第1546回「避難所生活のTKB48」
オンライン:「避難所・避難生活学会」代表理事 水谷嘉浩さん

西村)災害時に多くの人が過ごすことになるのが、体育館などの避難所です。場合によっては避難が長くなることもあり、できるだけ快適に過ごしたいものですが、どんな方法があるのでしょうか。
きょうは、「避難所・避難生活学会」代表理事 水谷嘉浩さんに聞きます。
 
水谷)よろしくお願いいたします。
 
西村)水谷さんは、国内だけでなく、海外も含めて500ヶ所以上の避難所訪問したそうですね。能登半島地震の避難所にも行ったのですか。
 
水谷)発災5日目から40日間、被災地で活動をしました。
 
西村)能登半島地震発災直後の避難所はどんなようすでしたか。
 
水谷)体育館の床に多くの人が雑魚寝状態で避難生活をしていました。真冬だったので気温も低く、厳しい環境でした。
 
西村)人口が少ない町ですが、お正月ということもあり、たくさんの人が避難所にいたと思います。みなさんのようすはいかがでしたか。
 
水谷)高齢化率が高い地域なので、おじいちゃんやおばあちゃんが冷たい床に毛布1枚で生活をしていて、厳しい環境でした。
 
西村)体調を崩す人もいましたか。
 
水谷)被災すると精神的ダメージを受けてしまいます。さらに避難所生活では体力も奪われていく。トイレも十分に届かず、食事もレトルト食品や菓子パンが続くので、高齢者だけではなく、避難者全体が健康を害する環境でした。
 
西村)支援が届くのに時間がかかりましたか。
 
水谷)日本の避難所は、逐次投入(物や支援が少しずつ届く)なので我慢が続いてしまう。さらに避難所によって格差があります。これを「避難所ガチャ」と呼んでいます。逃げ込んだ避難所によって環境の差が大きいところが問題のひとつだと思います。
 
西村)避難所に差があるのはなぜですか。
 
水谷)災害支援は、「災害対策基本法」によって定められていますが、基本的に市町村が責任を持っています。全国1741の市町村でできる限りのことはやっていますが、どうしても格差が出てしまいます。
 
西村)能登の場合、人口も少ないので、使うことができるお金も少なかったのでしょうか。
 
水谷)大きな災害では、災害救助法が適用されると国からお金が出ます。しかし、それは災害が起きてから。普段の備蓄や訓練で災害に備えておかないと発災からすぐに良い環境は作ることができません。
 
西村)能登では支援物資は何日後ぐらいに届いたのでしょうか。
 
水谷)早いものなら1~2日で届きますが、全てが揃うわけではありません。食事が届いてもトイレがないと十分に食事ができません。ベッドが届いてもシャワーを浴びることができないなど。昼間片付けをした汚れた状態で寝床に入るのは抵抗がありますよね。早い段階で全てが揃った状態に構築しないと、我慢が続くことになります。
 
西村)能登では支援物資は誰が運んでいたのですか。
 
水谷)行政です。市町村だけではなく、プッシュ型支援なら国がやります。ボランティア団体も個別に支援をしますが、避難所の状態がバラバラなのでまずは調査をしてから。それに対して対応するのでどうしてもタイムラグが発生してしまう。
 
西村)調査をしている自治体も被災しているかもしれませんよね。人も少ないかもしれないし。
 
水谷)日本の災害支援の一番の課題点は、市町村の職員が住民の支援をする=被災者による被災者支援という構図。ここに無理がある。これを改善しない限り、この問題は繰り返し起こってしまいます。
 
西村)ではどうすればそのような環境を改善できるのでしょうか。海外の事例も含めて教えてください。
 
水谷)わたしは、イタリアの災害支援の研究をしています。イタリアは世界で一番、避難所の質が高いと言われています。48時間以内にトイレ・キッチン・ベッドをはじめとする避難所に必要な資機材が届きます。健全な避難生活ができる資機材と支援者が届く制度になっています。時間の目標も個別にあります。例えばベッドやトイレが届くと、避難者の収容が始まるのですが、目標値は6時間以内。さらにキッチンカーが来て、コックさんによる温かい食事が提供されるまでが12時間以内。高齢者・児童福祉、心理的ケア、医療専門職による避難者支援、ペットの収容や外国人の対応などの避難者のニーズに応えるのは、48時間以内という目標値が設定をされています。
 
西村)ぺットや外国人への配慮まであるのですね。
 
水谷)資機材だけではなく、専門職が日頃からボランティア団体に登録して、日々訓練を重ねています。災害が起きたときにすぐに動けるのは、普段の備えがあるからです。
 
西村)災害時に届けられるトイレ・キッチン・ベッドはそれぞれどんなものなのか教えてください。
 
水谷)標準化されています。日本は場所によって、さまざまな資機材が届きますが、イタリアではほとんど同じ見た目、同じ環境の避難所がたくさん作られます。
 
西村)避難所の差がなくなるということですか。
 
水谷)はい。全く同じ環境の避難所が作られます。標準化された上で、単位化されている。例えば、250人の避難者を収容するのが1の単位とすると、そこに50人の訓練を受けたボランティアが来て、250人を支える。合計300人が長期間一緒に暮らしながら、被災者支援をするというユニット化がされているんです。さらに機動力もあります。日本のように被災者である自治体が支援をしなくて良いように、近隣の自治体から支援部隊がきます。
 
西村)50人のボランティアは、現地の被災者ではないということですね。
 
水谷)隣の州などから駆けつけます。
 
西村)元気な人が助けに来てくれるんですね!
 
水谷)そうなんです。わたしは、イタリアのようにトイレ・キッチン・ベッドを48時間以内に準備することを「TKB48」といっています。
 
西村)アイドルグループみたいですね。
 
水谷)これを支えるのは民間のプロの集団です。料理をするのはコックさん。電気関係、配管工などの技術者、医療や福祉のプロが訓練を行った上で、災害支援に取り組みます。それができて初めてこのTKB48が実現します。職業を生かして被災地に派遣される支援者は、無償ではありません。例えばコックさんが支援に行ったとすると、国はコックさんのいるレストランに人件費を払います。コックさんは、普段通り給料をもらいながら、傷害保険などケガの対応も含め、保障された状態で災害支援をすることが可能になるのです。
 
西村)国が給料を補填してくれるのですね。
 
水谷)国が支援者の人件費を雇用主に支払う制度があります。企業でも社員が支援に行けば人件費を国が会社に支払います。そのような裏支えがあって実現しているのです。
 
西村)日本でもそんなことができるのでしょうか。
 
水谷)今年はようやく防災庁という役所が立ち上がります。
 
西村)11月に設置を目指していますね。
 
水谷)とはいうものの、急にはイタリアのような先進的な支援をするのは難しいかもしれません。イタリアでは災害関連死はありえません。避難所環境を48時間に構築するので、普段通りの生活ができるからです。避難所で亡くなることがないように、たくさんの人が予算をかけて訓練して取り組んでいる。被災者ができるだけ早い段階で生活復旧に向かえるように社会的な制度が出来上がっています。防災庁もイタリアを見習って、システムを導入してほしいと思います。
 
西村)普段通りの暮らしができるイタリアではどんな食事が提供されるのですか。
 
水谷)その地域で食べられている伝統的な食べ物です。わたしが過去にいたイタリアのペンネでは、パスタが出されました。アマトリーチェでは、アマトリチャーナが出されました。普段食べているものと同じものが出てくるのが特徴です。
 
西村)そのような制度を日本で導入するための課題は。
 
水谷)費用がかかること。トイレ・キッチン・ベッドを全て含めると5億円ぐらいかかります。わたしは全国で500ユニット必要だと考えていますが、そうなると2500億円かかります。耐用年数を20年とすると年間125億円。これは国民1人当たり年間約100円で実現する。災害で被災した人の命と健康を守る費用について、年間100円が高いのか安いのか。これは国民ひとりひとりが考えていかないといけないことだと思います。
 
西村)水谷さん、どうもありがとうございました。