オンライン:静岡大学 防災総合センター教授 牛山素行さん
西村)今月13日から14日の未明にかけて千葉県を襲った豪雨では、21日午前現在で、男女13人が死亡し、1人が行方不明になっています。また千葉県内で水没などのため、走行不能になった車は2700台に上り、一時は幹線道路を中心に多くの車が放置され、道路の通行を妨げました。なぜこれほどまでに被害が広がったのでしょうか。
きょうは、静岡大学防災総合センター教授の牛山素行さんに聞きます。
牛山)よろしくお願いいたします。
西村)今回、千葉県の豪雨災害が起こった原因は何だと思いますか。
牛山)この地域としては記録的な大雨が降りました。多くの人が外で動いている時間帯に急速に雨雲が発達し、大雨が降りました。事前に対応することが難しい状況だったので、影響を受けた人が多くなったのだと思います。
西村)今回の被害をどう感じましたか。
牛山)亡くなった人は、ほぼすべてが川からあふれた水や低いところにたまった水による水関連の被害を受けました。家が流されたり壊れたりして亡くなった人はおらず、ほぼ全員が屋外で被災しました。わたしは1999年以降、このような調査を続けていますが、風水害で亡くなった人、または行方不明になった人のうち、4割強が水関連で被災しています。土砂災害による被災も4割強なので、合わせてほぼ9割。過去の風水害の被害と比べると、今回は水による被害が目立った事例でした。土砂災害の犠牲者は、8割が屋内で被災します。それに対して、水による犠牲者は、7割が屋外で被災します。今回は、水関連の犠牲者が多かったので、屋外での犠牲者が目立ちました。このことはこれまでの災害と同傾向です。
今回多かったアンダーパスでの車の水没は、大雨になると必ずと言っていいほど起こりますが、亡くなることは非常に稀。1999年以降の風水害の死亡・行方不明者約1600人の中では、アンダーパスでの死亡者は10人程度。滅多に起こる被害ではありません。ところが今回2ヶ所でそれぞれ1~2人が移動中にアンダーパスで亡くなっている。滅多に起こらないことが2ヶ所で起こってしまいました。時間的なこともあるでしょうし、雨雲が急速に発達したということもあります。
想定外の場所で被害が多発したことが話題となっていますが、今回、死亡者が発生した場所は、ハザードマップの浸水想定区域の範囲内である可能性が高そうです。死亡者が発生した場所で、浸水想定区域でなかった場所も地形的に見れば、洪水の可能性がある場所になっている。起こり得ない場所で被害が多発したというわけではないので、これまでの災害と同傾向だと思います。
西村)自宅や勤務先学校などのハザードマップをチェックしておくことが大切ですね。千葉県の豪雨時は気象庁からレベル5「大雨特別警報」が出ていました。わたしたちはどのような行動をとるべきなのでしょうか。
牛山)場所や状況によって一律には言えません。今回の千葉豪雨ではレベル5「大雨特別警報」、「土砂災害特別警報」も一部で出ましたが、「大雨特別警報」が出た段階では避難所に駆け込む状況ではありませんでした。できれば屋外での行動は避けること。危険が迫っているところから逃れなければならないので、その場所にいるのが最善だとは言い切れませんが、浸水の深さよりも高いところにいられる状況なら、むやみに動かないこと。徒歩や車で移動中の人も多かったと思いますが、極力浸水しているところには近づかない、動くにしても距離は短くして、今いる場所で少しでも水から逃れられる場所に身を寄せるということが重要。
西村)家族を車で迎えに行って、浸水被害に遭ってしまったという話もありました。
牛山)気持ちはわかるのですが、危険に近づく可能性も高くなります。雨風が激しいときは、水が静かに溜まっているわけではなく、多くの場合、水は流れています。車だと安全に思えますが、徒歩でも車でも簡単に流されてしまいます。車で避けることができる災いは、濡れないことくらい。車は安全ではありません。少しでも動かないようにすること。今いる場所で何とかすることを考えた方が良い。大雨が1日中降り続けることはまずないです。大変な状況は数時間ぐらい。ほんの数時間、どこかで過ごすことを心がけた方が良いです。浸水しているところが見えたら絶対そこには立ち入らない。浸水していないところに移動する。目の前に浸水が見えたら、そこから引き返してちょっとでも高いところに移動することが大原則。浸水時の脱出方法がいろんなメディアで紹介されていますが浸水したらどうするかよりは、浸水しているとこに近づかない、逃れることを伝えた方が良いと思います。
西村)「日頃よく通っている道だから大丈夫かな」と車を進めてしまうこともあるかもしれません。
牛山)慣れている道の方が要注意かも知れません。浸水すると水の表面は平らになります。水の深さは道路面のちょっとした凹凸によって変わります。20~30cm違うだけで、命のわかれ目になりかねない。普段平らだと思っているところでも高低差があるかもしれません。よく通行している道でも少しの雨で冠水してしまうところがあるかもしれません。そういうところは大雨のときは相当危険な状況になると思います。そのような道は通行しない。ハザードマップで自分の家だけではなく、普段よく通るところも含め、どこでどんな危険性があるかを知っておくことが重要です。
西村)今回のような豪雨災害は、他の場所でも起こり得るのでしょうか。
牛山)間違いなく起こります。降水量が何mm以上なら危険かは全国一律に言えません。普段あまり雨が降らないところだと、それほど多くない雨量でも災害が起こります。今回の千葉県の大雨は、これまでの全国で記録された大雨の最大値を上回ってはいません。でも千葉近郊にとっては記録的な大雨が降ってしまいました。今回と同じようなことは全国どこでも起こり得ます。
西村)住んでいる場所、旅行先も含めて気をつけなければいけないですね。今回のようにレベル5「大雨特別警報」が出たとき、わたしたちマスコミはどのように伝えるべきだと思いますか。
牛山)テレビ・ラジオのようなメディアは、使える時間が限られていて、短いフレーズで伝えなければならないし、見聞きしている人が多いので、焦点を絞って伝えにくい面もあると思います。難しいところですが、「避難所に避難してください」と伝えるのが最善かというと、何とも言えない。現場の状況がわからないので判断が難しいです。今回の千葉県の大雨のように急速に雨雲が発達して、レベル5「緊急安全確保」が出た場合は、「避難所に避難してください」と呼びかける状況ではありません。「今いる場所で安全確保を図ってください」「あまり出歩かないでください」というメッセージも必要かもしれません。今回の被災状況を見てみると、ほとんどの人はおそらく外に出なければ、命を落とさずに済んだかもしれない。それぞれそのとき必要があって動いていたのだと思いますが、外へ出なければ、命を落とすことにはならなかったかもしれません。車でも徒歩でも動き回るのは見合わせましょう。
西村)昭文社から牛山さんの著書「豪雨災害から身を守る 災害情報学からのヒント」が発売されます。タイトル通り、豪雨災害からわたしたちが身を守るためには、どう備えたら良いですか。
牛山)この本の中でも繰り返し強調しているのが「豪雨災害は、予想もつかないようなところで起こるわけではない。基本的には起こり得ることが起こるところで発生している」ということ。ハザードマップもまだ万全ではありません。ハザードマップや地形に関する情報をあらかじめよく見ておいて、どこでどんなことが起こりそうなのかを知っておくこと。これがまず何よりも重要。その上で大雨になったときには、気象庁の「キキクル」など防災気象情報を活用する。それぞれの場所の危険性を日頃から知っておいて、いざというときには防災気象情報で目先の行動を考えることが重要だと思います。
西村)牛山さん、どうもありがとうございました。
