第1558回「熊本地震 避難所の状況」
オンライン:国際災害レスキューナース 辻直美さん

西村)7月28日に最大震度7を記録した熊本地震。被災地の人たちは、今、どんな避難生活をして、どんな思いで過ごしているのでしょうか。
きょうは、8月1日から熊本に支援に入った国際災害レスキューナースの辻直美さんに避難所のようすなど、現地の状況を聞きます。
 
辻)よろしくお願いいたします。
 
西村)辻さんは熊本のどこでどんな活動をしたのですか。
 
辻)熊本県宇城市、氷川町、八代市など、被害の大きかったところに災害支援ナースとして視察に入り、何が足りないかなど、現地の声をたくさん拾ってきました。
 
西村)災害支援ナースはどんなことをするのですか。
 
辻)災害に関わる看護師は2つあります。ひとつはDMAT(災害派遣医療チーム)、ひとつは災害支援ナースです。DMATは発災直後から48~72時間以内の急性期の対応をします。今回わたしは、発災3日後~1ヶ月、つまり急性期~中長期に当たる支援をしました。
 
西村)被災者からはどんな声がありましたか。
 
辻)10年前に地震がありましたが、初めて地震を経験した人もいます。「避難所に行ったけど何にもない」という声が大きかったです。不安は怒りになるので、怒っている人が多かったです。被災したときは、最初の72時間は何の支援もないものです。それぞれの避難所に備蓄しているものは数も違うし、置いているものも違う。想定している人数よりたくさん避難者が来た場合、全員に配ることができないこともあります。最初の72時間は自分で持っていったもので生活することが大事。
 
西村)発災後3日間をどう耐え抜くのかということですね。個人で備えていない人は多かったですか。
 
辻)意外と多かったです。災害トイレをひとつしか持ってきていない人、水は飲みかけのペットボトル1本という人も。避難生活を具体的にイメージできてないから何を持っていったら良いのかがわからないのだと思います。
 
西村)水1本だけ持ってきた人も必死に避難きたのだとは思いますが...。なかなか具体的にイメージできない人が多いのもわかります。とりあえず、1ケースだけ水を買っておこうとか、ローリングストックできていなかったとか...。
 
辻)全国各地で講演会をしていて、一番多い質問が「何を用意したら良いかわからない」なんです。被災したとき、自分が必要なものが見えていないから何を用意したら良いのかわからないのだと思います。
 
西村)イメージをするためにはどうしたら良いですか。
 
辻)まず、日常生活の中で自分が譲れないものがわかっている人は、ストックをしていると思うんです。食べるものにこだわりがある人は食べるもの。シャンプーやボディソープは香りやテクスチャーが大事という人がいますよね。そういう人は自分の体の清潔について、優先順位が高いからライフラインが切れたときも、そういうものがキープできるように備えると思います。"日常生活の棚卸"をしっかりしておくと、被災生活に必要なものが見えてくるのではないでしょうか。
 
西村)"日常生活の棚卸"この機会にぜひやっておきたいと思います。台湾やイタリアの避難所は、トイレ・キッチン・バスが48時間以内に届く、など迅速に環境が整えられると聞きます。熊本では、まだそんな状況ではないのでしょうか。
 
辻)何年も前から日本の避難所は"ソマリアの難民キャンプ以下"と言われています。なかなかそこから脱却できてないのが現状。日本では防災を専門に考える省庁がなく、災害が起きると災害対策本部は立ち上がるのですが、日頃から災害のことを考えて準備している専門家がいない。行政は素人だと思います。
 
西村)どうしていったら良いのでしょう...。
 
辻)秋頃に防災庁を作る動きもありますが、日頃から災害が起きたときのことを考えるプロフェッショナルな集団が必要。日本は防災にかける予算が少ない。イタリアや台湾は、かけているお金が違うんです。国民も理解があり、やっぱり時間とお金と労力をかけています。そこに日本人が理解を示すことが大事だと思います。日本の避難所は屋根と床を貸してくれるだけなので、自分で持っていたもので何とかすること。防災リュックや防災ポーチを普段から用意しておいてほしいです。
 
西村)防災リュックには何を入れたら良いですか。
 
辻)水、食料、トイレ、口腔・アンダーゾーンなどの清潔用品、灯り。この5つは必須です。長期戦になってくるので、漫画や推しのアクスタなどメンタルダウンしないための準備も必要だと思います。
 
西村)食料には、自分の好きなおやつも入れておいたら良いですか。
 
辻)もちろん。熊本地震の被災者を見てきましたが、きちんと準備している人はそんなに困っていません。食事の調理を前提に備えている人は、普段と違うものを食べているというみじめさがない。割とほがらかにしていました。普段食べたことないものを違う環境で食べるのは、心が落ちる。水、食料、トイレ、清潔用品、灯り。自分の好きなテクスチャーがあると思うので買ってきたら使わずに置いておくのではなく、必ず使って選んでおきましょう。
 
西村)ほがらかに過ごしていた人は、どんなものを準備して使っていたのですか。
 
辻)水は避難生活のときは、1日3L(生活用水1L&飲用食用2L)必要と言われています。余裕のある人は1日1人5~8L用意していました。食べるものは、温めなくても食べられるレトルトも用意していますが、ポータブル電源を使って、カセットコンロ、ホットプレート、IH調理器などで熱々のラーメンやカレーを食べていました。普段の生活と変わらない食生活をしている人が多かったです。
 
西村)暑い中、停電して水も止まって大変な状況でも食べる楽しみがあるのは大きいですね。
 
辻)今回のキーワードは猛暑。電気がない中で、どうやって涼しさを手に入れるか。うちわとか扇子とかアナログなものを使っている人もたくさんいました。水に余裕がある人は、Tシャツを濡らして、うちわであおいで気化熱で涼しくしている人も。雨水を貯めている人は打ち水をして地面を冷やしていました。
 
西村)生活の知恵ですね。
 
辻)付け焼刃ではなく、普段からしているんです。災害時には、日常的にしていることしかできないのだと思いました。
 
西村)日常生活にうまく取り入れることが大切なのですね。食べ物を温めるための器具は、カセットコンロなどいろいろありますが、電源の確保も必要ですね。
 
辻)水に加えて、清涼飲料水、お茶、野菜ジュースなども備蓄している人は、楽しみとして飲んでいるので元気。何があったら元気になれるのかわかっている人は、そのような日常生活の備蓄を災害時にも使っていました。
 
西村)その中で、自分だけが備えていると備えのない人に分けてあげなければいけないから、損をしてしまうかも...と思ってしまいます。
 
辻)助けてもらいたいなら、先に人を助けましょう。余裕がある人は備えていれば人に分けてあげられる。「困っているならどうぞ」と。備えている人の心の余裕とか行動が避難所の空気を良くする。普段の生活から余裕がある人は素敵ですよね。普段の生活がそのまま出るのだと思います。
 
西村)日頃からの余白・余裕、どうぞの気持ちですね。ギスギスしている避難所も多いのでしょうか。
 
辻)メディアで報道されている避難所とは違います。暑さと不安から、みんなイライラしています。一触即発。先が見えない不安は、命の不安なので自分だけが何とかなりたいと思います。だけど、「自分は準備ができているから、後でもいいよ」と譲る人が1~2人いるだけで空気が変わります。家族にそういう人の割合が多いと家庭が落ちつきますよね。日常生活でも言えることだと思います。
 
西村)暑さが厳しいと思いますが、片付けが大変なのではないですか。
 
辻)避難所は人が密集していて、空気がよどんでいるので、湿気と人の熱気でとんでもない暑さです。外は直射日光が当たっているので、アスファルトの照り返しが半端ない。40℃でも実際測ったら45度くらい。でも、日本人は真面目だからすぐ片付けようとするんです。日中に動くのはやめましょう。熱中症になるから。体を冷やすための熱中症対策ができないので、何よりも大事なことは自分の熱を上げないこと。つまり動かないこと。被災家屋の片付けは早朝と日が暮れてからにしてほしいです。
 
西村)でも、いつも昼間に動いている生活をしていると、どうしても昼間に片付けて、夜はしっかり寝たいと思ってしまいそう。熊本の友人と連絡を取り合っているのですが、発災直後は「家の片付けが長期戦になると思う」と言っていたのに、「もうこの1週間でほとんど片付いた」と言っていたので、昼間に片づけしていたようです...。
 
辻)片付けたくなる気持ちはわかります。今後1週間~10日は震度7以上の地震があるかもしれません。10年前の熊本地震のときも、2日半後に大きな地震が来ました。片付けたのに、潰れてしまうこともあるので、大きな地震があった後は少し様子を見ましょう。昼間は冷房のあるところで休んで体力を温存する。できれば横になって体を休めることが大事だと思います。これは行政などがトップダウンで言わないとなかなか守れない命と健康の問題。わたしは医療者なので夜勤があるので、夜に働くことに抵抗がありませんが、一般的には、昼間に動いて、夜寝る人が多いと思います。でも今は非常事態なので、災害モードで生活してほしいです。ボランティアがきたら、片付けはボランティアに任せてください。被災者は休んで大丈夫。「助けてもらっているから、動かないと!」と思う人も多いですが、それでは何のためのボランティアかわからないので、まず被災者は体と心を休めてください。「助けて」と言うとボランティアは頑張れる。遠慮なく申しつけてほしいです。
 
西村)被災地の今後の課題、必要な対策は何でしょうか。
 
辻)今回のキーワードは暑さ対策。災害関連死をどう防ぐのかが最重要課題だと思います。今までこんな暑い中の被災は経験したことがないので、今後どうなるかわかりません。暑さ対策、エコノミークラス症候群、感染症を防ぐことが大事だと思います。
 
西村)辻さん、どうもありがとうございました。