ゲスト:兵庫県立大学 准教授 髙田知紀さん
西村)河童や天狗、龍に大蛇。日本各地には、数多くの妖怪伝説が残されています。実は、その土地に伝わる妖怪伝説と自然災害には、深い関わりがあるのかもしれません。
きょうは、「妖怪と防災」の研究を続けている、兵庫県立大学 准教授 髙田知紀さんにスタジオにお越しいただきました。
髙田)よろしくお願いいたします。
西村)なぜ、妖怪と防災の研究をすることになったのですか。
髙田)きっかけは阪神・淡路大震災。わたしは、生まれも育ちも神戸で、中学校2年生のときに自宅で阪神・淡路大震災にあいまいした。想像もできない揺れで、周りで何が起こっているのか理解できませんでした。中学生だったわたしは、地震とわからずに「おばけが出た!」と叫んだら、父親が「おばけじゃない、地震だ!」と教えてくれて、地震が起こっていることを実感。生まれ育った神戸の街が変わってしまったことがきっかけです。
西村)そこから専門的に防災を勉強するようになったのはいつ頃ですか。
髙田)大学院生のときに環境保全や地域作りの研究をするようになり、防災の研究をするようになりました。
西村)そこからどのように妖怪につながっていったのですか。
髙田)妖怪は、子どもの頃、ゲゲゲの鬼太郎などのアニメや漫画で親しんでいて好きでした。大学院生のときに研究で新潟県・佐渡島に通っていたのですが、佐渡島には神社や仏閣、伝承がたくさん残っているんです。そのとき、研究している加茂湖に妖怪が住んでいることを水木しげる先生の本で目にして。地域の人に妖怪の話を聞いてみると、地域の自然と人が向き合うとき、妖怪が重要な役割を果たしていたとわかり、自然・防災・妖怪について全国各地で調べるようになりました。
西村)髙田さんは現在、妖怪を通じて子どもたちに防災を伝える活動も行っています。先月、兵庫県・福崎町の社会福祉協議会が主催した「妖怪防災探検隊」というワークショップを取材。民俗学者・柳田國男さんの生誕の地で、"妖怪のまち"としても有名な福崎町の子どもたち15人ほどが参加しました。そのようすをお聞きください。
音声・髙田)みなさん、おはようございます。兵庫県立大学で働いている髙田といいます。普段は大学で教えていますが、三田の「人と自然の博物館」で働いています。きょうは、「妖怪防災探検隊」ということで、この建物の周りを歩いてみて、危ない場所に現れる妖怪を考えてもらいます。「妖怪探検隊」ではなくて「妖怪防災探検隊」といっているのは、危ない場所に現れる妖怪を考えることで、自分を守れるようになるから。そんな妖怪を探すのが目的です。妖怪は人間にいろんなことを教えてくれます。きょうはそのことを初めに勉強してから外に出ていきたいと思います。このあたりには池や川がありますよね。昔からよく人が溺れて死んでしまう場所が全国にあります。人が溺れてしまう川や池には、どんな妖怪が進んでいるでしょう。わかる人!?
音声・子ども)はい。河童!
音声・髙田)正解!河童って、みんなかわいいと思っているかもしれませんが、本当は怖い妖怪。人を殺してしまうこともあるんです。河童は、池や川の中から人の足を引っ張って溺れさせます。なので、河童がいる池や川には近づかないように気をつけていました。次は大ナマズ。地面の中に住んでいる妖怪です。このナマズの頭をこれで押さえています。この漢字読める人いる?「要石(かなめいし)」といいます。神様がナマズを要石でずっと押さえてくれています。この大ナマズが暴れると、地震が起きると昔の人は信じていました。妖怪は悪者ではなくて、みんなに「ここは危ないよ」と教えてくれる。妖怪のことをたくさん知って、妖怪に危ない場所を教えてもらってください。きょうは、そういう視点で歩きながら、みんなにとって危なそうな場所を探してください。
西村)まさに「妖怪防災散歩」ですね。"危険な場所を探そう"よりも"妖怪を探そう"の方がワクワクしますね。
髙田)そうなんです。子どもたちは、妖怪を探したいので一生懸命、危ない場所を気にして見てくれました。
西村)このあと子どもたちは街を歩きながら妖怪のいそうな"危険な場所"を探しました。子どもたちはどんな妖怪を見つけたのでしょうか。
音声・髙田)暑いね。これから危なそうな場所があったら教えてください。一緒に来ている友達やお母さんと相談しながら、「ここで地震が起きたら危ない」「大雨が降ったら崩れそう」とか。昔は"熱中症の妖怪"はいなかったかもしれないけど、今はみんなを暑さで困らせる妖怪もいるかもしれません。では、歩いていきます。
音声・子ども)なんかトラップがあるかも。
音声・髙田)トラップを仕掛ける妖怪?面白いね。
音声・子ども)罠に引っかからせる!
音声・髙田)土砂崩れに巻き込まれる?山の中にトラップがある?お菓子やおもちゃ、ゲームがもらえるとおびき寄せられたら、巻き込まれてしまうね。
音声・子ども)うるさい音、嫌な音を出す妖怪!
音声・子ども)こけそうになるところを作る妖怪!
音声・髙田)どんな場所に現れる?
音声・子ども)階段とかでこけさせる。
音声・子ども)看板を動かす妖怪!道に迷わせて事件を起こす。
音声・髙田)歩きながら教えてくれた面白い妖怪のアイディアいくつか紹介します。山の中に住んでいて、嫌な音、不快な音を出す妖怪。それが地震とか洪水とかの前触れだったら怖いね。音に気を付けよう。坂道を歩いていて、人を引きずり込んで坂道で転ばせる妖怪。周りに石の像いっぱいあるよね。これが全部崩れてきたら?今揺れたら、みんなそこにいて大丈夫かな?と想像して、それを引き起こす妖怪を考えてください。
音声・ディレクター)先生、子どもの想像力は面白いですね。
音声・髙田)大人が想像できない妖怪が生み出されるので、毎回楽しみです。堅苦しい知識を得るより、自分たちで楽しみながら危ない場所に備えることが大事。
西村)改めて振り返って、子どもたちのようすはいかがでしたか。
髙田)兵庫県・福崎町は"妖怪のまち"として知られていて、子どもたちの妖怪に対する興味、関心が強いと感じました。歩いていると、災害の教訓を教えてくれるような妖怪がたくさん生み出されました。
西村)聞いていて、いろんな気づきがありました。この後どうしたのですか。
髙田)この後、室内に戻って歩いた場所を振り返りながら、それぞれ子どもたちのオリジナルの妖怪を考えて、発表しました。子どもたちは妖怪を絵に描いて、名前も付けました。その妖怪がどこに現れて、どんな怖いことを引き起こすのか。さらに妖怪に襲われないためには、何に気をつけたら良いのかを考えて発表しました。
西村)絵に描くとより想像できて、防災への気づきも明確になりますね。これまにでもこのようなワークショップは行っているのですか。
髙田)10年ほど、全国各地で妖怪のワークショップをやっています。
西村)これまで、子どもたちが考えたどんな妖怪に驚かされましたか。
髙田)熊本の地震の後に明石の図書館でワークショップをしたのですが、小学生の4年生の男の子が考えてくれた「いわおとし」という妖怪がとても興味深かったです。
西村)どんな見た目ですか。
髙田)小さなおじいさんのような姿で杖を持っています。建物の上に潜んでいて、地震が起こったら、上から岩やコンクリートの破片を落とす妖怪。その子は、熊本地震のニュースで、建物が崩れたり、爆発したりしているようすを見て、自分の身の回りでも起こるのではないかと想像してその妖怪を考えてくれました。
西村)子どもたちの想像力の豊かさに驚かされます。全国各地には、災害と関係がありそうな妖怪伝説はありますか。
髙田)自然災害に関わる妖怪がいます。例えば岐阜県の木曽川には、「やろか水」という妖怪がいます。川の上流で雨が降っているときに、「やろか、やろか」と不気味な声が聞こえてくる。それに「よこさばよこせ(くれるなら寄こせ)」と返してしまうと、鉄砲水が押し寄せて、流されてしまうという妖怪伝説があります。
西村)それは、地元のみなさんもよく知っているのですか。
髙田)はい。そのような伝承がある地域は、昔から洪水のリスクに悩まされてきた地域。「変な音、不気味な音、普段とは違う音が聞こえたときは、災害に備えよう」という意識を共有する役割を果たしていました。
西村)先日、台風の影響もあって大気が不安定になり、千葉県で大雨の被害がありました、しっかりと大雨の備えについて確認したいですね。ほかの地域はいかがですか。
髙田)沖縄県の石垣島にはザンと人魚伝説があります。下半身が魚で、上半身が人間のような妖怪です。漁師の網にかかったザンは、「数日後に大きな地震と津波が来るので、揺れを感じたらすぐに逃げて」と予言をしました。その予言を信じて、地震が起きた後に高いところに避難した人は、津波の難を免れて助かった。信じなかった人は流されて亡くなったという伝説です。ザンが予言した地震は1771年に石垣島で発生した地震による「明和の大津波」といわれています。妖怪の伝承に過去の教訓や事実も込めて伝えていることがとても興味深いです。現在の防災においても重要だと思います。
西村)妖怪伝説と防災の教訓を子どもたちに伝えたとき、どんな反応でしたか。
髙田)科学的なメカニズムを理解するより、まずどんなふうに危ないのかを自分たちで感じ取ることが重要。妖怪は、子どもたちにとっては、面白いけど怖い存在でもあるので、身の回りの危険を肌で感じてくれていると思います。
西村)妖怪を通じて、子どもたちにどんなことを伝えていきたいですか。
髙田)防災は日本で生きていく中でとても重要なこと。普段から自然災害を意識して暮らすと、実際に発生したときに、自分の命や周りの大切な人の命を守ることができます。でも、あまり深刻になりすぎずに楽しみながら、普段の暮らしの中で、危ない場所や小さな異変に気付けるようになってほしいと思っています。
西村)髙田さん、どうもありがとうございました。
