第1501回「トカラ列島群発地震」
オンライン:京都大学防災研究所 教授 西村卓也さん

西村)鹿児島県のトカラ列島近海で、この3週間地震が続いています。十島村では6月21日以降、これまでに震度1以上の地震を1700回以上観測しました。7月3日には最大震度6弱の揺れを観測し、多くの住民が島の外へフェリーで避難しました。現在、悪石島と小宝島から64人が鹿児島市などに避難しています。一時的に島を離れて避難を決めた人の話、避難が難しい人の話をお聞きください。
 
音声・住人1)横揺れや下から上からドーンと来ました。いつどうなるか不安だったから鹿児島に行きます。行きたくても行けない人のことを思うと不安もあります。
 
音声・住人2)息子がまだ低学年なので避難してホっとしています。
 
音声・住人3)ずっと地震が続いて不安で。大きいのが来るのかと思うと不安。まだ島に残っている人たちのことを考えたら...。早く収まってほしいです。
 
音声・住人4)うちは牛を飼っていて簡単には避難できないので残ることにしました。長く続くなら、奥さんと子どもたちだけでも避難させることも考えています。

 
西村)大きな不安が続いて、みなさんの体調が心配です。地震の回数は多いときは1日に180回以上も観測されていたのですが、ここ数日はかなり回数が減ってきています。十島村の久保源一郎村長は、一定期間、震度4以上の地震がなければ住民が島に帰れるよう準備を進めることを明らかにしました。
 
音声・村長)震度4以上の地震が5日間以上発生しなかった場合、帰島する意向の有無を確認することとしました。帰島に向けての準備を進めます。
  
西村)この群発地震、早く収まってほしいと願うばかりです。ここからは、地震のメカニズムに詳しい京都大学防災研究所 教授 西村卓也さんに聞きます。
  
西村教授)よろしくお願いいたします。
  
西村)今回のトカラ列島近海での群発地震の要因はなんですか。
 
西村教授)トカラ列島近海では過去に何度も群発地震がありました。今回は、1995年以降の観測記録が残っている中で、最大規模の地震が起こっています。地震の回数も過去に比べるとかなり多いです。トカラ列島は陸のプレートの下に海のプレートが沈み込んでいる場所。今回の地震は、ユーラシアプレートの比較的浅いところで起こっています。この辺りには活断層や火山がたくさんあります。火山のマグマ活動も関連して断層を動かしていることが、小さな地震がたくさん起きている原因ではないかと考えています。
 
西村)マグマの活動が関連しているのですね。
 
西村教授)トカラ列島の島々には火山が多く、悪石島や小宝島の周辺には海底火山もあります。活断層による地震を頻繁に起こさせる原因となっているのが、マグマの活動ではないかと考えています。
 
西村)ほかに、一般的な地震と異なる点はありますか。
 
西村教授)普通の地震活動では、最初に大きな本震が来てその後に小さな余震が続きます。そして時間とともに数が減っていく。しかし、トカラ列島の地震活動は群発地震と呼ばれる地震で、必ずしも明確に大きい地震があるわけではありません。同じような規模の地震が何回も続くのが特徴です。
 
西村)住民からは、「ずっと地震が続くのが不安」「大きい地震が来ると思うと不安」という話がありました。
 
西村教授)過去の例では、約2~3ヶ月続いた事例も。ここ数日間は地震活動も低下してきたので、このまま落ち着いてほしいですね。
 
西村)群発地震はなぜ長い間続くのですか。
 
西村教授)地下10kmぐらいのところに"マグマだまり"という、マグマが大量にたまっている場所があり、そこからマグマが浅い方向に移動します。移動している間は地震が継続して起こります。マグマが海底まで達すると海底から噴火することも考えられますが、マグマはほとんど途中で冷え固まってしまうので、それ以上マグマが移動することはありません。そうすると、群発地震も収まります。
 
西村)今後、大きな地震や津波が起こる可能性はありますか。
 
西村教授)現状、マグニチュード5程度の地震が起こっています。この規模なら津波の原因となる海底変動は生じませんので、津波が起こる可能性は低いです。ただ、これが周囲の大きな断層を刺激し、大きい地震につながることも。地震の揺れに伴った海底の地滑りや大規模な土砂崩れが海に流れ込むと、津波の危険性が高まります。
 
西村)今起こっている地震は、マグニチュード5程度なのですね。
 
西村教授)はい。現状では、津波を起こす規模ではありません。
 
西村)震度6弱の大きな揺れもありましたが、それもマグニチュード5クラスですか。
 
西村教授)震源と人が住んでいる島が近いため、震度が大きくなっていますが、地震の規模としてはそこまで大きな地震ではありません。
 
西村)鹿児島県では新燃岳が噴火しました。何か関連はあるのでしょうか。
 
西村教授)新燃岳の噴火も地下のマグマの移動が原因ですが、新燃岳とトカラ列島は約300km離れています。関連性はあまりなく、それぞれが同じような時期に活動が活発化したというふうに考えられます。
 
西村)トカラ列島では、諏訪之瀬島で噴火があり、震度3の揺れが5回ありました。これについてはいかがですか。
 
西村教授)こちらも地震が今起こっているところから約50km離れています。諏訪之瀬島は、普段から頻繁に噴火しています。今回の地震の影響を受けて噴火したのではなく、独立した現象ではないかと考えています。
 
西村)同じ時期にいろいろなところで、噴火したり地震が起こったりすると不安になります。
 
西村教授)日本列島は地震や火山が多い場所。ある時期に活動が集中することもありますが、お互いに因果関係があるわけではありません。日本列島で普段から起きている活動がたまたま集中してしまっただけと考えて、それほど心配せずに、普段から地震や火山の噴火に対する備えを強めるきっかけにしてもらえたら。
 
西村)気温が暑くなる夏に噴火しやすいということはありますか。
 
西村教授)気温は、噴火には関係しないというふうに言われています。ただ、季節と地震の発生の関係についての研究もされています。まだまだ研究段階で調べている段階です。
 
西村)トカラ列島の外に避難している住民がいます。早く日常生活に戻りたいという話も。十島村の久保源一郎村長によると、震度4以上の地震が5日間以上発生しなかった場合、島に帰ることができるとのことです。
 
西村教授)大きな地震が5日以上発生しなければ、地震活動が収束したと判断するのは妥当だと思います。原因の一つであるマグマ活動については、マグマは、1度冷え固まってしまうとそれ以上地震を起こすことはなくなります。過去の事例でも、1週間~1ヶ月で固まって止まってしまうことが多いです。
 
西村)どれぐらいの期間、注意が必要なのでしょうか。
 
西村教授)過去のトカラ列島の活動を見てみると、一旦落ち着いたように見えても、1~2ヶ月の間にぶり返すことがあったので、今後もその可能性は十分あると思います。ただ、活動的な期間は1~2週間に集中することが多いので、一旦地震活動が下火になれば、しばらくの間は地震活動に注意しながら通常の生活を続けられると思います。今回のようなことが起こりやすい地域であると認識して、今後も群発地震が発生する可能性があることを知ってほしいです。
 
西村)今回の地震が南海トラフ巨大地震を誘発する可能性はありますか。
  
西村教授)心配要りません。今回の地震の規模や南海トラフ地震の震源域までの距離を考えると、今回の地震が南海トラフ地震に何らかの影響を与えることは考えにくい。ただ、南海トラフ地震は、今後30年間に80%の確率で発生すると言われているので、十分に備えをしてください。
 
西村)改めてどんな備えが必要でしょうか。
 
西村教授)まずは身の回りの家具の固定、簡易トイレ・食料・水の備蓄など。連絡が取れなくなった場合、どのように集まるのか家族で確認しておくということも必要です。
 
西村)夏休みに、家族や友人と改めて備えについて確認しましょう。
きょうは、京都大学防災研究所 西村卓也さんにお話を伺いました。

第1500回「番組1500回~災害時に頼れるラジオとなるために~」
ゲスト:元番組プロデューサー 毎日放送報道情報局 大牟田智佐子さん

西村)1995年に発生した阪神・淡路大震災をきっかけにスタートしたこの番組は、1500回目を迎えることができました。災害報道と防災に特化した番組が30年にわたって続いているのは、全国的にみても例のないことです。リスナーのみなさん、番組にご協力いただいている災害・防災関連の研究者の方々、被災地から声を届けてくださっているみなさまのおかげです。長い間、番組を支えていただき、ありがとうございます。
きょうは、"災害時に頼れるラジオ"となるためにはどうしたら良いのか。1998年から12年間、この番組のプロデューサーをしていた毎日放送 報道情報局の大牟田智佐子さんと考えます。
 
大牟田)よろしくお願いいたします。
 
西村)大牟田さんは番組を離れてからも防災関連の取材や発信を続け、兵庫県立大学大学院で災害時のラジオの役割について研究し博士号も取得。その原動力は?
 
大牟田)2つあります。ひとつは"ラジオが作り出す温かいコミュニティの魅力"。わたしとラジオの縁は1980年頃までさかのぼります。当時はAMラジオの深夜放送のとある人気番組を聞かないと翌日のクラスの話題についていけない...という中学生時代を送っていました。友人に誘われてパーソナリティに差し入れを渡しに行ったことも。テレビに出ている有名な人がラジオだと身近になりました。ラジオで呼びかけると、リスナーがそれに答えて集まったり、行動を起こしたりすることを実感しました。その次の縁は、この毎日放送に入社したとき。最初に配属されたのはラジオ局でした。そこで番組ディレクターをしたり、人気番組「ヤングタウン」のハガキ選びを手伝ったり、ベテランのラジオディレクターが常連さんと接する姿を見たり。制作者側から見ても、ラジオの作り手とリスナーの距離が近く、ほんわかするコミュニティがあることを実感しました。
ふたつ目は、"災害や防災を伝える手段としてのラジオの可能性"。これは「ネットワーク1・17」を担当していたときに気づきました。この番組を担当する前はテレビの報道で災害担当記者をしていたので、余計にテレビとラジオの違いを感じました。テレビは、映像の力で地震のメカニズムを解説して防災を呼びかけるのですが、ラジオでは映像やCGは使えません。対話形式で伝えることになります。ひとりひとりの生活に密着して防災を考える。被災者が直接自分の言葉で語り、大切な家族を亡くした人が亡くなった家族のこと、自分の人生がその日を境にどう変わってしまったかを語って、それを聞くパーソナリティやわたしたち制作者が涙を流す...といった体験をして。リスナーさんからも「災害に対する考え方が変わってきました」「自治会で防災担当に手を挙げました」というお便りをいただくようになりました。ひとりひとりの声や物語を伝えることによって、聞いている人の行動が変容する手応えを感じたんです。

 
西村)放送開始当時、「ネットワーク1・17」は、どんな番組だったのでしょうか。
 
大牟田)この番組は阪神・淡路大震災が起きた3ヶ月後の1995年の4月15日にスタートしました。当時のスタッフ・出演者全員が被災者で、"被災者による被災者のための番組"として始まったのです。土曜日夕方45分間の生放送でした。その時間帯になるとスタジオの窓から夕日が見えて、ゆったりと時間が流れていたことを覚えています。生放送中にリスナーさんからFAXやメールがきて、最後のコーナーでそれを紹介すると、ゲストがその質問に答えてくれて。放送中にも地震の速報を入れていました。毎回慌ただしかったのですが、スタジオの中とリスナーさんがつながっている感覚がありましたね。
 
西村)そんな中で、番組打ち切りの危機もありましたか。
 
大牟田)ありました。一番それを感じたのが震災の5年後2000年頃。この年に仮設住宅が全て解消したんです。そのニュースを受け、「この番組は役割を終えた」という声がラジオ局の内部からも上がってきて。番組を存続させるためにいろんなことを考えました。まずはスポンサーを探しました。でもなかなか中立の立場のスポンサーが見つかりませんでした。次に聴取率を上げるために著名なゲストを呼ぶことに。キダ・タローさんなど震災で大切な人を亡くした経験のある著名人に番組に出ていただきました。さらに賞に出品し、社会的な評価を高めようと考えました。結果的に、「防災まちづくり大賞(総務大臣賞)」の受賞がひとつのターニングポイントに。また、トルコ、台湾、新潟など大きな地震が国の内外で続いたことが大きな契機になりました。次への備えがまだまだ必要だと認識されたことで番組が継続されました。
 
西村)今年で番組開始から30年が経ちました。きょう、1500回目を迎えた今の気持ちを聞かせてください。
 
大牟田)おめでとうございます。みなさん、ありがとうございます。一口に1500回といってもなかなかできることではないと思います。災害や防災だけをテーマにした番組が1500回を迎えたことはすごいことだと思います。まず、この番組を作ろうとした当時の関係者に先見の明があった。番組のタイトルは「1月17日に生まれたつながりを大切にしよう」という思いでつけられたものです。その名の通り、パーソナリティも制作に携わるスタッフも、何代にもわたってバトンをつなぎながら今に至っています。番組が好調だったときも、なくなりそうになったときも、出演者スタッフが頑張って、番組を応援し支えてくださるゲストやリスナーのみなさんがいたからこそ、今があって、西村愛さんもそのバトンを受け取ってここにいるのだと思います。
 
西村)改めてこのバトンを受け取って、ここにいることに感謝です。今年は、ラジオ放送の開始から100年になります。災害におけるラジオの意義は何だと思いますか。
 
大牟田)日本でラジオが始まったのは1925年。1923年に発生した関東大震災がきっかけです。ラジオは、停電になっても電池と受信機があれば聞くことができます。ただ、災害時は情報だけが求められているのではないと思っています。阪神・淡路大震災のときは、「いつもの声が聞こえてほっとした」というお便りをいただきました。東日本大震災では、「ラジオに物心両面で救われた」「ラジオがなかったら精神的にどうなっていたかわからない」という声が被災地から寄せられました。熊本地震のあとも、「災害直後は情報を求めてラジオ聞いていたが、ひと月以上経ってみると人の声のぬくもりを求めて聞いているような気がする」という感想が寄せられました。正確な情報を届けることに加えて、被災者に直接語りかけることができるメディアとして、災害におけるラジオの意義は大きいと思います。
 
西村)被災地では、大変な思いをしていても自分の困り事はなかなか口にできないという人も。心と心がつながっているっていう実感を与えられるのは、すごくうれしいし、大切なことですね。この番組もそういうラジオでありたいです。防災のレギュラー番組で、災害・防災を伝える番組の役割は、どこにあると思いますか。
 
大牟田)5つあります。ひとつめは、日常に防災を自然に根付かせる役割。防災の世界でも、"フェーズフリー"という考え方が浸透してきています。フェーズフリー(日常と災害に境目を作らない)とは、特別な防災グッズを用意するのではなく、「普段使いのものを活用する」「災害時のことを考えて普段の仕組み作りをする」という考え方のことです。「ネットワーク1・17」もフェーズフリーを伝える役割があると思います。ふたつ目は災害が起きた後の"いつもの声"となるということ。「いつもの声が聞こえてほっとした」と言ってもらうには、普段から慣れ親しんもらうことが大事。3つ目は日常から専門家と連携することによって、正確で深い内容を届ける役割。専門家や被災者を支援する団体と日頃から信頼関係を結ぶことが大事です。大きな災害のニュースになってから慌てて出演していただくのではなく、日頃から信頼関係を結んでいると、相手も番組への不安を抱かなくて済みます。日頃から専門家の見解を直接言葉で伝えてもらうことによって、リスナーも自然と理解が深まっていくと思います。
 
西村)それを日々の話題として家族や近所の人と話してほしいですね。そんなふうに広がっていく番組になるようにしていきたいです。
 
大牟田)4つ目は、被災地に埋もれていた問題やあまり注目されない問題を取り上げる役割。この番組でいち早く取り上げた震災障がい者の問題もその一つ。これは、ひとりのつぶやきを拾い上げて、支援をしている側の声を番組で拾うことから始まりました。大きなニュースになる前に伝えていくことが大事です。5つ目は、直後には答えが出ない災害後の問題を長期的な視点で検証する役割。1年や2年で答えが出せない町作りの問題などを何度も取り上げて、時期に応じて検証することができます。
 
西村)長期的な視点で語り合って、検証するとによって、これからの防災や街作りにも生かしていくことができます。災害時に頼れるラジオとなるために、放送2000回に向けて、要望や提言がありましたらお願いします。
 
大牟田)できる限り番組を継続してほしいです。ジャンルは違いますが、長崎には、被爆者の証言を伝える短い番組を1968年から放送し続けているラジオ局があります。今年で57年になるということです。この番組もまだ頑張れると思います。今は、ラジオの聞かれ方が2通りに分かれています。それぞれの聞かれ方で頼れるラジオになって欲しい。以前は時計代わりにつけっぱなしで聞くというスタイルが一般的でした。
 
西村)わたしも学生時代、そんな聞き方をしていました。
 
大牟田)「この時間になったらおなじみのこの声が聞こえてくる」というふうに、親しみを持って聞いてもらえるようになってほしい。もうひとつは、radikoなどで、好きな時間に好きな番組を選んで聞くスタイルが浸透しています。それはメリットになることも。この番組もradikoだけでなく、ポッドキャストやYouTubeにアーカイブが保存されています。さらに放送内容の書き起こしを活用すれば、防災ハンドブックのような役割を果たすこともできます。研究者と連携して、資料として残していくこともできると思います。
 
西村)改めて、30年続いてきた番組のバトンを受け取っている今、ひとりでも多くの人が命を守ることができるように、番組を一緒に作ってきてくださったみなさんの思いを、これからの防災へとつないでいきたいなと思います。

第1499回「大雨への備え~ハザードマップの見方」
オンライン:備え・防災アドバイザー ソナエルワークス代表 高荷智也さん

西村)各地で大雨が相次いでいます。きょうは、災害への備えとして大切なハザードマップの見方について、備え・防災アドバイザーで、ソナエルワークス代表 高荷智也さんに聞きます。
 
高荷)よろしくお願いいたします。
 
西村)ハザードマップを見るには、まず何から始めたら良いですか。
 
高荷)おすすめしたい地図が2つあります。ひとつは自治体が作っているハザードマップ。紙で印刷をされたものが各家庭に配られていると思います。自分が住んでいる町の紙のハザードマップを見てみてください。
 
西村)ハザードマップが家にない人はどうしたら良いですか。
 
高荷)スマートフォンやパソコンが使えるなら、「〇〇市 ハザードマップ」と自分が住んでいる町を入力して検索してください。市役所・区役所・町役場などのホームページにデジタルのハザードマップがあります。画像やPDFで紙のハザードマップと同じものを見ることができますよ。
 
西村)紙とデジタルならどちらのハザードマップがオススメですか。
 
高荷)自治体が作っているハザードマップなら紙もデジタルも中身は同じ。見やすい方で大丈夫です。スマホの画面が小さくて見づらい場合は紙がオススメ。紙のハザードマップが家にない場合は、町の役場の防災課・危機管理課などの窓口に行くと無料でもらえます。
 
西村)なぜ紙の方がオススメなのですか。
 
高荷)紙の方が広い範囲が載っているので地図として見やすいです。災害時にハザードマップを確認したいとき、停電が起こるとパソコンやインターネットが使えないことも。今はデジタル化の世の中ですが、確実に見られる媒体は紙だと思います。
 
西村)紙のハザードマップを見やすい場所に貼ると良さそう。どこに貼るのが良いですか。
 
高荷)家の中の見やすいところに貼っておきましょう。普段から目に入るので防災意識が高まります。リビングでも廊下でもトイレでも良いと思います。もうひとつ、国が作っているハザードマップもあります。これはスマートフォンやパソコンから見ることができるデジタル専用の地図。スマホやパソコンを使えるならぜひ覚えてください。「重ねるハザードマップ」という地図です。
 
西村)今、パソコンが目の前にあるので、検索してみますね。みなさん一緒に検索しましょう。
 
高荷)普段インターネットを見ている画面から「重ねるハザードマップ」と入力をしてください。地図が画面に出てきます。「重ねるハザードマップ」は、国土交通省が運営しているものなので、大きな利点があります。自治体が作っているハザードマップは、その町の情報しか載っていませんよね。災害や避難場所の情報は隣町のものは載っていません。「隣町の職場や学校に通っている」「隣町のスーパーで買い物をしている」などという場合は、自分の町のハザードマップだけでは情報が足りないことがあります。その点、「重ねるハザードマップ」は国の地図なので、日本中、北海道から沖縄まで同じ地図上で、災害や避難場所の情報を見ることができるのです。
 
西村)出張や旅行に行くときも、あらかじめ調べておくことができますね。
 
高荷)初めて出かける場所に行くときには、「重ねるハザードマップ」を見て、自分が行く駅、泊まるホテルや観光地にどのような災害リスクがあるのか確認してください。わたしは全国に講演会などで出張していますが、初めての駅やホテルに着いたら、まず「重ねるハザードマップ」を開いて確認しています。「今日泊まるホテルは、津波は来ないから、地震が来たらその場にとどまろう」という風に。慣れれば10秒でチェックできますので、ぜひ使ってみてください。
 
西村)今、「重ねるハザードマップ」の画面を開いています。
 
高荷)画面の左上にボタンがいくつかあると思います。「重ねるハザードマップ」の中には、洪水・高潮・土砂災害・津波の4種類のハザード情報をオン・オフしながら"重ねて"表示させることができます。自分が見たい情報のボタンを押すと重ねて表示されます。災害が多い地域は全部押すと、たくさん色がついてわかりにくくなるので、その場合は、ボタンをひとつずつオン・オフしてください。これでまず自宅周りにどのようなリスクがあるのをチェックしてください。
 
西村)一番上の検索窓に住所を入力すると付近の情報が表示されます。MBSラジオがある「大阪市北区茶屋町17-1」を入力してみます。出てきました!洪水・高潮・土砂災害といろいろありますが、洪水を見てみると、MBSラジオがある茶屋町は、3~5m浸水するエリアだそう。桃色になっています。2階部分まで浸水するようです。しかし、高潮になると一段階上の赤色になっていますね。5~10mで、2階の屋根以上が浸水するようです。高潮の方が一段階上がることに驚きました。
 
高荷)場所によって情報が変わります。町が大雨で沈む状況には二種類あります。ひとつが洪水。川の堤防が決壊して、水が街の中にあふれる。これは比較的イメージしやすいと思いますが、もうひとつが高潮という現象です。高潮は、大阪なら大阪湾が満潮を迎えるタイミングで、台風が海を通過すると低気圧の効果と強い風の勢いで、海側から水があふれる現象のことです。そうなると、川の堤防は1ヶ所も切れていないのに海水が盛り上がって海の方から浸水します。まるで津波のように沈んでしまうのです。過去に起こった最大の高潮被害は、1959年に起きた伊勢湾台風によるもの。伊勢湾台風は、死者約6000人という日本史上最大の水害でした。主に被害を受けた名古屋は、高潮で海側から浸水して甚大な被害を受けました。これは今の時代でも起こり得ます。堤防が決壊しなくても海側から沈むことがあるので、洪水・高潮はセットでチェックをしましょう。
 
西村)淀川が近いので、川の方が危険かと思い、高潮のことはあまり考えていませんでした...。いろいろ調べないとわからないですね。
 
高荷)ハザードマップを見れば、具体的な情報が載っています。改めてハザードマップを確認してください。
 
西村)MBSラジオは、ビルの9階にあるので、移動して避難するのではなく、高いところへ垂直避難をすれば良いですか。
 
高荷)ハザードマップの自宅周辺に色がついていない場合は、避難指示が発表されても、家にとどまって電気・ガスの停止に備えましょう。色がついている場合は、最大の高さまで沈んだ場合、部屋がどうなるかをイメージしてください。一戸建ての場合、洪水で3mまで水が来たら2階の床が沈むので、避難をしなければ命が危ないということになります。この場合、避難指示が出たら速やかに逃げましょう。マンションの4階、5階なら、3m沈んでも部屋は大丈夫ということに。ただし、停電や断水は、いつでも起こる可能性があるので、備蓄品はきちんと準備をしておかなければなりません。逃げるべきなのか、とどまって良いのかを判断をする材料として、ハザードマップを使ってください。
 
西村)広島で土砂災害が起こったときに、「大雨の被害大丈夫?」と広島の友人に連絡したんです。そうしたら「うちはマンションなので大丈夫」と。でもすぐそばに山があったんです。この場合、土砂災害に巻き込まれる可能性がありますよね。
 
高荷)土砂災害・崖崩れ・土石流・地滑りの危険性があります。重ねるハザードマップや自治体の紙の地図には、崩れそうなところにすべて色が付けられています。2014年の広島の土砂災害がきっかけとなり、ハザードマップの整備が進みました。もし自宅が土砂災害の危険性がある範囲にあるなら、建物ごと飲み込まれてしまう可能性もあります。マンションでも高層階なら土砂災害が起こっても安全である可能性は高いですが、2~3階で、ベランダ側に崖がある場合は、危ないので、念のために避難をすることを考えてほしいですね。
 
西村)西日本豪雨のときも逃げ遅れた人が多かったですよね。避難について、しっかりと備えておかないといけません。
 
高荷)最近は、ハザードマップに書かれている通りの被害が起こっています。逃げれば助かります。水害で命を落とさないために、紙のハザードマップ、重ねるハザードマップを改めて確認してほしいですね。
 
西村)どのようなポイントをチェックすれば良いですか。
 
高荷)紙のハザードマップには逃げる場所が記載されています。ハザードマップには、「命を守るための避難場所」と「生活をするための避難所」という2つの施設が載っています。
 
西村)避難場所と避難所は違うのですね。
 
高荷)名前は似ているのですが、津波から逃げる「津波避難ビル」「津波避難タワー」、水害が起こったときに逃げる「沈まない場所の学校」、大地震の火災から避難するための「運動場や広場」など災害から命を守る場所は避難場所と書かれています。一方で、災害で自宅が被害を受けて、家で生活ができなくなったときに、一時的に身を寄せるのが避難所。避難所は最寄りの学校であることが多いですが、避難場所は災害の種類ごとに違います。避難場所には、対応している災害が地図上に書かれています。
 
西村)災害への備えとして大切なハザードマップの見方についてお話を伺いました。高荷さん、どうもありがとうございました。

第1498回「災害時の偽情報に注意」
オンライン:防災科学技術研究所 総合防災情報センター センター長 臼田裕一郎さん

西村)来月、日本で大きな地震が起こるという"噂"がSNSなどで出回っています。この噂に科学的な根拠は全くありません。しかし、この噂を信じて日本への旅行を取りやめる外国人も多くいて、観光面への影響も出ています。
きょうは、災害時の情報について、防災科学技術研究所 総合防災情報センター センター長 臼田裕一郎さんに聞きます。

臼田)よろしくお願いいたします。
 
西村)今回のような地震予知に関する"偽の情報"や"噂"はなぜ出回るのでしょうか。
 
臼田)地震というのは非常に大きな災害です。心配からこのような情報がたくさん出てくるのだと思います。
 
西村)「7月に大きな地震が起こる」という説についてどう思いますか。
 
臼田)現在の科学では、地震予知や予言は不可能とされています。「30年間に1回地震が起きる確率」は出されていますが、それがいつ起こるかまではわかりません。今日かもしれないし、明日かもしれない。30年の間でいつ起こるかわからないとなれば、常日頃から備えることが重要です。
 
西村)いつどこで大きな地震が起こるかわからないから備えを進めていくことが大切ですね。特に災害時に、"偽の情報"や"噂"が増えるイメージがあります。
 
臼田)大きな地震が起きて社会にとってつらい状況になると、いろんな人が情報を発信したくなります。今は簡単に拡散できるので、そのような情報が出回りやすくなってしまうのかもしれません。
 
西村)能登半島地震のときも偽の情報が出回りましたよね。
 
臼田)救助要請や支援を求める投稿がSNSで相次ぎました。
 
西村)それはなぜだったのでしょうか。
 
臼田)不安からそのような情報を発信する人もいますが、当時はSNSで投稿を表示する回数が多いほど収益が得られる仕組みがありました。さまざまな手を使って表示回数を増やしたいという人もいたのです。
 
西村)実は、国際災害レスキューナースの辻直美さんが撮影した写真が、Xの偽投稿に使われました。投稿されたのは、キッチンの床一面に割れたお皿や調味料などが散乱している写真。これは2018年に発生した大阪北部地震の写真ですが、この写真が今年4月に発生した長野県の地震の被害写真として、別の人の投稿に使われていたんです。その件について、辻直美さんにお話を聞きました。
 
音声・辻さん)ある新聞社の記者さんから、「あなたの写真、勝手に使われてますよ!」と連絡があって知ったんです。
 
音声・ディレクター)偽投稿を見たときどう思いましたか。
 
音声・辻さん)「ふざけんな!」と思いました。あれを見たら「そんなにひどいことになってるの!?」と現場の人も思うし、そのエリアに住んでいる友達や家族がいたら不安になりますよね。何より、あの写真は本物なのに違う地震の写真として使われるとあの写真が嘘で、AIで作ったと思われるかもしれません。わたしはすぐに削除・謝罪依頼をリプライしたんです。何の返事もないです。怒り心頭です。めちゃめちゃ腹立ってます。
 
西村)今のお話を聞いていかがですか。
 
臼田)最近本当にこういうことが多いですよね。
 
西村)自分の写真がまさか偽投稿に使われるなんて。辻さんは、長野県の新聞記者から連絡を受けて、初めて偽情報の投稿に使われているということを知ったそうです。この新聞記者は、自分が取材した現場の実際の被害の状況と比べて、「この写真おかしいな」と思って調べたとのこと。類似画像を見つけるアプリで検索をしてみると、この写真は2018年の大阪北部地震のときに辻直美さんが撮影した写真ということがわかりました。そこで、新聞記者が辻さんにSNSを通じて連絡をしたということなんです。このようにインターネット上から無関係の写真をコピーして投稿する人もいるのですか。
 
臼田)災害時に、ほかの災害やほかの地域の写真を使って投稿されるものもよく見かけます。ここ最近そういうことが多いと感じています。
 
西村)最近増えてきたのはなぜだと思いますか。
 
臼田)それによってアクセス数を稼ぎたいのかもしれません。
  
西村)もう一つ、この件に関して辻直美さんが訴えたいことがあります。お聞きください。
  
音声・辻さん)まだ腹が立つことがあるんです。そこにいろんな人がリプで取材依頼をしてくるんです。テレビ・ラジオ・新聞から「この写真について詳しく知りたいので連絡ください」という取材依頼がDMではなく、リプライでくる。だからみんなが見られる。それは愉快でしょうね。一般の人がメディアに取材されるのはすごいこと。有名なテレビやラジオから自分が取材される立場になる。承認欲求が満たされると思うんです。こういうことがフェイクニュースを助長しているということにメディアは気がついてない。それにもまた腹が立っています。
 
西村)投稿写真や動画が本物かどうか見極めるのは、大手のメディアでも難しいのでしょうか。
 
臼田)最近は生成AIを使って画像や映像を作るので、見極めるのは難しいと思います。
 
西村)どうしたら良いのでしょう。
 
臼田)一個人が発信しているSNSの情報を全面的に信じないことが重要。メディアから「写真について詳しく知りたいので連絡ください」と話がくるとのことですが、それによって情報の拡散が助長されるので、メディアには気をつけてもらいたいですね。メディアは情報を伝える立場。現場での直接取材を活発に行ってほしいです。
 
西村)リプライで有名な番組が注目しているのなら、「本当かな」と思ってしまう気持ちもわかります。メディアにいるわたしとしても、現場取材を大切にしたいと思いました。生成AIはかなり進化してきています。今はどんなことができるのでしょうか。
 
臼田)自然な会話文や絵や動画を作ることができます。
 
西村)普通の写真のように偽画像を作ることができるのですね。例えばどんな写真からどんな画像を作り出すことができるのですか。
 
臼田)災害時には、普段の風景写真から作った洪水時の写真がよく出回ります。
 
西村)でもそれが本物かどうか見極めるのは難しいとのこと。どうやって見極めたら良いのでしょう。
 
臼田)一つの画像をすぐ信じてしまうのではなく、複数の発信源から情報が出されているかを確認すること。個人ではなく政府・自治体、公的機関の公式のアカウントが発信している情報は、信じられる情報です。そのようなところから複数発信されていることを確認してください。
 
西村)信頼している友達や先輩がSNSに書いている内容は疑った方がいいですか。
 
臼田)その人がほかの人の情報を発信している可能性もあります。気をつけた方がいいと思います。
 
西村)怪しい投稿に共通するポイントはありますか。
 
臼田)拡散されている投稿です。拡散はその人が本当に見た情報ではないことが多いので、まず1回落ち着いて、情報源を見てみましょう。
 
西村)リポストですね。実際に今まで見てきた投稿の中で、怪しい印象だったものはありますか。
 
臼田)数年前に静岡で洪水が起こっている画像を目にしたのですが、不自然に感じました。風景写真に泥水が流れているんです。深い川の写真なんですが、「流れが不自然だな」と思っていたらやはり偽画像でした。
 
西村)先生でもだまされるということがあるのですね。
 
臼田)今のAI技術があればわからないものがあっても不思議ではないと思います。
 
西村)技術の進化はうれしいけど、悪いことに使われるのは困りますね。「困ってる人のために、何かできることはないか」という気持ちでリポストしてしまう人もいると思いますが、きちんと情報を見極めることが必要。改めてSNSの情報を受け取る場合、発信する場合に注意した方がいいことがあれば教えてください。
 
臼田)「だいふくあまい」という言葉があります。SNSの情報を受け取る場合、発信する場合に気をつけてほしいことの頭文字です。
 
西村)最初の「だ」は何ですか。
 
臼田)「だ」は情報を受け取る場合に、「誰が」発信しているのかということ。「い」は「いつ」の情報か。1時間や半日前、数日前の情報も一緒に流れてくるので、「いつ」発信された情報なのかを確認してください。
 
西村)「ふく」は?
 
臼田)「ふく」は、「複数」の情報源があるのかを必ず確かめる。
 
西村)最後の「あまい」は?
 
臼田)「あまい」は自分が情報を発信するときの注意点です。「あ」は自分の安全を確保する。自分が安全でないと情報発信をしてはいけません。「ま」は、その情報が間違った情報ではないか。人が発信した情報を拡散する場合は、それが間違った情報ではないかということを気にしてください。「い」は、位置情報を上手に使う。この情報はどこで起こったことなのかをきちんと示して発信すると良いですね。
 
西村)大切なことを教えてくださってありがとうございます。最後に改めて伝えておきたいことはありますか。
 
臼田)SNSでは、リポスト(拡散)を安易にしないこと。もし偽情報だった場合、偽情報を拡散して、より社会に不安を与えてしまいます。リポストをするときは特に気をつけてください。
 
西村)誰かのためにと思ったリポストが、混乱を招くきっかけになってしまうかもしれません。気をつけましょう。
きょうは、災害時の偽情報について臼田さんにお話を伺いました。

第1497回「大阪北部地震7年~帰宅困難者問題」
オンライン:工学院大学 教授 村上正浩さん

西村)今月18日で、大阪北部地震の発生から7年を迎えます。2018年6月18日午前7時58分頃、大阪府北部を震源とする地震が発生しました。高槻市などで最大震度6弱を記録しました。この地震は、朝の通学・通勤時間帯に発生し、自宅に帰ることができない帰宅困難者が大きな問題となりました。
今、改めて帰宅困難者問題はどうなったのか。都市防災が専門の工学院大学 教授 村上正浩さんに聞きます。
 
村上)よろしくお願いいたします。
 
西村)大阪北部地震は午前7時58分に発生しました。出勤途中や外出中に地震が起きた場合、どうしたら良いのでしょうか。
 
村上)職場以外で被災することはあまり想定していないかもしれません。職場以外で被災すると行き場がなくなってしまいますがその場にとどまることが基本。無理して帰らないというのが大事です。
 
西村)それはなぜですか。
 
村上)みなさんが一斉に災害直後に動き始めると周辺が大変混乱します。救助を求めている人がたくさんいる中で、多くの人々が動き始めると、救助活動に影響することが考えられます。まずはその場にとどまって状況を確認することが第1です。
 
西村)その場合、状況や人の気持ちによっても行動が変化すると思います。実際にわたしの家族も大阪北部地震で体験しました。義理の母が大阪から神戸の職場に向かう電車の中で被災したんです。義理の母は電車の中にとどまったのですが、「降りてください」と指示があり、そこからどこに行ったら良いかわからなくなり、パニックになって、「早く車で迎えに来て!」と夫に電話をしました。夫は義理の母を迎えに行ってしまったんです。
 
村上)そのような場合、心配で迎えに行ってしまうと思うのですが、東日本大震災のときを思い出してください。2011年3月11日に首都圏で帰宅困難者の問題がありました。都心に家族を迎えに行く車の流れが発生して、都心に向かう車が渋滞。さらに家族をピックアップして自宅に帰る車の流れも発生して、二重に交通に影響を与えたんです。そのとき119番の通報をした人のところに、救急車が到着したのが3~4時間後になったそう。車の渋滞はさまざまな活動に影響を与えます。連絡があって迎えに行きたい気持ちはわかりますが、義理のお母様は、そこにとどまっていただく方が良かったですね。電車は途中で止まると、必ず駅まで誘導されるので、そこからは、自分たちで情報を入手して、安全な場所に行きましょう。一定の期間そこにいることを覚悟して行動すべきだと思います。
 
西村)そのまま駅にいたら良いですか。
 
村上)復旧活動をしなければならないので、駅のホームからは出されると思います。その後は、駅から離れて、近くにある一時滞在施設などに移動しましょう。
 
西村)駅にいた方が、電車が動き出したときにわかって安心だと思うのですが、駅にそのままいてはいけなのでしょうか。
 
村上)駅にいると駅の復旧活動に影響します。震度4を超える大きな地震があると必ず電車は止まるので、路線の安全確認をします。規模が大きくなると、全線に渡って目視で点検をすることに。多くの人がホームに集まっていると、交通の復旧に影響を与える。だからできるだけ駅の外に出るというのが正しい対応です。
 
西村)大阪北部地震のときもJR大阪駅にたくさんの人がいました。まずは駅から離れて、別の場所に行くことが大切なのですね。
 
村上)駅で被災する人もいれば、駅の周りで被災する人もいます。そのときに駅に向かう流れを作らないこと。駅にたくさん人が集まると駅の復旧が遅れてしまうので、駅から離れることが重要です。
 
西村)大阪府では、体育館や公民館など公共の施設のほか、駅と直結したホテルなどを一時滞在施設として指定しています。そのような一時滞在施設では、帰宅困難者全員を受け入れることができるのでしょうか。
 
村上)できません。何万人、何十万人を受け入れるためのスペースの確保は難しいです。駅で被災した人も、駅周辺で被災した人もみんなが駅に向かってしまうと、行き場のない帰宅困難者になってしまいます。一時滞在施設は、基本的には行き場のない人を受け入れる場所。職場が近い人は、できるだけ職場で待機することが、行き場のない帰宅困難者を発生させないポイントです。
 
西村)一時滞在施設は、行き場のない人が行くところなのですね。
 
村上)近くに職場など行く場所があればそこに行くこと。とどまるための準備が必要です。わたしは、ラジオ、電池、ライト、ビニール袋などをカバンに入れています。あと紙タイプの歯磨きも便利です。ほかには保温シート、ティッシュ、携帯トイレも。このような備えは、個人ができることだと思うので対策をとっています。
 
西村)それらがカバンの中にあると思うだけで安心につながりますね。
 
村上)スマートフォンに安否確認のアプリもいれておきましょう。171(災害用伝言ダイヤル)では、どの電話番号で登録をするのかを事前に決めておく。災害時にお互いの安全を確認し安心できるような環境を作っておくこと。まずはあわてないことが、とどまることにもつながります。
 
西村)公衆電話から電話することに慣れていない若い世代や子どもたちもいると思います。日頃から練習しておいた方が良いですね。
 
村上)受け入れスペースが足りないのは当然のこと。雨風がしのげて安全な場所なら、あわてて動き始めなくて良いと思います。全てを賄うスペースを用意するとなると、普段から膨大なスペースを用意しておかなければなりません。それは不可能だと思います。スペースが開放されても、自分たちの災害時の対応をしながら受け入れすることになる。地域の人々や観光客も自分でできることをするためには、一定の対策をとっておくことが必要だと思います。
 
西村)わたしたちがしっかりわかっておけば、観光客や海外の旅行客にも案内ができますね。一時滞在施設はどこを見ればわかりますか。
 
村上)町によって異なりますが、大阪の場合、インターネットで確認できます。
 
西村)「大阪市 一時滞在施設」と検索すると出てきますね。
 
村上)携帯のアプリがある自治体も。東京都には専用アプリがあります。あとは各駅の周辺の事業者が情報提供をしているところも。
 
西村)大阪市の場合は一覧が出てきます。中にはホテルや梅田のグランフロント大阪などの商業施設もあります。これはどの地域でも公開されているのですか。
 
村上)場所によりますが、非公表のところもあります。
 
西村)なぜ非公表なのですか。
 
村上)各企業が社会貢献として対応をしています。情報を事前に公開すると、受け入れ時に多くの人が殺到して断れなくなり、安全面の問題も出てきます。なかなか難しい側面もあるのです。
 
西村)大阪市の場合は、事前に公開されています。大阪に住んでいる人はもちろん、旅行で大阪に来る人、わたしたちもどこかに旅行に行く際は、一時滞在施設を調べておくと備えにつながりますね。
 
村上)施設で全員を受け入れできるとは限りません。すぐに一時滞在施設が開設されるかもわかりません。大きな規模の地震なら、企業も自分たちのことをまずしなければならないのでスペースの開設に時間がかかると思います。
 
西村)そうなると、自分自身できちんと備えておくことが大切ですね。
 
村上)それが一番ですね。
 
西村)きょうは、大阪北部地震から7年、帰宅困難者の問題についてお話を伺いました。村上さんどうもありがとうございました。

第1496回「"災害ケースマネジメント"を進める法改正」
ゲスト:大阪公立大学 大学院 文学研究科 准教授 菅野拓さん

西村)被災者の個別の事情に応じて支援する「災害ケースマネジメント」。東日本大震災で注目を集めた被災者支援の新しい仕組みです。先月28日、「災害ケースマネジメント」の実施を後押しするような災害対策基本法などの改正案が国会で可決・成立しました。
きょうは、この法改正に関わった「災害ケースマネジメント」の名付け親、大阪公立大学大学院 文学研究科 准教授 菅野拓さんにスタジオにお越しいただきました。
 
菅野)よろしくお願いいたします。
 
西村)「災害ケースマネジメント」の最大の特徴は何ですか。
 
菅野)災害で被災した人は、仕事を失った、家が壊れた、借金が返せなくなった...などのさまざまな困りごとを抱えているので、一律の支援では難しい。行政や支援する側から被災者のところに出向いて、どんなことに困っているのかを聞いて、伴走しながら支援をしていく仕組みが「災害ケースマネジメント」です。自治体だけではなく、社会福祉協議会やNPO、弁護士や建築士も一緒に被災者の困りごとに寄り添って、被災者に生活再建をしてもらう取り組みです。
 
西村)「周りの人も大変だから、"自分だけが大変"とは言い辛い」という声も聞きます。すごく大切な支援ですね。
 
菅野)信頼関係を作りながら、長期的に支援していきます。
 
西村)現状の支援では、被災者に寄り添えていなかったのでしょうか。
 
菅野)不十分だったと思います。行政もいろんな支援をしてきましたが、本当に被災者にとって正しい支援だったのかという疑問も。住んでいた家の壊れ具合は、罹災証明で証明されます。借家も持ち家も関係なく、家の壊れ具合で支援を決めてしまうことになる。「家は大丈夫でも仕事はない」などほかの困りごとが出てくると、支援制度と被災者の困りごとが適合しなくなります。このような問題点をどう変えていくのかが大事です。
 
西村)なぜ今までうまくいかなかったのでしょうか。
 
菅野)災害は時間が経つと報道も減ります。被災した自治体や被災者は大変でも、離れたところにいる人にとっては対岸の火事。法律や制度改正までつながらず、古い制度が毎回被災者を困らせてしまうのです。
 
西村)これまではどんな制度で支援が行われてきたのでしょうか。
 
菅野)仮設住宅や避難所の運営など被災者の支援については、全て1947年にできた災害救助法が根拠になっています。1947年は、戦後のまだ焼け野原が残っているような時期。GHQも関与して作っている法律なので、現状の社会と合わない部分もあります。
 
西村)その法律が今回改正されました。ポイントを教えてください。
 
菅野)災害救助法という古い法律に、福祉サービスの提供が規定されました。さまざまな相談やケアを災害時の救助として行うことになったのです。民間との連携も災害対策基本法や災害救助法に規定されました。災害救助法は、少しずつ改正はされてきたとは言え、抜本的には1947年から変わっていませんでした。当時は、日本は貧しく福祉サービスがなかった時代。今では高齢化が進み、少子高齢化しているにも関わらず、災害時の法律は当時から全然変わっていなかったのです。
 
西村)今まで福祉が取り入れられていなかったことにびっくりしました。
 
菅野)福祉サービスの提供は70年ぶりのこと。避難所は、いつも酷い状況が報道されていますよね。そんなところに介護が必要な高齢者を連れていけません。
 
西村)体育館の狭いスペースに毛布にくるまって、冷たい床で寝なければならないことも。プライバシーが守られていないこともありますよね。
 
菅野)本当に支援が必要な人ほど、壊れた家に住み続けてしまう。人をきちんと支援していかなければなりません。避難所は、昔は法律で「収容施設」と書かれていたんですよ。そうではなく、人を見て必要な支援を届けていくことが大事。
 
西村)車中泊をしているお年寄りにもそのような福祉サービスが行き届くのですか。
 
菅野)それを目指しています。「災害ケースマネジメント」とは、被災者の元へ出向いて支援をすること。それが法律上で規定されたのです。
 
西村)具体的にどんなことができるのでしょうか。
 
菅野)在宅で困っている人は、何に困っているのかが周りも本人もわかっていないことも。そんな人の相談に乗ります。地域や家族で介護をしてきた人にもケアの手が必要だということがわかれば、福祉サービスを案内することができます。このように関連死や生活再建がうまくできない人たちを減らしていくことができるのです。
 
西村)今まで手が届いていなかった人たちにも支援が行き届くのですね。2つ目のポイントについても教えてください。
 
菅野)今後は、民間と連携した被災者支援が基本的になります。法律上は登録被災者援護協力団体という名前の制度ができるのですが、要は"餅は餅屋"でいろいろな支援ができるということ。例えば食べ物を食べるとなったら、みなさん普段はどこに行きますか?
 
西村)スーパーかレストランです。
 
菅野)食べ物を買うのに、役場の窓口に並ぶことはないですよね。でも災害時はどうですか。
 
西村)役場の窓口に並ばざるを得ないです...。
 
菅野)市役所や町役場は、普段は食べ物を配ることがないのに、災害時は物資を配給することになっています。役場も人手不足な中で、やったことがない仕事をすることになる。これは医療や福祉も同じ。被災者支援が混乱してしまうので、民間のプロにお願いできるように制度改正が行われたのです。
 
西村)民間のプロとは具体的にどのようなところですか。
 
菅野)例えば、大きな流通小売りやコンビニエンスストアが運営する避難所と役場が運営する避難所なら、どちらに行きたいですか?
 
西村)それはコンビニですね!
 
菅野)当初の備蓄物資は役場が出すことになると思いますが、例えば、ハラール対応の食事やアレルギー対応の食事は...?役場だとできない部分を民間のプロなら埋めることができるかもしれません。福祉サービスも民間のプロにお願いすれば、在宅被災者の相談・支援に回ってもらうこともできます。
 
西村)プロなら、コミュニケーションの取り方のコツとかもわかっているでしょうね。
 
菅野)全国から応援に入ってもらうこともできます。
 
西村)心強いですね!
 
菅野)自治体にとっても心強いと思います。災害はたまにしかこないので、災害の経験がある自治体職員はほとんどいません。そうすると当然混乱してしまう。そして自治体の職員も被災者。今まではそこに全て任せる法律になっていたのです。それが変わる方向になったことは大きいです。
 
西村)今までに能登の被災地やほかの被災地で実際に行われた例もありますか。
 
菅野)「災害ケースマネジメント」は、先行的に法改正前から進んでいたので、内閣府や厚生労働省で予算をつけて取り組んできました。ただ、どうしても法律になっていないと事前の準備ができません。特別な予算でやるとなると、急に体制を作らなければならなくなり、初期から支援できないことが課題になっていました。能登では2月末ぐらいから、実際に在宅被災者向けの訪問も始まり、福祉サービスにつないでいます。
 
西村)このサービスを受けた人の声は聞きましたか。
 
菅野)支援者に知り合いに聞いたところによると、うまく生活再建できない人については、早期から把握できているそう。「家が壊れて住むところがない」「住めるかどうかわからない」というような人には、建築士や弁護士も寄り添ってアドバイスをします。そうすると「地元に残ることができる」と希望が湧いてきますよね。
 
西村)困りごとは、被災直後だけではなく、ずっと続いていくもの。これが法改正によって、全国的に広がっていくのは大きいですね。改めて今回の法改正で、「災害ケースマネジメント」の普及に期待できると思いますか。
 
菅野)期待できると思います。法律は準備をするためにあるもの。準備不足の中から始めていては、対応が遅れ、その間に災害関連死の危機も。そうではなく、平時からどのように体制を作っていくかが大事。社会全体で足りないものについて考えることができる。法律に規定されることで、計画的に決められることによる効果は大きいと思います。
 
西村)大きな一歩を踏み出したということですね。今後の課題はありますか。
 
菅野)法律に書かれただけで社会が変わるわけではありません。それを実現していくためには、福祉に関わっている人やNPOに準備をしてもらわなければなりません。福祉の現場は人手不足で、毎日が災害のような状況になっています。そこをどうやって強化していくのか。これについては、実際に厚生労働省でも考え始めていて、防災庁でも議論されています。災害に備えることが平時の人手不足解消につながることもあると思います。
 
西村)きょうは、これからの被災者支援がどう変わっていくのかをお聞きしました。菅野さんどうもありがとうございました。

第1495回「災害時に役立つ井戸」
オンライン:大阪公立大学 教授 遠藤崇浩さん

西村)去年の元日に発生した能登半島地震では、水道施設が広い範囲で壊れ、断水が長期間続きました。災害時に水が不足すると、健康被害や衛生環境の悪化にもつながります。そんな中、能登の被災地では、地域の井戸から井戸水をくみ上げて生活用水を確保したケースが多くあったそうです。
きょうは、災害時における井戸の重要性について、大阪公立大学 教授 遠藤崇浩さんにお話を伺います。
 
遠藤)よろしくお願いいたします。
 
西村)能登半島地震の被災地で活躍したという井戸。具体的にどんな例があったのですか。
 
遠藤)能登半島地震では、3ヶ月以上断水した地区もありました。そこで必要になるのは、飲み水や生活用水。飲み水は、給水車やペットボトルの水でまかなうことができますが、入浴、手洗い、トイレなどの生活用水は飲料水の10倍ほどの水が必要なので、ペットボトルや給水車では足りない。そこで生活用水をまかなうために、能登半島の一部の地域では、自宅の庭や工場、個人商店にある井戸が開放されて、そこから生活用水を確保したという事例がありました。
 
西村)そういうことが実際にあったのですね。
 
遠藤)わたしが初めに能登に行ったのは、震災発生から1ヶ月後。2月上旬に七尾市に行きました。七尾市の中心部を歩いたところ、少なくとも59ヶ所で井戸が使われていることがわかりました。
 
西村)七尾市は被害が大きかった地域ですよね。
 
遠藤)町には倒壊した建物がそのまま残っているところもたくさんありました。
 
西村)そんな中、井戸がたくさん使われていたのですか。
 
遠藤)断水しているはずなのに道路が濡れているところがあったんです。地域のみなさんが井戸の水を汲んでいたからでした。そんな場所がたくさんありました。
 
西村)みなさん、ポリタンクやペットボトルに入れて水を持ち帰っていたのですね。井戸があるとありがたいですね。井戸の水はどんなことに使われていたのですか。
 
遠藤)トイレを流す水、食器を洗う水として使われていました。
 
西村)水は欠かせないものです。井戸を開放してくれる人がいるのはありがたいですね。
 
遠藤)井戸を開放している人に「なぜ井戸を開放したのか」と聞くと、ほとんどの人が「誰から言われることもなく、率先して開放した」という回答でした。
 
西村)災害時に役立つ井戸は、大阪にもあるのでしょうか。
 
遠藤)大阪にも登録されている井戸はたくさんあります。災害時に利用できる井戸を登録して、情報を共有している自治体もあります。大阪府のホームページで確認できます。
 
西村)何ヶ所ぐらいの井戸があるのでしょうか。
 
遠藤)現在、約1400ヶ所の井戸が登録されています。
 
西村)たくさん登録されているのですね。きょうは、番組の子どもリポーター・桃佳さんが「災害時協力井戸」を取材してきてくれました。大阪にあるお宅です。取材の模様をお聞きください。
 
音声・桃佳さん)「ネットワーク1・17」子どもリポーターの桃佳です。中学校1年生です。きょうは、大阪府の「災害時協力井戸」に登録されている橋本武さん宅に取材にきました。こんにちは。
 
音声・橋本さん)よろしくお願いします。
 
音声・桃佳さん)井戸はどこにあるんですか。
 
音声・橋本さん)井戸は庭の片隅にあります。どうぞ、こちらです。開けます。
 
音声・桃佳さん)(井戸の中を見て)思っていたよりも深いですね。落ちても上がってこられるくらいの深さをイメージしていたんですけど...。
 
音声・橋本さん)8~10mぐらいあると思います。
 
音声・桃佳さん)橋本さんが子どもの頃からこの井戸を使っていたのですか。
 
音声・橋本さん)子どもの頃は、ここで行水をしていました。家に五右衛門風呂があったのですが、そこへ水を運んで、風呂に入っていました。井戸の水は、夏が冷たくて冬が温かいんです。夏はビールを冷やしたり、スイカを網に入れてつけたり。これが井戸水です。
 
音声・桃佳さん)(井戸水をさわって)水道水よりも冷たいですね!すごく気持ちいいです。どうやって、井戸水を引き上げているんですか。
 
音声・橋本さん)現在は電気でポンプアップしています。昔は釣瓶で汲み上げていました。
 
音声・桃佳さん)この水は飲めるのですか。
 
音声・橋本さん)保健所が毎年1回検査しますが、煮沸すると飲めるといわれています。
 
音声・桃佳さん)これまでに井戸水が枯れたことはありますか。
 
音声・橋本さん)枯れたことはないです。
 
音声・桃佳さん)なぜ「災害時協力井戸」として大阪府に登録したのですか。
 
音声・橋本さん)災害のときに何らかの形で役に立てればと思ったからです。
 
音声・ディレクター)桃佳さん、「災害時協力井戸」を見てどう思いましたか。
 
音声・桃佳さん)井戸が家の近くにあったらすごく心強いと思いました。断水や停電になったときは、水を分け与えてもらいたいなと思います!
 
西村)橋本さんが子どもの頃から使っていた井戸が今も現役というのは、すごいですね。井戸水は、夏は冷たく、冬は温かいということも初めて知りました。停電になるとエアコンが使えなくなるので、冷たい井戸水で水浴びしたり、手足を冷やしたり、煮沸して飲み水にしたり...と熱中症対策にも役立ちそうですね。
 
遠藤)井戸が自宅にあるというのは非常に羨ましいですね。
 
西村)停電したら電気のポンプで水を汲み上げることができません。停電しても水を汲めるように、何か準備しておくことはありますか。
 
遠藤)自家発電用のバッテリーや車のバッテリーから電源を得る方法があります。災害の後は、水道より電気が先に復旧します。今までのケースでは、水道が先に復旧したというケースはゼロです。
 
西村)それを覚えておくとパニックにならずに済みそうですね。手動のポンプも売っていますか。
 
遠藤)はい。バックアップとして非常に有効だと思います。
 
西村)備えておいた方が良いですね。わたしたちの身近にも災害時に役立つ井戸があるかも知れません。
 
遠藤)大阪府の「災害時協力井戸」はホームページで確認できます。登録されている場所には、登録の標識が出ていることも。災害時に慌てないように、一度、自宅周辺の「災害時協力井戸」を探してみると良いですね。
 
西村)家族で防災散歩をして、「災害時協力井戸」を探してみようと思います。どのくらいの自治体に「災害時協力井戸」の登録制度があるのでしょうか。
 
遠藤)数年前にわたしが全国調査をしたときには、全国1741の自治体のうち、418の自治体が「災害時協力井戸」「震災対策用井戸」などの具体的な名前をつけて、災害時に井戸を利用する仕組みを設けていました。約25%という数字になります。全国的にまんべんなくというわけではなくて、東京・名古屋・大阪といった大都市圏に偏っているということがわかりました。このような取り組みを今後全国的に広めていくことが大事です。
 
西村)実際に自宅に井戸があっても、この制度を知らない人もいるかもしれません。
 
遠藤)大多数の人は知らないと思います。
 
西村)だからこそ防災散歩をして、井戸を見つけて、顔見知りだったら、声をかけてみるのも良いかもしれません。地震以外にも、今までに災害用井戸が役立ったことはありましたか。
 
遠藤)2021年10月に和歌山市で突然断水が起きましたよね。和歌山市を横断する紀の川に架けられた水道橋が老朽化で崩落して、地域が断水した事故です。このときに、和歌山市は事前に「災害時協力井戸」を登録していたので、翌日には使用できる井戸を市のホームページで公開していました。
 
西村)井戸は何ヶ所ぐらいあったのですか。
 
遠藤)23ヶ所です。これは非常に早い対応でした。和歌山市は、南海トラフ地震の備えとして、2017年から「災害時協力井戸」の登録を進めていたのですが、このインフラ事故は、想定外のトラブルでも井戸が役立つということを示した事例です。
 
西村)きちんと備えていたからこそ、いざというときに使うことができたのですね。
 
遠藤)昔ながらの方法ですが、災害時に有効だと思います。
 
西村)もっとこの制度が広まると良いですが、災害時の井戸について、これからの課題はありますか。
 
遠藤)これからの課題は、井戸の維持です。建て替えなどの機会に井戸を潰してしまう家庭が多いです。
 
西村)なぜ潰さないといけなくなるのですか。
 
遠藤)井戸を使っていない人が多いからです。井戸を潰してしまう人が多く、登録数が減っている自治体も多いです。井戸の手押しのポンプに補助金を出している自治体もあるんです。水質検査を行うなど、自治体からのサポートも大事だと思います。
 
西村)井戸を所有している家ではどんなメンテナンスが必要ですか。
 
遠藤)メンテナンスというより、普段から使うのが一番大事だと思います。
 
西村)先ほどの橋本さんは、庭の水やりに井戸の水を使っているそうです。
 
遠藤)災害用にわざわざ井戸を掘ると、災害が起きるまでの間、ずっと遊ばせておかないといけないので割が合わない。それよりは、普段からビールを冷やしたり、散水したりして水を使って、いざというときに井戸を近所に開放する。そのような普段使いと防災の境目をなくす使い方が大事だと思います。
 
西村)ローリングストックのように、井戸も同じように普段から使うことが大切なのですね。
きょうは、災害時に役立つ井戸についてお話を伺いました。遠藤さんありがとうございました。

第1494回「災害時の停電に備える」
オンライン:名古屋大学 減災連携研究センター 特任准教授 小沢裕治さん

西村)先月、スペイン全土とポルトガルの一部で大規模な停電が発生し、交通機関の運休や通信障害など約6000万人が影響を受けました。停電は災害発生時の避難や復興に大きな影響を与えます。災害時の停電に対して、どのような備えが必要なのでしょうか。
きょうは、ライフライン防災に詳しい名古屋大学 減災連携研究センター 特任准教授 小沢裕治さんにお話を聞きます。
 
小沢)よろしくお願いいたします。
 
西村)南海トラフ地震が起こって停電すると、どんな事態が想定されますか。
 
小沢)今年3月に内閣府の被害想定が改定されています。40の都府県で、最大で約2950万戸停電する可能性があります。場所にもよりますが、停電の回復に1週間以上かかる可能性もあります。
 
西村)そんなにかかるのですね...。
 
小沢)能登半島地震や2019年の台風15号による千葉の停電で、電柱がたくさん倒れて電線が断線した地域では、修理までに長い時間がかかったという事例も。
 
西村)電源車が来て、早い段階で復旧しないのでしょうか。
 
小沢)電力会社や通信会社は電源車をもっていますが、災害時にどこにでも行けるほどの台数はありません。病院などが優先されると思います。
 
西村)南海トラフでは、今までの災害よりも広いエリアが被害を受けるので、電源車が全てをカバーするのは難しいのですね。1週間ずっと停電するのですか。
 
小沢)可能性はあります。電気は貯めておくことができないエネルギーです。発電所の停止、稼働の制限があるとわたしたちの家庭や会社で使える電力量が制限されます。東日本大震災の後に関東地方であったような計画停電が行われる可能性もあります。
 
西村)計画停電では、電力を使える地域が順番に移動していくんですよね。
 
小沢)例えば、「11~15時までは使用禁止」というような運用になります。
 
西村)想像以上に大変なことになりそう。1週間も停電が続くとなると、わたしたちの生活や避難にどんな影響が出ますか。
 
小沢)わたしたちの生活は、日々電気に頼っています。冷蔵庫を使っていない家庭はないですよね。エアコンも電気で動くので電気も使えません。日々の生活でスマホやパソコンに依存していますが、スマホの充電も制限を受けることになります。
 
西村)わたしたちの暮らしは電気がないとやっていけませんね。冷凍庫の中に買い置きしていた肉が腐ってしまったり、アイスクリームが溶けてしまったり...。
 
小沢)停電になると全て現実になります。
 
西村)我が家が台風で半日停電したとき、半日でも大変でした。食材を無駄にしないように、カセットコンロで調理して。結構パニックになりました。それが1週間も続くとなったら、本当に大変だと思います。避難所は電気を確保しているのでしょうか。
 
小沢)2023年の調査では、自治体が管理している指定避難所で、非常用の発電機を備えているとところは約6割でした。全ての避難所に発電機が備えられているわけではありません。南海トラフ地震の被害の範囲は広いので、避難する人が多くなると避難所がさらに開設される可能性もあります。発電機を備えていない場所を避難所として使うこともあると思います。
 
西村)自家発電機はきちんと動くのでしょうか。
 
小沢)東日本大震災では、大きな揺れや津波被害で発電機が被害を受けた事例がありました。それ以外にも、途中で発電機の燃料が切れてしまったとか日頃のメンテナンスをやっていなかったために動かなかった事例もあります。非常用発電機を持っている人は、日頃から試運転をしておいて、いざというときに使えるように備えておいてください。
 
西村)実際に使っておくことも大切な備えになるのですね。
 
小沢)避難訓練や防災訓練をきちんとしている組織、町内会もあると思いますが、発電機を実際に使ってみて、使えるかを確認することはとても大事です。
 
西村)いろんな困り事の中で特に心配なことは何でしょうか。
 
小沢)今までは冬に災害が起きることが多かったですよね。阪神・淡路大震災も東日本大震災も能登半島地震も寒い時期に起こりました。もし暑い夏に災害が起こったら...。冷やすという行動には必ずエネルギーが必要です。寒いときは、服を着込むこともできます。少し病気は気になりますが、部屋の中でまとまって過ごすと寒さがやわらぎます。しかし、冷やすには冷やすための機械が必要。エネルギーを投入しないと冷やすことができないのです。
 
西村)エアコンや扇風機が必要ですよね。冷やすエネルギーが確保できないときは、どうしたら良いのでしょう。
 
小沢)原始的ですが風通しのよい日陰で過ごす、色が濃い服より色が薄い服の方がいくらか熱を吸収しにくいので服装に気をつけるなど、わずかなことが大切になるかもしれません。
 
西村)熱中症も気になります。熱中症になっても助けが来るのかどうか...。
 
小沢)東日本大震災や能登半島地震の報道では、早い段階で救助が来ていると感じているかもしれません。しかし、南海トラフ地震は広い範囲で大きな被害になります。そうすると今までの災害で支援に来てくれた人たちも被害者になっている可能性が高い。本来、助けにきてくれる自治体や自衛隊の人たちも家族の安否がわからない、怪我をしているとういうことも。そんな人たちに「支援に来て」とはちょっと言えないですよね。
 
西村)しっかりと備えておかなければいけないと思います。ほかに心配なことはありますか。
 
小沢)国土交通省や自治体では復旧の計画を立てていますが、発災から3日間は、職員の安否確認や被害の把握、支援の計画に費やすことになる。支援に動けるのは、4日ぐらい経ってからになると思います。ぜひ3日分の備えはしておきましょう。水は1日あたり1人2~3Lは必要。3日分となるとやはり6~9L必要。大変ですが自身で備えておきましょう。
 
西村)水や食料をしっかり備える。さらに停電にも備えが必要だと思いますが、どんなものが有効ですか。
 
小沢)今はポータブル電源が普及してきています。能登半島地震では、スマホの充電のためにポータブル電源が支援物資にあったという事例も。支援に4日ほど時間がかかるので、ぜひみなさん、ポータブル電源を持っておいてください。一般の家庭で使う電力量は10kWh~25kWhと言われています。この量のポータブル電源を備えるとなると、100~200万円の投資をしなければならない。各家庭でそこまで出すのは現実的ではないですよね。家庭で災害時に必要な電気について日頃から考えおいて、その分を賄えるだけの電源は用意しておきましょう。
 
西村)ポータブル電源で、扇風機や携帯電話を充電することはできますね。
 
小沢)災害時にはスマホの充電や通信料も貴重に。情報収集は乾電池式のラジオを使って電池も備えましょう。調理にもなるべく電気は使わずに、カセットコンロを使うなど、エネルギーを電気に集中させない工夫をしてほしいと思います。
 
西村)小沢さん、どうもありがとうございました。

第1493回「熱中症の正しい対処法」
ゲスト:救急救命士 窪田陽平さん

西村)気象庁の3ヶ月予報によると、5月から7月の気温は全国的に平年より高くなる見通しです。体が暑さに慣れていないと、熱中症の危険はより高くなります。もしも自分自身や身近にいる人が熱中症になってしまったら、どのように対処すれば良いのでしょうか。
きょうは、元消防士で救急救命士として多くの熱中症患者を搬送してきた窪田陽平さんに熱中症の正しい対処法をお聞きします。
 
窪田)よろしくお願いいたします。
 
西村)窪田さんは熱中症対策アドバイザーとして、熱中症の啓発活動もしているのですね。
 
窪田)熱中症対策アドバイザーという資格は、環境省が後援している民間資格です。その資格をいかして、学校や企業で熱中症対策講座などを行っています。
 
西村)熱中症患者が一番多いのは何月ですか。
 
窪田)7月後半~8月がピークですが、夏の暑さに慣れていない今の時期から熱中症が発生する可能性があります。5月は熱中症に注意が必要です。
 
西村)熱中症の初期症状はどんな症状ですか。
 
窪田)高温多湿な環境下で、体温調整がうまくできない場合に熱が体内にこもって発症します。初期症状は、めまいや筋肉のこむら返り、手足のしびれ、大量の発汗など多岐にわたります。
 
西村)吐き気や頭痛も熱中症の症状ですか。
 
窪田)はい。いろいろあるのですが、初期症状は、大量の発汗やめまい、フラつきが多いと思います。
 
西村)子どもは暑いとき、よくしんどいと言いますが、熱中症か風邪かの見極めが難しいと感じます。
 
窪田)高温多湿な環境下に長時間いたかどうかが判断基準になります。家に帰ってから熱中症になることも多いです。
 
西村)これから夏祭りや万博、野外ライブなどに行く人も多いと思います。身近にいる人に熱中症の症状が出たら、どのように対処したら良いですか。
 
窪田)一番の判断基準は会話ができるか。対処法は4つあります。まず1つ目は、声をかける。会話ができて、呼びかけに応えることができたら、2つ目は、涼しい場所に移動させる。3つ目は、体を冷やす。4つ目は、水分・塩分の補給をする。この4点に注意してください。
 
西村)声をかけるときは、どんな言葉をかけたら良いですか。
 
窪田)名前がわかっていれば、名前を呼んで「〇〇さん、大丈夫?」と声をかけてください。一番反応しやすいのは、名前を呼ばれたときだからです。倒れている人を見つけて、名前がわからない場合は、肩をたたきながら「わかりますか?」と声かけをしてください。
 
西村)涼しい場所に避難させるとき、歩けない場合は、運び方など注意するポイントはありますか。
 
窪田)歩けない場合は、何人かで涼しい場所に移動させる。1人で歩けない状態、歩こうとしてもフラフラする状態であれば、迷わず119番してください。
 
西村)体を冷やすポイントも教えてください。
 
窪田)体には三大局所冷却部位があります。首元・脇の下・足の付け根です。この3点には太い血管が通っているので冷却に効率的です。手のひらや足の裏も冷やすと効果的。手のひらには動脈と静脈を繋ぐ血管があります。手のひらの血管を冷やすと全身を効率よく冷やせるので、ペットボトルを握らせてあげるだけでも冷却効果があります。
 
西村)冷たいものを何も持っていないときは、どうしたら良いですか。
 
窪田)涼しい場所に避難させて、近くにお店があれば「氷をください」と頼むと良いと思います。
 
西村)近くにコンビニがあったら良いですね。
 
窪田)コンビニで凍ったペットボトルを買って対処すると良いですね。
 
西村)首や脇の下、足の付け根に冷たいものを当てるだけで良いのですか。
 
窪田)凍ったペットボトルや氷嚢をタオルなどで包んで当ててあげると良いと思います。
 
西村)お年寄りや子どもなど、年齢によって注意するポイントはありますか。
 
窪田)高齢者や未就学児は自己判断が難しいので、家族や周りの人が日頃から熱中症対策をしましょう。水分補給に気をつけて、涼しい環境を整えてあげることが大事ですね。
 
西村)先ほどの4つの対処ポイントに戻ります。4つ目の水分・塩分の補給について教えてください。
 
窪田)無理やり飲ませるのではなく、ペットボトルを渡して、自分で飲めるのか判断してください。自分で飲めるなら、冷たい水・スポーツドリンク・経口補水液を飲ませてあげてください。自分で飲めないのに無理やり飲ませてしまうと、誤嚥や窒息の危険があります。
 
西村)子どもには、普段から飲ませてあげているので、いつもと同じように飲ませてしまいそう。自分で飲めない場合は、病院に連れて行くか救急車を呼ぶべきですね。ペットボトルにストローをさして渡してあげるのは大丈夫ですか。
 
窪田)ストローを使って自分で飲めるのなら可能です。
 
西村)この4点に注意して、どれぐらいの時間、安静にしていたら良いのでしょうか。
 
窪田)最低でも20分。20~30分様子を見て症状が改善しなければ病院へ。改善すれば自宅に戻って、安静にしましょう。めまいがあれば、めまいがおさまって、汗がひいて、しっかり歩ける状態になれば大丈夫です。
 
西村)歩けるようになって、吐き気も治まって頭痛がある場合は、病院に行った方が良いですか。
 
窪田)ちょっとでも不安に感じることがあれば病院へ行った方が良いです。
 
西村)最初に声をかけたときに、会話ができなかった場合は、救急車を呼んだ方が良いですか。
 
窪田)一番重要なのは会話ができるかということ。声をかけても「意識がはっきりしない」「ぼーっとしている」「自分の名前が言えない」「今日の日付が言えない」という場合は明らかに意識状態が悪いので、迷わず119番してください。声をかけたときに痙攣や歩けない状態にある場合は運動障害があるので、119番をしてください。熱中症は、重症化すると脳がダメージを受け、後遺症が残る場合も。最悪の場合は死に至るケースもありますので、非常に怖いです。
 
西村)特に熱中症に注意が必要な人は。
 
窪田)自己判断ができない高齢者や子どもです。高齢者は暑さを感じにくい、汗をかきにくいことも。周りの人が声をかけて、水分補給や暑さ対策を行ってください。過去に救急車で搬送した患者は屋内にいることが多かったです。クーラーあるのに節約を優先して、扇風機で過ごしてしまう人をたくさん見てきました。命を守ることを一番に考えてほしいです。小さい子どもは、大人よりも身長が低く、地面からの距離が近いです。太陽の照り返しの熱を受けやすいので、夏は常に熱中症対策が必要です。
 
西村)ベビーカーで散歩するときも気をつけた方が良いですか。
 
窪田)ベビーカーにつける扇風機や冷やす氷も活用しましょう。
 
西村)ペットも気をつけた方が良いですか。
 
窪田)ペットも暑さを感じやすいです。
 
西村)散歩しているワンちゃんを見ていたら、足が熱いコンクリートに当たっていて...。散歩の時間帯も気をつけた方が良いですよね。
 
窪田)夏は、いつもより散歩の距離を減らすなどの対処をしてください。
 
西村)高齢者に「クーラーつけて」と言っても、「節約するから」と言ってなかなかクーラーをつけてくれないことがあります。そんな人は多いですか。
 
窪田)多いと感じます。統計を見ても、高齢者が屋内で熱中症になるケースが多いです。家族に注意を呼びかけられたのに家族が仕事から帰ってくるとクーラーをつけてなかったという例も。一人暮らしの高齢者は、久々に訪れた家族やヘルパーが救急車を要請することが多いです。
 
西村)地域の見守りは大切ですね。
 
窪田)自助共助が大切です。熱中症も災害と捉えて、地域で命を守ることは重要だと思います。
 
西村)自分自身に熱中症の症状が出たらどうしたら良いですか。
 
窪田)涼しい環境と自分の体温を下げること。第1は無理をせず、こまめに水分補給をしましょう。少しでもしんどいと感じたら、一旦涼しいところで休む。自分自身で気をつけるのはもちとん、職場でも注意を促していただければ。
 
西村)職場の環境も大切ですね。来月から企業で熱中症対策が義務化されます。水分はその状況に応じて水、経口補水液など飲むものを変えた方が良いのでしょうか。
 
窪田)水分とともに塩分も減るので、スポーツドリンクや経口補水液はおすすめです。1Lの水に対して、1~2mlぐらいの食塩を混ぜることが推奨されています。
 
西村)お年寄りがいる家庭は、経口補水液を買って冷蔵庫に入れておくと良いですね。
 
窪田)毎年のように熱中症で亡くなられる人がいますので、誰にでも起こり得ることと捉えて、油断しないこと。外出の際には帽子や日傘など熱中症対策をしましょう。水分補給など簡単にできることが自分の命を守ることにつながります。熱中症予防を心がけて、健康で充実した夏を過ごしてください。
 
西村)きょうは、元消防士で救急救命士として多くの熱中症患者を搬送してきた窪田陽平さんに、熱中症の正しい対処法をお聞きしました。

第1492回「落雷から身を守る」
オンライン:防衛大学校 教授 小林文明さん

西村)先月、奈良市の帝塚山学園のグラウンドに雷が落ち、サッカーの練習をしていた中学生2人が一時意識不明の重体となりました。これから落雷が増えるシーズンを前に、改めてどんな点に注意すれば良いのか。雷のメカニズムに詳しい防衛大学校 教授 小林文明さんに聞きます。
 
小林)よろしくお願いいたします。
 
西村)4月10日の夕方、グラウンドでは帝塚山学園の中学校と高校のサッカー部約20人や野球部が練習していました。顧問によると、「急に雨脚が強くなって中断しようか迷っていたところに落雷があった」「判断する間もなかった」などと話しているということです。小林さんはどう感じましたか。
 
小林)春は落雷の事故が多い季節です。入道雲がたくさんあって雷が落ちてくる夏に比べて、春は雷が少ない印象だと思いますが、条件によっては春も雷が起きやすいです。1年前の4月に九州で、サッカーの試合準備中に落雷事故がありました。スポーツ中の落雷事故はよく起こっています。また起こってしまったのか...という印象です。
 
西村)帝塚山学園の顧問は当時、「雷注意報は頻繁に出ているので認知していなかった」と話しているそうです。
 
小林)雷には警報がなく注意報しかありません。竜巻も注意報しかありません。ピンポイントではなく、県や市町村など広い範囲に長時間出されるのが一般的。注意報が出ていたとしても自分の頭の上は晴れていることがあります。雨も降ってない、雷も起こってないことがしばしばあるので、竜巻や雷の注意報で行動を100%決めるのは難しいと思います。もちろん注意はしなければなりませんが、雷注意報が出ているからといって、練習を中止していたら練習をする日がなくなってしまいます。非常に判断が難しい状況だったと思います。
 
西村)夏なら積乱雲が出ていると雷が起こるとわかるのですが、春の突然の雷に予兆はあるのでしょうか。
 
小林)雷は発達した積乱雲が発生するというのが一つの条件。それを事前に探知・認識していれば、回避することは可能です。大阪なら六甲山地から雷雲が駆け下りてくることがあると思うのですが、春は決まった条件がありません。過去の事例でも大気が不安定になっているときに雷が起こっています。今回も強い寒気が上空に入ってきて対流活動が活発になりました。上空に寒気が入ってくると日本中に雷が鳴る状況が続きます。低気圧に伴う前線の影響もあります。寒冷前線が通過するときに、強い雨、雷が伴います。今回もそのような条件が整っていて、雷は起こるべくして起こったのだと思います。ただ、非常に局地的だったので、当該グラウンドでは、それまでに雷は起こっていなかったのに、ファーストストライクで事故が起こったのだと思います。
 
西村)他人事ではないと感じます。屋外で雷が発生した場合はどうしたら良いのでしょうか。
 
小林)雷がピカっと光って、ゴロゴロと音が聞こえるまでに時間差がありますよね。音の方が遅いので、10秒かかったら3km離れていると聞いたことがあると思います。今は状況が変わって、発達した雷雲は数10km~大きいものなら100kmを超えます。ですから、3km離れていて光ったら、次は自分の頭に落ちる。ゴロゴロ鳴ったり、光ったりしたら次は我が身ということです。そこから行動するのでは遅い。今は、スマホで落雷の情報が見ることができるので、スポーツやレジャー中、日々の生活の中で、情報に注意をして行動することが必要です。
 
西村)どんな情報を見れば良いのでしょうか。
 
小林)気象庁ホームページで「雷ナウキャスト」を公開しています。これは、明日の天気ではなく、5~10分後の天気がわかるものです。あるいは、さまざまな気象会社が出しているレーダー予報などを見ながら、自分の周りの雷雲、遠くの雷雲のようすを確認すれば、ほぼ状況を把握することができます。雨が降り始める前、雷が落ちる前に、50~100km離れている雷雲を確認しながら逃げることができます。
 
西村)お天気アプリの「雨雲レーダー」の雷版ですね。
 
小林)気象庁の「雷ナウキャスト」は雷に関して最も信頼性が高いと思います。さらに雨雲レーダーなどでリアルタイムの雨雲の位置を見てください。最後は自分の目で見上げて判断する癖をつければ、ほぼ身の安全を守ることができると思います。
 
西村)どんなときに雷情報をチェックしたら良いですか。
 
小林)登校、通勤時、買い物に行くときなど日々の生活の中で、情報をチェックする癖をつけておけば、いざというときに役に立ちます。学校の指導者は、雷注意報が出ているときは、常に情報をキャッチしながらいつ練習をやめるか、再開するかを判断する。今回の事例は突然ではありましたが、周辺で雷雲が発生して接近している状況ではあった。常に監視していれば早めの行動をとることができたと思います。
 
西村)やはり自分で情報を集めておかないといけないですね。
 
小林)1年前の4月に起きた九州の落雷事故では、曇天で雨が降る気配もなかったのに突然雷が落ちました。雷雲が遠くから近づいてはきているけど、全く予兆がなかったのです。そこが春の雷の怖いところです。夏の雷なら、発達したひとつの積乱雲から数千回という雷が起ります。春や冬の雷は1回落ちておしまいということも。あまり学校で教えてくれないと思いますが、良い機会なので、家庭や学校で話し合っておいてほしいと思います。
 
西村)突然雷が発生した場合、どのように避難すれば良いのですか。
 
小林)近くに雷が落ちたら、もう神に祈るしかないですが、昔から「雷におへそを取られないように」といいますよね。頑丈な建物や車(手を出したり何か触ったりしければ安全)の中に逃げれば安全ですが、逃げる場所がないときにする対策はふたつ。ひとつは保護域を見つけること。「高い木の近くは危険」ということはみなさん認識していると思います。木に落ちた雷の電流が人に移って人の頭から足先に出ていくからです。しかし、高い木や高い鉄塔から4m離れていれば安全です。これを保護域と呼びます。例えば30mの鉄塔があれば、半径30m以内が保護域。ポールから4m離れて領域中に入って小さくかがむ「雷しゃがみ」をすると、ほぼ雷から身を守ることができます。「雷しゃがみ」は単にしゃがむだけではなく、ポイントが3つあります。ひとつは、足を揃えること。雷は「直撃雷」「側撃雷」のほかに「地電流」もあります。地面に落ちた雷の電流が地面を流れるのです。そこに人が立っていると、両足の間に電位差ができるので、電流が流れてしまう。ですから、電流が流れないように足を揃えてください。一番いいのは1本足。でも1本足でしゃがむのは難しいと思うので、足を揃えてしゃがむ。できれば地面への接地面積を小さくしたいので、つま先立ちで足を揃えてしゃがんでください。言うのは簡単だけどやるのは難しいと思います。
 
西村)しゃがみながらかかとを上げなければいけないのですね...。
 
小林)接地面積を小さくしたいからです。さらに、近くに雷が落ちるとその衝撃波や爆音・爆風で鼓膜が破れるので、親指で両耳をふさぐこと。保護域を見つけてこの「雷しゃがみ」をしていると、雷雨なのでずぶ濡れにはなりますが、命は守ることができる。これらを学校で教えて欲しいのですが...まだまだ知られていないのが現状だと思います。
 
西村)雷からの避難方法をまとめると...
●木から4m離れて保護域へ
●「雷しゃがみ」をする(耳を両手でふさいで、足は揃えて、つま先立ちでしゃがむ)
 
小林)ぜひ一度やってみてください。多分難しいと思います。スクワットするより難しいかもしれませんが、生きるか死ぬかというときには、正しい姿勢を取ることが大事です。
 
西村)どれぐらいの時間、この姿勢をキープしたら良いのでしょうか。
 
小林)雷雲が通り過ぎるまで最低でも20~30分かかります。でも30分もこの姿勢を保つことは、なかなかできないし、周りは嵐で怖いしずぶ濡れになってしまいます。これは最終手段。「雷しゃがみ」をしなくていいように、それまでに逃げることが大事です。
 
西村)改めてわたしたちは、雷に対してどんなことを心がけておいたら良いのでしょうか。
 
小林)日本は、世界的にも一年中雷が起こる場所。夏の雷だけではなく、日本海側の雪雲からの冬季雷もあります。雷は昔から日本人にとっては身近な存在です。こうした人体に対する被害だけではなく、スマホやコンピュータなど電化製品に対する被害もあります。雷や嵐が来たら、収まるまでは家の中で何も触らずにじっとしていること。電化製品のコンセントを抜くなど対策をしましょう。自然現象に対しては、昔の人と同じように畏怖の念を持って、通り過ぎるのを待つ。普段からの備えをする気持ちは大事です。気象は目で見ることができるので、スマホなどで確認して学習しておけば、いざというときに危険な積乱雲を見分けることができると思います。
 
西村)きょうは、雷のメカニズムに詳しい防衛大学校教授の小林文明さんにお話を伺いました。