第1545回「春に相次ぐ山林火災」
オンライン:日本大学 生物資源科学部 教授 串田圭司さん

西村)4月22日に発生した岩手県大槌町の山林火災は、発生から11日目となる5月2日、延焼拡大の恐れがない「鎮圧」が宣言されました。焼損面積は約1633ヘクタールで、平成以降、国内最大規模となった去年の岩手県大船渡市の山林火災に次ぐ規模となりました。
きょうは、春に相次ぐ山林火災について山林火災のメカニズムに詳しい日本大学 教授 串田圭司さんにお話を聞きます。

串田)よろしくお願いいたします。

西村)岩手県大槌町の山林火災は、なぜ大きく広がったのでしょうか。

串田)乾燥と強風が重なったことが要因。乾燥しているところに強い西風が吹き、一気に燃え広がりました。その後、風が四方八方に吹いて拡大。これは去年2月に発生した岩手県大船渡市の山林火災ととても似ています。突発的な強風が起こりやすいリアス式海岸や険しい山林の地形も延焼が拡大した要因のひとつ。急な山の斜面に沿う形で気流が上昇し、延焼速度が速くなったのだと思います。
 
西村)山には多くの木が生えています。木には水分があるのになぜこんなに燃えるのでしょうか。
 
串田)針葉樹の松や杉は油分が多く、燃え広がりやすいです。今回は木の上部まで火が広がる樹冠火(じゅかんか)が発生した可能性が高いです。通常の山火事は、地面の枝や落ち葉が燃えて延焼する地表火が主流。木の上部が燃える樹冠火が起きると、風の影響を強く受けるので延焼が速くなります。
 
西村)なぜ樹冠火が発生したのですか。
 
串田)乾燥と強風が激しかったため、地面の枝や落ち葉にとどまらず、立っている木にまで延焼したからです。
 
西村)これは珍しいことですか。
 
串田)日本の山火事は地表火が主流ですが、最近の山火事では樹冠火が起こることが増えてきています。
 
西村)5月2日に大槌町の山林火災は鎮圧が宣言されました。山林火災のニュースでよく耳にする「鎮圧」と「鎮火」という言葉について教えてください。
 
串田)鎮圧は、火の勢いが抑えられ延焼の危険性がなくなった状態。鎮火は、完全に火が消えて再び燃え広がる危険性がなくなった状態です。
 
西村)大槌町で鎮圧が宣言されたのは発生から11日目の5月2日でした。4月末に数日間、雨が降って延焼が止まりました。雨が降らなければ鎮圧にはもっと時間がかかったのでしょうか。
 
串田)去年の大船渡市の山林火災も雨が降ったことで鎮圧されました。人力での消火は困難です。
 
西村)人力での消火はなぜ難しいのですか。
 
串田)ある程度広がってしまうと、消防による消火は難しくなります。住宅などを重点的に守る消火体制になるからです。鎮圧されたとしても、鎮火に至るまでは時間がかかることが多いです。消し止めたように見えても地中で火種がくすぶっていることもあり、それが再び燃え広がるリスクもある。広大な山の中からくすぶりを見つけるのは難しい。そのため、鎮圧・鎮火を宣言するには相当な時間がかかることが多いです。
 
西村)大槌町はクマが生息しています。クマがいると消火活動が難しくなるのでは。
 
串田)クマがいると燃えている場所に近づいて消化できなくなります。ヘリコプターを使用したり、クマがいるところを避けて安全なところからアプローチしたりすることが必要です。
 
西村)今年は、山梨県、静岡県、福島県などでも大規模な山林火災が発生しています。春は山林火災が多い季節なのですか。
 
串田)山林火災は、全国的に空気が乾燥する1~5月に増える傾向があります。
 
西村)乾燥するのは冬のイメージがありますが、春も乾燥しているのですね。
 
串田)気温の高さも乾燥に結び付きます。気温が高いと山から水が抜けていきます。冬よりも春の方が水が抜けやすいです。
 
西村)山林火災には、地球温暖化が関係しているのでしょうか。
 
串田)地球温暖化によって気温が高くなっているため、極端な乾燥が起きています。
 
西村)昔に比べて山林火災は増えてきているのでしょうか。
 
串田)山林火災は起こりやすくなっていて、規模も大きくなる傾向があります。気温が上がると、空気が保持できる水蒸気量が増え、その分、野山や地表、土の中の水分が少なくなり、火事が起きやすくなります
 
西村)山林火災のリスクの高い山は、どんな山ですか。
 
串田)地形、木の種類、気候などの組み合わせによって山林火災の発生リスクは変わります。日本の場合は国土の7割が山林。どこで大規模な山林火災が起きても不思議ではありません。
 
西村)大阪にも山がありますが、山林火災はあまり起きません。大阪より岩手県の山で山林火災が起こるのはなぜですか。
 
串田)岩手県は、冬に強い西風が吹きやすいです。西風は山を越えてくるので、乾いた風になり、木が燃えやすくなります。油分を含む針葉樹が多いことやリアス式海岸という地形で、突風が起きやすいことも関係しています。瀬戸内や兵庫県も山火事が起こりやすい場所。水分を保持しにくい「真砂土」という土が広がっていて、土の影響もあり、乾燥が進みやすいです。全体的に山に囲まれていて、雨が少なく温暖な気候であるため、山火事が起きやすくなっています。
 
西村)大槌町の山には油分を含む松や杉が多いというお話でしたが、兵庫県の山も松や杉が多いのですか。
 
串田)全国的に人工的に杉が植えられています。
 
西村)他にも燃えやすい木はありますか。
 
串田)針葉樹が比較的燃えやすいです。広葉樹の中でも水分を多く含むものは比較的燃えにくいです。瀬戸内なら椎や樫。燃えにくい木もたくさんあります。
 
西村)山に行くときには、どんな木が生えているかを知っておくほうが良いですか。
 
串田)乾燥や強風によって、どこで山林火災が起きても不思議ではありません。木の種類よりも気候条件に気をつけて欲しいです。最近は、林野火災注意報や警報が出されるようになりました。
 
西村)林野火災注意報、林野火災警報はどんなときに出されるのですか。
 
串田)雨が少なく、林野火災が起こりやすいときに林野火災注意報が出されます。さらに強風が吹いているときは、警報になります。林野火災警報には、罰則も設けられています。警報が出たときは、山火事が燃え広がりやすいので、野外での火の使用は控えてください。
 
西村)林野火災注意報、林野火災警報にも気をつけましょう。山林火災を防ぐにはどうしたら良いのでしょうか。
 
串田)今回の大槌町の山林火災の原因はまだ明らかになってはいませんが、山林火災の原因は人為的要因によるものがほとんど。自然に発火するわけではありません。
 
西村)多い原因は何ですか。
 
串田)一番多い原因はたき火、野焼き、たばこです。山林火災は、人為的な不注意で起きています。これらに気をつけるのが一番重要。自分の行動が多大な損失を与える状況を認識して、山の中や山の近くで火を使う際には気をつけなければいけません。
 
西村)ハイキングやキャンプに行くことも増える季節。気をつけないといけないですね。自治体で取り組める対策はありますか。
 
串田)いろんな対策があります。その中で重要なのは、林野火災注意報・警報で呼びかけること。山の中に燃えやすいものがたまっている状態はリスクが高まるので、これまで以上に山の管理をしっかりすること。消防は、AI、ドローンなど最新技術を導入して、高度化していくことも大事です。わたしたちの研究グループでは、人工衛星を使って、山火事の発生リスクを評価する技術開発に取り組んでいます。ハード面とソフト面、どちらからのアプローチも必要です。
 
西村)串田さんどうもありがとうございました。