くの人々がその気になって、少しでも被害を減らすように行動を起こすことが望まれます。それぞれできることから始めてください。どうしてもできない人には、行政が手を差し伸べることが必要だと思います。
西村)どんな建物が危険ですか。
福和)1981年よりも古い建物は耐震基準が古いので、建物が壊れやすいです。1981年よりも前に建てられた木造住宅は壁が足りません。1981年に壁の量を増やす基準が設けられたので、阪神・淡路大震災のときも1981年以降の建物は相対的に被害が少なかった。2000年にもう1度、木造住宅の耐震基準が改正されたことにより、2000年以降の建物は強く、能登の地震でもほとんど壊れていません。まずは古い建物が安全かをチェックして、安全性が足りなければ、直すことが大事。一方で、都会ではマンションに住んでいる人たちがたくさんいます。マンションの場合は、2000年には改正されてなくて、1981年に改正されただけなんです。能登の地震では、軟弱地盤の建物が沈んだり傾いたりしました。杭の耐震は、強い地震動に対しては十分ではありません。軟弱な地盤は、建物の重さを支えられないから、下に杭を作って支えるのですが、地震の揺れにより杭が損傷して、建物が傾いたり沈んだりしてしまいます。
大阪でも、上町台地と地盤が軟弱な西側で同じ建物を作っていますよね。変だと思いませんか。西側の軟弱地盤の方がよく揺れるはずです。軟弱な地盤に建てるマンションは強い方が良いとみなさんが考えるようになると、不動産会社もより安全な建物を作ろうと思うわけです。わたしたち住民側が何を大事にするかで作られるものが変わってくる。安全な建物で、地震後も住み続けられる建物が良いと思う人が増えると安全な建物が供給されるようになると思います。
西村)マンションは、頑丈で安全というイメージがありました。
福和)みなさんは、マンションを買うときに何を大事しますか。便利な場所が好きでしょう。
西村)駅から近い方が良いですよね。
福和)便利な場所の駅は、蒸気機関車の時代にできました。蒸気機関車のほとんどの駅は危険な場所にあったんです。大阪の「梅田」は、田んぼを埋め立てた場所です。
西村)だから「梅田」と呼ぶのですね。
福和)便利な場所は、本当に安全なのかを考える必要があります。便利な場所は、土地が高いから背が高い建物を建てがちです。建物高いと揺れやすい。面積を広くしたいから少し柱を削る場合も。そうすると安全性は損なわれますよね。便利さを大事にするのか、見栄えを大事にするのか、設備を大事にするのか...。そうすると安全性はギリギリな建物が作られている可能性もあるわけです。わたしたち自身が何が大事を考えながら、住宅選びができるようになると安全性が高まるかもしれません。
西村)きょうは、名古屋大学 名誉教授 福和伸夫さんにお話を伺いました。
04月27日(日)
第1490回「番組30年企画【2】~視覚障害のリスナーと考える防災」
オンライン:リスナー たまねぎちゃん
西村)放送開始から30年の節目を迎える今回は、番組に毎週メールをお送りいただいているリスナーの「たまねぎちゃん」と電話をつなぎ、リスナー目線での防災について一緒に考えていきます。今電話がつながっています。
たまねぎちゃん:以下たま)よろしくお願いいたします。
西村)7年間、毎週欠かさずメールを送ってくださってありがとうございます。メールを紹介する中で、たまねぎちゃんは、目が不自由な人だということがわかりました。きょうは、たまねぎちゃんがどんな暮らしをしているのか、災害時に目が不自由な人にどのように接したら良いのか...などいろいろ聞きたいと思います。たまねぎちゃんがこの番組を聞き始めたきっかけは?
たま)阪神・淡路大震災から2年後に病気になりました。しばらくして網膜剥離になってしまって。そのうちにだんだん目が見えなくなりました。病院の先生には、原因がわからないと言われて。その後、悪性リンパ腫の抗がん剤治療で1年間ほど入院。阪神・淡路大震災から6年後には、完全に失明してしまいました。
西村)そうだったんですか。
たま)それからは、テレビを見ているとき、音声がない部分が理解できずに苦しくなってきて。隣に娘がいたときはいちいち聞いていたんですけどね...。そのうち、ラジオを聞くようになりました。ラジオならハンデがないでしょう?この番組を聞くようになったのは、チャンネルを探っていたら偶然行き当たったからです。
西村)運命の出会いですね!
たま)水野晶子(元・MBSアナウンサー)さんの「たね蒔きジャーナル(2009年10月5日~2012年9月29日放送)」を聞いていたのですが、その流れで聞いていました。「たね蒔きジャーナル」を水野さんが"たまねぎジャーナル"と言い間違えていたのがラジオネーム"たまねぎちゃん"のきっかけです。中学生のときにあだ名が"たまねぎ"だったというのもあって。
西村)なぜ"たまねぎちゃん"というあだ名だったんですか。
たま)理由はわからないんだけど、寄せ書きにみんな"たまねぎちゃん"と書いてくれていたのを覚えています(笑)。
西村)たまねぎちゃんは、約7年間ずっとメールを送ってくれています。どんなことに興味を持って、番組を聞いてくれているのですか。
たま)阪神・淡路大震災のときは目が見えていたけど、急に見えなくなってからは、ちょっとした揺れでも怖くて。不安が大きくて、防災に興味を持つようになりました。どうしたら安心できるかなと思って...。
西村)目が見えない生活の中で、災害時の避難など、どんなことを心配していますか。
たま)災害時は、1人では行動できないと思います。避難場所はすぐ隣にあるのですが、遠回りをしないといけないんです。避難訓練で練習はしたのですが、毎日行くわけではないのでもう道を忘れてしまいました...。
西村)今住んでいる家は、失明する前と同じ家ですか。
たま)生まれたときから同じ家に住んでいます。
西村)勝手を知っている我が家ではあるけど、目が見えなくなってからは1人で避難するのは不安なのですね。
たま)ヘルパーさんは、「歳をとってから目が見えなくなったら怖いと感じると思う」と言っていました。
西村)いろいろわかっているからこそ、怖いこともあるのですね。誰か一緒に避難してくれる人がいたら良いですね。
たま)いつもヘルパーさんがいてくれたらいいんですけど...。
西村)もしわたしが、たまねぎちゃんの避難をお手伝いするとしたら、どのように声掛けをして、どのようにお手伝いをしたら良いですか。
たま)手を引っ張ってもらったら怖いので、腕を貸してもらえたらうれしいです。
西村)たまねぎちゃんの手を取って、「わたしの腕を持ってください」と言えば良いですか?
たま)そうです。腕を貸してもらえたら白杖で歩くことができます。腕を引っ張られたら怖いんです...。
西村)目の不自由な人をお手伝いするときは、それを心にとめておきたいと思います。この番組を聞いて、実際にやってみた防災対策はありますか。
たま)我が家は、昔の家なのでガラス戸が多くて危なくて。アクリル板につけ替えてもらったんです。ガラス戸だと割れたら怖いから。最近聞いたローリングストックの回も参考にしました。長期保存の防災食をたくさん買っていたのですが、賞味期限をチェックするのを忘れていて、番組を聞いてあわてて調べたんです。そしたら賞味期限が3月で切れていて。ラジオで言ってくれて良かったです。
西村)長期保存可能のものは、なかなかチェックしないですもんね。
たま)少し多めに買ってローリングストックした方が良いとラジオで言っていたので、長期保存はやめました。
西村)実践してくれてありがとうございます!これからのネットワーク1・17に期待することはありますか。
たま)普段、のほほんと生活しているから番組を聞くたびに刺激になっています。ずっと続けてほしいです。わたしは被災地にボランティアに行けないから、寄り添うことしかできないけど...。ラジオで被災地の状況がわかるのは良いと思います。
西村)この番組からも引き続き被災地の声を届けていきます。
きょうは、ネットワーク1・17放送開始30年に当たり、リスナーのたまねぎちゃんにお話を伺いました。