第1468回「命を守る"口腔ケア"」
ゲスト:兵庫県保険医協会 副理事長 足立了平さん

西村)来年の1月17日で発生から30年になる阪神・淡路大震災。この地震の震災関連死のうち、約4分の1が肺炎によるもので、その多くが誤嚥性肺炎とみられています。誤嚥性肺炎の主な原因は、口の中の汚れです。
きょうは、多くの被災地で被災者の口腔ケアにあたってきた兵庫県保険医協会 副理事長 足立了平さんをスタジオにお迎えしました。
 
足立)よろしくお願いいたします。
 
西村)足立さんは阪神・淡路大震災の避難所でも医療活動をしていたそうですね。当時のようすを教えてください。
 
足立)当時も被災者に一般的な治療は提供していました。ただ、口腔ケアのような予防活動はできていませんでした。災害関連死の肺炎と口の中の細菌との関係が当時はわかっていなかったからです。医学的にも証明されていなかった。後に肺炎と口腔ケアとの関係がわかってきて、「あのとき口腔ケアをすれば、肺炎が防げたのではないか」という反省のもとに、災害時の口腔ケアの重要性を伝えています。
 
西村)阪神・淡路大震災当時も断水で水が不足していたので、歯磨きは十分できていなかったのですね。
 
足立)極端な水不足で、歯磨きどころではないという人も多かったと思います。
 
西村)誤嚥性肺炎という病気は、どんな病気なのか教えてください。
 
足立)口の中の細菌を含んだ唾液が気管に入って肺で増殖し、肺炎を起こす病気です。体力が落ちているときに細菌が増えやすくなります。元気なお年寄りはあまり肺炎を起こすことはありませんが、災害時に体力が落ちると肺炎を起こしやすくなります。口の中が汚れている人ほど、肺炎を起こしやすいです。高齢者の肺炎の8割は誤嚥性肺炎だと言われています。
 
西村)飲み込む力が弱くなってくることも関係していますか。
 
足立)はい。高齢者は、病気や加齢によって飲み込む力が弱くなります。
 
西村)阪神・淡路大震災の避難所では、歯ブラシなどの歯磨きグッズは配られていたのでしょうか。
 
足立)日用品は配られていました。しかし、歯を磨く意識があるのかが問題。口腔ケアが命を守るということはあまり知られていません。阪神・淡路大震災当時はわたしたち医師も知りませんでした。世界で初めて「口腔ケアで肺炎が予防できる」という論文が発表されたのは、震災から4年後の1999年です。
 
西村)誤嚥性肺炎を予防することが大事ですね。個人レベルでできることを教えてください。
 
足立)病気や加齢によって起こる嚥下能力の低下を改善することは難しいですが、口腔ケアで口の中の細菌を減らすことは普段の努力でできます。肺炎を起こすのは、口の中の菌。口腔ケアをして、細菌を減らしておくことと、しっかり噛んで食べて栄養をつけておくことも大事です。災害のときに入れ歯を持ち出せなくて、硬い物が噛めずに栄養が下がる人も多い。入れ歯を外さずに寝る人もいて、そうすると夜間に口の中の細菌が増えてしまいます。動物にとって歯がなくなるということは、死を意味します。
 
西村)まずは歯をしっかりと守ることですね。口腔ケアについて、国で取り組んでほしいことはありますか。
 
足立)避難所の水場の環境の改善です。日本の避難所は世界レベルで見ると劣悪だとよく言われますが、水場もその一つ。使い勝手のいい洗面所があれば、口腔ケアをしやすくなります。避難所の環境作りは、自助や共助では難しいので、国がしっかりと考えてほしいですね。
 
西村)歯磨きをしやすい環境が必要ということですね。
 
足立)人前で入れ歯を外して磨きにくい高齢者も多いと思います。自衛隊が運動場の真ん中に水場を作ってくれていましたが、明かりがなくて屋根がないので、雨天時や夜間は水場に行かない人が多かったです。もっと近くに水場を作って、ダンボールで仕切ってプライバシーを守って、人に見られない状態を作らなければなりません。避難所の運営は男性が関わっていることが多いので、ジェンダーの視点が抜けていることも。水場については、歯科医療関係者でなければ、提言が難しいと思います。
 
西村)足立さんは、輪島ではどんなところで被災者支援を行っていたのですか。
 
足立)輪島の避難所を回って環境整備や肺炎の予防について啓発活動を行っていました。ある中学校では、避難場所が校舎と体育館にわかれていたのですが、水場は全て校舎にありました。体育館にいる人は、一旦外へ出て、靴を履いて、校舎に行って歯磨きや洗顔をしなければなりませんでした。
 
西村)それは面倒くさいですね。
 
足立)日中はよくても、夜は不便なので、水場に行かずにそのまま寝てしまう人も多かったです。20mほどの距離でしたが、大きな距離だと感じました。
 
西村)歯磨きやがおろそかになってしまった人がたくさんいたのですね。
 
足立)「歯磨きをしなくても死ぬことはないだろう」という考えがベースにあると思います。口腔ケアをしっかりしておかないと肺炎になってしまうということが、高齢者には浸透していません。
 
西村)具体的にはどんなケアをしたら良いですか。
 
足立)通常の歯磨きで構いません。入れ歯の掃除は重要です。しかし「貴重な水を歯磨きや入れ歯を洗うのに使うなんて...」と忖度する人が多いです。
 
西村)周りの人の目も気になりますね。
 
足立)支援物資で水がたくさん届いても、水は貴重だから保存しておかなければいけないと思ってしまうんです。
 
西村)目隠しがあって1人の空間があれば、周りに気を使うことなく水を使って歯磨きをすることができますよね。
 
足立)歯磨きは人権です。日本人は「被災したら多少の不便は我慢すべき」という風潮がある。わたしたちは、被災前と同じ生活をする権利を持っています。そこはしっかりと国に考えてえてもらいたいですね。
 
西村)支給される物資の中に、マウスウォッシュや水を使わずに歯磨きができるグッズはありますか。
 
足立)たくさんありますが使い方がわからないという人も多いです。歯間ブラシは都会では一般的ですが、慣れていない高齢者も。グッズの使い方を指導する歯科衛生士が巡回、常駐することが必要だと思います。
 
西村)誤嚥性肺炎で命を落とさないために、平時からやっておくといい備えを教えてください。
 
足立)大きなポイントは備えない防災(フェーズフリー)。普段使いのものを災害時にも使えるように備えておくことです。普段からしっかりと口のメンテナンスをしておくことは非常に重要です。サバイバル状態になっても「噛める口・飲める口」を作っておきましょう。そのためには歯をしっかり残すこと。歯磨きを毎日することはもちろん、3~4ヶ月に一度、歯科医院でメンテナンスをして、口のケアを普段からしておきましょう。
 
西村)わたしたちが子どものときは、虫歯ができたら歯科医院に行く感覚でした。普段から歯科医院でメンテナンスをすることも大事なのですね。普段から使える口腔ケアグッズで、おすすめのものがあれば教えてください。
 
足立)水がないときも使えるウェットティッシュは便利です。指に巻いて歯を磨くものです。歯ブラシがないときに代用することができます。ほかに水がなくても磨ける液体歯磨きなどの口腔ケアグッズを防災バックの中に入れておきましょう。口腔ケアは、歯周病や虫歯の予防だけではなく、肺炎から命を守り、災害関連死を防ぐことにつながります。
 
西村)兵庫県保険医協会 副理事長 足立了平さん、ありがとうございました。

第1467回「輪島朝市の被害から考える『地震火災』」
オンライン:東京大学 教授(日本火災学会) 廣井悠さん

西村)元日の能登半島地震では、輪島朝市で大規模な火災が発生し、約250軒が焼失しました。大きな被害が出た原因はどこにあるのか。地震や津波で火災が発生したとき、どう対応すればよいのか。
きょうは、輪島朝市の火災現場を調査した東京大学 教授 廣井悠さんにお話を伺います。
 
廣井)よろしくお願いいたします。
  
西村)震災前は多くの観光客が訪れて賑わっていた輪島朝市。地震後の火災で250件も焼失してしまいました。輪島朝市の出火原因は何だと思いますか。
 
廣井)出火原因は、詳しくわかっていません。総務省消防庁の消防研究センターが調べていますが、電気が原因である可能性が高いとのことです。近年の地震火災の約半分が電気によるものです。電気器具の転倒による出火、配線の損傷による出火などさまざまな原因がありますが、厳密には不明です。
 
西村)なぜこんなに被害が広がったのでしょうか。
 
廣井)2つ理由があると思います。1つは燃えやすい市街地だったということ。輪島朝市通り付近は木造の建物が密集していました。木造密集市街地は、火災が起きると非常に燃え移りやすくなります。
 
西村)木造の建物の中には、住宅兼店舗もあったのですか。
 
廣井)住宅や店舗、小さな工場兼住宅もあったと思います。
 
西村)火災が起こった当時、そこに住んでいた人もいたのですね。
 
廣井)2つ目の原因は、地震や津波の影響。大きな地震が起きると、建物自体が燃えやすくなります。大きく揺れると建物の外壁が剥がれて防火性能を失ってしまいます。瓦がずれるとヒビが入りやすくなります。窓が壊れると火の粉が入りやすくなります。地震の揺れによって、木造密集市街地が建物倒壊によってさらに燃えやすくなった可能性があります。もう1つは、消火活動が困難だったこと。地震によって、水道管が壊れると、消火栓から取水することができません。電柱が地震の揺れで倒れて邪魔をしてしまって、数少ない防火水槽からも取水できなかった事例もあります。消防が消火栓と防火水槽から取水できなかったことが大きな原因。さらに津波の影響もあります。輪島朝市通りは、津波浸水が懸念される地域でした。当時、大津波警報が出ていて危険で、海水を取水することができなかった。消火栓も防火水槽も海水も使えない状況でした。隆起の影響で川の水位が低下して川の水を使うことも困難でした。避難を優先して、初期消火や早期の火災の覚知もできていなかったと思われます。燃えやすい市街地だった上に、地震や津波の影響、消火活動や火災の覚知が難しかったことが原因だと思います。
 
西村)大津波警報が出たら一目散に逃げないといけませんよね。被災者は避難時のようすについて、どのように話していましたか。
 
廣井)多くの人がすでに逃げていたということです。大津波警報が出たら、津波の危険性がある場所にいる人は逃げないといけないので、仕方ないと思います。津波警報の影響で、初期消火や火災の覚知ができなかったのは仕方がないことです。そのような場所の火災の防災対策について、課題が浮き彫りとなりました。
 
西村)どうしていったら良いと思いますか。
 
廣井)津波の影響があるころと津波の影響が少ないところで切り分ける必要があると思います。輪島の朝市通り付近の火災が教えてくれたことは、津波・火災・地震のリスクがある場所の防災の難しさ。地震が起きると鎮火対応が難しいので、5ヘクタールくらいはすぐに燃える火災が起こり得るのです。きちんと初期消火をしなければならないと思います。
 
西村)でも逃げながら初期消火することは難しいですよね。
 
廣井)そうですね。津波が来るところと津波の来ないところは切り分けて考える必要があります。
  
西村)能登半島地震の輪島朝市の火災は、みなさんがすぐに逃げてしまったから、消防への通報もできなかったということですか。
 
廣井)その可能性はあります。
 
西村)阪神・淡路大震災のときは、長田の町が火災で大きな被害を受け、東日本大震災でも津波火災がたくさん発生しました。今後、首都直下地震や南海トラフ巨大地震が起きたら、地震火災や津波火災が起こる可能性はありますか。
 
廣井)はい。地震時にも火災が起きるということを認識することが重要です。
 
西村)地震火災が起こると家の中はどのように燃えて、どのような被害が出るのでしょうか。
 
廣井)火災が起きた場合、わたしたちが消すことができる時間は非常に短いです。個人が消火器などで火を消すときは、自分の背の高さや天井に着火するまでの時間しか対応できません。極めて短い時間の中で、消化対応をしなければなりません。大きな揺れが起きた後は、部屋の中はぐちゃぐちゃで、可燃物と火源が接触しやすい状態。そんな中ですぐに火災を見つけなければ対応が難しくなります。
 
西村)火が出やすい場所はどんなところですか。
 
廣井)台所や暖房器具を使っている部屋は火が出やすいと思います。
  
西村)「鍋を火にかけていたら火を止める」「逃げる前に元栓を閉めるな」どの確認が大切ですね。
 
廣井)難しいかもしれませんが、緊急時速報が鳴ったらすぐに火を消すことは重要ですね。揺れているときに火を消そうとすると火傷してしまう可能性もあるので、まずは身の安全を確保して、ある程度揺れが収まったら、火の元を確認しましょう。
 
西村)初期消火はどのようにすれば良いですか。
 
廣井)まずは火災を見つけることが重要。自宅だけではなく、町内会や自主防災組織と手分けして、火災を見つける。火災が見つかったら、大声で知らせる。1人でできることには限りがあるので、火災対応は周りの人みんなで対応することが必要です。
 
西村)津波がすぐくる地域なら、一目散に逃げないといけないので難しそうですね...。
 
廣井)命を守ることが一番重要。津波のリスクも火災のリスクもある海沿いの木造密集市街地は、直後の対応は難しいので、感震ブレーカーを設置したり、火災に強い街の構造にしたりという事前対策は有効だと思います。事前対策ぐらいしかやることはないと思います。津波が来る場所は、津波から命を守ることを優先。一方で、津波のリスクがない場所では、初期消火ができるので、事前にいざというときに動ける組織を作っておくことが重要。津波のリスクによって、対応が違うことが改めてわかりました。
 
西村)大事なポイントがわかったのですね。火災からの逃げ方のポイントはありますか。
  
廣井)まず大きな公園などの広い場所に逃げる。風上の広い場所に、広い道路を使って、延焼している場所を避けて逃げてください。木造密集市街地の建物の中にいた場合は、まず広い道路に逃げる。火災で怖いのは、火災の同時多発です。関東大震災のときは、火に囲まれて、逃げる場所を失った人がたくさん亡くなりました。都市部では、できるだけ広い道路に逃げて、広い場所に行く逃げ方が良いとされています。ぜひ知っておいてください。
 
西村)大切な逃げ方を教えていただきました。
きょうは、地震火災について、東京大学 教授 廣井悠さんにお話を伺いました。

第1466回「マンション防災~マンションを最高の避難所に!~」
オンライン:マンション防災士 釜石徹さん

西村)都市部を中心に増え続けるマンション。数階建ての低層から、超高層のタワーマンションまで間取りもさまざまで、幅広い層に人気です。しかし地震で停電してしまうと、エレベーターは止まり、高層階に住む人たちは外出も難しくなります。また、マンションの給水システムの多くは電気を使っているため、断水の可能性もあります。
きょうは、マンションの防災に詳しいマンション防災士の釜石徹さんにマンションに暮らす人の防災対策についてお話を聞きます。
 
釜石)よろしくお願いいたします。
 
西村)停電するとエレベーターは止まり、断水の可能性もあるマンションは自然災害に弱いのでしょうか。
 
釜石)マンションは、建物が頑丈なので戸建てに比べると災害に強いです。暴風雨にも耐えられるし、津波や水害の際は上層階に逃げれば安全。耐震性があれば、倒壊や全壊の可能性はほとんどありません。部屋に住める状態であれば、停電・断水しても備えをしておくことで、普段に近い生活をおくることができます。
 
西村)小学校や中学校などの指定避難所に行くよりも、マンションの部屋にいられる方が良いですね。
 
釜石)災害発生後すぐに避難所へ行くという考え方は間違いです。避難所はスペースも少なく、体育館や教室で雑魚寝をしなければならない。密集・密接・密閉状態は、感染症が蔓延する可能性もあります。都市部の学校避難所は、約8000~1万人にひとつの避難所が指定されています。避難所に住民全員が避難できる収容スペースはありません。
 
西村)タワーマンションが新しく建設されたら、小学校を一つ増やさないといけなくなるという話も聞きます。避難所は足りていないのですね。
 
釜石)増やしたとしても、タワーマンションの住人はすべてを受け入れるスペースはありません。避難所に備蓄されている食料は、約1000人✕2~3日分しか備蓄されてないことが多いです。アルファ化米やクラッカーなど栄養価のないものが多いです。アレルギー対応食はありません。在宅避難で家族に必要な食料を自分たちで揃える方が良いです。
 
西村)食べ慣れたものを食べられると安心にもつながりますね。我が家は、息子に発達障害があるので、食べられるもが限られています。
 
釜石)そういう人が避難所に行くと、食べられる物は何もないと思います。
 
西村)能登の避難所はかなり過酷な状況だったと聞きました。小中学校はプライバシーがないところも多く、トイレ問題も深刻。自宅で過ごせるようにどのような備えが必要ですか。
 
釜石)まず、大きな地震が起きても室内で怪我をしないようにする備えが大事。家具・家電の固定を確実に。同時に、万が一出火した場合に、すぐに初期消火ができるようにする。スプレー式の簡易消化器をおすすめします。
 
西村)消化器というと結構大きいものを想像しますが、スプレー式のものがあるのですか。
 
釜石)大きな消火器はどこのマンションにもありますが重いし、操作が難しいですよね。ヘアスプレーぐらいのサイズの消化器なら女性でも簡単に使うことができます。台所の近くに置いておくと良いですよ。
 
西村)食器棚が倒れたり、電子レンジが飛んできたりしないために、家具・家電を固定する方法を教えてください。
 
釜石)背の高い家具は突っ張り棒で固定しましょう。電子レンジや炊飯器を固定するためのジェル式のマットも便利です。台所は普段使っている時間が長く、飛んでくるものが多い危険な場所でもあります。台所をいかに安全にするかが室内で怪我をしない備えのポイントになると思います。
 
西村)子供だけで留守番しているときに、地震が起こって頭の上に重いものが落ちてきたら大変ですものね。
 
釜石)そういうことがないようにぜひ備えてください。
 
西村)実家には、背の高い古い家具が未だにあります。食器棚の上に使っていないホットプレートが置いてあったり...。頭上に扉付きの棚がある場合は、扉が開かないようにしておかないといけませんね。
 
釜石)扉のストッパーのような器具も売られていますのでぜひ備えましょう。観音扉用や引き出し用などさまざまなタイプのものがあります。
 
西村)震度6~7の地震が起こった場合、家の中の家具はどんなふうに揺れるのか教えてください。
 
釜石)固定していないものは全部倒れるイメージ。そこに人がいれば怪我をする可能性も高まります。普段いるリビングや台所の家具が落ちてくる可能性があれば、必ず固定しましょう。急に揺れが来るので、「揺れたら逃げる」という発想はやめましょう。揺れ始めた瞬間にドーンとくるので、しゃがむことしかできません。一歩も動けません。物が落ちてこないように固定することが大事です。
 
西村)最近は、掃除がしやすいキャスター付きの収納のものもありますが危険ですね。
 
釜石)阪神・淡路大震災のときに固定していなかったキャスターのピアノが飛んできて凶器なったという話もあります。キャスターのテレビ台も危険。冷蔵庫のようにキャスターがついているものは必ず固定をしましょう。移動防止グッズを取り付けるだけでも効果があります。
 
西村)家具・家電の固定、火災の備え以外に具体的な方法はありますか。
 
釜石)停電、断水が長期間なるということを想定して、在宅避難で10日以上生活するために、調理用のカセットコンロ・カセットボンベを十分に備えておいてください。
 
西村)最近は、お湯を沸かすために電気ポットを使うし、レンジでチンをして食料を温めるのが当たり前になっていますよね。
 
釜石)わたしがセミナーでマンションを訪れたとき、約1~2割の住民がカセットコンロを持っていないといいます。IHヒーターを使っているから、カセットコンロを使う機会がなかったと。大災害が起きて電気が止まってしまったら、自宅で調理するためにカセットコンロが必要になる。セミナーでは着火練習をしています。みんなでカセットコンロにガスボンベをはめて、火をつけて消して、カセットガスボンベを外します。みんなで練習すると和気あいあいと盛り上がるんですよ。
 
西村)楽しそうですね!
 
釜石)みんなでやると「これぐらいならできそう」と思ってもらえる。「ホームセンターで買っておきます!」とみなさん言ってくれます。分譲マンションは、災害発生時に管理会社を頼ってはいけません。マンションの管理会社の社員も被災者になります。マンションの数に比べて、管理会社の社員も非常に少ないので当てになりません。マンションには管理組合や自治会がありますが、全員が被災者になります。みなさん自分や家族、仕事のことを考えざるを得なくなり、他人を助けることはできません。大災害であればあるほど他人を頼ることはできないと考えましょう。誰かの支援をあてにするのではなく、家庭の防災力を上げること。自宅で10日以上の在宅避難ができるように、自宅を最高の避難所にしましょう。
 
西村)マンションだけではなく、戸建ての家でも住み続けられる状態であれば、同じことが言えますね。わたしもしっかり備えようと思いました。
きょうは、マンション防災士の釜石徹さんにマンションに暮らす人の防災対策についてお話を聞きました。

第1465回「能登被災地の神社仏閣~復興に果たす役割と現状」
ゲスト:大阪大学大学院 教授 稲場圭信さん

西村)地域のみなさんが集まるお寺や神社は、お祭りが行われるなど地域コミュニティにとって欠かせない場所ですね。能登半島地震では、多くのお寺や神社が被害を受けました。しかし、再建に向けた支援が未だに進まず、本堂が全壊したままのお寺もあるそうです。災害時にお寺や神社はどんな役割を担うのでしょうか。
きょうは、災害時の宗教施設について、大阪大学 大学院 教授 稲場圭信さんにお話を伺います。

稲場)よろしくお願いいたします。

西村)石川県の被災地を訪れたときに、石川県にはお寺や神社が多いと感じました。

稲場)石川県・能登半島はお寺や神社が多く、1年間を通してさまざまなお祭りが行われている地域です。

西村)お寺や神社はどれくらいあるのですか。

稲場)石川県には3000を超えるお寺や神社があります。元日に発生した地震で、3000を超えるお寺や神社の内、2000を超えるお寺や神社が被災してしまいました。高台にあって被災していないお寺や神社は、津波からの避難場所になっていました。

西村)お寺や神社は避難所として、行政から指定されているのですか。

稲場)石川県では100を超えるお寺や神社が災害時の避難場所、一時避難場所に指定されています。東日本大震災で多くの小学校や公民館が津波で被災し、高台のお寺や神社に多くの人が逃げて、命が守られたことから、現在、全国で4000を超えるお寺や神社が災害時の避難所になっています。

西村)東日本大震災がきっかけで広がったのですね。お寺や神社が避難所として適しているポイントは何ですか。

稲場)冬場の災害時に板張りの体育館で過ごすのは、高齢者にとっては大変ですが、お寺や神社には畳があり、ほっとできる空間があります。扉を開けて換気もできて、家族単位で避難できる空間もあります。法事やお祭りで人が集まって会食をするので、炊きだしをするための設備も厨房もあります。そのように災害時に人の命を守ることができる空間は、大きな地域資源と言えます。

西村)炊事場があれば炊き出しもできるし、座布団もたくさんありますね。

稲場)座布団や毛布もありますし、体を休めるときも畳があれば、災害時の大変なときでもくつろぐことができます。

西村)お寺や神社に避難した被災者の話を聞いたことはありますか。
 
稲場)家が被災して帰る場所がなく、余震が続き、「どうして自分がこんな目に遭うのか」という思いで不安を抱えている人も多いです。お寺や神社に避難することで、「不安な気持ちを受け止めてくれる神様、仏様の存在に安心する」と語る人もいます。
 
西村)一般的な学校の避難所と比べて、気持ちを話しやすいところもあると思います。能登半島でたくさんのお寺や神社が被害を受けたとのこと。被害状況を教えてください。
 
稲場)神社の鳥居の倒壊や拝殿の被災など、1000以上の神社が被災しています。墓石の倒壊、本堂や庫裏が全・半壊したお寺もあり、2000を超えるお寺や神社が被災しています。
 
西村)大雨の被害もありましたね。
 
稲場)9月21日からの豪雨で、避難所から仮設住宅に入ったばかりのタイミングで被災した人がたくさんいました。「心が折れる」「どうしたらいいんだ」という声もたくさん聞きました。お寺や神社にも泥水が入ってしまいました。先が見えないと感じる人が多かったと思います。
 
西村)現在、お寺や神社の建物はどうなっているのでしょうか。
 
稲場)壊れたままのところもあります。行政による公費解体がなかなか進んでいない現実があり、お寺や神社は後回しになっています。一般の民家も公費解体が進んでいない現実がありますので。
 
西村)熊本地震で被災した神社に話を聞いたことがあるのですが、氏子さんの家が再建していないのに神社を再建することは考えられないと。能登も同じように一般の住宅優先で、お寺や神社は後回しになっているのですね。
 
稲場)家が被災した人が多数いる中、お寺や神社が先に再建というわけにはいかない。地域の人々とともに家を再建し、復興の流れの中でお寺や神社を再建する形になると思います。
 
西村)この夏、ボランティアに参加したときに、神社の鳥居が地震で壊れて、細い竹で仮の鳥居を建てているのを見ました。「なぜ新しい鳥居を建てないのですか」と聞くと、「今はお金がないから難しい」と話していて。お寺や神社には、国や石川県から支援金は出ていないのでしょうか。
 
稲場)お寺や神社などの宗教法人への公金支出は、憲法89条で禁止されていますが、今後は、復興基金や指定寄付金制度などでお寺や神社の再建にお金が出ることもあると思います
 
西村)既に、能登のお寺や神社にそのような支援金は出されているのでしょうか。
 
稲場)まだです。簡単にそのようなお金は出ません。一般の家なら地権者は限られていますが、お寺や神社は、神主、住職だけではなく、檀家、氏子、地域の人々とともにどのように復興していくかを相談しながら手続きをしていく必要があります。遠方に避難している人も多く、再建の話し合いも進まない状況で、簡単に申請ができません。一般の家が罹災証明を出して、公費解体から再建に向かう動きもこれからなので、お寺や神社は後回しになると思います。
 
西村)地震だけではなく、豪雨被害も重なってより難しくなっているのでしょう。
 
稲場)解体時には、生活空間にあった大切な思い出の品を出して、住人立会いのもとに、業者が解体をしていきます。これにも調整が必要で、業者の人手不足もあり、簡単に進まないのが現実です。
 
西村)阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震と大きな災害が各地で起こっていますが、そのときもお寺や神社の再建はやはり時間がかかったのでしょうか。
 
稲場)過去の災害でもお寺や神社などの宗教施設の再建には時間がかかりました。一方で2018年の北海道・胆振東部地震では、地域にとって大切なお寺の再建をいち早くしたという事例もあります。そういった例は稀で、まず1人1人の生活再建が優先され、次にお寺や神社の再建となると思います。
 
西村)先月番組では、住職がプロジェクトを立ち上げた重機ボランティアのお話をお届けしました。ボランティアの拠点になっているお寺や神社もあるのでしょうか。
 
稲場)多くの宗教者が被災地で災害支援をしています。重機の運転免許資格がある人も増えてきています。また、炊き出しなどの寄り添い支援の経験がある宗教者も増えてきています。一般のボランティアが能登半島に向かうには、アクセスが悪い状況もありますが、宗教者が被災地で、被災者の"生きる歩みの伴走者"として寄り添っています。
 
西村)そのような場所として、心のよりどころとして、お寺や神社は被災者にとって、大切な存在なのだと改めて感じました。お寺や神社は、これから被災地でどのような役割を果たしていくと思いますか。
 
稲場)日本社会では、全国で高齢化や過疎化の問題があります。地域に根ざしているお寺や神社で、地域のお祭りやカフェや子ども食堂をやっているところもあります。そういった日常においての地域との関係性が、災害時の"共助"につながると考えます。いろんな地域で取り組んでほしいですね。
 
西村)なじみのある場所だからこそ、安心感が生まれますよね。これは南海トラフ地震の避難所不足の解消にもつながっていくのでは。
 
稲場)そう思います。南海トラフ地震が起きたら、間違いなく避難所が足りず、水や食料も足りない大変な状況になります。個人が備えることはもちろん大事ですが、地域のお寺や神社と関係を持ち、いざというときに一緒になって支え合っていくことが、これからの災害に備えとして大切なことだと思います。
 
西村)大切なヒントをいただきました。
きょうは、災害時の宗教施設について、大阪大学 大学院 教授 稲場圭信さんにお話を伺いました。

第1464回「おもてなし防災」
ゲスト:大阪市港区まちづくりセンターの防災アドバイザー 多田裕亮さん

西村)最近は大阪の街でも多くの外国人観光客を見かけるようになりました。来年4月に開幕する「2025年大阪・関西万博」には、約350万人の外国人が訪れると見込まれています。もし、万博開催中に大きな地震が起こったら、地震や津波の怖さを知らない外国人観光客をスムーズに避難誘導することができるのでしょうか。外国人観光客に防災意識を持ってもらう「おもてなし防災」というプロジェクトが始まっています。
きょうは、このプロジェクトに関わっている「大阪市港区まちづくりセンター」防災アドバイザー 多田裕亮さんにスタジオにお越しいただきました。
 
多田)よろしくお願いいたします。
 
西村)「おもてなし防災」とは、どのような取り組みですか。
 
多田)訪日外国人のための防災対策。今年、6月に万博の300日前を起点に始まったプロジェクトです。行政や民間企業、飲食店なども含めた官民一体となった取り組みです。
 
西村)万博の開催前ですが、たくさんの外国人観光客を見かけます。港区には海洋館やサンタマリア号がありますね。
 
多田)港区には、アリーナ会場などの集客施設もあって、大きなイベントも多いです。弁天町駅も港区にあります。これから万博に向けて人が増えていく港区を中心に「おもてなし防災」の活動をしています。
 
西村)外国人観光客以外にも、たくさんの人が訪れる港区。万博が始まればさらに人が増えますね。
 
多田)万博へアクセスする中央線は港区を通っていて、弁天町駅は万博に行く交通の結節点。人が一番集まる場所で、南海トラフ巨大地震が起きて、津波が来たらどうするのか。津波浸水想定区域で外国人が地震に巻き込まれてパニックになったら、どのように安全に逃がすのか。観光客の命も住民の命も一緒に守る方法を考えています。
 
西村)外国人は地震を経験したことがない人も多いでしょうね。
 
多田)災害がない少ない国もありますし、日本のように防災という考えがない国もあります。
 
西村)津波がどんなものかもわからない人も。
 
多田)南海トラフ巨大地震が発生したら、大阪市内には最短で約1時間50分で津波が到達すると言われています。港区には約1時間54分で津波が来ます。それまでに頑丈な建物の3階以上に逃げるように啓発しています。それを外国人にどのように伝えるかが課題です。
 
西村)「大きな地震が起きたら、津波が発生するから早く逃げる」ということが当たり前ではない国がたくさんあるのですね。スマホ片手に、海沿いに津波を見に行ってしまう外国人もいるかもしれません。
 
多田)区内に在住の外国人は「ここは海から近くない。津波は本当に来るのかな?」と言っていたので、「川も近いし、津波の浸水想定区域内です。津波警報が鳴ったらすぐに3階上に逃げてください」と伝えました。津波避難のピクトグラムや避難誘導の表示は、海外の人にはわかりにくいようです。
 
西村)具体的にはどんな活動をしているのですか。
 
多田)ウェブサイトで避難誘導のためのポスターやチラシを公開しています。英語版のほか、さまざまな言語で記載しています。
 
西村)自由にダウンロードできるのですね。「TUNAMI WARNING」と英語、日本語、中国語、韓国語、ベトナム語で書かれていますね。
 
多田)他にもいろんな言語に対応できるように準備を進めているところです。
 
西村)「もし大きな地震がおきたら、ここに114分以内に津波が来ます。丈夫な建物の3階以上に、にげてください」と書かれています。
 
多田)これは、大阪市港区の状況を書いたポスターですが、港区以外で使えるポスターもあります。「津波が来るまでの時間」と「避難場所」が白抜きになっているので、そこに数字を書けば伝わる仕様に。ダウンロードして印刷して、数字を書き入れたら、その場所ごとのポスターができます。まずは、地域のハザードマップを参考にして、自分の地域の津波のリスクを知ること。近所に外国人が増えてきたという人は、これをダウンロードして掲示しておくと、外国人にも伝わりやすいと思います。
 
西村)港区ではもうポスターが貼られているのですか。
 
多田)区内各所にこのポスターを掲示しています。個人店にも掲示場所を広げています。
 
西村)このポスターを見た人の声はどんなものがありますか。
 
多田)外国人には、伝わりやすくなっていると思います。このポスターを見て、再確認する日本人も。まずは、自分の命を守ることが一番大事。自分が住む地域の津波リスクをきちんと把握しておきましょう。
 
西村)港区には、どんな津波避難ビルがありますか。
 
多田)中央線の駅は津波避難ビルになっています。中央線は地下鉄ですが、昔の高潮災害の影響もあり、高架化されています。ほかにも区役所が協定を結んでいる民間のマンションやオフィスビルも津波避難ビルになっています。
 
西村)大きな地震が起きて、目の前に外国人観光客がいて、パニックになっていたらどんな声かけをしたら良いのでしょう。ダウンロードできる「おもてなし防災マニュアル」には、声かけの言葉も記載されていますね。
 
多田)いざというとき、どのように声をかけたら良いのかわからないですよね。
 
西村)自分もパニックになっているから言葉が出てこないと思います。
 
多田)「スタッフの指示に従ってください」と英語・韓国語・中国語の3言語で書かれています。言葉で伝えるのが苦手な人もこれを印刷して掲示して示すことで伝わると思います。
 
西村)「スタッフの指示に従ってください」=「Please follow the instructions of the staff」。
「あちらへ逃げてください」=「Move to that direction」
これ!これ!と指をさすと読んでもらえますね。耳が聞こえない人も文字で表示されていると読むことができます。目で見た方が理解しやすいという人もいると思います。
 
多田)災害時は、防災無線などの大きな音も鳴っていて、混乱しています。視覚情報があるとないとでは全然違うと思います。
 
西村)津波避難ビルのピクトグラムは見たことがありますが、防災に関する表示も増えたら良いですね。
 
多田)「おもてなし防災」の公式Xでも、声かけのフレーズを紹介しているので参考にしてください。
 
西村)いよいよ来年4月に「2025年大阪・関西万博」が開幕します。防災の準備も進めていく中で、今後の課題はありますか。
 
多田)「おもてなし防災」は外国人をターゲットにしたプロジェクトですが、一番大事なのは日本人のわたしたちが自分の地域の津波リスクを把握しておくこと。自分の避難場所を見つけておかないと、人に伝えることができません。このプロジェクトをきっかけに、1人でも多くの日本人に防災意識を高めてもらいたいです。まずは自分の備えから。自分の地域にどれくらい津波来るのか、どれぐらい揺れるのか。ハザードマップで確認して、備えを進めてください。
 
西村)「おもてなし防災」のウェブサイトにたくさんの情報がアップされているので、ぜひご覧ください。
きょうは、おもてなし防災というテーマで、大阪市港区まちづくりセンター防災アドバイザー 多田裕亮さんにお話を伺いました。

第1463回「仮設住宅が豪雨で浸水~対策を考える」
オンライン:専修大学 教授 佐藤慶一さん

西村)能登半島の豪雨から1ヶ月が経ちました。元日の地震の爪痕が残り、復旧作業を進める中で、被災者が暮らす仮設住宅も浸水被害を受けました。被害を避ける方法はなかったのでしょうか。
きょうは、災害時の仮設住宅を研究している専修大学 教授 佐藤慶一さんにお話を聞きます。
 
佐藤)よろしくお願いいたします。
 
西村)ようやく入居することができた仮設住宅で、浸水被害に遭うという厳しい状況になってしまったのはなぜでしょうか。
 
佐藤)今回は地震の被害が大きく、仮設住宅への入居希望者も多くなりました。しかし、土地には限りがあるので、災害リスクのある土地に、仮設住宅を建設せざるを得ない状況です。日本には、水害、土砂崩れ、地震など多様な災害リスクがあるので、全ての仮設住宅を安全な場所に建てることは難しいです。
 
西村)ハザードマップで赤く塗られている場所に仮設住宅を建てざるを得なかったということですか。
 
佐藤)被災地近傍で仮設住宅希望される人も多いですし。
 
西村)佐藤さんは能登に視察に行ったそうですね。能登半島はどんな土地ですか。
 
佐藤)山が多く平地が少ない印象。海のそばの広場に最初に仮設住宅が建ちました。その場所は、津波の浸水リスクがあると聞きました。
 
西村)仮設住宅に入ったら安心だと思っていたのですがそうではないのですね。
 
佐藤)仮設住宅に入居した後も1~2年、それ以上長く住む場合もあります。仮設住宅用地の災害リスクの重要性が改めて確認されています。
 
西村)8月に輪島と珠洲を訪れたのですが、熊本地震や東日本大震災の被災地では見たことがなかったオシャレな仮設住宅が建っていました。木造や2階建ての仮設住宅もありました。
 
佐藤)木造の仮設住宅は、東日本大震災後の福島県でたくさん建てられました。一般的な仮設住宅は工事現場小屋の転用ですが、2階建てや3階建のものもあります。
 
西村)仮設住宅というと、小学校のグラウンドに建っているプレハブやコンテナをイメージしますが、いろいろな仮設住宅があるのですね。
 
佐藤)日本には木造のハウスメーカーや工務店が多いので、木造の仮設住宅はもっと作ることができると思います。
 
西村)木造の仮設住宅は、プレハブやコンテナと比べてどんなところが良いのですか。
 
佐藤)工事現場小屋のようなプレハブだと壁が薄い、結露がある、など居住性能に問題があります。しかし、木造の場合は、通常の住宅と同じスペックなので居住性能が良いです。
 
西村)プレハブの仮設住宅は壊す前提で作られていますが、木造の仮設住宅はずっと住み続けられる恒久住宅として作られているそうですね。
 
佐藤)石川県では、通常のタイプの仮設住宅に加えて、"街作り型"の集合住宅タイプの木造仮設住宅も作っています。いずれは市営住宅や公営住宅として使います。被災地近傍で、ふるさと回帰型の戸建てタイプの木造住宅を作り、いずれは公営住宅として使うか、払い下げることも計画しています。
 
西村)そのまま住み続けることができるのですね。引っ越しするとなるとご近所づきあいをイチからしなければならないので、住み続けられるのは良いですね。ふるさと回帰型の恒久仮設住宅は増えてきているのですか。
 
佐藤)ふるさと回帰型は土地を寄付してもらって建てるので、土地の工面が難しく、数は増えていないと聞いています。
 
西村)土地の確保が難しいのですね。2階建ての仮設住宅は増えてきているのですか。
 
佐藤)まだ少ないです。珠洲の2階建ての仮設住宅は、試験的にできたもの。建築家の坂茂(ばん・しげる)さんが先駆的に災害時の仮設住宅の建設や多層化に取り組んでいます。
 
西村)3階建てや4階建ての仮設住宅もこれからできていくのですか。
 
佐藤)東日本大震災のときも坂茂さんが女川に3階建てのコンテナ仮設住宅を作った事例があります。現在の制度でも不可能ではないと思います。災害リスクが低い用地の活用するために、2階建てなどの多層化を検討していくことが必要だと思います。
 
西村)先日の豪雨で大きな被害を受けた珠洲市で、2階建ての仮設住宅に住んでいる人から聞いたのですが、床下浸水している家がたくさんある中、2階は全く豪雨の被害を受けなかったと。もっと2階建て、3階建ての仮設住宅が増えれば良いのにと思うのですが、なぜまだ少ないのでしょうか。
 
佐藤)最近では、豪雨の被害を受けた被災者の仮設住宅は、2階建てが作られています。一方で、2階建ての仮設住宅はコストと時間がかかり、足音などの騒音問題もあります。しかし用地の災害リスク、水害時を考えると、2階建て仮設住宅を改めて検討する必要があると思います。
 
西村)2階建てや3階建てにするにも騒音問題などいろいろ課題があるのですね。でもそのような仮設住宅が増えてほしいし、もっと住みやすくなってほしいですね。
 
佐藤)すべて2階建てにするのは、難しいかもしれません。仮設住宅を建てる場所は、公有地が足りないのなら、民有地の活用も課題になると思います。災害が起きてからではなく、事前の検討が必要です。
 
西村)事前に避難訓練をするなどの対策はとられているのですか。
 
佐藤)今回、浸水した地域に住む人たちが浸水リスクを認識していたのか、備えや訓練をしていたのかは、わたしも気になっているので、今後調べていきたいと思っています。仮設住宅は元々住んでいた場所ではないので、そのような追加的な備えと確認がより重要になると思います。
 
西村)知らない土地の仮設住宅で、気持ちの余裕もないまま暮らしているみなさんですから、浸水リスクや避難訓練については、自分の中からは湧き出てこない考えかも知れません。すごく大切な備えだと思いました。改めて、今回の能登豪雨を振り返って、仮設住宅について、これからどのような対応が必要ですか。
 
佐藤)仮設住宅を作って終わりではないということ。通常の住宅も仮設住宅も次の災害のリスクがあります。用地の選定は非常に重要な問題。全国で仮設住宅の建設候補地がリストアップされていますが、改めて用地を見直して、あまりにも災害リスクが高いところには、仮設住宅を建てないという判断も必要だと思います。一方で、想定されている被災規模が大きいので、どのようにバランスをとっていくのかは難しい問題です。災害リスクが低い用地を活用していくためにも、2階建ての仮設住宅の準備についてもっと検討が進めばと思います。
 
西村)珠洲や輪島は、高齢化率が高いです。家族がいない一人暮らしの女性は、「お金もないから再建する余裕も、家を建て直す余裕もない」「孫たちも帰ってくる予定はないから、新しい家を建てても意味がない」と。そのような人は、これからも増えていくと思います。ずっと住み続けられる住み心地の良い仮設住宅が求められてきますね。
 
佐藤)同感です。
 
西村)きょうは、災害時の仮設住宅を研究している専修大学 教授 佐藤慶一さんにお話を伺いました。

第1462回「目指せ!重機オペレーター」
オンライン:日本笑顔プロジェクト 林映寿さん

西村)被災地の復旧作業でショベルカーなどの重機が活躍しています。土砂やがれきを撤去するために、重機を動かすことができるボランティアが増えたら、被災地の復興の大きな力となるのではないか。そんな発想から、一般の人に重機の免許を取るための講習をして、被災地支援につなげるプロジェクトがあります。
きょうは、そんな活動を続けている長野県の一般財団法人「日本笑顔プロジェクト」の代表、林映寿さんにお話を伺います。
 
林)よろしくお願いいたします。
 
西村)「日本笑顔プロジェクト」は、どんなきっかけでいつごろ誕生したのでしょうか。
 
林)「日本笑顔プロジェクト」は、東日本大震災をきっかけに2011年に誕生し、現在も各地の被災地の復興支援をしながら、笑顔を届ける活動をしています。
 
西村)どんな支援活動をしているのですか。
 
林)東日本大震災のときは、女川町の小学校や中学校で授業の支援、土砂の撤去、土砂で汚れてしまった写真の洗浄、炊き出しなどをしました。
 
西村)そんな中で、なぜ重機の免許講習を思いついたのでしょうか。
 
林)5年前の2019年に、台風19号がきっかけで、わたしが住んでいる長野県の1級河川、千曲川が決壊しました。長野県は高い山々に囲まれているので、台風の被害は少なかったのですが、川の決壊で大きな被害がでました。そのときにたくさんの土砂が生活圏を襲い、農業にも被害がありました。土砂を撤去する作業が一番重要なのですが、人間の力の限界を痛感しました。重機はあってもオペレーターが少ないことに直面。その教訓から、一般のみなさんが受けられる重機の講習を立ち上げました。
 
西村)能登の被災地で、スコップで復旧作業をしているようすをよく見ます。やはりスコップだけでは大変ですか。
 
林)そうですね。家屋の周りや私有地・農地は、効率よく重機を使うことによって、生活の再建を早くすることができます。
 
西村)重機の免許を取るのは難しいのではないですか。
 
林)小型重機といわれる3t未満のショベルカーやパワーショベルは、家の周りの作業をするのに最適なサイズ感。小型重機の資格は、学科1日+実技1日の計2日間の講習を受けることで取得でき、誰でも重機が動かすことができるようになります。
 
西村)車の運転免許のように長い期間、勉強が必要なのかなと思っていました。
 
林)小型の重機は計2日間で資格が取れます。「日本笑顔プロジェクト」では、学科を「eラーニング」で受けることができるので、スマホやパソコンで自宅にいながら講習が受けられます。
 
西村)それはいいですね。
 
林)長野県本部のほか、千葉県、埼玉県、群馬県、広島県など全国にある「nuovo(ノーボ)」という訓練施設で実技を行っています。大阪にも準備をしている最中です。
 
西村)将来的にはいろんな地域に広げていきたいと。
 
林)自分たちで守る意識を持ってもらうために、全国47都道府県に配備できるように頑張っています。
 
西村)3t未満の小型重機の免許は、普通自動車免許を持っていれば受講できるのですか。
 
林)重機の資格は自動車免許の有無に関わらず、18歳以上であれば誰でも受講できます。パワーショベルは、一般道路を走ることはあまりなく、私有地や限られた環境下で使用するので普通免許がなくても受講できます。
 
西村)免許を取得できても実際に重機を動かすのは、難しそうです。
 
林)5年前の長野の水害のときも、資格は持っているけど、普段乗っていないし練習する場所もないので、動かすのが難しいという人が多かったです。防災パーク「nuovo」では、サブスクリプション=月額定額料金を払うことによって、金額に応じて、重機のトレーニングができます。トレーニングの内容は、被災地で必要とされるスキルが検定方式になっています。自分のレベルが可視化されるので、災害時に派遣する場合に検定のレベルに応じて、募集をかけます。被災地の状況とみなさんの技術レベルをマッチングさせることもできます。
 
西村)重機でどんな作業ができるのでしょうか。
 
林)能登には、地震の後の水害でたくさんの漂流物が流れ着いて、土砂が蓄積しました。山からの土砂と根こそぎ倒れた木が家の中に飛び込んできて。身の回りのものと土砂が一緒に流れ着いている状況。そんなとき、スコップだけでは難しいですが、小型重機があれば、1台で100人分ぐらいの作業をすることができます。手元のレバーを操作するだけなので、力がなくても大丈夫。女性でも無理なく作業することができます。
 
西村)倒壊した家の屋根の撤去など、小型重機なら小回りが利くのでいろいろな作業ができそうですね。
 
林)家の解体はもちろん、屋根が潰された車庫で、下敷きになった車を引っ張り出す作業もできます。行政がお金を出して、家を解体してくれる公費解体では、プロの重機オペレーターが作業します。解体作業前に、自分の貴重品や思い出の品を家の中から取り出したいときは、重機ボランティアが作業します。
 
西村)実際に能登で林さんが重機を動かして、思い出の品を取り出したこともあるのですか。
 
林)1月3日から珠洲市に入って活動したとき、取り出す作業をしました。思い出の写真を1枚でも手元に戻したいという声がたくさんありました。
 
西村)どんな反応でしたか。
 
林)写真1枚でも、涙を流して喜んでいる住民の姿がありました。わたしたちができることを一つでも増やしていくことが、災害大国日本で、これからやるべきことだと感じました。
 
西村)能登半島の被災地では、何人ぐらい活動しているのですか。
 
林)「日本笑顔プロジェクト」のメンバーは1月3日から現地に入り、500人以上が活動に参加しています。8月末で能登支援を区切り、7月に豪雨があった山形県に場所を移しました。その後、能登の水害があったので、能登に戻り、輪島、能登町、珠洲の水害の現場に仲間が入っています。
 
西村)泥かきなどは、女性など力がない人には難しいのではないかと思うのですが、重機での作業には、女性も参加していますか。
 
林)住民のためになりたいという女性も多く、重機の資格を取って、トレーニングをして被災地に駆けつけてくれています。住民も女性のオペレーターなら男性よりも声をかけやすいようです。住民に寄り添いながら活動ができている状況を見て、女性による災害支援やオペレーターをもっと増やしていきたいと思っています。
 
西村)きょうは、重機のオペレーターの育成をして、被災地支援につなげている「日本笑顔プロジェクト」代表、林映寿さんにお話を伺いました

第1461回「被災者への心のケアと心の防災」
ゲスト:国際災害レスキューナース 辻直美さん

西村)元日の地震被害から立ち上がろうとしている能登半島の被災地が先月、豪雨に見舞われました。 川の氾濫や土砂崩れなどで甚大な被害が発生。輪島市や珠洲市では床上、床下浸水した仮設住宅もあり、元日の地震と先月の豪雨で二重被災した人も多くいます。住まいや暮らしの再建にさらなる時間がかかるおそれもあり、心が折れたと話す人もたくさんいます。
きょうは、被災者の心のケア、そして災害時に役立つ心の防災について、国際災害レスキューナースの辻直美さんにお話を伺います。
 
辻)よろしくお願いいたします。
 
西村)被災者の心はどのようにケアしたら良いのでしょうか。
 
辻)被災者は突然のことで受け入れることができず、心が冷えて固まってしまいます。自分の気持ちを表に出せません。支援されると、「頑張らなきゃいけない」と思って、辛いと言いづらくなります。女性は心がほっこりすると泣くんです。泣くことができると、固まっていた心が解けたということ。女性の場合、泣いた後は喋り出します。辛かった現状をたくさん話します。
 
西村)男性はどうなるのですか。
 
辻)男性の場合は、不安になると怒ります。泣きません。普段の生活や上司のことを思い出して不安になって。さめざめと泣く男性はいないですね。
 
西村)確かにいないですね。
 
辻)不安になると、イライラして怒り出す男性が多いです。怒っているということは、自分の気持ち言える段階ということ。
 
西村)避難所でおじちゃんが怒っていたら、それは良いことなのですね。
 
辻)不安を解消するために発散していると思ってください。イライラしているから、ちょっとしたことで怒るかもしれないけど、それは不安からきています。不安を受け止める聞き方をしましょう。"傾聴"と言う聞き方のポイントを知っておくと、イライラも落ち着きます。
 
西村)その聞き方を身に付けていたら、被災者の心のケアをすることができるのですね。
 
辻)これは、日常生活でも会社でも使えるテクニック。例えば子どもが癇癪を起こしている時でも使えます。パパが会社から帰ってきて、イラついている時でも使えます。災害時だけではなく、日常から実践して自信をつけて、被災者に向けても使ってほしいと思います。
 
西村)神戸から能登へお話を聞きにいくボランティア「やさしや足湯隊」をしている学生さんがいます。
 
辻)心が固まっている時に、話を聞いてもらうと落ち着きますよね。体や足があたたまるとほっこりして泣けるかもしれません。
 
西村)話を聞くだけではなく、足や手のマッサージもするそうです。
 
辻)体が冷えると心も冷える。心が硬くなると体が硬くなります。足湯であたためて、優しい手で冷えた体をほぐすというのは、良いアプローチだと思います。
 
西村)聞き方のポイントについて教えてください。
 
辻)心が傷ついている人は、正面から「はい、どうぞ」と言われても話せません。意見交換のようになってしまうので、45度の角度、もしくは横に並んで話を聞くのが良いです。首だけではなく、体ごと相手の方に向けて頷いてください。相槌も大事ですが、全部に「うん、うん」と言われると、気持ちがせいてしまうので、ゆっくり頷くこと。相槌をうまく混ぜると「聞いてもらえている」と感じさせることができます。 話を聞いてもらえている安心感で、心がどんどんほぐれてきます。ずっと目を見られていると緊張してしまうので、少し目線は外しながら。相手の語調が強くなったり、大きな声になったりした時は、伝えたいことを話している時。そういう時は、わたしは目を見て相槌を打つようにしています。
 
西村)そうやって信頼関係が生まれていくのですね。こちらからは何も言わなくて良いのですか。
 
辻)最初は聞くだけで良いです。相手は、自分の体験を最後まで聞いてほしいので、意見はいりません。共感をしてほしいので、最後まで話を聞くこと。相手から「どう思いますか?」と言われたら意見を言っても良いですが、基本的には相手の話を聞くというスタンスで。
 
西村)そうすると喋りたいことを伝えることができるし、その人のペースで話すことができますね。
 
辻)聞く側のポイントとしては待つこと。待つって難しいもの。空白の時間は、いたたまれなくなって、話をリードしてしまいがちです。
 
西村)何か話した方が良いかな...と思います。
 
辻)一緒に待つことが大事。待てる人は、相手のこと信じている人。空白の時間は大事な時間だと思えば、相手の言葉が出るまで待つことができるはず。
 
西村)失恋した友達の話を聞いている時のことを思い出しました。空白ができてしまうと、なにか言った方が良いなと思いがちですが、そうではないのですね。
 
辻)話どこかへ行ってしまうじゃないですか。
 
西村)結局自分の話をしてしまうことも。
 
辻)相手は励ましてほしかったのに...となってしまう。そういう時は手を握る、背中をさするなどのアクションで、「あなたのこと受け止めていますよ」と伝えます。
 
西村)被災地の避難所で活動をした時の印象的なエピソードはありますか。
 
辻)大人にも「抱っこ」が大事、と思ったエピソードがあります。イライラして怒っている男性たちに共感も、励ますことも、未来を約束することもできない。わたしにできることは、受け止めることだと。怒り出している40人の被災者に「抱っこするんで、並んでください」と言ったんです。
 
西村)びっくりされたんじゃないですか。
 
辻)恥ずかしがるかなと思ったのですが、男性が40人並んでくれました。椅子を用意してもらって、わたしの膝の上に座ってもらって抱きしめたんです。わたしは無言です。泣いている声やしゃべっている声を聴きながら、抱きしめて頷くんです。
 
西村)それで、心がほどけて涙を流したのですね。
 
辻)獣のような声で泣く人もいて。「人間ってこんな声で泣くんだ」と思いました。泣ききった人は強いです。
 
西村)心がデトックスされて、1歩踏み出すことができるのですね。
 
辻)最初は、恥ずかしさなどいろいろな感情がありますが、膝に座って15~30分泣く人もいれば、5分の人もいます。泣ききって立ち上がって、「ありがとうございました」と言った時、顔つきが違っています。その時は、ちゃんと目を見て、「また抱っこされたくなったらおいで」と言います。
 
西村)接する時のポイントはありますか。
 
辻)作り笑顔ではない笑顔。口角が上がった明るい人には、話を聞いてもらいたいし、支えてもらえそうな気がしますよね。楽しいことを毎日やって、能動的に生活している人は、明るさがにじみ出ています。
 
西村)今からできることですね。
 
辻)やりたいことをやる。嫌なことは嫌だと言う。挨拶も積極的に。そうすると言葉だけではなく、たたずまいから、「あなたのこと受け入れていますよ」ということが伝わります。普段の生活を楽しんでください。挨拶するときは、とにかく"ええ感じの人"になること。これ、標準語では言えないニュアンスなんです。
 
西村)関西ならではですね。
 
辻)包み込むような優しい目で、口角を上げて会釈するだけで、"ええ感じの人"になれます。そんな風に挨拶すると、お互いに受け入れられるし、顔を覚えてもらいやすい。ご近所や家庭でも"ええ感じの人"になってください。
 
西村)心のケアをするために、準備しておくと良いものはありますか。
 
辻)地災地には、幸せな香りが全くありません。ご飯を作る匂い、洗濯の匂い、お菓子の匂いなど...。そういう香りはなくなるんです。かわりに被災地特有の匂いがあります。
 
西村)どんな匂いですか。
 
辻)生臭い匂いやほこり臭い匂い。そんな匂いを嗅いでいると、心は落ちていく。幸せな触感もなくなります。お気に入りのものもなくなってしまうかもしれない。そんな中で、自分のお気に入りのタオルケットや毛布、ぬいぐるみなどを手元に置けないかもしれない。
 
西村)お子さんなら、お気に入りのガーゼのタオルケットとか...。
 
辻)わたしは「333の法則」を作って、これだけは用意しておいてほしいものを伝えています。
 
西村)333とは何ですか。
 
辻)最初は"香り"。香りは3秒で脳に届きます。すぐ気持ちが切り替わるので、自分の好きな香りを用意しておいてください。
 
西村)好きな香りを3秒嗅ぐのですね。
 
辻)女性は、柑橘系の香を好む人が多いです。ハンドクリームでもアロマオイルでも香水でも。自分の好きな香りを用意してください。男性が好む香りは何だと思いますか?
 
西村)男性のシャンプーは、ミント系が多い気がします。
 
辻)実はバニラなんです。甘い匂いを嗅ぎたがる男性が多いです。
 
西村)2つ目の3は何ですか。
 
辻)自分が触って気持ちいいもの何か用意しておく。3分好きなものに触ると落ち着くと言われています。
 
西村)最後の3は何ですか。
 
辻)30分眺める。自分が見て落ち着くものを用意してください。デジタルは使えないので、アナログで。漫画でも推しのアクスタでも写真集でも良いです。家族の写真も良いですね。
 
西村)「333の法則」とは、「3秒嗅ぐ」「3分触る」「30分眺める」ということです。みなさんも好きなものを用意しておいてください。
 
辻)普段のから実践して、成功体験を持って、いざという時には、それを使ってください。体験があると乗り越えることができます。今のうちに探しておいてください。
 
西村)きょうは、被災者の心のケアと心の防災をテーマに、国際災害レスキューナース 辻直美さんにお話を伺いました。

第1460回「地震、そして大雨~能登半島のいま」
オンライン:リブート珠洲 宮口智美さん

西村)元日の能登半島地震から9ヶ月が過ぎました。被災した人たちが新しい生活に踏み出そうとしていたところに先月の大雨で、能登地方は再び大きな被害を受けました。わたしは8月に取材して復興支援ツアーに参加しました。そのツアーを立ち上げ、ガイドをしてくれた珠洲市在住の宮口智美さんに、現在の能登のようすを聞きます。
 
宮口)よろしくお願いします。
 
西村)宮口さんは元日の地震で家が全壊して今は仮設住宅にいるとのこと。9月21日に大雨が降ったときは、どのような状況でしたか。
 
宮口)夜中からかなり激しい雨が降っていました。一瞬外に出ただけでびしょ濡れになりました。その日もツアーの予約があり、午前中にお客さんを案内していましたが、道がどんどん川のようになってきて。危険な状況だったので途中で中止しました。
 
西村)町はどのような状況でしたか。
 
宮口)信号も止まって、道路も海のようになって、車が前に進めずに渋滞していました。
 
西村)地域のみなさんが集まる場所はどんなようすでしたか。
 
宮口)コミュニティスペースがある元商店街は川のようになっていて、一部に泥水が入ってきました。
 
西村)わたしも案内してもらった「本町ステーション」ですね。元々お店だった場所を憩いの場にしているのですよね。
 
宮口)辺りの木造の建物は壊滅的な被害を受けましたが、鉄筋で無事だった建物をコミュニティスペースにして、春からオープンしています。
 
西村)わたしも8月に訪れたときに仮設住宅で1人暮らしをしているおばあちゃんとお茶を飲みながらお喋りをしました。みなさんが集まっている場所にも泥水が入ってきてしまったのですね...。
 
宮口)他の地域に比べて被害は少なかったのですが、浸水して機械が使えなくなった店もあり、稲刈り間近の田んぼも被害を受けました。
 
西村)宮口さんが住んでいる仮設住宅は大丈夫でしたか。
 
宮口)わたしは見附島近くの2階建ての仮設住宅に住んでいるのですが、浸水被害はなかったです。
 
西村)良かったです。電気や水道などのライフラインはどうなっていますか。
 
宮口)わたしが住んでいる宝立町は大丈夫ですが、珠洲市の中でも、大谷町など西側の地域が今も断水しています。電気も使えない中過ごしている人もいます。
 
西村)報道で見ましたが、大谷町では建物が浸水して、土砂で埋まって2階の屋根の部分だけが見えている家もありました。本当に大変な状況です。
 
宮口)孤立している集落に炊き出しのお手伝いに行ってきましたが、道路が通行止めになっていて、緊急車両のみ通行可という状況。道がまだまだ復旧していません。
 
西村)まだ一般の人たちは通行できない状況なのですね。電気はどうですか。
 
宮口)先日炊き出しに行った集落は、まだ電気が使えない状況が続いています。水道は復旧に2ヶ月ぐらいかかるそうです。
 
西村)珠洲市長が「水道は、11月末までの復旧を急ぐ」という考えを示しているようなので、もっと時間がかかってしまうかも知れません。1月の地震からずっと水道が使えない地域もあるのですか。
 
宮口)一度水が出ていた地域もありますが、今回の豪雨でまた水のない生活に戻ってしまったと思います。電気も復旧してないので、発電機を使ってたくましく生活しています。
 
西村)電気も水道も元日の地震直後の状態に戻ってしまったのですね。飲み水、風呂やトイレはどうしているのかすごく心配です。
 
宮口)風呂は車で30分以上かけて町まで出て、銭湯に入るしかありません。簡易シャワーを使っている人もいます。
 
西村)8月末までは避難所に自衛隊が設置した風呂がありました。今はないのですか。
 
宮口)8月末で撤退したのでありません。大谷町には元々自衛隊風呂がなかったので、町まで風呂に入りに行っていました。五右衛門風呂を作って入っていたこともあったそうですが、今回はそれもできない状況です。
 
西村)トイレはどうしているのですか。
 
宮口)畑で用を足したり、ダンボールに凝固剤を入れてつくった簡易トイレを利用したりしています。
 
西村)大きな被害を受けてしまったみなさんは、どのような気持ちで過ごしているのでしょうか。
 
宮口)大谷町の人々は、思いのほか元気で、できる範囲の生活をしている印象。でも心にダメージを受けていると思うので、今後もみなさんの心の支えが大事だと感じています。
 
西村)印象的な言葉や会話はありましたか。
 
宮口)支援物資を届けたときに、豆腐や納豆など、わたしたちが普段当たり前に食べているものが喜ばれたのが印象的でした。
 
西村)わたしが8月に珠洲市を訪れたとき、復興支援ツアーで仮設住宅入居者の刀祢春子さんを紹介してもらいました。刀祢春子さんは80代の元気なおばあちゃん。初対面にも笑顔で迎えてくれて、「暑いからスイカ一緒に食べよう」と、仮設住宅の入口で宮口さんと3人でスイカを食べながら、いろんなお話をしたことを思い出します。
 
宮口)昨日もコミュニティスペースに来ていました。浸水があったときは、家や車庫が気になって、膝の辺りまで水に浸かりながら見に来ていたそうです。息子さんが別の仕事で使っていた道具も水に浸かってしまったそうです。
 
西村)暮らしを立て直しているときに...心配です。仮設住宅は浸水したのですか。
 
宮口)刀祢さんがいた学校のグラウンドの仮設住宅は浸水被害を免れましたが、少し離れた宝立町の新しい仮設住宅は床下浸水になりました。入居2日後に被害にあったそうです。
 
西村)浸水した家に住んでいた人は今はどこで暮らしてるのですか。
 
宮口)幸い床下浸水だったので、穴を開けて排水して、すぐに入居したと聞いています。
 
西村)もっと大きな被害が出ている仮設住宅もあるのですか。
 
宮口)床上浸水したところもあります。
 
西村)また避難所に戻った人もいるのですか。
 
宮口)はい。仮設住宅から避難所に移動した人もいます。
 
西村)刀祢春子さんは、今回の豪雨の後どんなお話をしていましたか。
 
宮口)刀祢さんは、すごく明るい人なので、前向きな話をしています。
 
西村)復興支援ツアーは大雨の後も続けているのですか。
 
宮口)24日から再開をしました。今回の被害は局地的でした。わたしたちの住んでいる宝立町などは、被害はなかったのでツアーの案内をしています。
 
西村)復興支援ツアーはどんな思いで始めたのでしょうか。
 
宮口)わたしは、もともと道の駅の観光案内所で勤務していました。震災後、観光客が戻ってくるのかと、不安に思っている人が多く、今来てくれる人に珠洲のファンになってもらって、復旧後にまた来てほしいという想いからこのツアーを始めました。
 
西村)豪雨災害で被災地がさらに大変な状況になってしまったので、観光に行っていいのかと、思う人もいると思います。現地のみなさんの思いはいかがですか。
 
宮口)被害が大きかったところもあれば、小さかったところもあります。わたしたちとしては、とにかく現地を訪れて、物を買ったり、現地を見て、現状を外に伝えたりすることが支援の一つになると考えています。能登を知ってもらうことが大事です。
 
西村)わたしも今回のツアーに参加して、珠洲のファンになりました。実際に現地を訪れて実感したのが高齢化。泥かきなどの力仕事も必要なのではないですか。
 
宮口)泥かきなどの作業は、かなり人手が不足しています。30~40代の働き世代が減っているのでみなさんの力が必要です。
 
西村)泥かきができるほどの力がない人も役に立てますか。
 
宮口)泥かきなどの力仕事だけがボランティアではありません。先日、美味しいコーヒーとお菓子を持ってコミュニティスペースに来てくれた人がいました。お茶会を開いて、みなさんで会話できる場を提供してもらえると、わたしたちの心の支えになります。
 
西村)力がなくてもできることはあるのですね。
きょうは、珠洲市在住の宮口智美さんにお聞きしました。

第1459回「『南海トラフ地震臨時情報』への対応を検証」
オンライン:京都大学防災研究所 宮崎観測所 助教 山下裕亮さん

西村)先月初めて発表された「南海トラフ地震臨時情報」について改めて考えます。巨大地震注意の呼びかけに対応して、震源地の宮崎県から離れた和歌山県・白浜町で海水浴場が閉鎖。鉄道各社が減速運転をするなど、お盆の観光業に大きな影響が出ました。今回の政府の対応はどうだったのか、今後どうすれば良いのか。京都大学防災研究所 宮崎観測所 助教 山下裕亮さんにお話を伺います。
 
山下)よろしくお願いいたします。
 
西村)「南海トラフ地震臨時情報」は、巨大地震警戒と巨大地震注意と2段階あるうちの巨大地震注意が出ました。
 
山下)白浜の海水浴場が閉鎖されたことが全国的にも話題になりましたね。「過度に自粛しすぎ」という意見もあったのですが、わたしはその判断はナンセンスだと思っています。海水浴場は、津波の被害を最初に受けるところ。安全性が十分ではないので不安を感じて働いている人が宮崎県などで多かった。現場の人の声をきちんと聞いた上で、過度だったかを判断すべき。実際にそこで働いている人たちの不安を考えると、過度な自粛ではなかったと思います。
 
西村)大きな地震もあった宮崎県から広い範囲に渡って対策がとられました。現場ではあまり対応ができていなかったのですか。
 
山下)海に浮いているときに、地震があったら、揺れに気づくと思いますか?あまり考えたことがないと思います。
 
西村)浮き輪で浮いていたら、自分の体も揺れているから気付かないかもしれません。
 
山下)地震の強い揺れ=S波(主要動)は水中では伝わりません。足が海底に付いてない場合は、震度7の揺れがきてもわからないと思います。海水浴場は津波が最初に来るところ。海水浴場で働く人たちは、サイレンを鳴らしたり、津波フラッグを振ったりして、泳いでいる人に避難を呼びかけるサインを送ります。誰かがやらなければなりません。泳いでいる人たちを置いて、自分たちだけ避難することは難しいと思います。一緒に逃げ遅れて、津波に巻き込まれてしまうことも考えられます。津波災害においては、海水浴場は脆弱。完璧な準備ができているところはほぼないと思います。
 
西村)他の地域でも準備ができていないのですか。
 
山下)宮崎県や和歌山県に限らず、100%安全と言える津波対策ができているところは日本全国でもなかなかありません。南海トラフ地震臨時情報が出て、巨大地震発生の可能性が高まるとみなさん不安になると思います。海水浴に行くことをやめたのと同じように、そこで働いている人たちも不安に思うのです。閉鎖すれば人も来ないので、地震がおきても津波に巻き込まれる心配はない。命を守る意味では、最適な選択です。南海トラフ地震臨時情報が出て、休業しても補償は決められていません。国は、「普通の生活を」と言っているので、判断はそれぞれに委ねられます。
 
西村)政府の検証の会議では、保険の導入についての話も出ていましたね。
 
山下)今回は、お盆のかきいれ時で、経済的な損失が大きかったと思います。一度も発表されたことがない情報だったので、どこまで影響が出るか全てを読み切ることができてなかった。今後、保険の導入、補償のあり方も議論されていくと良いですね。
 
西村)全国で統一の対応指針を作ることは難しいという意見も。
 
山下)南海トラフ地震が起こった場合の被害は、地域によってかなり異なります。対応も地域によって変わるはず。全国で統一して、巨大地震注意が出た際の取り決めをしたところで、足りるところもあれば足りないところも出てくる。国としては全国統一の対応指針を分厚い資料で出してはいますが、個の状況に応じて、対応を変えなければならないのが現状です。
 
西村)「南海トラフ地震臨時情報」は、巨大地震警戒(既に大きな被害が起こっている危険な状況)が一番上のランク。今回出たのは、その下の巨大地震注意でした。今回の教訓や反省を次回以降に生かすにはどうすれば良いですか。
 
山下)巨大地震警戒は、南海トラフ地震が半分起こっている状態なので、学校を休校にするなど思い切った対応がしやすい。しかし、巨大地震注意は非常に中途半端。だからこそ、事前にいくつものパターンでシミュレーションをして、対策を考えておくことが必要です。
 
西村)わたしたち個人レベルでも同じですか。
 
山下)今回、初めて「南海トラフ地震臨時情報」を知った人が多いと思います。次出たときに、どう行動すべきか。一番大事なことはあわてないこと。まずは、地震の備えを再確認してください。さらにいつもより少しレベルを上げた防災行動をとってください。外出先が津波に対して安全なのかを調べてください。南海トラフ地震が起こると大きな津波が来ます。津波のリスクを事前に調べることが重要。津波のリスクが高いところに行くのなら、避難先を確認しましょう。普段行かない場所は、土地勘がありません。「どこに逃げれば良いかわからない」と、命を失う危険性が高くなります。各自治体のホームページや防災アプリで、津波の想定浸水区域や避難場所を調べることができます。そのような情報を自分から拾いに行く必要があります。これをやっておくだけでも、外出先で地震が起こったときに命が助かる可能性が格段に上がります。「南海トラフ地震臨時情報」が出たときは特に、このような行動をとってください。
 
西村)きょうは、京都大学防災研究所 宮崎観測所 助教 山下裕亮さんにお話を伺いました。