第1550回「防災落語で災害に備える」
ゲスト:防災落語家 ゴスペル亭パウロさん

西村)きょうは、防災にまつわる知識を落語にして伝え続けている、アマチュア落語家のゴスペル亭パウロさんにスタジオにお越しいただきました。
 
パウロ)よろしくお願いいたします。
 
西村)ゴスペル亭パウロという高座名で、本名は小笠原浩一さんなんですね。なぜこの名前にしたのですか。
 
パウロ)わたしはクリスチャンです。聖書の中の話を落語にする"福音落語"をする落語家に露の五郎兵衛さんや福音亭パスタさんがいます。福音を英語に直すとゴスペル。パウロというのは、聖書の中で大活躍する人の名前。その人のような人生を歩みたくてつけた名前です。よく外国人と間違えられます。ただの和歌山の"おいやん"です(笑)。
 
西村)落語をはじめたきっかけは。
 
パウロ)キリスト教会ではよくクリスマスに劇をします。しかし、教会が移転することになって、劇をやるには狭くなってしまって。台本がいいので、それを落語にしたらどうかと、桂枝曾丸先生に教えていただいて始めました。
 
西村)なぜ、落語で防災を伝えようと思ったのですか。
 
パウロ)仕事はコープの職員だったので、災害対応もしていました。紀伊半島の大水害が起きたときに、物流センターでトラックに缶詰を1.5t積み込んで、被災地に運んだんです。現地の状況を見て、落語と防災を合体させた防災落語をやろうとイメージしました。南海トラフ巨大地震が起きるといわれていますが、何をどう準備したら良いのかわかりにくいですよね。落語で聞いて納得したら行動に移ります。行動に移してもらいたいので防災落語を作っています。
 
西村)その思いを桂枝曾丸師匠に伝えたのですか。
 
パウロ)「どうせやるんだったら、わたしが防災士の資格を取ったように、防災士の勉強をして、資格を取ってからやんなはれ」と言われました。 
 
西村)桂枝曾丸さんも防災士の資格をとっていて、防災落語をしているのですね。全国で防災落語を披露しているパウロさんの落語をぜひ聞いてみたいです。よろしければ、今この場で一席お願いします。
 
パウロ)ぜひ!ありがとうございます。
 
西村)ゴスペル亭パウロさん、よろしくお願いいたします。
 
 
――大阪の茶屋町にございます小学校。3年生でありながら児童会の会長、そろばん検定3級、英語検定3級、書道検定3級、日本で一番早くに防災士の資格を取ったという定吉くん。定吉くんとお母さんとのやり取りからお話が始まります。
 
おかあちゃん、ただいま。
 
定ちゃん、おかえり。きょうはえらいあんた、学校終わるの早かったやないの。どないしたん?
 
きょうは、避難訓練やって早く帰ってきた。
 
あーそう。おかあちゃんもこの間、毎日放送のべっぴんさんの西村愛さんの番組でちょいと頭に入ったんやけど。あんたも日本で一番早く防災士の資格を取ったここら辺ではちょっと有名な子や。おかあちゃん、和歌山出身やから、ときどき和歌山弁出るんやけど。いろいろおかあちゃんも教えてもらいたいわ。
 
ほなおかあちゃんいくで、これな世界地図や。ここが日本。世界の総面積の0.25%しかないんやって。
 
ちょっと待って。0.25%ちっちゃいな。
 
せやけど、日本近海で起こるマグニチュード6以上の地震は、世界の約2割。2割は、日本近海で起こってんねんて。
 
ちょっと待って。なんでそんなんなってんの?
 
日本は4つのプレートの上にある。地球規模で、関西弁で言うと、"デポチン"や。4つのプレートの上にあるだけやないんやで。このプレートっていうのは海溝型や。駿河湾の方から九州の方までずっと海溝になってんねん。これを「南海トラフ」っていうんやけどな。この大陸からのプレート、フィリピン海のプレートが毎年沈み込んでいってんねん。これが100~150年経つと、ストレスがいっぱいになって、パーンと跳ね上がる。そしたら上が海やから、これが津波になる。これが「海溝型の地震」ちゅうこっちゃ。
 
それがいつ起こんの?
 
100~150年に一回起こる。前は昭和19年と21年に起こった「昭和南海大地震」や。その前は、濱口梧陵さんで有名な「安政の南海大地震」や。昭和21年ゆうたら、だいぶ前やろ?せやから、「地震が来る確率が上がってきてるから備えましょう」という時代に入ってる。
 
おかあちゃんも聞いたことあるんやけどな。地震の種類は2種類あるって。
 
そうそう。断層がずれる方もあんねん。阪神・淡路大震災や能登半島地震では、断層がずれた。能登では、後で調べたらまだわかってなかった2つの活断層があったって。日本には、活断層が2000個あるんやけど、まだわかってない活断層もあんねん。おかあちゃん、わかりやすく言うで。僕の顔見てや。
 
みるみる。
 
僕の顔が大阪や。
 
面白いことになってきたやないか。どういうこっちゃ?
 
右の眉毛の方から左の眉毛の方まで横にやると...これは有馬高槻断層や。
 
なるほど!
 
左の眉毛の上から耳の下までずっと行くやろ。これは生駒断層や。
 
なるほど!
 
反対側の大阪湾の方に行くやろ。これが上町断層や。大阪市内ずーといってる。顎の下の方行くやろ。これは中央構造線帯断層帯。
 
ちょっと待ってえな、定ちゃん。大阪は断層に囲まれてるっちゅうことか?
 
そういうこっちゃ。
 
だんだんおかあちゃん危機感わいてきたで。それ以外にも、北海道や九州には活火山もあるし。線状降水帯もあるし、台風もあるし、おかあちゃん何からどうしたらいいかわからんわ...。
 
ほな、おかあちゃん、今大きな地震が来たらどないする?
 
頭を机の下に隠す!
 
おかあちゃん、南海トラフ巨大地震やったら、大阪でも震度6弱。和歌山は震度7や。おかあちゃんのことや。「あーあー」言うてる間にモノがいっぱい降ってくる。
 
どないしたらええん?
 
タンスをL字型のやつで固定すんねん。釘打ってな。タンスはちょっと傾けて下に敷いとく。それから、テレビや冷蔵庫や洗濯機も後ろからチェーンで固定する。水屋には飛散防止シートを貼っとくんや。こういうふうなことをして、大きな地震が来たときに大きな被害にならんようにやっとこ。
 
なるほどな。家の中の総点検や。あんたのおばあちゃんは大きな地震が来たら「トイレに逃げろ」って言うたで。
 
梁がいっぱいあるからな。せやけど、おかあちゃん、出入口はいくつある?
 
1個。
 
家が傾いたら?
 
出れへん!どないしたらええ?
 
用たしてるときにガーッと揺れてきたら足でドアをポンっと蹴って。隙間ができるから、そっから逃げて。
  
お風呂入ってる時だったら、どないしたらええ?お母ちゃんハダカ...。
  
お風呂入ってる時に揺れたら、ドア蹴って湯船に入って、洗面器を頭にかぶって。首と頭を守ったら人間は生きていくことができる!
 
なるほど。あべのハルカスでエレベーター乗ってるときに揺れたら、どないしたらええ?
 
全ての階の番号を押して、止まったところから非常階段で降りて!
 
大阪やったら地下街がいっぱいあるやん。地震がきたらどないしたら...。
 
そんなときは大変や。停電なるからな。「火が出たぞ!地震や」って言うたら、みんながいっぺんに出入口に行くから、おかあちゃん、すぐに壁にパタってくっついて。煙きたらアカンから低い姿勢で、ハンカチで口を押さえて、一定間隔ごとに地上に上がるところがあるから、そこから上がって。
 
わかった。その場所その場所で最善を尽くすっちゅうことやな。
 
そういうこっちゃ。
 
――このようにして、雨の日も風の日も避難訓練を続けていきました。
 
おかあちゃん、ちょっと避難袋のチェックもしようか。どこにあんの?
 
この間、おしっこするとき降りてきて、足にあたって痛くて。タンスの角の奥の奥の奥の奥の奥に...。
 
そんなん、すぐ出せるかいな。
 
これや。どっこいしょ。重た!
 
何はいってんの。米びつ?
 
米いるやろ?
 
小袋に入れて?こっちも重たいな。おかあちゃん、何入ってんのこれ。
 
水2L×6本。長期保存水5年のやつ。
 
重いからおかしいな...思たわ。
 
これは必要。これは一丁目一番地や。乾パンな!
 
おかあちゃん、これえらい古いで。汚いで。賞味期限が昭和37年5月!64年前?
 
それおかあちゃんの結婚式の引き出物。
 
(笑)こういうのは、ところてん方式で食べていこう。そうやっていこう。
 
――そうやって避難訓練をして、備えていくことになりました。いざというときに、このような備えが必要でございます。今ちょっとだけお話させていただきましたが、またフルバージョン、どこかで聞いていただきたいと思います。
 
おかあちゃん、地震の話、とっても自信になったわ。

 
 
パウロ)ありがとうございました。短縮バージョンでした。
 
西村)思わず書き留めたくなる防災知識がたくさんありました。ありがとうございます。今の演目はどんな演目ですか。
 
パウロ)「今、南海地震きたらどないしょ?」です。
 
西村)ラジオでも表情が伝わったと思います。お顔にせんすをあてて、断層の説明をしてくれました。お風呂に入っているときに地震がきたら、洗面器で首と頭を守るということも。ローリングストックのことを"ところてん方式"と表現していたところがすごくわかりやすい!方言も使っていて、マクラでは、"茶屋町"を入れてくれて、わたしのことを"べっぴんさん"と言っていただいて...うれしい!ありがとうございます。落語の内容はどのように考えているんですか。
 
パウロ)南三陸町最大の避難所「平成の森」の連合会長さんからアドバイスをもらいました。
 
西村)東日本大震災の被災地に行ったのですね。
 
パウロ)自分たちが経験したことを南海トラフ巨大地震が来る関西の皆さんに落語で伝えて欲しいと。
 
西村)防災落語を聞いたお客さんはどんな反応でしたか。
 
パウロ)停電になったときに「懐中電灯あってよかったよ」と言われました。懐中電灯にスーパーの袋をかぶせたら光が広がります。やっぱり光は大事。真っ暗はつらい。ちょっとした明かりでも心がほっこりするものです。
 
西村)ほかにはどんな演目があるんですか。
 
パウロ)いくつかあります。「避難所でなるべくストレスのかからない過ごし方落語」。和歌山弁で"おいやん"(おっちゃん)同志はあまり良くない。「子どものときからお前嫌いや」と言ったり。女の人がいることが大事。女の人が「お父さんちょっとお茶飲んで話しましょう」って言ったら、ふわっとした雰囲気になる。女の人が大切です。男目線だけではあかん。着替える場所、トイレのことを考えるにしても女性が活躍できる避難所が大事です。
 
西村)おばちゃんがものを言える避難所が大事なんですね!それも被災地で聞いた話なんですか。
 
パウロ)はい。あとは「ペット防災落語」もやっていました。同行避難と同伴避難の違いわかりますか。同行避難は避難所まで犬猫を連れて行ける。同伴避難はペットと避難所で一緒に過ごすことはできない。避難所の運営によるんです。
 
西村)なぜ防災落語をずっと続けているのですか。
 
パウロ)初めてお会いする人ばかりですが、落語が終わったら、わたしの顔を見て、握手して「役に立ったよ」「ためになったよ」「久しぶりに笑ったよ」と言ってくれます。岡山の真備に行ったとき「あなたが来るからピンクの服を着てきたよ」という女性がいました。あれはうれしい。被災地では、亡くなった人がいるから、みんな毎日黒い服を着ています。落語を聞いて、心を明るく、笑ってほしいと思って活動しています。
 
西村)リスナーのみなさんに伝えたいことはありますか。
 
パウロ)備えがあれば心に余裕ができます。心に余裕ができたら行動できると思います。みなさん、非常食、避難経路などについては備えていると思うんですが、わたしが一番用意してもらいたいものはふたつ。ひとつはホイッスル。「助けて!」と叫ぶのは、限界が来ます。足をいろんなものに挟まれていたり、近くまで炎が来ていたりしたら大変。そんなとき、笛ならいつまでも吹くことができます。救助犬も耳がいいから助けに来てくれます。もうひとつはトイレ。被災地のトイレはラジオでは言えないような状況になります。仮設トイレが来るまで3~4日かかる。しかもすぐ満タンになります。年配の人は、トイレを我慢して飲み物を飲まなくなると体に良くない。
 
西村)南海トラフ巨大地震なら、もっと被害が大きいかもしれないからトイレが来るのも時間かかりますもんね。
 
パウロ)カバンの中には、あめちゃんと一緒に「非常用トイレ」を入れるようにしてください。
 
西村)ゴスペル亭パウロさん、どうもありがとうございました。